「アメリカン・スナイパー」 印象深い主人公の眼差し…イーストウッド監督が戦場の狂気描く
映画「ジャージー・ボーイズ」(2014年)に続くクリント・イーストウッド監督の最新作「アメリカン・スナイパー」が21日公開される。03年に始まったイラク戦争で4回にわたって戦地に赴き、その常人離れした狙撃の精度から「伝説の狙撃手」と呼ばれた男の半生を映像化した作品で、22日(日本時間23日)に発表される「第87回アカデミー賞」で、作品賞や主演男優賞など6部門でノミネートされたことも話題を集めている。
「アメリカン・スナイパー」は、13年に不慮の事故で38歳で亡くなった元米国軍人のクリス・カイルさんの自署「ネイビー・シールズ最強の狙撃手」をもとに、イーストウッド監督が映像化。自らプロデューサーとして原作本の映画化権を獲得した米俳優のブラッドリー・クーパーさんが主演を務めた。テキサス州に生まれ育ったカイル(クーパーさん)は、カウボーイになる夢を捨て、愛国心から軍人を志願する。過酷な訓練をへて、特殊部隊ネイビー・シールズに狙撃手として配属されると、愛する家族を残して、イラクへ。最初の戦闘で大きな戦果を上げると、カイルはいつからか「伝説の狙撃手」として味方から英雄視されるようになる……というストーリーだ。
国と愛する家族を守るためとはいえ、時として子供や女性までも狙撃の対象としなければならない戦場の狂気にとりつかれた主人公。常に苦悩や葛藤しながら、それでも仲間がまた一人また一人と傷つき倒れていくのを見逃せず、戦地へと向かうことをやめることができなかったそのまなざしが印象に残った。今年度の「アカデミー賞最有力」と呼ばれるにふさわしい重みのある作品。映画は21日から全国で公開。(山岸睦郎/毎日新聞デジタル)
「花とアリス殺人事件」 岩井俊二が長編アニメ初監督 花とアリスの出会いを描く
「スワロウテイル」(1996年)や「リリイ・シュシュのすべて」(2001年)などで知られる岩井俊二監督が初めて手掛けた劇場版長編アニメ「花とアリス殺人事件」が20日に公開される。岩井監督が原作・脚本・監督を手がけた実写映画「花とアリス」(04年)の前日譚(たん)で、花とアリスの出会いが描かれる。実写版でダブルヒロインを演じた女優の鈴木杏さんと蒼井優さんが、アニメ版でも再び同じ役の声を担当するのに加え、岩井監督が脚本・音楽も自ら手がけたことでも話題を集めている。
石ノ森学園中学校に転校してきた中学3年生のアリスこと有栖川徹子(声・蒼井さん)は、1年前に3年1組で起こった「ユダが、4人のユダに殺された」といううわさを耳にする。さらに、アリスの隣の家が“花屋敷”と呼ばれ、近隣の中学生に怖がられていることも知る。花屋敷に住む花という人物ならユダについて詳しく知っているはずだと聞いたアリスは、花屋敷に侵入し、そこで引きこもりのクラスメート・荒井花(声・鈴木さん)と出会う……というストーリー。
「花とアリス」はこれまで何回か製作されており、岩井監督にとって思い入れが強い作品だということは容易に想像できるが、監督の最新作が同作の長編アニメというのには正直驚いた。しかも岩井監督が長編アニメ初挑戦であるのに加え、当時と同キャストの鈴木さんと蒼井さんが花とアリスの声を担当していることにもさらに驚かされた。同作ファンにはたまらない花とアリスの独特な掛け合いも健在。今作はタイトルに「殺人事件」とあるようにミステリーの雰囲気をまといながらも、実は恋愛や友情といったテーマを内包した青春ドラマに仕上がっている。映像だけでなく音楽からもみずみずしさを感じさせ、ストーリーを軽やかに演出している。劇場版アニメでありながら岩井監督らしさも随所に見られ実写映画のファンも楽しめる。20日から新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/毎日新聞デジタル)
「きっと、星のせいじゃない。」“生きている2人”に勇気づけられる恋愛青春映画
「ファミリー・ツリー」(2011年)や「ダイバージェント」(14年)などの作品で知られるシャイリーン・ウッドリーさん主演の青春映画「きっと、星のせいじゃない。」(ジョシュ・ブーン監督)が2月20日から全国で公開される。「ニューヨーク・タイムズ」の12年のベストセラー第1位になった小説「さよならを待つふたりのために」を映画化したもので、作者ジョン・グリーンさんはこの小説を16歳の若さで他界した女性の友人をモデルに書き上げたという。ウッドリーさんの相手役には「ダイバージェント」で共演したアンセル・エルゴートさん。ほかにローラ・ダーンさん、ウィレム・デフォーさんらが出演している。
17歳のヘイゼル(ウッドリーさん)は末期のがん患者だ。今は抗がん剤が効き、小康状態だが、酸素ボンベは手放せない。あるときヘイゼルは、両親の勧めでがん患者が集まるサポートグループに参加し、そこで片脚と引き換えに骨肉腫を克服した18歳のオーガスタス(エルゴートさん)と知り合う……という展開。
末期がんの患者をヒロインにした恋愛青春映画となると、涙、涙の物語を想像するが、この作品にはジメジメしたところがない。むしろ爽やかな後味を残している。なぜなら、“死を待つ2人”ではなく、あくまでも“生きている2人”を描いているからだ。DVDを一緒に見る2人、LINEで会話する2人、偶然、手と手が触れ合いハッとする2人……すべて、普通の若者がすることと何ら変わりない。ただ違うのは、ほんの少し残された時間が他の人より短いことだ。毎日を、楽しいこともつらいこともひっくるめて受け止め、ときには皮肉なジョークを飛ばしながら生きているヘイゼルとオーガスタス。そんな彼らがたまらなくいとおしく見える。2人の軽妙な会話には、こちらが勇気づけられる場面も。誰もが2人を応援し、見終わった後はすがすがしい気分で席を立てることだろう。20日からTOHOシネマズ日本橋(東京都中央区)ほか全国で公開。 (りんたいこ/フリーライター)
「君が生きた証」 歌声に心揺さぶられる「シェイムレス」主演俳優の初監督作
映画「ファーゴ」(1996年)や、米テレビシリーズ「ER 緊急救命室」(94~2009年)、「シェイムレス 俺たちに恥はない」(11年~)などの作品で知られる名優ウィリアム・H・メイシーさんの初監督作「君が生きた証」が2月21日から公開される。息子を失った父親が、息子が残した曲を歌い継ぐことで再生していく感動作だ。「あの頃ペニーレインと」(00年)でギターの腕前を披露していたビリー・クラダップさんと、「スター・トレック」シリーズ(09年、13年)に出演し、自身のバンドではギターとピアノを演奏するアントン・イェルチンさんの歌声が、物語の感動をあと押ししている。
広告マンのサム(クラダップさん)は、息子を突然の銃乱射事件で失った。息子の訃報を受け止められないサムだったが、別れた妻(フェリシティ・ハフマンさん)から、生前息子が作ったデモCDや歌詞を書き留めたノートを手渡され、初めて自分が息子がどんな思いで生きていたかを知る。サムは息子が残した曲を行きつけのバーで歌うようになり、たまたまそれを聴いたクエンティン(イェルチンさん)は「一緒にバンドをやらないか」と声をかける……という展開。
今作はいってみれば贖罪(しょくざい)の話だ。サムは、息子が死んで初めて、自分が彼のよき理解者でなかったことを悔やむ。そのサムは息子が残した曲によって再生していく。再生の旅は生半可なことではない。つづられる物語も重い。だが、数々の素晴らしい音楽によって、物語に一条の光が差す。メイシー監督が「この映画のメインキャラクターの一つに音楽がある」と語っている通り、ここに流れる曲はいずれも、サムや息子ジョシュの心情を見事に表している。そしてそれらすべてが、歌い方次第で明るくも切なくもなる、とても情緒豊かな曲だ。クラダップさんとイェルチンさんの演奏シーンも見どころで、彼らの歌声に心を揺さぶられた。21日からヒューマントラストシネマ有楽町(東京都千代田区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)
「でーれーガールズ」 優希美青と足立梨花がW主演 恋と友情の青春ストーリー
NHK連続テレビ小説「あまちゃん」や放送中の「マッサン」に出演し注目を集める女優の優希美青(ゆうき・みお)さん(15)と、同じく「あまちゃん」で注目され、最近では映画やドラマ、「Jリーグ名誉女子マネジャー」としても活躍する足立梨花さん(22)がダブル主演する映画「でーれーガールズ」(大九明子監督)が21日から全国で公開される。岡山の1980(昭和55)年代と現代を舞台に2人の少女の恋と友情を描いた青春ストーリーだ。
映画は原田マハさんの小説が原作。鮎子(優希さん)は、東京から岡山に転校してきたたばかりでなかなかクラスになじめず、大学生の彼と自分をモデルにした恋愛マンガを描く日々を送っていた。描いたマンガを見られたことがきっかけで、美人でクラスでも目立つ存在の武美(足立さん)と仲良くなる。次第に仲を深める2人だったが、クリスマスイブ、ある事件がきっかけで決定的な仲違いをしてしまう……という展開。大人になった鮎子と武美役で白羽ゆりさん、安蘭けいさんも出演する。
クラスに溶け込もうと、岡山弁で「ものすごい」を意味する「でーれー」を連発する鮎子を演じる優希さんのフレッシュな演技が新鮮で、劇中にも登場する「スター・山口百恵」と重なり、スターの誕生を予感させる。また、「クラスに一人はいた大人びた美人」を演じた足立さんの武美役もハマリ役だ。同性や異性にかかわらず、ちょっとした誤解やふとした“ボタンの掛け違い”で仲のよかった人と疎遠になったり、あるいは決定的な決別になってしまう……ということは誰しも思い当たるフシはあるだろう。大人になって図太くなったと思いきや、傷つきやすさはあの頃と変わらない自分を発見したりして意外な“繊細さ”にドキリとすることもある。そんな隠れた繊細さを持ち合わせた大人もの見てほしい新鮮な作品だ。21日からヒューマントラストシネマ渋谷(東京都渋谷区)ほかで公開。(堀池沙知子/毎日新聞デジタル)
「女神は二度微笑む」ハリウッド・リメークも決まったインドのサスペンス映画
インドの本格的サスペンス映画「女神は二度微笑む」(スジョイ・ゴーシュ監督)が、2月21日から公開される。大都市コルカタを舞台に、失踪(しっそう)した夫を捜す妻の道のりの中に大事件がからんでいく。「ミレニアム・ドラゴン・タトゥーの女」(2009年)のニールス・アルデン・オプレブ監督によって、ハリウッドでのリメークも決定している話題作だ。
コルカタの国際空港に、身重の美女ビディヤ(ビディヤー・バーランさん)が降り立った。ビディヤは、インドで行方不明になった夫を捜しにロンドンからやって来た。しかし、宿泊先や勤務先に夫がいた形跡はない。ビディヤは、ラナ刑事(パラムブラト・チャテルジーさん)とともに夫を捜索するが、そこに、夫に似た風貌で別名の男の存在が浮かび上がる。だが、国家情報局は「そんな男はいない」と言うばかり。しかし、ビディヤに情報を提供した女性が何者かに殺され、事態は2年前のテロ事件と関係していることが明らかになっていく……という展開。
歌わない、踊らない新世紀のインド映画の一つ。サスペンス映画には美女が欠かせないが、ボリウッドのトップ女優が演じる今作のヒロインの「美」は、姿形だけではない。賢さと強さに裏打ちされ、際立っている。このヒロイン、ヒンドゥー教の戦いの女神ドゥルガーの伝説をモチーフにしているという。並み外れた推理力と行動力に加え、コンピューターのハッキングもお手のもの。空港に降り立ったときのか弱い妊婦が、どんどん印象を変え強さを持っていく。刑事とコンビになって夫の失踪の謎に迫っていくさまが緊張感をはらんで展開され、どんでん返しがどこでくるのかとハラハラさせられる。雑然とした通りや、クライマックスのお祭りにいたるまで、コルカタの街を魅力的にとらえたライブ感あふれる映像で、事件をはらんで展開していく。インドのアカデミー賞と称されるインド・フィルムフェア賞で監督賞、主演女優賞など5部門を受賞。ゴーシュ監督の次回作は、「容疑者Xの献身」のインド版リメークだという。21日からユーロスペース(東京都渋谷区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)