「orange-オレンジ-」土屋太鳳と山崎賢人の「まれ」コンビ再共演 SF要素を含む青春群像劇
女優の土屋太鳳さんと俳優の山崎賢人さんがNHK連続テレビ小説「まれ」に続いて共演した映画「orange-オレンジ-」(橋本光二郎監督)が12月12日に公開される。未来から手紙が届くというファンタジックな世界観に加え、大切な人を救うために仲間ともがく姿を描いた青春ストーリー。土屋さん、山崎さんに加え、流星涼さん、山崎紘菜さん、桜田通さん、清水くるみさんら伸び盛りの若手俳優を起用した群像劇としても楽しめる。
「orange-オレンジ-」は、「月刊アクション」(双葉社)で連載された高野苺さんの人気マンガが原作で、コミックス全5巻は累計発行部数が400万部を突破している。高校2年生の春、高宮菜穂(土屋さん)に10年後の自分から1通の手紙が届く。そこには転校生の成瀬翔(山崎さん)を好きになること、そして翔が1年後に死んでしまうこと、その未来を変えるためにやるべきことが書かれていた。最初はいたずらだと思った菜穂も、手紙に書かれていることが次々と実際に起こり、手紙を信じるようになり、26歳の自分と同じ後悔を繰り返さないため、そして翔を救うため、運命を変えようと動き始める……というストーリー。
「まれ」ではコミカルで前向きな夫婦を演じていた土屋さんと山崎さんだが、今作では少し奥手な女の子と家族のことで心に傷を持つ転校生という、性格も関係性もがらりと違う役柄を演じている。また、そこが新鮮で、それぞれの新たな魅力を引き出すことに成功している。10年後の自分から手紙が届くというSF設定がありつつも、中身は高校生の切ない恋愛模様や仲間を救うために力を合わせる青春が描かれており、いつの間にか身近な話としてそれぞれのキャラクターに思い入れしながら見ていた。体育祭や縁日、文化祭、仲間とパンを交換したり、プールで花火を見たりと青春の王道のキラキラした場面がちりばめられており、懐かしさとともに甘酸っぱい気持ちがこみ上げてくる。オール長野ロケで美しい緑の山々の景色にも心が洗われる。翔の未来は変えられるのか……。結末は詳しくは書かないが、温かい気持ちになることは間違いない。主題歌はコブクロの「未来」。12日からTOHOシネマズ六本木ヒルズ(東京都港区)ほか全国で公開。(細田尚子/毎日新聞デジタル)
「わたしはマララ」 「不都合な真実」の監督がマララさん一家に迫る
2014年に17歳という最年少でノーベル平和賞を受賞したマララ・ユフスザイさんの姿を追ったドキュメンタリー作「わたしはマララ」(デイビス・グッゲンハイム監督)が12月11日に公開される。米アカデミー賞長編ドキュメンタリー作「不都合な真実」(2006年)のグッゲンハイム監督が、マララさんと家族の素顔に迫った。
パキスタン生まれのマララさんは英国のバーミンガムに住んでいる。弟たちとはしゃぐ姿は普通の少女だ。2012年10月9日。故郷にいたマララさんは友人らとともにタリバンの青年に撃たれて、昏睡状態に陥った。緊急手術のために13年に渡英をし、奇跡的に一命をとりとめた。アフガニスタンの英雄的な少女マラライの名にちなんだ「勇敢」という意味の名を持つマララさんは、父親が設立した男女共学の学校の中で自由に育つうちに、「すべての女子に教育を」という夢を持ち、訴える活動を始める。その夢は父親の夢でもあり、字が読めない母親の悲願でもあった。しかし、マララさんの一家が住むスワート渓谷にもタリバン政権の手が伸びてくる……という展開。
意志の強そうなまなざし、美しい黒髪、明るく利発そうな声。今作は、マララさんの魅力もさることながら、父親ジアウディンさんとの二人三脚の物語でもある。自伝「わたしはマララ」をベースにしながら、アフリカなどで活動する姿や、現在のマララさん一家にも踏み込んでいる。弟たちは「怖いお姉ちゃん」とちゃめっ気たっぷりに話し、父親は「活動家になると思っていた」と娘への期待と信頼を口にする。仲のよい父娘の姿からは、父親の魂の強さが娘へ受け継がれていることを感じる。英国での生活は、まるで文化の違うところへやって来た戸惑いもなくはない。故郷のスワート渓谷が心に残っているのだろう。平和だった村がアニメーションで描かれるが、遠い昔話のようになってしまったという悲しみも伝わってくる。
病院でベッドに横たわるマララさんの姿は痛々しいが、奇跡の回復に驚くとともに、二度とこのようなことが起こらないように願うばかりだ。彼女が命懸けで訴えることは、「教育を受ける権利の大切さ」。この権利を通して、学ぶことへの純粋な喜び、教育の大切さが伝わってくる。「グラディエイター」(00年)などのプロデューサー、ウォルター・パークスさんとローリー・マクドナルドさんが製作。フィクションを作ろうとしていたが本人に取材して一転、「彼女を演じられる女優はいない」とドキュメンタリーにしたという。TOHOシネマズみゆき座(東京都千代田区)ほかで11日から公開。(キョーコ/フリーライター)
「仮面ライダー×仮面ライダー ゴースト&ドライブ 超MOVIE大戦ジェネシス」時を巧みに使った展開
最新作と前作の仮面ライダーが共演する「MOVIE大戦」シリーズ7作目となる「仮面ライダー×仮面ライダー ゴースト&ドライブ 超MOVIE大戦ジェネシス」(金田治監督)が12月12日に公開される。偉人や英雄の力で変身する「ゴースト」と車がモチーフで刑事が主役の「ドライブ」が時空を超えた戦いに挑む。「MOVIE大戦」シリーズはこれまで3話構成だったが、今作では一つの物語へと一新。これまで以上に新旧の仮面ライダーによる共闘感が強まっている。
仮面ライダーゴーストこと天空寺タケル(西銘駿さん)と眼魔(がんま)の戦いは、“超常現象”として警視庁がマーク。捜査1課で活躍する仮面ライダードライブこと泊進ノ介(竹内涼真さん)が極秘捜査を開始する。大天空寺で眼魔と戦うタケルと出会った進ノ介は、突然巻き起こった時空のゆがみにより10年前の世界へと飛ばされ、今は亡きタケルの父・龍(西村和彦さん)と遭遇する。一方、現代では滅んだはずのロイミュードたちが復活し……というストーリー。
一度死んでからよみがえり、期限付きの命で仮面ライダーとして戦うゴーストと、ライダーなのにまさかの車がモチーフと驚かされたドライブという異色のライダー同士が合体した物語は、ゴーストがかもし出す“切なさ”とドライブの持つ“熱さ”が見事に融合。ゴーストの世界観をベースにしつつ、タイムスリップとタイムパラドックスを利用し、ドライブ側の主要キャラも巧みに登場させることに成功した。ドライブは最終話を放送したあとだけに、進ノ介がどうやって変身するのかと、いらぬ心配をしつつも、ヒーロー的な展開ではあったが、軽妙な演出で楽しませてくれる。賛否両論あるだろうが、個人的には3話構成よりも一つの物語の方が、展開により深みを感じた。本願寺純役の片岡鶴太郎さんと仙人役の竹中直人さんの共演シーンは、ある意味、見どころの一つだ。感動はもちろんあるが、全体的にはややコミカルでお祭り感は十分。丸の内TOEI(東京都中央区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「Wake Up,Girls! Beyond the Bottom」 挫折から再び輝きを取り戻す
仙台市を舞台に、7人の少女がローカルアイドルユニットとして奮闘する姿を描くオリジナルアニメ「Wake Up,Girls!(WUG)」の劇場版「Wake Up,Girls! Beyond the Bottom」(山本寛監督)が12月11日に公開される。今作は2014年1~3月に放送されたテレビシリーズの続編の劇場版で、前後編2部作の後編。東京へと進出したWUGのメンバーたちが挫折を経験しながらも、あきらめずに前を向いて挑戦し続ける姿にスポットを当てた物語だ。
東北代表として出場した「アイドルの祭典」を機に東京に進出した仙台発のアイドルユニット「Wake Up,Girls!」。メジャーレコード会社bvexとの契約も決まり活動は順調に見えたが、ブレークの立役者であるプロデューサー・早坂相(声・鈴村健一さん)が手を引いてしまう。メンバーたちは挫折を経験、関係者たちも手のひらを返す中、あきらめないWUGに早坂は新曲「少女交響曲」を授ける。WUGは心機一転、再び地元・仙台から活動を再開し……というストーリー。
今年9月に公開された前編「青春の影」もたくさんの驚きがあったが、後編はそれを上回るほどの怒濤(どとう)の展開で楽しませてくれる。WUGのメンバー・久海菜々美(声・山下七海さん)が大粒の涙を流すシーンや、アイドル界を引っ張るライバルグループ「I-1club」のセンター・岩崎志保(声・大坪由佳さん)にまつわる事態など、これでもかというほどの衝撃の連続に心が揺さぶられる。物語はWUGが仙台から活動を再開する姿を中心に展開するが、困難や挫折を味わいながらも本来の輝きを取り戻すべく懸命に立ち向かっていく姿には胸を打たれる。そんなWUGの成長物語だけでなく、ライバルグループや丹下順子(声・日髙のり子さん)と白木徹(声・宮本充さん)のエピソードなど、前編から残されていたものも回収され、見終わった後にすがすがしい気分になれる。TOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)ほか全国で2週間限定公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「ベテラン」 韓国歴代3位の大ヒット作 スカっと胸のすく痛快劇
韓国で今年8月に公開されるや、歴代3位の大ヒット作となった「ベテラン」(リュ・スンワン監督)が12月12日に公開される。韓国歴代2位の興行成績を持つ「国際市場で逢いましょう」(2014年)で家族思いの父を好演したファン・ジョンミンさんが、男気あふれる熱血刑事に扮(ふん)しており、最近見た勧善懲悪ものの中で一番に挙げたいほど、スカッと胸のすく痛快劇に仕上がっている。
ソウル警視庁の広域捜査隊に所属するソ・ドチョル(ジョンミンさん)は、正義感の強いベテラン刑事。日夜チームのメンバーとともに、犯罪の撲滅に取り組んでいる。そんな中、かつて世話になったトラック運転手が、雇い主を訪ねた直後、自殺を図り病院に運ばれたことを知る。不審を抱き調べ始めたドチョルは、この件に巨大財閥シンジン・グループの御曹司で悪名高きチョ・テオ(ユ・アインさん)が絡んでいることを突き止める……というストーリー。
とにかく、ジョンミンさんが演じるドチョルがカッコいい。直情的だが人情に厚く、悪者に食らいついたら離れない正真正銘のヒーローを、スマート過ぎず、泥くさ過ぎず、絶妙なさじ加減で演じ、ベテラン俳優の心意気を見せる。対するテオ役のアインさんは、「アンティーク~西洋骨董洋菓子店」(08年)での見習いパティシエ役がうそのような、胸クソが悪くなるほどのバカ息子を、爽やかな顔にいやらしい笑みを張り付け、腸が煮え返るほどの悪人になり切って演じていて、こちらもお見事。さらに、ほくろがトレードマーク(?)のオ・ダルスさんも、ドチョルの部下思いの上司に扮し、失礼ながら今回ばかりはとびっきりいい男に見えた。
我が身可愛さで、大企業という“聖域”に足を踏み入れたがらない上層部の思惑を跳ね飛ばし、果敢に挑んでいくドチョルたち。企業側のもみ消し工作、捜査妨害に屈することなく、正義感を盾に突き進む彼らのカッコ良さといったらない。明洞の中心部で撮影されたというカーチェイスとバトルが、これまた手に汗握るもので、クライマックスにふさわしいハラハラ感を味わわせてくれる。チームの紅一点ミス・ボンを演じるチャン・ユンジュさんは、世界を舞台に活躍するモデルで、今作がスクリーンデビューだという。彼女の今後の活躍も見逃せない。12日よりシネマート新宿(東京都新宿区)ほか全国で順次公開。(りんたいこ/フリーライター)
「森のカフェ」 哲学的なウイットと情景の美しさあふれる不思議な世界観
2011年公開の「見えないほどの遠くの空を」に続く、榎本憲男監督の長編第2弾となる映画「森のカフェ」が12月12日に公開される。紅葉が美しい森を舞台に、少し気難しい若手哲学研究者と不思議な少女が出会い、ユーモアにあふれたやり取りを繰り広げる。主人公の哲学者を「聯合艦隊司令長官 山本五十六」(2011年)や「霧の中の分娩室」(14年)などに出演した管勇毅(かん・ゆうき)さんが演じ、少女・森野洋子役を東宝ミュージカル「レ・ミゼラブル」のコゼット役で注目を集める若井久美子さんが演じている。情景の美しさや不可思議な空気感に魅了される。
論文を書きあぐねている若手の哲学研究者・松岡啓志(管さん)は、気晴らしに近所の森に行き、森の奧のテーブルでノートを広げ思索していた。そんな啓志に、突然「森のカフェにようこそ」と若い女性(若井さん)が声を掛けてきた。いぶかしがりながらも啓志は半ば強引にコーヒーを注文させられ……というストーリー。
今作は哲学を扱った映画でありながら、哲学から連想される小難しさはなく、なんともいえない哲学的なウイットに富んでおり、クスッとさせられ、ほんわかとした雰囲気に包まれていて見ていて心地よい。舞台となった森は自然が美しく、どことなく非日常感を漂わせており、表現や色遣いが繊細かつ丁寧で、テーマに深みを与えている。真面目でぼくとつな啓志と、“不思議ちゃん”で愛されキャラの洋子による掛け合いが新鮮で、演じている俳優さんたちの魅力と重なり、物語の世界へとしっとりと引き込まれる。おしゃれで楽しく、そしてちょっとシニカルでビターな味わいが楽しめる。リズムや長さも心地よく、劇中歌が思いのほかクセになる。12日からヒューマントラストシネマ渋谷(東京都渋谷区)ほか全国で順次公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「創造と神秘のサグラダ・ファミリア」 天才ガウディを引き継いだ者たちに肉薄
スペイン・バルセロナのユネスコ世界文化遺産である、アントニ・ガウディによる建築物サグラダ・ファミリアを語ったドキュメンタリー作「創造と神秘のサグラダ・ファミリア」(ステファン・ハウプト監督)が12月12日から公開される。作業に携わる主任建築家や彫刻家、現場の技術者らのインタビューから、ガウディの遺産を引き継ぐ人々の思いに触れる。
サグラダ・ファミリアは、19世紀の社会不安から教会の力が弱まっていた1882年に着工した教会建築物。1883年に初代が辞任すると、カタルーニャ出身の31歳だったガウディが、2代目建築家に就任。1926年に事故で亡くなった後、36年の内戦で模型などの資料が燃え、64年にはル・コルビュジエら著名な芸術家や知識人による工事中止の声明文が発表された。さまざまな浮き沈みの中、着工から約130年たった今もプロジェクトが続いている。その秘密に迫る……という内容だ。
観光地として有名なバルセロナのサグラダ・ファミリア。空に向かって突き出す外観から、なかなか見られない建設中の内部にもカメラは入り込む。ガウディが影響されたカタルーニャの自然にも触れ、世紀をまたいだプロジェクトをどんな人が引き継いでいるのかを見せていく。共通して「天才ガウディから継いでいる」という誇りが、彼らを突き動かしているのは間違いない。彫刻の形についての論争があったり、中止でいいじゃないかという意見さえも出るが、どうやらそれはそれぞれの“ガウディ愛”によるようだ。インタビューには、主任建築家、現場監督、日本人彫刻家の外尾悦郎さんらが登場。ガウディ没後100周年の2026年の完成を目指しているが、完成はあくまでも「神のご遺志」だという。ローマ法王訪問の様子を取り入れて、教会建築物としての宗教性も盛り込んでいる。
最先端のIT技術で作業が早まった一方で、真下を通る高速鉄道のためのトンネル工事といった問題も浮上。さまざまな歴史を乗り越えながら、植物のように天に向かって伸びていく建築物からは、生と死が混然となった不思議な印象と創造への営みに畏敬の念を抱いた。12日から恵比須ガーデンシネマ(東京都渋谷区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)