「レヴェナント:蘇えりし者」 大自然と自らの運命にあらがった男の再生を描く重厚な作品
米俳優レオナルド・ディカプリオさんに今年の米アカデミー賞で主演男優賞をもたらした映画「レヴェナント:蘇えりし者」(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督)が4月22日に公開される。昨年の「第87回アカデミー賞」で「グランド・ブタペスト・ホテル」と並んで最多タイとなる4冠を獲得した「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」のイニャリトゥ監督最新作で、米開拓時代を舞台に、大自然と自らの運命に抗った男の再生を描く重厚な作品に仕上がっている。
「レヴェナント:蘇えりし者」は、19世紀前半に実在した猟師で探検家のヒュー・グラスの実体験を、イニャリトゥ監督が、前作「バードマン」と同様に撮影監督のエマニュエル・ルベツキさんとのタッグで映像化。ディカプリオさんに加えて「マッドマックス 怒りのデス・ロード」のトム・ハーディさんや「ハリー・ポッター」シリーズなどで知られるドーナル・グリーソンさんらも出演。大自然が猛威をふるう極寒の地で9カ月にも及んだ過酷なロケと、キャストの鬼気迫る演技、自然光のみを使った撮影・演出は高く評価され「第88回アカデミー賞」では主演男優賞に加え、監督賞、撮影賞の3冠を達成した。
舞台は1823年の米国。広大な未開拓地を行くハンターの一団に息子のホーク(フォレスト・グッドラックさん)とともにガイド役として同行していたグラス(ディカプリオさん)は、原住民の襲撃を間一髪で逃れたものの、狩猟中に熊に襲われ瀕死(ひんし)の重傷を負ってしまう。ハンターの一人であるジョン・フィッツジェラルド(ハーディさん)は、隊長のアンドリュー・ヘンリー(グリーソンさん)の指示のもと、多額の報酬と引き換えにグラスを死ぬまで見届け、埋葬する役を買って出るが、一緒に残ったホークを自らの手で殺し、グラスのことも見捨ててしまう。だがグラスは奇跡的に一命をとりとめると、フィッツジェラルドに復讐(ふくしゅう)を果たすため過酷なサバイバルに身を投じていく……というストーリー。
まさに「未開拓」と呼ぶにふさわしい大自然の中、照明に一切頼らず、時に日没後の数十分間の薄明の時間帯=マジックアワーさえも絶妙に切り取ったイニャリトゥ監督とルベツキさんの手による映像マジックにも圧倒される。だが、今作は何はさておき初ノミネートから22年越しの悲願だった初オスカーを手中に収めたディカプリオさんの演技に尽きる。文字通り地をはい、雨水でのどをうるおし、獣を食らいながら、虫の息の状態から少しずつその身に力を宿し、最後には自らの手で復讐を果たすことになる。ディカプリオさんは主人公の執念が乗り移ったかのように神がかった演技で、氷点下にもかかわらず雪原に埋まり、川にも流されと決して誇張表現ではない命懸けのロケがもたらした奇跡を目にしたような気分にもなった。
ストーリーは至ってシンプル。それでいてこれだけ重厚感のある人間ドラマを描けているのは、もちろん主役一人の力だけではない。そういった意味では存分に敵役としての存在感を発揮したハーディさんの熱演も見逃せないが、やはり今作におけるディカプリオさんの鬼気迫る演技の前ではかすんでしまうのは致し方ない。もちろん原住民の描き方には多少不満は残るし、主人公が不死身すぎるきらいもあるのだが、それらを含めての“自然そのもの”と“生きる術(すべ)”を教えてくれる作品だ。映画は22日からTOHOシネマズ日劇(東京都千代田区)ほか全国で公開。(山岸睦郎/MANTAN)
「ズートピア」 キュートな動物たちが暮らす文明社会 フレッシュマンの期待や不安を描く
ディズニーの劇場版アニメーションの最新作「ズートピア」(バイロン・ハワード監督、リッチ・ムーア監督)が4月23日に公開される。日本語版では主人公のウサギのジュディ・ホップスの声を女優の上戸彩さんが担当し、お笑いコンビ「サバンナ」の高橋茂雄さんがジュディが配属された警察署の受付担当係のチーター、クロウハウザーの声優を務めている。また、女性ダンス・ボーカルグループ「E-girls」や女性4人組ユニット「Dream」のメンバーとして活躍するDream Amiさんが日本語版主題歌「トライ・エヴリシング」を歌い、声優としてズートピアのポップスター・ガゼルの吹き替えも担当している。
「ズートピア」は、動物たちが人間のようにハイテクな文明社会で暮らす世界“ズートピア”を描いた作品。大都会に思いをはせるウサギのジュディ・ホップスは、警察官になりたいという夢を抱いており、やがて努力の末、ズートピア初のウサギの警察官になる。だが、ズートピアを揺るがす史上最大の事件が起こり……という内容。
ウサギやヒツジ、キツネ、キリン、ゾウ、ライオンなどキュートな動物たちが大活躍するディズニーのアニメーションと聞けば、子供向けの王道の作品かと思いきや、新人女性警官のウサギのジョディが期待と不安を胸に大都会に出てきて、社会の荒波にもまれながら葛藤する物語。ジョディは警察内で小さな体をバカにされたり、女性への偏見の目にさらされながらも奮闘する。そんな見た目とストーリーの深遠さのギャップを楽しめ、多くの新入生や新入社員がこんな経験をしているこの時期に、共感されるであろうヒューマン作だ。
ひょんなことからタッグを組むことになる詐欺師のキツネのニックの隠された優しさにぐっときて、途中サスペンスタッチになる展開やカーチェース的なアクションもあり、映画のあらゆる楽しさを詰め込んだ仕上がり。動物の描き方は適度なデフォルメとそこに繊細な毛並みを描いているあたりに大人の観客にも大満足の出来だ。キャラクターの多さも魅力的で、何回見ても楽しめそうだ。ファミリーでも大人同士で行くにも向いていて、夢をあきらめないという気持ちを思い出させてくれる。23日からTOHOシネマズ日劇(東京都千代田区)ほか全国で公開。(細田尚子/MANTAN)
「アイアムアヒーロー」 大泉洋&有村架純が終末的状況に挑む スリルと恐怖が快感に
花沢健吾さんの人気マンガを基に、大泉洋さん主演で実写化した映画「アイアムアヒーロー」(佐藤信介監督)が4月23日に公開される。謎の生命体「ZQN(ゾキュン)」があふれる世界を舞台に、主人公のマンガ家アシスタント・鈴木英雄や女子高生の早狩比呂美らが懸命にサバイバルする姿を描いている。英雄を大泉さん、比呂美を有村架純さんが演じるほか、長澤まさみさん、吉沢悠さん、岡田義徳さんらが出演し、先の読めない展開で楽しませる。
マンガ家アシスタントの鈴木英雄(大泉さん)は35歳で、同居する恋人のてっこ(片瀬那奈さん)とは破局寸前という平凡な毎日を送っていた。ある日、英雄が徹夜仕事を終えて帰宅すると、てっこは異形の姿に変わっていた。謎の感染の影響で人々は次々とZQNという生命体に変わっていき、日本中がパニックに陥ってしまう。必死に逃げる英雄は途中、女子高生の早狩比呂美(有村さん)と出会い、標高の高い場所では感染しないという情報を頼りに富士山へと向かうが……というストーリー。
原作は、平凡な日常が特異な状況が発生することで、突然サバイバル生活を送ることになるという想像をはるかに超える展開で話題を呼んでいる。その魅力を映画では大胆に取り込み、凝縮させたため、完成度が高い。衝撃的で究極まで挑戦した潔さもあり、ドキリとさせられる描写もあり、だがどこか爽やかさも感じさせる。ZQNが登場するシーンをはじめ恐怖や絶望感にあふれる世界観だが、そんな重みをものともせず、どこかユーモラスさを感じさせる大泉さんの演技が秀逸で、ダメ男な英雄が変わっていくさまを見事に体現している。ZQNとの壮絶なアクションシーンは迫力十分で、原作は連載中でありながら、すっきりとまとめ上げられたストーリーも心地いい。23日からTOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「劇場版 響け!ユーフォニアム」 名場面の数々がよみがえる
京都アニメーション制作のアニメ「響け!ユーフォニアム」の劇場版「劇場版 響け!ユーフォニアム~北宇治高校吹奏楽部へようこそ~」(石原立也監督)が4月23日、公開される。昨年4~6月に放送されたテレビアニメを振り返る内容で、名場面の数々がよみがえる。
「響け!ユーフォニアム」は、武田綾乃さんの小説「響け! ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ」(宝島社)が原作のアニメで、昨年4~6月に放送。北宇治高校の吹奏楽部を舞台に、新たに赴任した顧問の厳しい指導の下、ユーフォニアム担当の黄前(おうまえ)久美子ら吹奏楽部員が成長する姿が描かれた。続編が制作されることも発表されている。
テレビアニメのストーリーを振り返る劇場版では、久美子と同級生でトランペット担当の高坂麗奈の関係に焦点が当てられている。高校生の大学受験への不安や恋などの要素は少し控えめになり、ぎくしゃくしていた久美子と麗奈の距離が少しずつ縮まっていく様子が丁寧に描かれている。
祭りの日に大吉山で麗奈が「私、特別になりたいの」と久美子に語りかける名場面は、大画面で見ると、白いワンピース姿が麗奈がさらに神々しく見えた。久美子が橋の上で「うまくなりたい!」と悔し泣きするシーン、サンフェスで「ライディーン」を堂々と演奏する場面なども感動的で、テレビアニメが名場面だらけだったことを再認識させられた。
テレビアニメは全13話あり、今作は劇場版として2時間弱できれいにまとまっているか気になっていたが、駆け足でストーリーが展開されているという印象はあまりなかった。また、テレビアニメを見たことがない人でも、楽しめるだろう。続編の制作が発表されていることから、続きが気になるところで、劇場版を見て、原作を読みながら、続編を待ちたい。
テレビアニメと同じく、黒沢ともよさんが久美子、安済知佳さんが麗奈の声を担当するほか、朝井彩加さん、豊田萌絵さん、寿美菜子さん、早見沙織さん、櫻井孝宏さんらが声優を務める。23日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開。(小西鉄兵/MANTAN)
「遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS」 完全オリジナルで原作の“その後”描く 大迫力の“デュエル”シーンは圧巻
人気マンガ「遊☆戯☆王」の劇場版アニメ「遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS」(桑原智監督)が4月23日から公開される。完結した原作のその後を描いた作品で、原作者の高橋和希さんが原作・脚本・キャラクターデザイン・製作総指揮を担当し、完全オリジナルストーリーとして製作されたことも話題になっている。原作ファンにはおなじみの“デュエル(決闘)”シーンの迫力や、登場するモンスターの美しいビジュアルが見どころだ。
「遊☆戯☆王」は、1996~2004年に「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載された人気マンガ。「千年パズル」を解いたことにより闇の人格を手に入れ、闇のゲームの番人となった内気な少年・武藤遊戯の活躍を描いている。劇場版は、別人格「闇遊戯」との戦いを終えて日常を取り戻したかに見えた主人公の遊戯の前に、ある日、謎の少年・藍神(あいがみ)が現れる。時を同じくして、世界中で謎の失踪事件が次々と発生し……というストーリー。遊戯役の声を俳優の風間俊介さん、ライバル・海馬瀬人役を津田健次郎さんが担当し、ゲスト声優として藍神役で林遣都さん、藍神に付き添う謎の少女・セラ役で花澤香菜さんが参加している。
原作「遊☆戯☆王」が連載開始から20周年を迎えた今年作られた初の長編劇場版アニメ。原作者の高橋さんが書き下ろしたとあって、心待ちにしていた原作ファンの期待は高かったに違いない。完成した作品は複雑に練られたストーリーや魅力的なオリジナルキャラクターなど期待を裏切らない仕上がりだ。やはり「遊☆戯☆王」といえば、ファンが最も期待するのは“デュエル(決闘)”シーンだろう。美しいビジュアルで大スクリーンを所せましと動きまわるモンスターたちが繰り広げるデュエルは、見終わったあとで疲弊している自分に気づくほど、とにかく圧巻の迫力だ。「ブラック・マジシャン」や「ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン」などおなじみのモンスターたちが活躍する姿もファンの心をくすぐるだろう。ネタバレになるので詳細は控えるが、少年マンガらしいラストも“王道”感にあふれていて気持ちが盛り上がる。原作未読でも映像の美しさと迫力は味わえるが、デュエルのルールやカードの知識など予備知識があった方がより楽しめることは間違いないため、できればマンガで予習してから映画に臨みたい。23日から渋谷TOEI(東京都渋谷区)ほか全国で公開。(河鰭悠太郎/MANTAN)