「空海 KU-KAI-美しき王妃の謎-」染谷将太が若き修行僧に めくるめく映像美と壮大な物語に圧倒
俳優の染谷将太さんが、若き日の空海に扮(ふん)した日中合作映画「空海-KU-KAI-美しき王妃の謎」(チェン・カイコー監督)が2月24日からTOHOシネマズシャンテ(東京都千代田区)ほか全国で公開。空海が唐の都・長安を揺るがす怪事件の謎を追うファンタジーアドベンチャー。絢爛豪華(けんらんごうか)なセットや美術、壮大な物語に圧倒される。
1200年以上前、長安で権力者が次々と奇妙な死を遂げる怪事件が起きていた。密教の教えを求め唐に渡っていた空海(染谷さん)が、詩人の白楽天(のちの白居易=ホアン・シュアンさん)とその謎を追ううちに、約50年前に唐に渡った阿倍仲麻呂(阿部寛さん)と、彼が仕えた玄宗皇帝(チャン・ルーイーさん)、そして皇帝が愛した楊貴妃(チャン・ロンロンさん)の存在が浮かび上がる……というストーリー。日本からは松坂慶子さん、火野正平さんらも出演。RADWIMPSの主題歌「Mountain Top」が作品を彩る。
原作は、夢枕獏さんの中国伝奇小説「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」。文庫本4冊の壮大な物語から抜粋して2時間余りの作品に仕上げた。個人的には、原作のドロドロした愛憎劇の部分が希釈されていたのは少し残念だが、それでも見応えは十分。東京ドーム約8個分にもなるという長安のセットは本物と見まがうばかりで、空海が密教を授かった青龍寺のセットは、現在では本物の寺として使われ、僧侶たちが住んでいるというから驚く。
皇帝が楊貴妃のために催す「極楽の宴」の場面。竜宮城を思わせる幻想的な装飾、砕けた陶磁器が花の模様となって床に散り、竜が宙を舞うなど、めくるめく映像美に陶然となった。目を見張ったのは“妖猫”の熱演。VFX(特殊視覚効果)と分かってはいるものの、表情があまりに自然で見入ってしまった。
剃髪した染谷さんに空海役はしっくりとなじみ、優雅でありながらどこかひょうひょうとしたたたずまいには、原作ファンも納得するのではないか。日本語吹き替え版上映のため、染谷さんが習得した中国語を聞くことはできないが、吹き替え版のキャストには、染谷さんが空海を担当したほか、高橋一生さん、吉田羊さん、東出昌大さん、イッセー尾形さんら豪華な俳優陣が顔をそろえた。字幕を読む必要がない分、ミステリアスな物語と圧巻の映像、俳優たちの表情を堪能できる。(りんたいこ/フリーライター)
「さよならの朝に約束の花をかざろう」“あの花”の岡田麿里が初監督 絆を描く感動ファンタジー
アニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(あの花)、「心が叫びたがってるんだ。」などの脚本を手がけた岡田麿里さんが監督に初挑戦した劇場版アニメ「さよならの朝に約束の花をかざろう」が、2月24日から新宿バルト9(東京都新宿区)ほかで公開。10代半ばで外見の成長が止まり、寿命は数百年というイオルフ民族の孤独な少女・マキアと、親を失ったばかりの赤ん坊から少年へ成長していくエリアルとの絆が描かれる。
「別れの一族」と呼ばれるイオルフの民は、人里離れた土地でヒビオルという布に日々の出来事を織り込みながら静かに暮らしていた。マキアは両親がおらず、仲間に囲まれて穏やかな日々を過ごしながらも、どこかで孤独を感じていた。そんなある日、イオルフの長寿の血を求め、メザーテの軍が攻め込んでくる。マキアは、なんとか逃げ出したものの仲間も帰る場所も失ってしまう。その矢先、親を亡くしたばかりの赤ん坊と出会い、エリアルと名付けて育てていく……というストーリー。
制作は「true tears」「花咲くいろは」などで岡田さんとタッグを組んできたP.A.WORKS。キャラクター原案は人気ゲーム「ファイナルファンタジー」シリーズなどの吉田明彦さん、音楽は「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」などの川井憲次さんが担当。岡田さんがシリーズ構成を担当したテレビアニメ「凪のあすから」のスタッフが集結した。主人公のマキアの声優を石見舞菜香さん、エリアルを入野自由さんが担当しているほか、茅野愛衣さん、梶裕貴さん、沢城みゆきさん、細谷佳正さん、日笠陽子さん、杉田智和さんらが出演している。
冒頭からイオルフの里の美しさに目を奪われる。長い年月を生きていても少年、少女のままのイオルフの人々もまた美しい。長老ラシーヌの「外の世界で出会いに触れたなら、誰も愛してはいけない」という言葉には切なさがあり、物語の世界観に引き込まれていく。
メザーテ軍に攻め込まれてからは、里を出たマキアと幼いエリアルの親子の物語が描かれる。周囲に助けられながら必死に母親になろうとするマキアには、思わず「頑張れ」とエールを送りたくなる。エリアルが青年に成長して、2人の抱える思いが交錯する場面では、現実の親子がすれ違ってしまうのと同じようなリアルさがあって胸をグッとつかまれる。そういう場面が多かった。マキアとエリアルの関係だけでなく、周囲のキャラクターの内面も丁寧に描かれている。誰かしら共感できるキャラクターを見つけられるのではないだろうか。
そんな一人一人のキャラクターたちを演じる実力派声優陣の演技も素晴らしい。石見さんは自信のない少女から“母親”へ成長していくマキアを演じ切り、入野さんは思春期に差し掛かり素直になれないエリアルを好演している。声優陣の演技、美しい映像、音楽が絶妙にマッチした感動作に仕上がっている。(岡本温子/MANTAN)
「レオン」 知英と竹中直人の心が入れ替わる! 知英のオヤジ演技に爆笑
女優や歌手として活躍する元KARAの知英さんが長編で初主演した映画「レオン」(塚本連平監督)が2月24日から新宿バルト9(東京都新宿区)ほかで公開。地味な派遣社員と女好きのワンマン社長が、事故をきっかけに心が入れ替わったことで巻き起こる騒動を描いている。
清智英さん原案、大倉かおりさん作画の同名マンガが原作。老舗の食品会社「朝比奈フーズ」に勤める地味で消極的な性格の派遣社員・小鳥遊玲音(たかなし・れおん=知英さん)と、年商500億円の朝比奈フーズの女好きワンマン社長・朝比奈玲男(あさひな・れお=竹中直人さん)は、ある日、偶然にも同じ車の事故に巻き込まれてしまう。目が覚めると、性別も地位も性格も、何もかも反対の2人が入れ替わっていて……というストーリー。山崎育三郎さん、大政絢さん、吉沢亮さん、お笑いトリオ「ジャングルポケット」の斉藤慎二さん、ミッツ・マングローブさんらが出演している。
入れ替わりがテーマの映画は数多くあるが、見た目が知英さんで心は竹中さん、見た目は竹中さんで心は知英さんとイメージしながら見ると、2人の弾けた“怪演”っぷりに大笑いしてしまう。若者同士ではなく、若い女性と中年男性の入れ替わりは想像以上にエッジが利いている。知英さんは、ドラマ「オーファン・ブラック~七つの遺伝子」(フジテレビ系)で1人7役を演じていた。今作でも“行き切った”コメディエンヌぶりを発揮するなど、面白い女優になってきている。竹中さんの女子演技もなかなかチャーミングだ。(遠藤政樹/フリーライター)