「SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁」 舞台は19世紀末のロンドン 原作へのオマージュもたっぷり
英俳優のベネディクト・カンバーバッチさんとマーティン・フリーマンさんが出演するBBC製作の人気ドラマシリーズの特別編「SHERLOCK/シャーロック 忌まわしき花嫁」が2月19日、劇場公開された。物語の舞台を現代から、本来の設定である19世紀末のロンドンに移し、カンバーバッチさん扮(ふん)するシャーロック・ホームズとフリーマンさんが演じるジョン・ワトソンの名コンビが、ある不可思議な事件に挑む。
「SHERLOCK/シャーロック」は、アーサー・コナン・ドイルによる「シャーロック・ホームズ」シリーズが原作。ドラマは、世界中にファンを持つ名探偵ホームズを“現代によみがえらせたら?”がテーマで、21世紀を舞台に自称「コンサルタント探偵」のホームズ(カンバーバッチさん)と、ホームズの同居人のワトソン(フリーマンさん)が、スマートフォンやパソコン、インターネットなど駆使して難事件を解決していく姿を描いた。これまで原作ストーリーを下地にした九つのエピソードが作られ、英アカデミー賞を受賞するなど高い評価を得ている。
「忌まわしき花嫁」は、ホームズが過去に関わったものの、原作では書かれていない「語られざる事件」の一つ“内反足のリコレッティと忌まわしい妻”がモチーフとなっている。1895年の冬のロンドン、古い花嫁衣装姿のある女性がバルコニーから銃を乱射する事件を起こす。女性はその場で自らの命を絶つも数時間後、花嫁衣装のまま夫の前に姿を現すと、夫を射殺して逃走。ホームズとワトソンはスコットランド・ヤードのレストレード警部(ルパート・グレイブスさん)から捜査の協力を依頼を受け、遺体安置所に向かうも謎を解明することはできなかった。数日後、今度は夫が殺害予告を受けているという貴婦人がホームズとワトソンの元を訪ね、朝もやの中、自宅の庭で花嫁衣装の“幽霊”を見たと告白。ホームズとワトソンはこの“忌まわしき花嫁”の正体を突き止めようとするが……というストーリー。
脚本は、スティーブン・モファットさんとマーク・ゲイティスさんが共同で執筆。ホームズとワトソンが繰り広げる会話劇は相変わらず機知に富み、かつ原作へのオマージュがたっぷりで、ワトソンがホームズに指示して鹿撃ち帽をわざわざかぶらせる皮肉めいたシーンもある。ロジカルな謎解きよりも、時代背景にスポットを当てるなど、設定の変更が作品に与えた影響は決して小さくないが、この会話劇がテンポよく物語の深層へと導いてくれ、最後までダレることなく楽しむことができた。惜しむらくは、薬物依存が引き起こしたバッドトリップで現代と19世紀末のロンドンをリンクさせてしまった点。ホームズの宿敵モリアーティ(アンドリュー・スコットさん)の生死を含めて、それが一つの裏テーマだったとしても、この部分は少々蛇足だったような気がする。それでも髪をオールバックになでつけた傲慢で神経質、かつドSなホームズと、ホームズに振り回されているようで十分に皮肉屋な七三分けのワトソンのキャラクターは魅力的で、馬車が闊歩(かっぽ)し、夜になればガス灯がともるゴシックなロンドンの街並みにもなじんでいたし、無理と分かりつつも、ビクトリア時代版での続編を見たくなってしまった。
同特別編にはドラマシリーズ同様メアリー・ワトソン役でアマンダ・アビントンさん、モリー・フーパー役でルイーズ・ブリーリーさん、ハドソン夫人役でユナ・スタッブスさんも出演し、脚本のゲイティスさん演じる“巨漢”のマイクロフト・ホームズも登場する。19日からTOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開。(山岸睦郎/MANTAN)
「クーパー家の晩餐会」 気遣うあまりにうそをつく“完璧なクリスマス”の家族たち
ダイアン・キートンさんやジョン・グッドマンさん、マリサ・トメイさん、アラン・アーキンさんら名優たちが豪華競演した「クーパー家の晩餐会」(ジェシー・ネルソン監督)が2月19日から公開される。それぞれ秘密を抱えながらクリスマスイブに集まる4世代11人の一族を、音楽をちりばめてユーモアたっぷりのせりふに乗せて届ける。
クリスマスイブはクーパー家の一族が年に一度集まる日だ。シャーロット(キートンさん)は、夫のサム(グッドマンさん)との離婚を決意し、最後の一家だんらんにふさわしい「完璧なクリスマス」にしようと張り切っていた。家族には離婚の話はまだ切り出していない。一方で、娘は偽物の婚約者を連れてきたことを、息子はリストラされたことを隠しており、言い出せずにいる。豪華な料理を囲んでパーティーが始まった。ワケあって遅れたシャーロットの妹エマ(トメイさん)が到着。ほどなくして宴(うたげ)の最中にアクシデントが起こり……という展開。
十分幸せなはずなのに、自分の理想を追い求めて“完璧”を目指してしまう女性がいる。美しく、優秀な人ほどそういう傾向になりそうだが、品のいい大邸宅に住むクーパー家の母親シャーロットもそういうタイプで、シャーロットの独身の妹は姉にコンプレックスを抱き続けてきたようだ。息子も娘もいい年だが、いまだに母親を失望させまいと振る舞う。息子は失業を言い出せず、娘はにわか仕立ての偽の婚約者までこしらえる始末。家族がつくうそは、気遣いの証しだが、行き過ぎも禁物だ。それを一番よく知っているのは、アーキンさんが演じるおじいちゃんで、年の差のあるお気に入りの女性に「変えるのは場所ではなく自分だ」と説く。元フォークミュージシャンのアーキンさんがウクレレを鳴らしながら歌うところは確かにすてきで、年若い子を家に連れてきても違和感がない。クリスマスムード満点の中、それぞれの過去がチラチラ見える。子どもの頃、若かった頃……。長く生きればその分、思い出も増える。しかし幸せが今ここにあるのに、それに気づかないでいるのはもったいない。そこへいくと、飼い犬のラグスは今しか見えていない。むしゃむしゃとよく食べ、愛嬌(あいきょう)たっぷり、存在感たっぷりで心和ませる。
脚本は「P.S.アイラヴユー」(2007年)のスティーブン・ロジャースさんが担当。「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」(14年)でフードスタイリストを務めたメリッサ・マクソーリーさんの料理が目に楽しい。「I am Sam アイ・アム・サム」(01年)のネルソン監督が手掛けた。TOHOシネマズシャンテ(東京都千代田区)ほかで19日から公開。(キョーコ/フリーライター)
「X-ミッション」 大自然の絶景の中での生身のアクションに目がくぎ付け
パトリック・スウェイジさんとキアヌ・リーブスさんが主演した1991年の名作「ハートブルー」(キャスリン・ビグロー監督)をリメークし、俳優に加えてサーフィンやスノーボード界のトップアスリートたちが生身のアクションを繰り広げる「X-ミッション」(エリクソン・コア監督)が2月20日に公開される。米連邦捜査局(FBI)の捜査官がアスリートによる犯罪集団に潜入し、友情と正義の間で揺れ動く物語が、大自然の絶景の中で展開される。
ジョニー・ユタ(ルーク・ブレイシーさん)は元エクストリームアスリート。わけあって選手を引退後、FBIの組織に入った。エクストリームスポーツのカリスマであるボーディ(エドガー・ラミレスさん)が率いるチームが、人間離れした技を駆使して前代未聞の犯罪を行っているとにらんだユタは、潜入捜査に当たる。潜入に成功したユタだったが、彼らと行動を共にするうちに、友情と信頼の情が芽生えていく……という展開。
最初から最後までずっと手に汗握りながら見てしまった。CGなし、迫力満点のアクションに目がくぎ付けになる。これが4大陸11カ国、海から山まで絶景の中で描かれるからなおさらだ。メキシコでのスカイタイビング、ベネズエラのエンジェルフォールでのロッククライミング……。大自然と人が一体となった風景は神がかりで、圧巻の一言に尽きる。物語は、元アスリートがアスリートの犯罪集団を捜査する展開。シーンごとにどんなスポーツが飛び出すかワクワクする。そのエクストリームは、主人公ユタにとって、ロマンと挫折の両方をもたらしたスポーツだ。捜査の過程で再びアスリート気分を味わい、その高揚感も伴って、チームのメンバーに友情と愛を感じる展開もストレートに心に響く。リーダーのボーディは犯罪に手を染めてはいるが、自然に敬意を表する信念のもと、哲学的で堂々と行動するストイックな男。観客の心をボーディの世界観に引きずり込む。
「G.I.ジョー バック2リベンジ」(2013年)のブレイシーさん、「ボーン・アルティメイタム」(07年)のラミレスさんが演じる男同士の友情は、互いの才能に敬意を払い、違いに気づきながらも認め合う大人の関係だ。ユタを大人の態度で見守るレイ・ウィンストンさん演じる上司もすてき。20日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)
「NINJA THE MONSTER」 ディーン・フジオカさんの新たな魅力に触れられる新感覚時代劇
NHK連続テレビ小説「あさが来た」の“五代さま”こと五代友厚役でブレークしたディーン・フジオカさん主演の映画「NINJA THE MONSTER」(落合賢監督)が2月20日から公開される。五代役で、紳士的で温厚なイメージが定着した感があるフジオカさんだが、今作では忍者に扮(ふん)しアクションを披露。新たな魅力を見せてくれる。昨年夏に、カナダのファンタジア国際映画祭でワールドプレミアが行われ、アジア数カ国での配給が決定しているという注目作だ。
戦国の世が終わり、幕府による「忍者禁止令」によって、もはや“忍び”は存在しないと思われていた時代。長野藩の救済を請うために、幸姫(森川葵さん)ら一行は江戸に向かっていた。そこへ突然、“もののけ”が現れる。幸姫を救ったのは、忍びであることを隠した伝蔵(フジオカさん)だった。からくも生き残った幸姫と、彼女に仕える長右衛門(和田聰宏さん)は、伝蔵とともに江戸への旅を続けるが……という展開。
「超高速!参勤交代」(2014年)で脚本を担当した土橋章宏さんによる脚本を、「太秦ライムライト」(13年)の落合監督が映像化した。「太秦ライムライト」は現代劇ながら、正統派の殺陣シーンをふんだんに盛り込み、時代劇ファンを喜ばせた落合監督。今作では、SFチックなもののけの描写や、満天の星の下での伝蔵と幸姫のファンタジックかつロマンチックなシーン、さらに、伝蔵の殺陣シーンではオリジナリティーあふれる刀さばきを盛り込み、新感覚の時代劇に仕上げている。
その、伝蔵役のフジオカさんはといえば、今作ではハッとさせられるほどのアクションを見せてくれる。殺陣のシーンは殺陣師の元で稽古(けいこ)に励み、フジオカさん自らがこなしたといい、通常の時代劇とは一味違う刀さばきも、自身の中国武術の経験を生かし、落合監督に進言したものだという。その一方で、幸姫に向ける憂いを帯びたまなざしや、幸姫を肩に担ぐシーンでは色気と男らしさをアピール。ロン毛を束ねたヘアスタイルも違和感なくなじみ、フジオカさんの新たな魅力に触れられる作品になっている。20日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほかで1週間限定公開。(りんたいこ/フリーライター)
「モンスター・ホテル2」 気楽に見て大笑いできるモンスターと人間のドタバタアニメ
モンスターが集まるホテルを舞台にした3D劇場版アニメの第2弾「モンスター・ホテル2」(ゲンディ・タルタコフスキー監督)が2月20日に公開される。2012年に公開された「モンスター・ホテル」の続編で、ホテルで出会った人間の青年とドラキュラの娘の間に生まれた息子の誕生パーティーを巡る騒動を描く。日本語吹き替え版はドラキュラを山寺宏一さん、その娘を川島海荷さん、人間の青年をお笑いコンビ「オリエンタルラジオ」の藤森慎吾さんが担当するほか、稲川淳二さん、大谷育江さん、クリス松村さんも声優として出演している。
モンスターたちの社交の場「モンスターホテル」で出会ったドラキュラの娘メイヴィスと、人間のジョナサンが結婚。2人の間には息子デニスが生まれ、ドラキュラは孫であるデニスを一人前のモンスターに育てようと奮闘していた。デニスは5歳の誕生日を迎え、メイヴィスがドラキュラの父ヴラッドを招待するが、ヴラッドは人間嫌いの古いタイプのモンスターであり……というストーリー。
人間の青年とドラキュラの娘による恋愛を軸に、種族を超えた友情や恋愛をコメディータッチで描き笑わせてくれた前作だったが、続編となる今作もバカ騒ぎぶりは健在で、ギャグシーンのオンパレードだ。とことん笑いにこだわった描写が多いが、ストーリーもそこそこしっかりしていて、思わずほろっとさせられることも……。人間やモンスターというキャラクターの妙も含め、ゆるーく肩の力を抜いてシンプルに楽しみたい。1作目を見ていればなお楽しめる部分もあるが、今作だけを見てもそのゆるさを十分に堪能できる。20日からユナイテッド・シネマとしまえん(東京都練馬区)ほか全国のユナイテッド・シネマ限定で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「Maiko ふたたびの白鳥」 出産後も踊り続ける日本人プリマの強靭さに感服
[[ movie:MQgmewYAQu8 caption=映画「Maiko ふたたびの白鳥」予告編"]]
世界のトップで活躍する日本人バレエダンサー、西野・エケベルグ・麻衣子さんが、子供を出産、再びプリンシパルとして復帰しようとする姿を映したドキュメンタリー映画「Maikoマイコ ふたたびの白鳥」(オセ・スベンハイム・ドリブネス監督)が2月20日から公開される。仕事は続けたい。でも、子供は欲しい……そんな悩ましい問題を抱える女性にとって、一つの道しるべとなる生き方を提示した作品だ。
大阪出身の西野さんは、15歳のときに英国ロイヤルバレエスクールに留学。1999年、19歳でノルウェー国立バレエ団に入団し、25歳で同バレエ団東洋人初のプリンシパルとなった。その一方で、オペラハウスで芸術監督を務めるニコライさんと結婚。やがて、「子供が欲しい」と思うようになるが、プリンシパルという立場での妊娠、出産は、最も大切なときを失うことでもあった。そんな中、西野さんは予期せぬ妊娠をする。そして、出産。西野さんは、子育てをしながらプリンシパル復帰を懸けて、クラシックバレエ屈指の難役「白鳥の湖」に挑む……という展開。
バレエダンサー、しかもプリンシパルであり続けるためには、過酷なレッスンが必要になる。周囲には、しのぎを削るライバルたちが山ほどいる。そんな中で子供を産み、育て、再びプリンシパルとして復帰する。この、誰もが無謀だと思うことに、西野さんは挑んだ。カメラは、そんな西野さんの姿をとらえる。妊娠7週目に入っても踊り続ける西野さん。ターン、リフト、そこからの着地……見ているこちらがひやひやする。おなかが大きくなってもレッスンを続けるが、しかし“限界”はやって来る。自分が立つはずだった舞台を、客席から見つめる西野さんの表情が印象的だ。その一方でカメラは、西野さんのプライベート……大阪出身の西野さんが、愛する家族と過ごすだんらん風景や、尊敬する母、衣津栄さんとのやりとり、さらに、夫ニコライさんと、生まれてきた息子アイリフ君に対する西野さんの妻として、母としての姿をとらえる。
(西野さん自身はそう思っていないだろうが)頂点を極めながら、それに甘んじることなく、さらに、子供を産み、育てるというバレエとは別次元の大変なことに挑む西野さんの強靭(きょうじん)な精神力と肉体には感服するばかりだ。同時に、「頑張れ」ではなく「(一緒に)頑張ろう」と妻を支えるニコライさんの理解ある様子、そして、妊娠を告げたときの、バレエ団の人々の反応の温かさに、妊婦や子育て中の母親を取り巻く環境の、ノルウェーと日本の歴然とした差を感じた。20日からヒューマントラストシネマ有楽町(東京都千代田区)ほかで順次公開。(りんたいこ/フリーライター)
「中島みゆき 夜会VOL.18『橋の下のアルカディア』-劇場版-」6年ぶり書き下ろし作
シンガー・ソングライターの中島みゆきさんが原作、脚本、音楽、作詞・作曲、演出、主演を務める「夜会」を映像化した劇場版シリーズの最新作「中島みゆき 夜会VOL.18 『橋の下のアルカディア』-劇場版-」が2月20日、公開される。2014年11月15日~同年12月16日に赤坂ACTシアター(東京都港区)で上演された「夜会VOL.18『橋の下のアルカディア』」を映像化した。
中島さんが1989年から続けている「夜会」シリーズも、今回で18度目を迎えた。「夜会VOL.18 『橋の下のアルカディア』」は、08~09年に行われた「夜会VOL.15『~夜物語~元祖・今晩屋』」以来6年ぶりの書き下ろし作品。劇のせりふとして挿入される歌は、2014年11月12日発売のアルバム「問題集」に収録された5曲を含む書き下ろしの過去最多の46曲が使用されている。歌手の中村中さんやミュージシャンの石田匠さんが共演しステージを盛り上げた。この年は東京・赤坂ACTシアターのみで上演され、音楽監督は瀬尾一三さんが担当した。
もはや風物詩的なものとして定着した印象もある「夜会」シリーズは、中島さん自らが原作に始まり、脚本、作詞・作曲、演出を手がけるだけでなく、美術や衣装、舞台セットに至るまでほとんどすべてに関わっていることに驚かされる。特に第18弾となる今作は、小劇場的な空間で開催され、コンサートや演劇のテイストも感じさせつつも、それまでとは異質なステージに仕上がっている。細部にまでこだわりを感じさせるステージは、映像化され大きなスクリーンで見ることで、注目シーンやせりふや挿入歌となっている歌をよりフィーチャーして味わえる。ライブとはひと味違う中島さんの姿も十分に堪能できる。20日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)