「劇場版 MOZU」 フィリピンロケで規格外アクション 最大の謎ダルマの正体に迫る
俳優の西島秀俊さんの主演映画「劇場版 MOZU」(羽住英一郎監督)が11月7日に公開される。TBSとWOWOWで2シーズン制作された連続ドラマの劇場版でテレビシリーズの半年後から物語が始まる。フィリピンロケを行った国内では絶対に撮れないだろう“規格外”のアクションシーンが満載。またシリーズの最大の謎でもある巨悪「ダルマ」の正体が明らかになる。
「MOZU」は、ハードボイルド作家・逢坂剛さんのシリーズ累計240万部を突破した警察小説が原作で、2014年4月からTBS系列でシーズン1(全10話)、同年6月からWOWOWでシーズン2(全5話)を連続ドラマとして放送された。公安のエース・倉木尚武(西島さん)が、殺し屋・百舌(モズ)の存在の謎や公安の秘密作戦にまつわる悲劇、国家を揺るがす策略などに迫る姿が描かれた。
劇場版はドラマ版から出演する西島さん、香川照之さん、真木よう子さん、池松壮亮さん、杉咲花さんに加え、劇場版からビートたけしさん、伊勢谷友介さん、松坂桃李さんらが出演。倉木が妻の死の真実にたどり着いてから半年後を描く。気力を失った倉木と、警察への不信感から警察をやめ探偵事務所を開いた大杉(香川さん)、ともに謎を追っていた明星(真木さん)の3人が、同時に起きた二つの過激テロの犯人を追ううちに、裏で暗躍していたシリーズの最大の謎でもある巨悪「ダルマ」の正体にたどり着く……というストーリー。
ドラマシリーズはテレビの枠に収まらないアクションが見どころだったが、劇場版はさらに上を行くアクションシーンが満載だ。フィリピンロケでの規格外の銃撃戦やカーチェイス、肉体と肉体のぶつかり合いなど、とにかく、見ているこちら側も痛みを感じるほど倉木は何度も痛めつけられ、白いシャツが血で汚れていないシーンはないくらいだ。だが“打たれ強い男”倉木は何度でも起き上がる。倉木は普段は無表情だが、家族の話を持ち出されると見境のなくなるところがあり、淡々とした外見の中に熱いものを秘めている様子は西島さんにぴったり。池松さんと松坂さんのサシでの勝負も圧巻。また不気味な黒幕「ダルマ」を演じたビートたけしさんの存在感は実力派が集まるキャストの中でも群を抜いていた。
まだまだ倉木の活躍を見たいところだが、続編は作れないであろう終わり方で、これで「MOZU」は完結だろう。今後、羽住組でのハードボイルドな西島さんの姿をまた違う作品で見てみたい。TOHOシネマズ日劇(東京都千代田区)ほかで7日から公開。(細田尚子/毎日新聞デジタル)
「起終点駅 ターミナル」 過去を引きずる男の止まった時間が動いていくさま描く
直木賞作家の桜木紫乃さんの小説を映画化した「起終点駅 ターミナル」(篠原哲雄監督)が11月7日から公開される。北海道釧路市を舞台に、つらい過去を引きずる男が一人の女性との出会いによって再生していくさまをしみじみと描き出した。佐藤浩市さんと本田翼さんが今作で初共演。
北海道で裁判官だった鷲田完治(佐藤さん)は、学生時代の恋人・結城冴子(尾野真千子さん)の裁判に立ち会い、その後、冴子のスナックに通うようになり、東京の妻子の元に帰らず北海道にとどまる決心をしていた。しかしその矢先、冴子を失ってしまう。25年後、自分への十字架を背負った完治は、国選弁護人として釧路でひっそりと暮らしていた。ある日、弁護を担当した椎名敦子(本田さん)が完治の家へやって来る。さらに、何年も会っていなかった息子から大切な手紙が届いて……という展開。
佐藤さんの芝居に酔わされる。主人公は自分を責めて、人との関係を絶って生きてきた初老の男。ヨレヨレのスウェットを着て、古い平屋の家に住む姿は、男がこの地に懺悔のつもりで住んだ25年の歳月を感じさせる。年季の入った台所で手際よく料理を作る男。市場で鶏肉を買うのが日課らしい。ザンギと呼ばれるから揚げを自分で料理するのだ。地味な生活ながらも、男の一人暮らしをそこそこ楽しんでいる風情がほほえましい。そんな彼の暮らしに、違ったリズムが加わる。現れた若い女性は、男の胸に過去の思い出をよぎらせる。彼女のペースにはまりながら、止まっていた時間が動き出す。つらいはずの過去は、気づけば懐かしい痛みに変わっていく。おいしそうにザンギを頬張り、あっけらかんとして見える彼女にもまた、つらい過去があった。前半は男の過去、後半は女の過去が明らかにされていく構成が絶妙だ。せりふがしゃべり過ぎず、言葉が胸にすんなり入ってくる。本田さんの役柄も新鮮。「深呼吸の必要」(2004年)、「山桜」(08年)などを手がけた篠原監督の作品。風景の中に情感を込めるのがうまい。繰り返し出てくる市場の雑踏、作品を象徴する釧路駅……すべてが心にしみ入ってくる。丸の内TOEI(東京都中央区)ほかで7日から公開。(キョーコ/フリーライター)
「エベレスト 3D」 険しさと美しさに圧倒される実話を基にした山岳サバイバル映画
世界最高峰のエベレスト登頂に挑んだ人々の、生死を懸けた闘いを描く山岳映画「エベレスト 3D」(バルタザール・コルマウクル監督)が10月6日から公開される。1996年に起きた実話を基にしており、「ターミネーター:新起動/ジェニシス」(2015年)のジェイソン・クラークさんや、「ブッシュ」(08年)のジョシュ・ブローリンさん、「ナイトクローラー」(14年)のジェイク・ギレンホールさんらが出演している。数々の困難に見舞われながら、標高8848メートルの山頂を目指す登山家たちの様子を、息苦しさを覚えながら見守る一方、青空を背景にそびえたつエベレストの気高さに圧倒された。
96年3月30日、ニュージーランドで登山ガイド会社を営むロブ・ホール(クラークさん)は、ジャーナリストのジョン・クラカワー(マイケル・ケリーさん)、医師のベック・ウェザーズ(ブローリンさん)、郵便局員のダグ・ハンセン(ジョン・ホークスさん)、日本人で紅一点の難波康子(森尚子さん)ら8人の客を率い、エベレストの山頂を目指し、ネパールのカトマンズを出発する。約1カ月の入念な準備ののち、第4キャンプ(標高7951メートル)まで順調にやって来た一行だったが、頂上アタックを前に、参加者の体調不良や装備不良、さらに天候の悪化で行く手を阻まれてしまう、というストーリー。
映像は圧巻の一言に尽きる。そして怖い。ツアーのほんの始まりに過ぎないつり橋を渡る場面で、すでにその高さに足がすくんだ。高度が増すごとに酸素は薄くなり、一行があえぎあえぎ登る姿に息苦しくなった。容赦なく吹き付けるブリザードには身も心も縮んだ。残念ながら、参加した客の中には犠牲者も出る。登山者の一人から「死にたくない」という言葉が漏れたときには心が痛んだ。そういった過酷かつ切羽詰まった状況を、ツアーを率いるロブと客の会話や、彼らの無事を祈る家族の姿を交えて描くことで、人間ドラマの側面も持つ山岳映画に仕上がった。防寒具に身を包んでいるため登場人物が判別しづらかったり、今、どの地点にいるのかが分かりづらかったりするものの、エベレストがいかに気高く、美しく、そして恐ろしいところであるかは直球で伝わってきた。試写室の小さめのスクリーンで観賞したが、大型スクリーンなら、その威圧感はひとしおだろう。ほかに、エミリー・ワトソンさん、キーラ・ナイトレイさんらも出演。6日からTOHOシネマズ日劇(東京都千代田区)ほか全国で公開。 (りんたいこ/フリーライター)
「ミケランジェロ・プロジェクト」 美術品の視点で描く趣の異なる戦争映画
美術専門家で構成された特殊部隊の実話を基に映画化した「ミケランジェロ・プロジェクト」(ジョージ・クルーニー監督)が10月6日に公開される。第二次世界大戦末期の欧州を舞台に、ナチスドイツに奪われた重要な美術品の奪還と保護を命じられた7人の美術専門家で結成された特殊部隊「モニュメンツ・メン」の活躍を描く。クルーニーさんが監督・製作・脚本・主演を務めるほか、マット・デイモンさん、ビル・マーレイさん、ジョン・グッドマンさんら豪華なキャストが集結し、文化を守り歴史を変えた知られざる男たちを熱演している。
第二次世界大戦が続く中、ヨーロッパ各国に侵攻したドイツ軍は美術品の略奪をくり返していた。危機感を抱いたハーバード大学付属美術館の館長フランク・ストークス(クルーニーさん)は、ルーズベルト大統領を説得し、歴史的建造物や美術品を守るチーム「モニュメンツ・メン」を結成。メトロポリタン美術館の主任学芸員のジェームズ・グレンジャー(デイモンさん)、建築家のリチャード・キャンベル(マーレイさん)らのメンバーと、欧州各地へ移動し任務を遂行していく。しかし、敗北を悟ったヒトラーが、ドイツが敗戦した際にはすべてを破壊するという「ネロ指令」を発令。さらにソ連軍の妨害もある中、ストークスらは世紀の美術品を取り戻すべく行動を起こすが……というストーリー。
今作は、戦時下を背景とした物語ではあるが、どの戦争映画とも異なり戦闘描写がなく、美術品を戦争から守る男たちにスポットを当てているのが興味深い。第二次世界大戦という戦争を扱っていながら、他とは一線を画す視点で繰り広げられるストーリーは新鮮で、実話にありがちなシリアスによりすぎて重くなってしまうということもなく、むしろ軽妙さも交えて描かれている。映画には著名な美術品が多数出てくるが、それらが粗末に扱われているシーンや、破棄されていく描写には心が痛むが、人命はもちろんのこと、こうした二度と生まれないであろう知的財産をも失わせる戦争というものの多面的な怖さに身震いしてしまう。映画としては派手さには欠けるが、丁寧で濃密な演出は心に響き、特殊部隊メンバーのチームワークのよさも痛快だ。壮大なセットや緻密(ちみつ)に再現された美術品も見応えがある。TOHOシネマズシャンテ(東京都千代田区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「シネマの天使」 実在した映画館が“主役” 映画愛に満ちた物語
2014年8月に閉館した映画館「シネフク大黒座」(広島県福山市)を舞台にした映画「シネマの天使」(時川英之監督)が11月7日に公開される。今作は、映画館の閉館をめぐる人間模様を実話やフィクションを織り交ぜながら描き、122年続いた同映画館が取り壊される間際に撮影が行われた。閉館間近の映画館で働き始めたヒロインを藤原令子さんが演じ、その幼なじみで映画を撮ることを夢見るバーテンダーを本郷奏多さんが演じる。映画館に対する人々の心情を描いたストーリーだけでなく、館内の壁に書き残されたメッセージや閉館セレモニーや工事の模様などが郷愁を誘う。
閉館が決まった老舗映画館の大黒座で働き始めたばかりの新入社員・明日香(藤原さん)は、ある夜、館内で謎の老人(ミッキー・カーチスさん)と出会うが、老人は奇妙な言葉を残して姿を消してしまう。一方、バーテンダーのアキラ(本郷さん)は幼い頃から大黒座に通い、いつか自分の映画を作りたいと夢見るも踏み出すことができないでいた。閉館に反対する人々をなだめる支配人(石田えりさん)が気丈に振る舞い続ける中、ついに閉館の日を迎え……というストーリー。
122年も続いたという老舗映画館を映像に残したという劇場関係者の熱意がきっかけとなって誕生したという今作は、全編を通して“映画愛”にあふれている。特筆すべきは、映画そのものへの愛や劇場を愛する映画ファンはもちろん、映画館で働くスタッフへの愛情がたっぷり込められている点が興味深い。劇場に関わる人々の悲喜こもごもが描かれていく物語でありながら、今作の主役はやはり大黒座という映画館なんだなと感じさせられる。大作映画のように派手な動きや展開こそないが、情熱や時間の重みといったものをじっくりと描き、優しくて美しく、それでいて温かみのある映像でしっとりと見せる。ノスタルジックでハートウオーミングな気分に満たされた。映画館で映画を見るということ、映画というものについて再認識させられる映画だ。ヒューマントラストシネマ渋谷(東京都渋谷区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「通学シリーズ 通学電車」 千葉雄大と松井愛莉がW主演 純愛に胸キュン
小説投稿サイト「E★エブリスタ」で人気を集めたみゆさんの小説「通学シリーズ」を映画化した「通学シリーズ 通学電車」(川野浩司監督)が11月7日に公開される。閲覧者数と集英社ピンキー文庫発刊の書籍販売部数を合わせ500万人以上の人々に読まれている同シリーズから、「通学電車」と「通学途中」を映画化し、千葉雄大さんと松井愛莉さんがダブル主演を務める。「通学電車」は、毎朝通学で乗る電車内で見かける男子に片思いをする少女に巻き起こる不思議な出来事を描く。登場人物や舞台は共通だが独立したストーリーが展開する「通学途中」(21日公開)は、中川大志さんと森川葵さんがダブル主演している。
電車で通学しているユウナ(松井さん)は、電車内で見かけるハル(千葉さん)に片思いしている。他校に通うハルのことは何も知らないが、その姿を見ているだけで幸せを感じていた。ある日、ユウナが目を覚ますと、思いを寄せているハルが自分の隣で寝ていて……というストーリー。
通学電車で見かける異性が気になるというのは、電車通学をしていた人なら、きっと経験したことがあだろう。そんなよくある片思いの恋愛物語かと思いきや、片思いをしている相手が朝起きたら隣に寝ているという事態が発生したり、別々の場所に同一人物が2人存在するなど、ファンタジー色が強めだ。男性目線で楽しめるか多少の不安はあったが、不器用で思っていることを素直に口に出せず、なんでも一人で抱えてしまうハルに感情移入し、つらくて悲しい過去と向き合おうとする姿などには思わず共感。青春ものとして楽しめた。ユウナが恋に向かってひたむきな姿がまぶしく、ベッドの上で踊りまくるコミカルなハルも可愛らしい。“胸キュン”シーンも盛りだくさんで、ストーリー展開に身を委ねれば、男女問わず入り込めるだろう。21日公開の「通学途中」と、どうリンクするのかも気になるところだ。渋谷HUMAXシネマ(東京都渋谷区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「明日へ」 女性パワー全開! 解雇の危機に立ち向かう感動作
韓国映画「建築学概論」(2012年)のスタッフが贈るヒューマン作「明日へ」(プ・ジヨン監督)が10月6日に公開された。2007年に韓国国内で起きた実在の事件を題材に、不当解雇された大型スーパーの非正規雇用の女性たちの奮闘を力強く描き出した。アイドルグループEXOのメーンボーカルD.O.(ディオ)ことド・ギョンスさんが映画初出演を飾り、エンディング曲も歌っている。
ソニ(キム・ジョンアさん)は、国内売り上げトップを誇る大型スーパーマーケットのレジ係として働いている。勤務評価が高く、入社5年目で正社員への昇格が決まった。夫が出稼ぎに出ていて家計が苦しいヘミは残業もいとわず、子育てと仕事に追われていた。ある日、すべてを業務委託にするということになり、非正規雇用者全員に解雇の通達が下る。解雇撤回を求めて労働組合ができ、企業を相手に活動をしていくのだが……という展開。
突然、失業者になる。そんな人生の壁に立ち向かっていく人間の姿を、主婦のヘミを軸に明るさとパワーで描き切った。彼女たちには事情があり、それぞれに生活がかかっている。労働者が団結する話だが、おそろいのピンクの服を着た彼女たちが歌い、笑う今作には、女性だからこその温かさと力強さがみなぎっている。闘うのは、生活のためだけではない。店長に直談判に行き、「主婦の気まぐれ」といわれ、会社に踏みにじられて傷つけられた彼女たちのプライドがそうさせるのだ。一人一人が力を合わせて、会社側に立ち向かっていく闘いには、「人として扱ってほしい」という心からの叫びが垣間見え、泣けてくる。そんな負の状況に、母親に反発していた息子が内緒でアルバイトを始めるエピソードを入れ込み、温かい気持ちにさせられる。D.O.ことドさんが、映画初出演ながら繊細に演じた。「ビッグ・スウィンドル!」(04年)などに出演したジョンアさんほか、頼れる清掃員役にドラマ「ファン・ジニ」などのベテラン女優キム・ヨンエさんらが出演。TOHOシネマズ 新宿(東京都新宿区)ほかで6日から公開。(キョーコ/フリーライター)