「天空の蜂」 “原発テロ”を軸にした8時間の攻防 じりじりとした心理戦も
「ガリレオ」シリーズなどで知られる東野圭吾さんの小説を、俳優の江口洋介さん主演で映像化した映画「天空の蜂」が9月12日公開される。開発されたばかりの超巨大ヘリを乗っ取り、原子力発電所の原子炉に墜落させるという史上最悪の“原発テロ”を引き起こそうとする犯人と、日本壊滅という究極の危機に立ち向かう人々との8時間の攻防を描いている。江口さんが超巨大ヘリ「ビッグB」の設計士・湯原、本木雅弘さんが原子力発電所「新陽」の設計士・三島、綾野剛さんが「ビッグB」を奪う謎の男・雑賀を演じるほか、柄本明さん、國村隼さん、石橋蓮司さん、竹中直人さん、手塚とおるさん、仲間由紀恵さんら豪華キャストが集結した。
「天空の蜂」は、東野さんが“原発テロ”を題材にし、1995年に発表したクライシスサスペンスで、「SPEC」や「トリック」などで知られる堤監督がメガホンをとり、20年の時を経て映像化が実現。物語の舞台は原作発表時と同じく95年で、湯原が5年をかけて開発した最新鋭の超大型ヘリ「ビッグB」が、工場から遠隔操作によって何者かにより奪われるところから始まる。機内に迷い込んだ湯原の息子を乗せたまま「ビッグB」が向かった先は、福井県灰木村にある原子力発電所「新陽」。犯人は「ビッグB」を原子炉の真上、高度800メートル地点に静止させると、自身を「天空の蜂」と名乗り、「ビッグB」の燃料がなくなるまでの8時間内に「日本のすべての原発の破棄」を要求し、従わなかった場合は大量の爆発物を積んだまま「ビッグB」を原子炉に墜落させると宣言する。息子の安否を気遣いつつ警察の要請を受け「新陽」へと向かった湯原は、「新陽」の設計士で同期の三島と再会するが……というストーリー。
三島が冷淡な男に変わってしまっていたことに驚く湯原と、そんな湯原を邪魔者扱いし、突き放す三島。三島の提案と自衛隊の活躍により湯原の息子は無事に救出されるものの、三島の言動に腑(ふ)に落ちないものを感じた湯原の抱いた疑念が、事件の真相へとにつながっていくなど、2人が繰り広げるじりじりとした心理戦は“対テロ”以上に大きな見どころとなっている。またテロ回避と人命確保の二者択一を迫られる発電所内の人々、地道な聞き込みと行動によりじわじわと犯人像をあぶり出していく警察など、登場人物たちのそれぞれの立場からくる懸念や焦燥が、最近の日本を代表する俳優たちの名演とともにリアルに描かれ、濃密な“8時間”を味わうことができる。優れた原作ありきとはいえ、原発と政治、親子や夫婦の絆、いじめや差別まで、さまざまなテーマを内包しながら、きっちりとエンターテインメント作品にまとめあげた堤監督の手腕も見事。また「超巨大ヘリ」の名にふさわしい「ビッグB」の造形に心躍る瞬間もあり、最後まで大いに楽しむことができた。12日から丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほか全国で公開。(山岸睦郎/毎日新聞デジタル)
「ピクセル」 パックマンにドンキーコングが地球を侵略? 80年代のゲームキャラ満載
1980年代に流行したゲームキャラクターたちが登場する米映画「ピクセル」(クリス・コロンバス監督)が9月12日に公開される。映画は、「ハリー・ポッター」や「ナイトミュージアム」シリーズのコロンバス監督が手掛けるSFエンターテインメント作で、「パックマン」「ドンキーコング」「スペースインベーダー」といったゲームキャラクターに姿を変えた宇宙人が地球に襲来し、人類と戦いを繰り広げる。日本語吹き替え版では、タレントの柳沢慎吾さんが主人公のサム・ブレナーの声で実写の米映画の吹き替えに初挑戦しているほか、渡辺直美さん、神谷明さんらが声を担当している。
1982年、NASAが宇宙に向けて「友好」のメッセージを発信したが、受信した宇宙人は内容を誤解して人類からの挑戦状と解釈し、2015年、地球への侵略を開始する。メッセージに含まれていたパックマンやスペースインベーダー、ドンキーコングはじめ、ゲームキャラクターに姿を変えた宇宙人たちは、すべてをピクセル化させ、ブロック状に破壊。そんな状況の中、米国大統領は82年当時のビデオゲームのチャンピオンらを集め対抗することを決意する……というストーリー。
パックマンやドンキーコング、ほかにもギャラガ、ディグダグなど、実に数多くの懐かしゲームキャラクターが登場し、設定としては悪役側になってしまっているのは残念ではあるが、奇抜な物語と最新のCG技術で再現されたキャラクターたちに驚かされ、所狭しと暴れまくる姿は圧巻だ。2Dでも迫力は味わえると思うが、ここはぜひ3Dで楽しむことを勧めたい。ピクセルで描かれた2次元キャラが、ハイクオリティーなCGで3次元に描き直された姿は、どこか愛嬌(あいきょう)があって可愛らしく、街やビルがピクセル化していく演出には思わず息をのむほど美しい。映像技術と完成度はかなり高いが、宇宙人が昔のテレビ映像を利用して宣戦布告したりするなど、おバカな要素が詰め込まれていて、要所要所で笑わせてくれる。展開がシンプルで、主人公たちに都合がよすぎるような部分もあるが、テンポ感と奇想天外なアイデアが抜群で、細かいことは気にせず楽しみたい。コメディー要素が多く、当時のゲームをあまり知らなくても十分、楽しめる。丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「カリフォルニア・ダウン」 巨大地震や津波をリアルに再現した映像は圧巻
ザ・ロックこと米俳優のドウェイン・ジョンソンさんが主演を務めるディザスターパニック映画「カリフォルニア・ダウン」(ブラッド・ペイトン監督)が9月12日に公開される。映画は、米カリフォルニアを舞台に、観測史上最大級の巨大地震をはじめ自然災害に襲われ街が崩壊していく中、未曽有(みぞう)の危機に見舞われた人々の姿や、救出に奔走(ほんそう)するレスキュー隊員の姿を描く。ジョンソンさんがレスキュー隊員のレイを演じるほか、カーラ・グギーノさん、アレクサンドラ・ダダリオさんらが出演している。大災害の脅威を臨場感たっぷりに映し出す映像には圧倒される。
1300キロに及ぶ「サン・アンドレアス断層」の横ずれで巨大な地震が発生し、カリフォルニアが猛烈な揺れに襲われる。フーバーダムが決壊して地面に深い亀裂が広がり、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ラスベガスといった大都市が次々に崩壊。レスキュー隊のパイロットのレイ(ジョンソンさん)は救難活動に出動するが、サンフランシスコに娘のブレイク(ダダリオさん)が取り残されていることを知り、救助に向かう……というストーリー。
主人公の人物設定を紹介する冒頭の救助シーンからド迫力だが、それをはるかに上回る巨大地震の描写は圧倒的で真に迫っている。映画だから地震はコンピューターグラフィックス(CG)で再現されていると分かっているものの、東日本大震災を体験した日本人にとっては、見ているだけでリアリティーと恐怖が押し寄せてくる。ストーリーとしては家族愛をテーマに、主人公のレイが別居中の妻や娘を救助するために奮闘するという王道パターンだが、レスキュー隊員であるレイが家族を最初に助けに向かうのは価値観の違いなのだろうが理解に苦しむ部分も。地震や津波といった描写に対して割り切れるなら、街が倒壊していく様子はまさに圧巻で、逃げ場のない恐怖やビジュアル的な見応えはエンターテインメント作品として出色だろう。重大な危機に陥ったとき、人はどう立ち向かうかということを、改めて考えさせらる。TOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「キングスマン」度胆抜く“非常識”アクション連発! オスカー俳優主演のスパイ映画
英国出身でアカデミー賞俳優のコリン・ファースさん主演のスパイ映画「キングスマン」(マシュー・ボーン監督)が9月11日から公開される。マーク・ミラーさんによるグラフィックノベルをボーン監督が脚色し映像化した。ボーン監督といえば、「キック・アス」(2010年)での過激なアクションが思い浮かぶが、今作にもそれと同様の、いやそれ以上の度胆抜くアクションと展開が待ち受けている。
ロンドンのサビル・ロウにある高級テイラー「キングスマン」は、実はどの国にも属さない国際的秘密諜報機関だった。メンバーの一人、ハリー(ファースさん)は、リーダーのアーサー(マイケル・ケインさん)の司令で新人をスカウトすることに。ハリーが目を付けたのは、街の若者エグジー(タロン・エガートンさん)。実はハリーとエグジーには浅からぬ因縁があった。一方、環境保護を訴える活動家でIT富豪のバレンタイン(サミュエル・L・ジャクソンさん)は前代未聞の人類抹殺計画を企てていた……というストーリー。
英国のスパイ映画といえば「007」シリーズが思い浮かぶが、今作におけるアクションの切れ味と意外性は、それをかるーく超えている。映画は、バレンタインのテロ計画を阻止しようと奮闘するハリーたちスパイの活躍と、スパイとしてスカウトされたエグジーが、他の候補生たちと繰り広げるし烈な競争の2本柱で進む。つまり、スパイドラマと若者の成長ドラマの二つの方向から楽しめるわけだが、映画を貫いているのは、非常識とすらいえる過激な描写だ。その過激さは、両足が義足のめっぽう強い女殺し屋ガゼル(ソフィア・ブテラさん)が登場するオープニングからすでに全開で、その後も途切れることなく続き、「スター・ウォーズ」ファンにはおなじみのマーク・ハミルさんのような懐かしの俳優にも容赦しない。その“潔さ”には、崇高さすら覚える。コウモリ傘に始まるスパイグッズが、いかにも英国紳士的なのもしゃれている。ファースさんのスパイ役が結構なはまりようで、その想定外のカッコよさと、ラッパー風のいでたちで悪人臭をまき散らすジャクソンさんの怪演も特筆すべき点だ。続編の製作がうわさされているが、ぜひ見てみたい。11日からTOHOシネマズ日本橋(東京都中央区)ほか全国で公開。 (りんたいこ/フリーライター)
「ガールズ・ステップ」 石井杏奈が初主演 ダンスを通じ成長する青春物語
女性ダンス・ボーカルグループ「E-girls」の石井杏奈さんの主演映画「ガールズ・ステップ」(川村泰祐監督)が9月12日に公開される。映画は、地味で目立たず学校では“ジミーズ”と呼ばれる女子高生たちが、ダンスを通じて成長していく姿を描く。ドラマ「1リットルの涙」などの江頭美智留さんが脚本を担当し、映画「L・DK」「海月姫」などの川村監督がメガホンをとった。主人公の西原あずさ役で石井さんが映画初主演。女優の小芝風花さん、小野花梨さん、秋月三佳さん、上原実矩さんが“ジミーズ”を熱演している。また、俳優の塚本高史さん、山本裕典さんらが脇を固め、地味な女の子たちが次第にキラキラと輝いていく青春ストーリーを作り上げている。
幼い頃にいじめられた経験を持つ女子高生の西原あずさ(石井さん)は、誰に対しても調子よく接しながら日々を送っていた。ある日、ひょんなことからダンス部を結成することになり、集められたのは片瀬愛海(小芝さん)、小沢葉月(小野さん)、岸本環(秋月さん)、貴島美香(上原さん)というクラスに友だちがいない“ジミーズ”と呼ばれるメンバーだった。うさん臭い雰囲気のコーチであるケニー長尾(塚本さん)に指導され、練習していくうちに、ジミーズたちに友情のようなものが芽生え始め……というストーリー。
10代後半にありがちな悩みや葛藤を旬な若手女優たちが演じ、予想以上の爽やかさと感動を感じた。一見すると青春スポ根ものかと思いきや、扱っているのがダンスということもあってどこかポップで、必要以上に押しつけがましいところがないのも好印象。今も昔も学生時代には、派閥やカーストのようなものがあったり、他人に嫌われたくないという思いにとらわれてしまったりするもの。大人になってから振り返れば、実は何でもないようなことなのだが、その当時は生活の大半を占めており、そこから外れたくないと考えている女子たちには、身につまされることだろう。現役世代はもちろん、当時高校生だった人たちも感情移入しやすい作品に仕上がっている。あずさの家の隣には、幼なじみでイケメンの池辺保(磯村勇斗さん)が住んでいるという、女子の理想を描いた設定も映画のいいアクセントになっている。本当の自分や友情、そして勇気とはといったことに気付かせてくれる。人気グループ「EXILE」の“弟分”「GENERATIONS from EXILE TRIBE」が主題歌「ALL FOR YOU」を歌っている。丸の内TOEI(東京都中央区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「内村さまぁ~ず THE MOVIE エンジェル」 バラエティー番組がまさかの映画化
お笑いコンビ「ウッチャンナンチャン」の内村光良さんと、「さまぁ~ず」の三村マサカズさん、大竹一樹さんの3人がレギュラー出演している人気バラエティー番組「内村さまぁ~ず(内さま)」を映画化した「内村さまぁ~ず THE MOVIE エンジェル」(工藤浩之監督)が9月11日に公開される。「内村さまぁ~ず」は、2006年11月にウェブ配信がスタートし、現在はTOKYO MXなどで放送され、番組DVDの売り上げは累計100万本を突破し「日本のバラエティーDVD史上最長不倒の記録」としてギネス世界記録に認定されている話題の番組。映画は、三村さんが主演を務めるほか、総勢56人のお笑い芸人が出演し、探偵事務所と劇団を兼ねた「エンジェル社」を舞台に、行き当たりばったり感とアドリブ満載のドラマが繰り広げられる。
代表の三田村マサル(三村さん)、役者兼脚本演出の内山次郎(内村さん)、マサルの幼なじみで役割不明の大島耕作(大竹さん)らが所属する劇団兼探偵事務所「エンジェル社」に、ある日、女優志望の夕子(藤原令子さん)が劇団と勘違いして訪れる。さらに、エンジェル社に父親に会いたがっている孫の願いをかなえるため、父親に顔がそっくりなマサルに父親のふりをしてほしいという依頼が舞い込み……というストーリー。
内村さんとさまぁ~ずが出演する映画といえば、「ピーナッツ」(06年)を思い出すが、今回は番組タイトルである「内さま」を冠しているだけあって、予想以上のゆるさとなりゆき感にあふれている。3人が演じている役どころも、どこか普段の3人を彷彿(ほうふつ)とさせるようなキャラクターでもあることから、バラエティー番組のノリで楽しめ、全編に通常の映画とは異なる雰囲気が漂っている。バラエティー番組を基にした映画だけに、ストーリーはどうなることかと思っていたが、小気味よく練り込まれたせりふの数々や、もはやツッコミにしか聞こえないようなせりふまで盛り込まれている。笑いが中心ではあるものの、見終わったときに温かい気持ちにさせられるのが不思議だ。とにかく大勢の芸人たちが登場し、あっさりと予定調和をはずれた笑いの渦が巻き起こる展開は気軽で楽しく、何度も見たくなる。「内村プロデュース」(テレビ朝日系)のメンバーや、当時の番組で結成された「NO PLAN」など、お笑い好きにはたまらないサービスカットもうれしい。TOHOシネマズ六本木ヒルズ(東京都港区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「映画かいけつゾロリ うちゅうの勇者たち」 タコ役の関智一の“イケメン演技”に注目
人気児童書「かいけつゾロリ」シリーズが原作の劇場版アニメ最新作「映画かいけつゾロリ うちゅうの勇者たち」(岩崎知子監督)が9月12日に公開される。オリジナルストーリーで、イケメンのタコなど個性的な新キャラクターが登場する。
「かいけつゾロリ」は1987年から出版され、シリーズ累計発行部数が3500万部以上を誇る原ゆたかさんの人気児童書シリーズ。“いたずらの王者”を目指すキツネのゾロリが、双子のイノシシで子分のイシシ、ノシシと旅をする姿が描かれている。劇場版最新作は、オリジナルストーリーで、ゾロリたちが謎の星・ムムーン星で、謎の巨大怪獣を退治することになる。
新キャラクターとしてムムーン星に住むヒロイン・クララとイケメンのタコが登場し、ゾロリたちと一緒に巨大怪獣を退治するために奮闘する。ゾロリはクララに一目ぼれして、怪獣退治を引き受けることになり、恋の行方も見どころとなる。原作でもおなじみのダジャレも健在で、ゾロリやイシシ、ノシシのやりとりにはクスッとさせられた。
ゾロリの声優を山寺宏一さんが務めるほか、関智一さんがイケメンのタコ、茅野愛衣さんがクララの声優を担当。イケメンのタコは意外な活躍を見せることもあり、関さんの“イケメン”演技も注目だ。
「映画かいけつゾロリ うちゅうの勇者たち」は12日から新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほか全国で公開。(小西鉄兵/毎日新聞デジタル)
「ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声」 心を閉ざした少年が歌声で運命を切り開く
一人ぼっちの少年が名門合唱団に入って運命を切り開いていく「ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声」(フランソワ・ジラール監督)が9月11日から公開される。名優ダスティン・ホフマンさんが厳しい指導者役で少年を見守る。ヘンデルから日本の童謡まで、さまざまな名曲が映画を歌声で彩っている。
母子家庭のステット(ギャレット・ウェアリング君)は学校の問題児。心を閉ざし、友達もいない。校長のスティール(デブラ・ウィンガーさん)は彼の歌の才能を見抜き、国立少年合唱団のオーディションを受けるよう勧めるが、ステットは反発する。ほどなく、生まれて初めて会った父親(ジョシュ・ルーカスさん)によって合唱団の寄宿舎へ転校させられる。合唱団のカーベル先生(ホフマンさん)はステットの態度に不満を持ちながらも、厳しく指導をしていく。同級生たちから才能を嫉妬されたステットは、いじめのターゲットとなるが、次第に歌うことに喜びを見いだして……という展開。
心を閉ざした少年の成長と、声変わりまでのほんのつかの間の美しい歌声が重なり、感動もひとしおだ。飲んだくれの母親を支えているけなげな姿が簡潔に語られ、父親にも拒絶されてしまった少年ステットを、序盤から見守る気持ちでいっぱいになる。ステットには美しい声と音楽の才能があったが、カッとなりやすく孤立している。そんな少年の物語の中心に音楽があり、指導者との出会いがある。この映画には、教育者の真価が問われる場面がいくつも出てくる。才能を否定された過去を持つ先生と、問題児のステット。どこまで信じ、どう指導していったらいいのか。孤独な少年に、どこまで厳しさを見せたらいいのか。ステットの成長も行きつ戻りつで、問題が起きるたびに「あ~あ」と思わされ、少年がどう変わっていくのか最後まで目が離せない。加えて、ステットと父親の関係の変化にもグッとくる。アメリカ少年合唱団が歌っているワーグナーやフォーレの少年合唱が、希望の歌として響き渡る。「グレン・グールドをめぐる32章」(1993年)や「レッド・バイオリン」(98年)などのジラール監督の作品。TOHOシネマズシャンテ(東京都千代田区)ほかで11日から公開。(キョーコ/フリーライター)