「トワイライト ささらさや」ガッキーが初の母親役 亡夫に助けられるファンタジー
新垣結衣さんと大泉洋さんが初共演で夫婦役を演じた「トワイライト ささらさや」(深川栄洋監督)が11月8日から公開される。加納朋子さんのベストセラー小説「ささら さや」が原作で、「神様のカルテ」(2011年)の深川監督がメガホンをとった。夫に先立たれて生まれたばかりの乳飲み子を抱えた妻が、心配で成仏できずに他人に乗り移っている夫に手助けされながら、母親として成長していく姿を、コミカルにファンタジックに描いていく。
売れない落語家だったユウタロウ(大泉さん)は、突然の事故で幽霊になってしまった。妻のサヤ(新垣さん)には身寄りがなく、息子ユウスケが生まれたばかり。ユウタロウは自分の葬儀で涙にくれるサヤを見守ることしかできずに歯がゆい思いに駆られていた。葬儀では、死んだと聞かされていたユウタロウの父親(石橋凌さん)がサヤの前に現れ、後継ぎにユウスケを引き取ると言い出す。ユウタロウはとっさに、落語の師匠(小松政夫さん)の体に憑依(ひょうい)し、サヤに早く逃げるよう促す。サヤはユウスケを連れて東京から離れ、「ささら」という不思議な町に行き、亡きおばが残してくれた小さな家に落ち着く。それ以来、誰かに次々に乗り移った夫が、サヤの目の前に現れて……というストーリー。
たった一人で子どもを抱えて生活を再開したサヤ。映画の中心にこの若い母親の姿が据えられ、その周囲にちりばめた人々と呼応していく。若い未亡人に興味津々のおばさん軍団、同じように幼い息子を育てるシングルマザー、サヤに好意を寄せる若い駅員。人と人のつながりが輪のように広がっていく。サヤが支えられるだけの存在なのではなく、支える役目も担っているという描かれ方に好感が持てる。サヤを心配する夫のユウタロウは、さまざまな人物に憑依して現れるが、小松さん、富司純子さんら別々の俳優が大泉さんの動きや雰囲気をまといながら演じていてお見事としか言いようがない。脚本は、深川監督と「武士の献立」(13年)の山室有紀子さんが共同で書き上げた。ファンタジーとリアルの配分が絶妙だ。死と別れという重いテーマを扱いながら、人と人のつながりと新垣さんの魅力が、ドラマをさわやかに仕上げている。富司さん、波乃久里子さん、藤田弓子さんの同い年のベテラン女優たちが近所の三婆を演じ存在感を浮き彫りにしている。ミニチュアや特撮に見える風景の撮影方法もこの作品の温かい雰囲気にぴったりだ。TOHOシネマズ日本橋(東京都中央区)ほかで8日から公開。(キョーコ/フリーライター)
「福福荘の福ちゃん」森三中・大島美幸さん演じる心優しいオッサン
お笑いトリオ「森三中」の大島美幸さんが映画に初主演し、モントリオール・ファンタジア国際映画祭で最優秀主演女優賞に輝いた「福福荘の福ちゃん」(藤田容介監督)が11月8日から公開される。大島さんが演じるのは、心優しき独身男・福ちゃん。彼を取り巻く人々との日常と、初恋の人との再会を軸にした藤田監督が脚本も手掛けた完全オリジナル作だ。藤田監督からの熱烈オファーでキャスティングされた大島さんが声色も変え、細々とした動作までオッサンになり切っている。コミカルで心温まる一作だ。
“福ちゃん”こと 福田辰男(大島さん)は、おんぼろアパート「福福荘」に住んでいる。塗装の仕事一筋で、家では趣味の凧(たこ)作りにいそしむ。仕事場では弱い人の味方になり、アパートでは住人同士のトラブルを仲裁する真面目な性格。働き者でケンカも強く人気者の福ちゃんだったが、女性に奥手という弱点があった。同僚のシマッチ(荒川良々さん)と妻の良美(黒川芽以さん)が福ちゃんを心配し、克子(山田真歩さん)を紹介するが、福ちゃんはデートの日にアパートの友達も連れてきてしまう。ある日、福ちゃんのアパートを女性が訪ねてくる。それは、中学時代の初恋の人・千穂(水川あさみさん)で、福ちゃんが女性を苦手になった原因を作った張本人だった……という展開。
大島さんの芝居がオッサンになり切っていて見事だ。丸刈りで体重も増量。同じように丸刈りの荒川さんとのツーショットが、仲のいいオッサン同士にしか見えない。哀愁さえ漂わせるオッサン・福ちゃんの魅力にどっぷりとハマってしまう。どこか自己中心的で風変わりな登場人物達の中で、福ちゃんだけは違うのだ。他人を思いやる心の広さを持っている。途中、彼の過去が分かり、複雑で繊細な内面があぶり出される。その過去を、初恋の女性・千穂の回想を使って語らせるあたりが絶妙だ。このエピソードがあるからこそ、千穂との再会も、映画的な奇跡と人間への希望に満ちているといえるのではないだろうか。「全然大丈夫」(2008年)の藤田監督の6年ぶりの新作。よく練られた脚本で、日常に根差した物語が面白い会話とともに展開され、突飛(とっぴ)で個性的な登場人物たちも親近感のある人として描かれている。狭いが住人のぬくもりを感じられるアパート、晴れた日のピクニック……場面のメリハリも利いている。新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で8日から公開。(キョーコ/フリーライター)
「サボタージュ」シュワルツェネッガーが特殊部隊リーダー役で連続殺人犯を追う
アーノルド・シュワルツェネッガーさん主演の映画「サボタージュ」が11月7日から全国で公開される。DEA(米麻薬取締局)の特殊部隊9人が、ある事件をきっかけに一人ずつ殺されていくというサスペンスアクション。28日に公開されるブラッド・ピットさん主演の戦争映画「フューリー」のデビッド・エアー監督が脚本を書き、メガホンをとった。
DEA最強の特殊部隊を率いるジョン・ウォートン(シュワルツェネッガーさん)は、8人の部下とともに麻薬カルテルのアジトに奇襲作戦を仕掛け成功する。ところが、一味の隠し金1000万ドルがこつ然と消え、ウォートンの部下たちが一人ずつ何者かに惨殺される。ウォートンが地元警察と捜査を続ける中、部下たちは内部に犯人がいるのではと疑心暗鬼になり……というストーリー。
人物の目線で切り取った映像がしばしば登場する。エアー監督が「エンド・オブ・ウォッチ」(2012年)で使ったP.O.V.(Point of View)ショットの手法だ。これによって、自分があたかもその場に居合わせているような感覚に陥る。映画の中の実際の時間と犯行時間の場面を巧妙にミックスさせる構成もひねりが利いていて面白い。「アバター」(09年)のサム・ワーシントンさん、「プリズナーズ」(13年)のテレンス・ハワードさん、米テレビシリーズ「LOST」(04~10年)のジョシュ・ホロウェイさんらが演じているDEAのメンバーそれぞれも個性的。とりわけ、「ワールド・ウォーZ」(13年)、「イフ・アイ・ステイ 愛が還る場所」(14年)などに出演し、良妻賢母役が多かったミレイユ・イーノスさんが、男顔負けのパワフルな隊員を演じていたのには驚いた。なお、おぞましい映像もしばしば現れるので、それなりの覚悟でスクリーンに向かった方がいい。7日からTOHOシネマズみゆき座(東京都千代田区)ほか全国で公開。 (りんたいこ/フリーライター)
「最後の命」 柳楽主演 ゆがまされた人生の悲哀と絶望の先にある希望を描く
俳優の柳楽優弥さんの主演映画「最後の命」(松本准平監督)が8日に公開される。芥川賞作家の中村文則さんの同名小説が原作で、幼少期に集団婦女暴行事件を目撃してトラウマを抱えた2人の男が、凄惨(せいさん)な記憶に人生をゆがまされながらも生きる希望を見いだしていく姿を描く。主人公の明瀬桂人を柳楽さんが、その親友の冴木裕一を矢野聖人さんが好演し、脇を固める実力派キャストとともに複雑なストーリーを見事に表現した濃密な展開は見応え十分。シンガー・ソングライターのCoccoさんが主題歌「Snowing」を歌うなど音楽も物語を鮮やかに彩っている。
幼少期に集団婦女暴行事件に巻き込まれた明瀬桂人(柳楽さん)と冴木裕一(矢野さん)の2人。事件の記憶に苦しみながらも成人した桂人は、人と肌を重ねることにけがれを感じ、デリヘル嬢や心を病み入院をしている同級生で恋人の小泉香里(比留川游さん)との電話という最低限の人との関わりの中で暮らしている。ある夜、高校卒業以来7年ぶりに冴木と再会するが、桂人の部屋で顔見知りのデリヘル嬢が殺された状態で発見される。警察の取り調べを受けた桂人は、冴木がある事件で全国指名手配中の容疑者であることを知り……というストーリー。
原作が回想を中心にしたものだけに、どのように映像化されるかに興味津々だったが、巧みな表現で幼少期に犯罪に巻き込まれ人生を狂わされた男たちの心の闇が見事に描かれている。幼い頃の出来事がトラウマとなりそれを背負って生きていく人生は、登場人物たちのように極端な事例でなくとも、誰にでも起こりうることだ。今作は過去に苦しめられしばられ続ける人間の弱さやもろさが、痛いほど表現されている。人は誰でも自分の未来や理想は自身の中から自然に生まれ出てくるものと思いがちだが、今作を見ると、過去の苦しみや因縁が大きく影響を与えてしまうのでは……と考えさせられる。心に闇を抱えた桂人を演じる柳楽さんの目の演技が印象的で、他人が起こした事件によって破壊されていく人生を送る男を演じ切った。ラストに向けて賛否両論あると思うが、理不尽の先にある明るい希望を信じたい。文芸作品の映像化は難しいといわれる中、原作の世界観を見事に表現している。新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「0.5ミリ」生きることに主眼を置いた安藤姉妹によるヒューマン作
俳優の奥田瑛二さんの長女、安藤桃子さんが自ら書き下ろした長編小説を脚色し、実妹の安藤サクラさん主演で撮った映画「0.5ミリ」が11月8日から全国で順次公開される。自身が生きるために押しかけヘルパーを始めたサクラさん演じるヒロインが、関わりを持った老人たちに生きる気力を与えていくヒューマン作。上映時間は196分と長尺ながら、それを感じさせない勢いのある作品に仕上がっている。父である奥田さんがエグゼクティブプロデューサーを務め、安藤姉妹の母でエッセイストの安藤和津さんが劇中登場する料理を監修している。
「冥土の土産におじいちゃんと寝てあげてくれない?」と派遣先の家族から頼まれた介護ヘルパーの山岸サワ(サクラさん)は、その依頼を受けたことで、とんでもない事件に巻き込まれてしまう。仕事も金も住む家も失ったサワは、生きるために押しかけヘルパーを始めることにする……というストーリー。
サワは、めぼしい“標的”を見つけると、その老人の弱みに付け込み家に上がり込む。そう書くと、サワが“極悪人”と勘違いされそうだが、それは違う。彼女は、自分が生きるために年老いた人々の優しさをちょっとだけ拝借し、触れ合いなど“まごころ”できっちりと返していく。介護や老いについて触れながら“生きる”ということに主眼が置かれた今作に暗さはない。むしろ、サワに弱みを握られオロオロするおじいちゃんたちとサワの掛け合いは愉快でほほ笑ましく、何より、サワを演じるサクラさんの演技が光っている。製作の背景には、安藤監督とサクラさん家族の祖母の介護経験があるようだが、そのことが、今作の血となり肉となっていることがスクリーンからうかがえる。サワが草笛光子さん演じる老人を介護する場面では、サクラさんの手際のよい振る舞いに演技を超えたものを感じたし、何度か映る食事の支度の様子も実に手慣れていた。そんなサクラさんが演じるサワの仕事ぶりは鮮やかで、映画を見ながら「サワちゃん、うちにも来てくれないかな」と思ったほどだ。おじいちゃんたちを津川雅彦さん、坂田利夫さん、織本順吉さん、井上竜夫さんが演じるほか、柄本明さん、東出昌大さん、木内みどりさん、角替和枝さん、浅田美代子さんらが出演している。8日から有楽町スバル座(東京都千代田区)ほか全国で順次公開。(りんたいこ/フリーライター)
「ザ・ゲスト」英国イケメン俳優が驚きのキャラを演じるサスペンス
ある一家の元を訪れた一人の若者の驚きの正体が明かされていくサスペンススリラー「ザ・ゲスト」(アダム・ウィンガード監督)が11月8日から全国で公開される。海外ドラマ「ダウントン・アビー~貴族とメイドと相続人~」(2010年~)のマシュー・クローリー役で注目された英国のイケメン俳優ダン・スティーブンスさんが主演し、マシューとは全く違う表情で観客の度肝を抜く。
イラク戦争で長男ケイレブを亡くし悲しみに暮れるピーターソン一家を、ある日、デイビッド(スティーブンスさん)と名乗る青年が訪ねて来る。彼はケイレブと同じ部隊に所属し、ケイレブの最期もみとったという。礼儀正しいデイビッドに一家は心を許し、数日間、彼を家に泊めてやることにする。そんな中で、デイビッドの行動に不審を抱いた長女アナ(マイカ・モンローさん)が彼について調べると、思いも寄らない“正体”が見えてきて……という展開。
謙虚で礼儀正しく、しかもイケメン。家族が抱える厄介ごとも次々と解決していく……とくれば、筋書きはもとよりデイビッドの正体もなんとなく察しがつく。ところが、そうは問屋が卸さないのが今作。青く澄んだ目は正直さをたたえ、片方の口角を上げて笑う表情はなんともセクシー。かと思えば、いきなり能面のような顔つきになり、考えていることが読めなくなる。次男(ブレンダン・マイヤーさん)をいじめる悪ガキどもをあっさりぶちのめしたり、狙った獲物はためらいもなく仕留めたり。肉体が鋼なら心も鋼。ビア樽(だる)をひょいと肩に担ぐ姿にも驚かされた。そんなデイビッドを演じるためにスティーブンスさんは、1カ月におよぶ格闘技や射撃訓練で役作りをしたという。想定外のストーリーもキャラクター設定も、彼の演技と魅力に負うところが大きい。8日からシネマサンシャイン池袋(東京都豊島区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)
「100歳の華麗なる冒険」20世紀を駆け抜けた元二重スパイのおじいさんの旅路
スウェーデン本国だけでなく欧州各国でヒットを飛ばした「100歳の華麗なる冒険」(フェリックス・ハーングレン監督)が11月8日から公開される。原作は世界40カ国以上で800万部以上を売り上げるスウェーデンの作家ヨナス・ヨナソンさんのデビュー作「窓から逃げた100歳老人」。100歳の誕生日を迎えた爆弾好きのおじいちゃんの破天荒な旅路に、二重スパイを務めながら20世紀を駆け抜けた波瀾(はらん)万丈な過去が重なる。ブラックユーモアもたっぷりだ。
老人ホームで暮らすアラン・カールソン(ロバート・グスタフソンさん)は100歳の誕生日を迎えた。幼い頃に両親を亡くしたアランは天涯孤独だったが、独学で身につけた爆破物の知識を生かして、戦時中はフランコ将軍やトルーマン、冷戦時代はレーガンやゴルバチョフの下で働く、歴史に埋もれた重要人物だった。そんなアランも今や老人ホームのお年寄りにしか過ぎず、ついに窓から逃走。ギャングから預かった札束が入った荷物を持ってバスに飛び乗った。適当なバス停で降りたアランは、閉鎖された駅舎で暮らす老人ユリウス(イバル・ビクランデルさん)と出会い、意気投合する。2人であてのない旅に出る。しかし、アランはギャング一味と警察に追われる身になってしまい……という展開。
主人公のおじいちゃんがぶっ飛んでいる。趣味は爆破。数々の歴史上の人物と関わりがあり、なんとマンハッタン計画にも参加。そんな人生を歩んできたのも、根底には「人生はなるようにしかならない」という母の教えがあり、どんな重要な局面でもそれを適用してきた。アランの旅路と彼の過去が並行して進んでいくが、どちらも行き当たりバッタリ的な生き方を貫いている。アランは「こんなふうに生きられたら楽しいのではないか」と皆がひそかに願う人物の代表なのかもしれない。常人にはできないような行動力で、見る者をスカッとさせるアランは、映画のヒーロー中のヒーローだ。個性的な仲間と力を合わせ、追っ手をどうかわしていくのかが疾走感とともに描かれる。想像もつかない方法も飛び出し、度肝を抜かれるだろう。スウェーデンを代表するコメディー俳優、50歳手前のグスタフソンさんが、青年時代から100歳までの主人公を特殊メークを用いて演じている。新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほかで8日から公開。(キョーコ/フリーライター)