「at Home アットホーム」 竹野内豊の父親ぶりが板についている 擬似家族の絆描く
本多孝好さんの小説が原作で、竹野内豊さんと松雪泰子さんが“疑似夫婦”を演じた映画「at Home アットホーム」(蝶野博監督)が8月22日に公開される。疑似夫婦の上、父は泥棒、母は詐欺師という“変わり種”。そして3人の子供も全員本当の家庭に問題があり、夫婦が引き取ったという5人全員が血がつながっていない“疑似家族”だ。だが本当の家族より強い絆で結ばれている。竹野内さんの父親ぶりが板についていて、見応えあり。家族とは……について考えさせられる佳作だ。
父・森山和彦(竹野内さん)は泥棒、母・皐月(松雪さん)は結婚詐欺師、長男・淳(坂口健太郎さん)は偽造職人。中3の長女・明日香(黒島結菜さん)と末っ子の隆史(池田優斗くん)は両親と兄が犯罪で生計を立てていることを知っている。それぞれには決して振り返りたくない過去があった。ある日、母が詐欺をはたらこうとした相手に誘拐されてしまう。母を奪還するために家族が立ち上がった……というストーリー。
竹野内さんの頼れる父親像が本当に理想的で、そのことによって森山家は血のつながった家族より堅い絆で結ばれていることしみじみと感じさせる。それぞれは本当の家族からつらい目に遭い、飛び出した経緯があるから、なおさら絆は強固になるのだろう。お互いが家族を思いやる温かい家族。悲しい土台があるからこそ、寄り添い合う。それは母親が誘拐されるという危機に直面し、より絆が堅く結ばれる。誘拐犯役の「ウーマンラッシュアワー」の村本大輔さんは猟奇的な人物を熱演。松雪さん演じる母をぼこぼこにするシーンは真に迫っている。見終わったあと、もう一度自分の家族との関係を見つめ直そうという気持ちになった。板尾創路さん、「千原兄弟」の千原せいじさんらも出演している。22日から有楽町スバル座(東京都千代田区)ほか全国で公開。(細田尚子/毎日新聞デジタル)
「ナイトクローラー」 12キロ減量で挑んだギレンホールの怪演光る問題作
夜の街を徘徊(はいかい)し、事件や事故現場の刺激的な映像を撮影してはテレビ局に高値で売りつける報道パパラッチ、通称“ナイトクローラー”の驚くべき姿を描いた映画「ナイトクローラー」(ダン・ギルロイ監督)が、8月22日から公開される。今年の米アカデミー賞で脚本賞にノミネートされた作品で、主演のジェイク・ギレンホールさんの怪演が話題になっている。常軌を逸した行動で特ダネをものにしていくギレンホールさん演じる主人公と、それを助長させるテレビ局の人間、さらに、その報道を受け取る私たちへの警告ともとれる問題作だ。
失業中のルー(ギレンホールさん)は、事故現場を通りかかったとき、悲惨な映像を撮影し、それをテレビ局に売る“ナイトクローラー”の存在を知る。ルーは早速ビデオカメラを手に入れ、事故現場に乗り込んでいく。そして、悪知恵を働かせ、撮った映像を某テレビ局の女性ディレクター、ニーナ(レネ・ルッソさん)に売り込むことに成功する。以来ルーは、刺激的な映像を欲しがるニーナの要求に応え行動をエスカレートさせていく……という展開。
もともと良心の呵責(かしゃく)など感じないルーは、普通の人間ならひるむような現場でも果敢に攻め込んでいく。「これをやったら相手に迷惑では?」「心象を悪くするのでは?」なんてことは考えない。口がうまく、ずる賢い彼には、同業者すら“ネタ”にする。そして、この仕事が天職となる。ある事件現場で彼が取った行動は、まさに口があんぐりとなるほどあきれた行為だ。彼にそうさせるよう仕向けるニーナにも、批判の目を向けたくなる。しかし、ふと思う。ルーをそういった衝動に駆り立たせるのは、それを求める人間がいるからで、ルーは私たちの欲望から生まれたキャラクターなのではないか、と。
昼と夜とでまったく異なる顔を見せるロサンゼルスという街にも驚かされたが、何より驚かされたのは、ルーを演じたギレンホールさんの演技だ。これまで好青年、同性愛の男性、正義感の強い刑事などいろんな役をこなしていたが、今回ほど不気味な男の役は見たことがない。体重を12キロ落として演じたそうだが、落ちくぼんだ目をぎらつかせながら特ダネを追うその姿は、一見の価値ありだ。22日からヒューマントラストシネマ渋谷(東京都渋谷区)ほか全国で順次公開。 (りんたいこ/フリーライター)
「東京PRウーマン」山本美月初主演 ヒロインの成長とPR仕事の裏側描く
モデルで女優の山本美月さんの主演映画「東京PRウーマン」(鈴木浩介監督)が8月22日に公開される。映画は実在するPR会社「ベクトル」を舞台にした作品で、山本さんは映画に初主演。銀行員からPR会社へ転職した主人公が、失敗を重ねながらも成長していく姿が描かれる。共演には山本裕典さん、桐山漣さん、井上正大さんら若手の人気俳優が出演しているほか、女優陣も佐藤ありささんはじめフレッシュな顔ぶれがそろった。ヒロインの仕事ぶりなどを通じ、PRの仕事の内容も分かる映画となっている。
ドジで自分に自信がない銀行員の三崎玲奈(山本美月さん)は、友人の栗田美晴(佐藤さん)らとの合コンでアパレル会社社長の武藤信吾(桐山さん)と出会う。銀行員が嫌いだという武藤に、玲奈は酔った勢いでPR会社で働いているとうそをついたことで、PR会社ベクトルの入社試験を受けることに。面接ではまともな応対ができず面接官の草壁亮平(山本裕典さん)をあきれさせるが、社長の須藤(袴田吉彦さん)の気まぐれで合格する。草壁の部下として商品PRに奔走し、雑誌にも取り上げられるほど話題になるが、とある発表会で人気タレントを怒らせてしまい……という展開。
PR会社へと転職したヒロインが、周囲からの冷ややかな視線に耐えながらも仕事に恋に成長していくという展開で、往年のトレンディードラマのような雰囲気が漂う。ヒロインが入社するきっかけや素人に近い新人の発案がうまいこと転がっていくなど、リアリティーは置いてけぼりながらもノリとテンポで見せていく。特にトレンディードラマを見たことがない世代には、新しいジャンルの作品に見えるかもしれない。とにかく突っ込みたい気持ちは脇に置いて、ヒロインがスポ根ばりのど根性で成長していく姿を楽しみたい。実際のPRという仕事の内容や業界の仕組みについて、物語を楽しみながら知ることができるのも面白い。今をときめく若手キャストがそろっているのも魅力的だ。シネ・リーブル池袋(東京都豊島区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「アイカツ!ミュージックアワード」 数々の名曲ステージが楽しめる
アイドル活動(アイカツ)に打ち込む主人公らの成長や友情を描くテレビアニメの劇場版「アイカツ!ミュージックアワード みんなで賞をもらっちゃいまSHOW!」(綿田慎也監督)が8月22日に公開される。今作では「アイカツ!」史上初となるオールスター授賞式を舞台に、物語を彩ってきた数々のナンバーを表彰する形でライブシーンを描き、歌にダンスにと華麗なパフォーマンスで楽しませてくれる。
トップアイドルを目指してアイドル活動に励む少女たちがこれまでに発表してきた多彩な曲やパフォーマンスを表彰するセレモニー「アイカツ!ミュージックアワード」が開催される。大空あかり(声・下地紫野さん)、氷上スミレ(声・和久井優さん)、新条ひなき(声・石川由依さん)の3人が司会を務め、名曲の数々が次々と披露されていく……という展開。
「アイカツ!」は2012年10月のトレーディングカード発売と同時期にアニメ放送が始まり、14年には映画「劇場版アイカツ!」が公開された。主人公たちがアイドル活動をする少女たちなので、ミュージックアワードという設定とは相性がよく、音楽番組を楽しんでいるような気分に浸れる。どの曲が表彰されるかは映画を見てのお楽しみだが、ファンなら誰もが知っている名曲の数々や先輩組も登場と、えりすぐりの曲がそろった。各キャラクターたちによるパフォーマンス中心なので、ストーリーといえるほどの展開はないが、24時間テレビのマラソンをモチーフにしたパロディーもあり、ライブシーン以外にも楽しませてくれる。さらに映画と連動した「アイカツ!みんなでおうえんアプリ」があり、アプリを起動するとスマホ画面にサイリウムが表示され、それを振ってアイドルたちを応援できるなど、本当にライブに参加しているかのように楽しめる。ライブに行くノリで見に行き、アプリを使って応援することをオススメする。新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開。3Dも同時公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「死霊高校」 主観映像による死角と多彩な音響効果が恐怖感を倍増させる
人気ホラー映画「パラノーマル・アクティビティ」(2007年)などを手がけてきた製作陣による最新作「死霊高校」(クリス・ロフィング、トラビス・クラフ監督)が8月22日に公開される。高校を舞台に、かつて主演した生徒が上演中に事故死してしまったという演劇を再演することになり、中止にすべく深夜の学校に忍び込んだ高校生たちの恐怖体験を描く。POV(主観映像)形式で撮影された映像は緊迫感に満ちていて、深夜の学校に閉じ込められてしまった主人公たちの息遣いが臨場感を与え怖さが倍増している。
演劇「絞首台」を上演中、主役を務める少年チャーリーの身に惨事が起きてから20年がたった高校で、当時と同じ演目が再び上演されることになった。再演される前夜、公演を中止させようとビデオカメラを手に深夜の学校に忍び込んだリース(リース・ミシュラーさん)、ライアン(ライアン・シューズさん)、キャシディ(キャシディ・ギフォードさん)の3人は、舞台セットを壊し始める。3人がよくないことを企んでいると疑い、あとを追ってきたファイファー(ファイファー・ブラウンさん)と遭遇。そして4人は偶然、20年前に起きた惨劇の映像を見てしまい、その直後から出入り口が開かなくなり、学校内に閉じ込められてしまう……というストーリー。
深夜の学校に閉じ込められ怪奇現象が起きるという、設定は割とオーソドックスなホラーではあるが、手持ちカメラで撮った映像の生々しい動きが、恐怖をあおってくる。もし、今作が通常のカメラで撮影されていたとしたら、ここまで怖かっただろうか。もちろん、それなりの怖さはあったのだろうが、やはりPOV特有の“視野の狭さ”や“もどかしさ”といったものが、必要以上に怖さを増している。ホラー映画ではあるが残酷なシーンは少なめで、どちらかといえば音響効果による恐怖演出が中心。とにかく要所要所で前ぶれもなく発生するさまざまな音に驚かされ、終始心臓がドキドキ。ストーリー構成も思った以上に練られていて、畳み掛けるように明かされていく真実と押し寄せる怖さで、まるで肝試しをしているかのような気分で楽しめた。新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「死霊高校」 絵本が動いているかのような楽しさ
ディズニーのアニメーション「アナと雪の女王」や宮崎駿監督「風立ちぬ」とともに第86回米アカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされた話題作「くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ」(バンジャマン・レネール、ステファン・オビエ&バンサン・パタール監督)が8月22日から公開される。ベルギー生まれの絵本作家ガブリエル・バンサンさんの絵本シリーズが原作。美しい水彩画を背景にネズミとクマの友情を描く。
セレスティーヌは絵を描くことが好きなネズミの女の子。地上のクマの世界でゴミ箱に閉じ込められてしまった。クマのアーネストおじさんは森に一人で住んでいる。お金がなくおなかをすかせたアーネストがゴミ箱をあさると、そこにセレスティーヌが眠っていた。セレスティーヌはアーネストに食べられそうになるも、お菓子屋さんの倉庫へと案内。お菓子を食べつくしたアーネストは警察につかまってしまうが、セレスティーヌによって助けられる。次第に仲よくなっていった2人は、やがて一緒に暮らし始めるが……という展開。
原作絵本がそのまま動いているようで、とっても楽しい。繊細で温かみのあるタッチのキャラクターは動きも可愛らしく、水彩画の背景は、細部一つ一つを目で追ってしまいたくなるほど凝っている。可愛くて賢いネズミの女の子と、ダメなのに憎めないクマのおじさん。セレスティーヌは絵を描くことが好き。アーネストおじさんは音楽が好き。芸術家肌の2人はそれぞれの社会から少しはみ出している。2人がほのぼのと交流する話かと思いきや、いい意味で物語は予想外の展開へ。辛らつに人間社会が映し出されていく。広場で音楽を奏でながら物ごいをするアーネストは、警察に「騒音」として罰金の切符を切られる。セレスティーヌには、クマの歯を集めるノルマがあり、数を達成せよと歯医者に怒鳴られる。敵対し合っているクマとネズミの社会。でも、地上と地下で広がる二つの世界では、同じようなことが行われている。終盤にいくに従って対立と混沌(こんとん)が表出していき、それらがアーネストとセレスティーヌの優しさによって溶けるとき、温かな感動が広がっていく。シアター・イメージフォーラム(東京都渋谷区)で22日からモーニングショーで公開。(キョーコ/フリーライター)
「KOOKY クーキー」 ヨレヨレのテディベアなのにアクションもダイナミック
チェコで「トイ・ストーリー3」を抜く大ヒットを飛ばした「KOOKY クーキー」(ヤン・スベラーク監督・脚本・製作)が8月22日から公開される。捨てられたクマのぬいぐるみが、森の中で大冒険をする物語を、チェコ伝統のマリオネットと実写を融合させながら、アクションも多彩に繰り広げられていく。
クーキーは、オンドラ少年(オンジェイ・スヴェラークさん)のお気に入りのテディベア。寝るときも一緒。しかし、古くなったクーキーはほこりっぽく、おなかから詰めものが出ている状態。ぜん息持ちのオンドラを心配した母親は、クーキーをゴミ箱へ捨てた。目覚めたオンドラは、クーキーがいないことを知り、無事を祈る。町から離れたゴミ捨て場に着いたクーキーは、ショベルカーで潰される寸前に命が宿って、走って森に逃げ込んだ。森の中で気を失って倒れたクーキーは、森の村長ヘルゴットに助けられる。クーキーはオンドラの元に戻れるのか?……という展開。
テディベアといっても、クーキーはペラペラのクマのぬいぐるみ。主人公なのに、ヨレヨレだ。そんなクーキーが、ゴミの山を猛ダッシュで駆け下りたり、追っ手をかわしてカーチェイスをしたりと、想像以上のアクティブな動きで魅了する。マリオネットなので“操られている感”ある動きもたまらない。舞台となった森は、植物のはく酸素と湿気も感じられそうな神秘的な場所。実際に森で100日もかけて撮られたという。森の精霊たちは、グロテスクな雰囲気も漂う個性的な姿をした者たちばかり。廃材を巧みに使った小道具も凝っている。チェコを代表するゲームクリエイター集団「アマニタ・デザイン」が手掛けたキャラクターたちとミニチュアが、こけむした森にマッチしている。素朴な手作り感あふれるビジュアルに反して、物語はなかなかシビアだ。森には村長の座を狙う乱暴者がいて、クーキーも抗争に巻き込まれてしまう。やがて、村長は窮地に追いやられる。森のおとぎ話が現実とつながっていき、ラストには想像しなかった仕掛けが用意されている。米アカデミー賞外国語映画賞受賞作の「コーリャ 愛のプラハ」(96年)のスベラーク監督作。オンドラ少年を監督の息子が演じている。新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほかで22日から公開。(文・キョーコ/フリーライター)