「バケモノの子」 細田守監督の新作は王道アニメ 家族や子供の成長描く
細田守監督の約3年ぶりの新作劇場版アニメ「バケモノの子」が7月11日に公開される。ヒット作「おおかみこどもの雨と雪」以来の細田監督の新作ということもあり、注目が集まっている今作は、孤独な少年の成長を描きながら、派手なアクションが繰り広げられ、子供も大人も楽しめる“王道”のアニメだ。
「バケモノの子」は、人間界とバケモノ界が存在する世界を舞台に、孤独な少年・九太とバケモノ・熊徹の交流が描かれる。熊徹は、バケモノ界の渋天街(じゅうてんがい)で一、二を争う強さを誇るバケモノで、9歳の時に両親と離ればなれになり、渋天街に迷い込んだ九太の師匠となる。
カンフー映画のような修行シーンもあれば、熊徹らバケモノのバトルも繰り広げられ、派手なアクションシーンを楽しめる。また、九太の成長も見どころだ。九太は力が強くなっていくだけでなく、熊徹や仲間のバケモノ、人間界の女子高生・楓らと交流する中で、大人になっていく。自分は何者なのか?などという思春期特有の悩みを解決しながら、九太が成長していく姿が丁寧に描かれる。
熊徹は、九太の師匠となることで、自身も成長していく。さらに、熊徹の悪友の百秋坊や多々良も九太の成長を見守り、バケモノたちと九太は血のつながりがなく種族が違っても“家族”のようになっていく。細田監督には、「おおかみこどもの雨と雪」の公開後、第1子となる男児が誕生したようだが、その影響もあるのかもしれない。
熊徹役の役所広司さん、少年期の九太役の宮崎あおいさん、楓役の広瀬すずさんら豪華声優陣も話題だ。宮崎さんの“少年声”と役所さんの“バケモノ声”による掛け合いがコミカルで、広瀬さんも普通の真面目な女子高生を自然体で演じている。
「バケモノの子」は11日からTOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開。(小西鉄兵/毎日新聞デジタル)
「ターミネーター:新起動/ジェニシス」物語は新たな段階へ 新旧シュワ対決も
アーノルド・シュワルツェネッガーさん主演の人気シリーズ最新作「ターミネーター:新起動/ジェニシス」が7月10日から公開される。1作目「T1」(1984年)、2作目「T2」(91年)でメガホンをとったジェームズ・キャメロン監督自らがアドバイスし、「ターミネーター3」(2003年)以来12年ぶりのシュワルツェネッガーさんの登場など話題に事欠かない今作。アラン・テイラー監督はキャメロン監督の2作へのリスペクトを怠らず、それでいて“書き換えられた過去”というアイデアによって新たなストーリーを展開させ、1作目からのファンをも満足させる作品に仕上げた。
2029年、人類抵抗軍との戦いの敗北を悟った機械軍は、抵抗軍のリーダー、ジョン・コナー(ジェイソン・クラークさん)の存在自体を消し去ろうと、彼を生む前のサラ・コナー(エミリア・クラークさん)を殺すためにターミネーターを1984年に送り込む。サラ抹殺を阻止するべく、ジョンの右腕カイル・リース(ジェイ・コートニーさん)があとを追うが、84年で彼を待ち受けていたのはターミネーターT-1000(イ・ビョンホンさん)だった。窮地に陥ったカイルだったが、そこにサラと、彼女が“オジサン”と呼ぶT-800ターミネーター(シュワルツェネッガーさん)が現れ……というストーリー。
今作は、過去を変えたことで時間軸が塗り替わり、それによって未来も変わっていたという設定でスタートする。それによって「T1」「T2」の“しがらみ”から解放され、新たな物語を作り上げることに成功している。ターミネーターにおびえるウエートレスだったサラ・コナーはタフな女戦士として生まれ変わり、84年にはいるはずのない液体金属型T-1000が現れ、その上、人間でも機械でもないT-3000なる新型も現れる……と「新起動」というだけあり、シリーズは新たな段階に突入する。肉弾戦に始まり、銃撃戦、カーチェイスなどアクション面での充実を図りながら、現在67歳のシュワルツェネッガーさんを年齢相応のサラの守護神として再登場させ、肌ツヤツヤの若いT-800と戦わせるというシリーズファン垂涎(すいぜん)のシーンも用意。その一方で、サラと守護神の情に訴えるエピソードを盛り込むなど、見どころはてんこ盛りだ。キャメロン版を思い返しながら見る面白さはもちろんあるが、案外、キャメロン版を未見の方が新鮮な目で見られる分、物語を純粋に楽しめるかもしれない……とも感じた。10日からTOHOシネマズ日劇(東京都千代田区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)
「リアル鬼ごっこ」 鬼才・園監督オリジナル脚本 シュールすぎる怪作
モデルで女優のトリンドル玲奈さん、篠田麻里子さん、真野恵里菜さんがトリプル主演した映画「リアル鬼ごっこ」(園子温監督)が7月11日に公開される。「リアル鬼ごっこ」は、山田悠介さんが2001年に出版した人気ホラー小説で、08、10、12年には映画化され、13年には連続ドラマが放送された。何度も映像化されている題材を基にしているが、今作は追い掛けられるターゲットが“全国の佐藤さん”から“全国のJK(女子高生)”に変更された園監督のオリジナル脚本。ヒロインとなる3人の既存のイメージが覆るような体当たり演技で恐怖と臨場感、新たな魅力が伝わってくる。
女子高生のミツコ(トリンドルさん)は、何者かに追われて逃げていると、いつの間にか学校にたどり着いた。ミツコはいつもと変わらぬ光景に戸惑いを隠せない。一方、見知らぬ女性にせかされウエディングドレスに着替えさせられたケイコ(篠田さん)、そしてマラソン大会に出場している陸上部のいづみ(真野さん)も、何のために何に追われているか分からないまま逃げることになり……という展開。
ここ最近おとなしめの作品が続いていた園監督だが、今作は久しぶりに初期の作品を彷彿(ほうふつ)とさせる“園節”全開で楽しませてくれる。飛び散る血しぶきや殺りくなどの過激な描写に加え、ちょっとしたセクシーシーンなど随所に“らしさ”が炸裂(さくれつ)。“何かが何かに追われる”という設定以外は原作の内容を潔く斬り捨てたオリジナル過ぎるストーリーは、シュールさと不条理さに満ちあふれ、園監督作品が好きかどうかで好みは大きく分かれそうだ。ちなみに、「シュールに負けない」というせりふが出てくるが、今作自体を形容しているだけでなく、物語を読み解く上でも鍵を握る言葉だ。どう表現してもネタバレしてしまいそうだが、恐怖にゆがむトリンドルさんの表情をはじめ、篠田さん、真野さんによる迫真の演技だけでも一見の価値あり。新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「群青色の、とおり道」 夢半ばの青年が故郷に帰って自分を見つめ直す青春映画
「仮面ライダーW」(テレビ朝日系)に出演した俳優の桐山漣さんが、売れないミュージシャンを演じた青春映画「群青色の、とおり道」(佐々部清監督)が7月11日から公開される(群馬県内では先行公開中)。夢半ばの青年が、故郷に帰って自分を見つめ直す姿を、自然豊かな群馬県太田市の風景とともに爽やかに描いた。同市合併10周年記念作品。
ミュージシャンを夢見て東京で暮らしていた佳幸(桐山さん)は、勘当同然だった父親(升毅さん)から連絡を受けて、10年ぶりに故郷に帰ってきた。工場を営む父親は病を患い、以前の厳格さを失っていた。明るい母親(宮崎美子さん)、小学校教師になった唯香(杉野希妃さん)たち同級生は、佳幸を故郷に温かく迎え入れる。ただ、高校に行きながら家業を手伝う妹(安田聖愛さん)だけは、兄にわだかまりを持っていた。佳幸は、地元のお祭り「ねぷた」の出し物として歌うことになった。唯香たちの応援を受けながら、10年間未完成だった曲の制作にとりかかる……という展開。
二度と戻らないと思って故郷をあとにした青年が、複雑な思いを抱えた表情で電車に乗っている。主人公の佳幸は、ミュージシャンになる夢の途上にある。道半ばだったことがもう一つ。それは、故郷に置いてきた人間関係だった。「半落ち」(2004年)や「ツレがうつになりまして。」(11年)などで知られる佐々部監督は、人と人のつながりを丁寧に描写することで、周りに支えられていることに青年が気づくまでの道のりを、じっくりと描き出した。唯香をはじめとする同級生たちと町を歩き、故郷の風を感じ、そして反目していた父親と久々に将棋を指す。とりわけ、溝があった妹とのシーンは、空白の10年間という時間を感じさせ生々しい。同世代は佳幸に親近感を持ち、中年以上には、佳幸の意地を張るような青くさい雰囲気に遠き若い頃を思い出すかもしれない。クライマックスでの「尾島ねぷた」の描写が美しい。木崎駅やギターをかき鳴らす利根川の土手、実家の工場、同級生と立ち寄る焼きまんじゅう屋などの太田市の風景がしっかりと心に焼きついた。その風景の一つ一つに、青春の通過点にある青年の気持ちがにじみ出ている。太田市出身の橋本剛実さんがプロデュースと脚本を担当。劇中歌を群馬出身のバンド「back number」が歌っている。ユーロスペース(東京都渋谷区)ほかで11日から公開。(キョーコ/フリーライター)
「アリのままでいたい」 特殊カメラで撮影した昆虫目線の映像は迫力満点
昆虫を題材にしたドキュメンタリー映画「アリのままでいたい」(鴨下潔監督)が7月11日に公開される。今作は、写真家の栗林慧さんが撮影監督を務め、特殊カメラ「アリの目カメラ」を使用して、昆虫の“視線”から超至近距離で撮影した。カマキリのハンティングやカブトムシ、クワガタムシ、スズメバチなど、日本に生息する50種類以上の昆虫生態に迫っている。歌手でタレントのDAIGOさん、女優の吉田羊さん、杉咲花さんがナレーションを担当し、主題歌は福山雅治さんの「蜜柑色の夏休み 2015」が採用されている。
人間よりも太古の昔に誕生し、身近にいながらも多くの謎に包まれている昆虫の世界を、世界唯一の「アリの目カメラ」で撮影。極限まで昆虫に近づいた映像は、まるでアリになったかのような視点を再現し、樹液をめぐるカブトムシ、クワガタムシ、スズメバチの死闘をはじめ、迫力満点の昆虫たちの生存競争や神秘的な生態が映し出される……という構成。
何よりもまず技術の高さに驚かされた。今作のために開発されたというアリの目カメラは、本当にアリになったかのような視点が体験できる超接写が可能で、迫力ある映像にはワクワクさせられる。50種類以上の昆虫の、普段は見ることができない角度からの姿はインパクト抜群で、普段あまり昆虫と接することがない人はもちろん、昆虫好きを自認する人にとっても貴重な体験ができる。圧巻の映像とともに菅野祐悟さんの音楽も素晴らしく、ナレーション陣の明快な解説も好印象だ。子供向けを意識した作りにはなっているが、大人でも十分に楽しめる。感動と迫力を十二分に体感すべく3Dでの観賞をお勧めしたいが、昆虫が苦手な人には少し厳しいかも……。丸の内TOEI(東京都中央区)ほか全国で公開。2Dも同時公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「サイの季節」戻る場所を奪われた詩人の愛の三角関係
母国イランを離れたクルド人監督バフマン・ゴバディさんの亡命後初の作品「サイの季節」が、7月11日から公開される。実在の詩人をモチーフに描いた大人の愛の三角関係の物語。マーティン・スコセッシ監督が称賛し「提供」として名を連ねている。ヒロインは「マレーナ」(2000年)で知られるモニカ・ベルッチさん。
1977年、イラン・イスラム革命時。詩人のサヘル(カネル・シンドルクさん)は妻ミナ(ベルッチさん)とともに、運転手でミナに恋心を抱くアクバル(ユルマズ・エルドガンさん)によって、政治犯として不当に逮捕された。2009年。拷問にも耐え、30年の刑期を終えて釈放されたサヘル(ベヘルーズ・ボスギーさん)だったが、政府によって死んだとされていたことを知る。最愛の妻ミナを捜し始めたサヘルの前に、アクバルの影がつきまとう。夫が死んだと思い込まされたミナはトルコに移住していた……という展開。
圧倒的な強さと繊細さを併せ持つ美しい映像。黒が目立つ硬質な色調に、主人公サヘルの心の叫びが静かに、だが重くズシリと心に響いてくる。無実の罪で投獄されたサヘルは、詩人らしく心だけは過去と現在を自由に行き来させる。その内面を表す映像には、カメやサイが現れ、まるで夢の中のようだ。若かりし頃、美しい妻ミナとの幸せな日々……。夫婦仲むつまじい姿に、アクバルが嫉妬心を燃やすのも無理はないと思えるほどだ。しかしその嫉妬心はあまりにも邪悪だった。サヘルとミナを引き裂いただけでは済まなかった。さらなる残酷な展開がサヘルに突きつけられて、複雑な気分にさせられる。サヘルは、捜し当てた妻を遠くからじっと見守る。緊張感はやがてサヘルの漠然とした心象になって、亡命した末、イスタンブールに落ち着いたゴバディ監督の戻るところを失った心象と重なっているようだ。幸せを他人に奪われた人間は、亡霊のように生きるしかないのか。ベルッチさんの黒い瞳が美しく、悲劇を際立たせる。主人公サヘルを演じたボスギーさんは、イラン革命後に亡命した伝説のイラン人俳優だという。今作でスクリーン復帰を果たしたが、圧倒的な存在感だ。シネマート新宿(東京都新宿区)ほかで11日から公開。(文・キョーコ/フリーライター)