クリント・イーストウッドさんがメガホンをとり、1960年に結成された4人組ポップグループ「ザ・フォー・シーズンズ」の誕生から栄光、挫折、そして再生までを描いた映画「ジャージー・ボーイズ」が9月27日から全国で公開される。米トニー賞のミュージカル部門で最優秀作品賞はじめ4部門に輝いた舞台が原案。イーストウッド監督がミュージカルを映画化するとは意外だが、「ミリオンダラー・ベイビー」(2004年)や「硫黄島からの手紙」(06年)、「グラン・トリノ」(08年)といった人々の記憶に残る作品を生み出してきた名監督が、そつなく仕上げていてさすがだ。
1951年、米ニュージャージー州にあるイタリア移民が集まる街で理髪店の見習いとして働く16歳のフランキー(ジョン・ロイド・ヤングさん)は、天性の歌声の持ち主だ。ある時から彼は、知人のトミー(ビンセント・ピアッツァさん)とニック(マイケル・ロメンダさん)に誘われ、彼らのバンドで歌うようになる。そこに天才肌の作曲家ボブ(エリック・バーゲンさん)が加わり、4人は「ザ・フォー・シーズンズ」として活動を開始する……というストーリー。
まず意表を突かれたのは、ザ・フォー・シーズンズのメンバー一人一人が観客に向かって語り掛け、自身の心情を吐露するという演出。ラストに全キャラクターが再登場し、歌い、ステップを踏むというフィナーレも、イーストウッド監督らしくないと思う半面、監督のブロードウエーの舞台版への敬意を感じ、感銘を受けた。今作の魅力は「シェリー」や「君の瞳に恋してる」といった名曲が全編を彩り、それらが誕生する瞬間に立ち会える喜びを味わえること。とりわけ、「君の瞳に恋してる」の誕生秘話には驚かされ、明るい旋律のこの曲への印象が見終わったあと随分変わった。フランキー役を、トニー賞で最優秀主演男優賞に輝いたヤングさんが務めるなど、キャストの多くはブロードウエー版に出演した俳優が務めている。イーストウッドさんにとって、「J・エドガー」(11年)以来3年ぶり33本目の監督作。今作もまた、イーストウッド作品の中で忘れがたい佳作となった。9月27日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)