「君の名は。」気鋭アニメ監督の3年ぶり新作 東京の少年と田舎の少女が入れ替わり…
「秒速5センチメートル」(2007年)や「言の葉の庭」(13年)など意欲的な作品を生み出してきた気鋭のアニメ監督・新海誠監督の約3年ぶりの新作「君の名は。」が8月26日に公開された。東京の少年と田舎の少女が夢の中で“入れ替わる”奇跡の恋物語で、住む世界が異なる2人の「距離」というドラマを映像美と圧倒的なスケールで描き出している。声の出演は、東京の男の子・瀧役に神木隆之介さん、自らの運命に翻弄されていくヒロイン・三葉役を、オーディションで役を射止めた上白石萌音さん。さらに長澤まさみさん、市原悦子さんほか豪華キャストがそろった。
作画監督は「千と千尋の神隠し」(01年)など数多くのスタジオジブリ作品を手掛けた安藤雅司さん。都会と田舎の遠景、空の輝きなど、背景の作画が圧倒的な描写力でスクリーンから迫ってくる。また「心が叫びたがってるんだ。」(15年)などを手がけた新時代を代表するアニメーターの田中将賀さんがキャラクターデザインを担当した。そして、主題歌を含む音楽は、俳優として映画にも主演した野田洋次郎さん(ボーカル、ギター、ピアノ)の所属するロックバンド・RADWIMPSが担当している。
1000年ぶりとなる彗星の来訪を1カ月後に控えた日本。山深い田舎町に暮らす女子高校生・三葉は憂鬱な毎日を過ごし都会への憧れを強くするばかり。ある日、自分が男の子になる夢を見る。見覚えのない部屋、見知らぬ友人、目の前に広がるのは東京の街並み。念願だった都会での生活を満喫する三葉。一方、東京で暮らす男子高校生、瀧も、行ったこともない山奥の町で、自分が女子高校生になっているという奇妙な夢を見る。繰り返される不思議な夢によって、2人はお互いが入れ替わっていることに気づく。何度も入れ替わる体とそれぞれの生活に戸惑いながらも、残されたお互いのメモを通して、時にケンカし、時に相手の人生を楽しみながら、状況を乗り切っていく2人。打ち解けてきた矢先、突然入れ替わりが途切れてしまう。自分たちが特別につながっていたことに気付いた瀧は、三葉に会いに行こうと決心する。そしてたどり着いた先には、意外な真実が待ち受けていた……というストーリー。
事前には“入れ替わり”の物語、としか知らされていなかった今作。ただの入れ替わりものだと思ったら大間違いで、瀧が三葉に会いに行こうとするあたりから怒濤の展開となる。新海監督は107分の本編全部のせりふ全部を自分であてた「ビデオコンテ」を作って、製作を進めていったという。それによって、観客をひとときも飽きさせないめくるめく展開の長編に仕上がった。ジブリ印の重厚な作画の中で軽やかなキャラクターが躍動的に動くという、いい意味で違和感のあるコラボレーションが斬新。三葉の住む田舎町に隠された秘密とは……。新海監督が新次元を開いたといえる“思春期全開”の今作を107分、一気呵成に楽しみたい。26日からTOHOシネマズ日本橋ほか全国で公開。(細田尚子/MANTAN)
「ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影<シャドウズ>」亀が戦うシリーズ第2弾
亀の人気キャラクターが大暴れする、マイケル・ベイさん製作のシリーズ第2弾「ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影<シャドウズ>」(デイブ・グリーン監督)が、8月26日に公開される。前作でヒロインを演じたミーガン・フォックスさん、その相棒役のウィル・アーネットさんが続投。新たに、米テレビシリーズ「ARROW/アロー」のスティーブン・アメルさんが加わり、レオナルド、ラファエロ、ミケランジェロ、ドナテロの4兄弟“タートルズ”とともに悪に立ち向かう。
「タートルズ」の宿敵シュレッダー(ブライアン・ティーさん)が護送中に逃亡、再びニューヨークの街を恐怖に陥れようとする。タートルズたちは、テレビリポーターのエイプリル・オニール(フォックスさん)と、シュレッダーを取り逃がしてしまった刑務官ケイシー・ジョーンズ(アメルさん)とともに、シュレッダーの悪事を阻止しようとする。ところが、シュレッダーの背後には異次元から来た新たな敵、世界征服を企む悪の帝王クランゲがいて……というストーリー。
今回、タートルズを襲うのは、シュレッダーとクランゲによる世界征服の野望だけでなく、チーム分断という危機。人間に認められないことの悲しみと、人間になりたいという願望が、ある薬品の存在によってメンバー内の亀裂を生んでしまうというシリアスな展開も用意されている。その一方で、タートルズたちの敵となる、イノシシとサイのミュータント、ビーバップとロックステディのまぬけな言動には笑わされ、クランゲの造形の気持ち悪さに腰が引けた。そもそもタートルズ自体、キモカワイイの度を越しビジュアル的に損しているが、それぞれに個性ある4人(体?)が世界平和のために戦い、亀のままでいい、いや、人間になりたいと葛藤する姿を見れば、きっと愛着が湧いてくるはず。
ケイシー役のアメルさんが、軽めのあんちゃんキャラを演じていたのは新鮮で、また、タートルズの“師匠”ネズミのスプリンターが、“弟子”たちにいう言葉がいちいち的を射ており、うなずかされることもしばしば。異次元ネタに話が及んでしまったのは個人的には残念だが、それを差し引いても十分楽しめた。なお、日本語吹き替え版では、ロックステディ役を宮川大輔さんが、ビーバップ役をお笑いコンビ「オリエンタルラジオ」の藤森慎吾さんが担当している。26日からTOHOシネマズ日劇(東京都千代田区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)
「後妻業の女」大竹しのぶが金持ち老人の財産を狙う女を熱演 ありそうな話にゾクッ
黒川博行さんの小説「後妻業」(文春文庫)が原作の映画「後妻業の女」(鶴橋康夫監督)が8月27日に公開される。金持ちの男の後妻に入り財産を奪う“後妻業”をテーマに、金持ち男をだまそうとする女を中心に、欲深い登場人物たちが織りなす騒動を描く。ヒロインの小夜子を大竹しのぶさん、小夜子とともに老人をだます結婚相談所所長の柏木を豊川悦司さんが演じているほか、尾野真千子さん、永瀬正敏さん、笑福亭鶴瓶さんら演技派キャストが顔をそろえている。
結婚相談所主催のパーティーで男たちから人気を集める武内小夜子(大竹さん)は、80歳になる中瀬耕造(津川雅彦さん)と出会い結婚する。2年後に耕造は亡くなるが、耕造の娘・朋美(尾野さん)と尚子(長谷川京子さん)は、、小夜子から全財産を相続するという「遺言公正証書」を突き付けられてしまう。納得できない朋美は小夜子の調査を始めると、金持ち老人の後妻に入り財産を奪う“後妻業の女”であることが発覚し……というストーリー。
裕福な高齢者をだまして全財産を奪うという、なかなかセンセーショナルな設定ではあるが、全編を通して生々しい会話や本音が飛び交い、テンポのよさとキャストの熱演で想像以上に痛快で笑わせてくれる。大竹さんは、毒気がありながらもキュートさも感じさせる小夜子役がはまり役ともいえ、圧倒的な存在感に心をわしづかみにされた。豊川さんの潔いほどの悪党ぶりはなんともいえずカッコいい。テーマがテーマだけに、欲望をむき出しにした人々の姿に少し居心地の悪さを感じてしまうが、ふと我に返るとその浅ましさは、もしかしたら自分にも……と思わず考えてしまう。女同士の迫力ある対決シーンや金と愛をめぐるドラマなど見どころ満載で笑いながら楽しるが、現代社会の闇を垣間見たような気もして背筋が寒くなった。27日からTOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)