「ジヌよさらば~かむろば村へ~」 松田龍平が“お金恐怖症”の青年演じる
いがらしみきおさんのマンガが原作で俳優の松田龍平さんが主演の「ジヌよさらば~かむろば村へ~」(松尾スズキ監督)が4月4日から公開される。“お金恐怖症”という奇病に取りつかれた主人公が過疎の村に住み、お金をまったく使わない生活に挑戦する中で、個性的な村人たちと触れ合い、成長していく……というユニークな物語。松田さんの大真面目なのに思わずクスリと笑わされる演技が光る。阿部サダヲさんをはじめ個性派俳優陣の熱演も見どころだ。
都会でのある出来事をきっかけに、お金が恐怖の対象になってしまった元銀行マンの主人公・高見武晴(タケ、松田さん)は、お金(ジヌ=銭)を1円も使わない生活をしようと、東北の過疎の村「かむろば村」に住居を構える。あきれられながらも温かい援助をしてくれる、村長(阿部さん)をはじめとする個性豊かな村人たちのお陰もあり、なんとか平穏な生活を確立しつつあったタケだったが、ある日不穏な男が村を訪れたのをきっかけに、村長の過去や村の選挙などがからんだ騒動に巻き込まれていく……というストーリー。西田敏行さん、二階堂ふみさん、松たか子さん、片桐はいりさんらが出演。松尾監督も自ら出演している。
見どころには、まず“お金恐怖症”というありえない設定の役柄を淡々と演じる松田さんの演技だろう。松尾監督は、単なるコメディーで終わらない映画にするために主人公のキャスティングに悩んだとインタビューで語っているが、あくまで真面目に、過剰にも過小にもならず自然体で「ありえない男」を演じる松田さんの姿は滑稽(こっけい)でありながらどこかリアリティーも感じさせる。これは確かにハマリ役といえそうだ。また、阿部さんや二階堂さんら「かむろば村」の村人たちのぶっ飛んだキャラクターも“ガラパゴス”な村の性格を表しているようで面白い。笑いに包まれた平穏な物語は、後半に突入すると“ある男”の登場で徐々に不穏な空気を帯び、伏線を回収しながらラストの名シーンにつながっていく。はじめに頼りなさしか感じなかったタケが最後に見せる頼もしい姿に心を打たれるのは、知らず知らず感情移入していた証しなのかもしれない。映画は4日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開。(河鰭悠太郎/毎日新聞デジタル)
「たまゆら~卒業写真~第1部 芽-きざし-」 4人組の卒業までの1年を描く
広島県竹原市を舞台にしたアニメ「たまゆら」シリーズの劇場版アニメ「たまゆら~卒業写真~第1部 芽-きざし-」(佐藤順一監督)が4月4日に公開される。「たまゆら」は、写真が好きな女子高生・沢渡楓(さわたり・ふう)と、友人との日常を描いたアニメで、2010年にOVAが発売され、テレビアニメ第1期が11年10~12月、第2期が13年7~9月に放送された。楓たちの高校卒業までの1年間を描く劇場版は、4部作で第1部となる今作では、高校3年生になった主人公らが夢や進路に思い巡らせる姿を描く。ヒロインたちの揺れ動く心や成長など、大人に近づいてくる多感の時期の心情が映し出されている。
少し内気で写真が好きな女子高生・沢渡楓(声・竹達彩奈さん)は、塙かおる(声・阿澄佳奈さん)、岡崎のりえ(声・井口裕香さん)、桜田麻音(声・儀武ゆう子さん)の仲よし4人組で高校1、2年と一緒の時間を過ごしてきた。3年生へと進級し、かなえ先輩(声・茅野愛衣さん)が卒業した写真部には後輩2人が入部し、これまでと変わらないにぎやかな毎日を過ごす。約1年後に迫った卒業に向け、自分たちの将来の夢や進路について少しずつ思いをはせる4人。これまでの大切な時間を思い返していた楓にある気持ちが芽ばえ……というストーリー。
テレビシリーズでは楓が多くの人たちと出会うことで成長したり、夢を見つけたりという姿が描かれてきたが、完結編ではいよいよ高校3年生となり、進路や将来やりたいことなど希望にあふれつつも、どこか不安だった10代後半の揺れ動く気持ちが描かれる。そんな青春まっただ中の楓たちが、いったい何を思い、何を感じるのか。そして、卒業という一大イベントに向けてどう過ごすのかが気になるところ。4部作で描かれることもあり、今作ではまだまだ仲良し4人組のふんわりした場面のほうが多いと感じるが、それでもキャラクターの表情やしぐさが繊細でみずみずしく、各自が夢へと向かって歩き出す雰囲気を生き生きと描いている。「芽-きざし-」というタイトルも絶妙で、今後どれだけ涙を流すことになるのかと見ているこちらも期待と不安が押し寄せる。新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で順次公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「パレードへようこそ」80年代英国での実話を温かいまなざしとユーモアで描いた感動作
英国のサッチャー政権下で実際にあった出来事を描き、今年のゴールデン・グローブ賞作品賞にノミネートされ、2014年のカンヌ国際映画祭ではLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)などをテーマにした作品に贈られるクィア・パルム賞に輝いた映画「パレードへようこそ」(マシュー・ウォーチャス監督)が、4月4日から全国で公開される。閉山の危機に立ち向かう炭坑労働者たちとLGBTの性的マイノリティーの人々が、協力し合い未来を切り開いていく姿を、ユーモアを交えて描いた感動作だ。
1984年、サッチャー政権下で荒れる英国。炭坑閉鎖に反対しストライキをする炭坑労働者たちに心を動かされたマーク(ベン・シュネッツァーさん)は、彼らとその家族を支援しようと思い立つ。折しもその日はゲイの権利を訴えるパレードが行われる日。マークはゲイ仲間たちと、そのパレードで行進しながら炭坑労働者とその家族を支援するための募金活動を呼びかけるが……という展開。
性的マイノリティーと炭坑閉鎖という特異なモチーフを扱っているが、決して人ごとではない。炭坑閉鎖について地元の人々が複雑な心情を吐露する場面では、状況は違えども原発問題で揺れる現代の日本に重なり、パレードの場面では人間は一人では微力だが、同じ志を持つ者が集まれば大きな岩をも動かす力になることを実感できた。かといって映画は深刻ぶって語ってはいない。ユーモアにあふれ、場面からは、ウォーチャス監督の登場人物に対する温かいまなざしが伝わってくるかのようだ。存命の“LGSM(炭坑夫支援レズビアン&ゲイ会)”のメンバーや舞台になった町の人々が、劇中再現したパレードに参加するなど、作品に協力したことも特筆すべき点だ。リーダー魂を発揮して“LGSM”をぐいぐいと引っ張っていくマークにせよ、家族にゲイであることを打ち明けられず、おどおどしながらも会に懸命に尽くすジョー(ジョージ・マッケイさん)にせよ、登場人物すべてが魅力的で、好きにならずにいられない。最後に起こる“奇跡”にも胸が熱くなった。ほかにビル・ナイさんやイメルダ・スタウントンさんらが出演。4日よりシネスイッチ銀座(東京都中央区)ほか全国で順次公開。 (りんたいこ/フリーライター)
「翠星のガルガンティア めぐる航路、遥か 後編」レドの運命とすべての謎が決着
テレビアニメ「翠星のガルガンティア」の続編を2部作で描いたOVAの後編となる「翠星のガルガンティア めぐる航路、遥か 後編」(村田和也監督)が4月4日に公開される。「翠星のガルガンティア」は、異形の生命体と戦い続けていた少年兵・レドが、地球の船団・ガルガンティアの人々との日々を描くSFアニメで、2013年4~6月にテレビアニメが放送され、昨年9月にはOVA前編が公開された。後編では沈没船を引き上げるなどサルベージチームの一員として働くレドが、旧文明の記録媒体や謎のロボット「マズル」、そして前編にも登場した少女リーマの目的など、さまざまな謎が明かされていく。
ガルガンティアの仲間たちと旧地球文明の遺物を海底から引き揚げる日々を送る少年兵のレド(声・石川界人さん)。仲間たちは引き上げた沈没船の資材の中から、マシンキャリバーの祖となる戦闘機械に関する旧文明の記録媒体を発見する。一方、ガルガンティアは物資不足や住人の疲労などから海上貿易拠点「竜宮城」に寄港するが、謎のロボット「マズル」が現れ……という展開。
前編を見ていても感じたことだが、テレビ版から半年後という設定の物語には登場人物たちの何気ない日常も描かれている。もちろん物語として新たな事件などは発生するものの、テレビシリーズ終了後も物語の中に船団は存在し、人々は暮らしを続けているわけで、そういったあたかも実在しているかのような作品の雰囲気には物語の一貫性と力強さを感じる。描かれる日常生活によって広がる奥行きある人間関係、さらにディテールやこだわりの表現などがストーリーに深みを与えている。後編でもっとも気になるのは謎の言語を話すロボットのマズルの存在と、リーマの本当の目的だ。それらに付随するレドの決断や運命を、ワクワク感のある心躍らせる描写で表現した。ロボットが出てくるSF作品だが、厚みのあるドラマが味わい深い。新宿バルト9(東京都港区)ほか全国12館で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「PERSONA3 THE MOVIE #3 Falling Down」新キャラも登場し物語は佳境へ
人気ゲーム「ペルソナ3」を基にした劇場版アニメシリーズ「PERSONA3 THE MOVIE #3 Falling Down」(元永慶太郎監督)が4月4日に公開される。「ペルソナ3」は、2006年にプレイステーション2向けに発売されたロールプレイングゲームで、今作はゲーム本編のストーリーに沿った形でアニメ化された劇場版3作目。第3章では、主人公らと異形の怪物「シャドウ」との戦いも終わりに近づく中、謎の転入生が現れ、新たなる局面を迎えるなど、息もつかせぬドラマチックな展開が繰り広げられる。
季節は秋となり、一日と一日の間に存在し街が動きを止める「影時間」を終わらせるため、結城理(声・石田彰さん)ら特別課外活動部は特殊能力「ペルソナ」を駆使して異形の怪物「シャドウ」と死闘を重ねていた。ある者は仲間や家族の死に向き合い、ある者は守るべき大事なものに気づき、またある者は自分たちのこれまでの戦いに意味があるのかと葛藤する日々。シャドウとの戦いも終盤を迎えつつある中、理の前に謎の転校生・望月綾時が現れる、再び運命の歯車は回り始め、それぞれのつながりを巡る戦いが始まる……というストーリー。
2013年11月の第1章、14年6月の第2章と原作の雰囲気を取り入れた演出が好評を博していたが、最新作ではそのクールな世界観が受け継がれているのはもちろん、さらに高いクオリティーの表現に驚かされる。そして今作のメガホンをとった「刀語」や「デート・ア・ライブ」などを手掛けた元永監督は物語のうまさには定評がある人物。前作まで以上の怒濤(どとう)の展開と絶妙なストーリー構成で、一瞬にして物語世界へと引き込まれる。主人公らの葛藤や思惑など人間ドラマも深まりを見せ、新キャラクターにしてキーマンとなる望月綾時の登場が、新たなる展開を盛り上げる。戦いのクライマックスと真相へと迫りつつある中、物語の行く末に注目が集まる。新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「間奏曲はパリで」仏女優イザベル・ユペール主演 倦怠期の妻を軽妙なタッチで
フランスを代表する女優イザベル・ユペールさんが、3人の男性とのアバンチュールに胸をときめかす主婦を演じた「間奏曲はパリで」(マルク・フィトゥシ監督)が4月4日から公開される。倦怠(けんたい)期夫婦のすれ違いが、軽妙なタッチでつづられていく。夫役は「ル・アーヴルの靴みがき」(11年)などのフランスの名優ジャンピエール・ダルッサンさん。
ノルマンディー地方で畜産業を営むグザヴィエ(ダルッサンさん)とブリジット(ユペールさん)は倦怠期の夫婦。夫は真面目だが、遊び心がない。息子は家業を継がず、サーカス学校に入学。ブリジットは息子を応援するが、グザヴィエは面白くない。ブリジットは毎日同じ作業の繰り返しと夫の態度に嫌気がさしていた。ある日、めいがパリから友人たちを連れて隣家にやって来る。魅力的な青年スタン(ピオ・マルマイさん)に誘われて、ドレスアップしてパーティーに参加したブリジットは、久々に心を躍らせる。ブリジットは、パリに帰ったスタンを追うようにして、持病の湿疹を治すという名目でパリに行くのだが……という展開。
妻の浮気をドロドロに描くのかと思いきや、そんな予想ははずれた。まず、ユペールさんがこれまでのイメージとは異なる明るい普通の主婦(といってもかなりおしゃれ主婦だが)を演じている。このブリジットがとても可愛らしい。ウンザリした毎日から逃れて、単身パリにやってくるところから一転。スクリーンはウキウキ気分一色になる。バトー・ムーシュでセーヌ川をクルーズ。たまたま出会ったおじさんと、コンコルド広場の大観覧車に乗ったりして、すっかりパリ観光気分。毛皮の帽子もキュートで、軽い足取りで歩く彼女の姿を追いながら、一緒に小さな冒険を楽しむ気分にさせられる。このまま進むのかと思ったら、後半からは夫グザヴィエの内面が立体的に描かれ、夫婦の見え方が変わってくる。無骨な夫が妻を見守る優しさにホロリとさせられる。ダルッサンさんの芝居のうまさにはうならされる。牛しかいない風景と「モウ~」という鳴き声が夫婦の危機を乾いた笑いに包み込み、また夫婦にはルーティン作業となっている牛の分娩(ぶんべん)が、見る側に新鮮な驚きをもたらすのも面白い。角川シネマ有楽町(東京都千代田区)ほかで4日から公開。(キョーコ/フリーライター)