「007 スペクター」 クレイグ4作目は派手なアクション多め 大人向けの最高級の娯楽作
人気スパイ映画シリーズ「007」の24作目で、主人公のジェームズ・ボンドを今作で4作目となる英俳優ダニエル・クレイグさんが演じる「007 スペクター」(サム・メンデス監督)が12月4日に公開された。今作では悪の組織「スペクター」を追うボンドの活躍が描かれるが、スペクターとはシリーズ第1作「ドクター・ノオ」(1962年)に登場する悪役。ボンドの生い立ちなども描かれ、原点回帰ともいえる胸をすくような痛快なスパイアクションが楽しめる。モニカ・ベルッチさん(51)とレア・セドゥーさん(30)という2世代にわたる2人のボンドガールも映画に華と色を添えている。 少年時代を過ごした「スカイフォール」で焼け残った写真を受け取ったボンド (クレイグさん)。その写真に隠された謎に迫るべく、M (レイフ・ファインズさん) の制止を振り切って単独でメキシコ、ローマへと赴く。そこでボンドは殺害された悪名高き犯罪者の元妻ルチア・スキアラ (ベルッチさん) と出会い、悪の組織スペクターの存在を突き止める。その頃、ロンドンでは国家安全保障局の新しいトップ、マックス・デンビ(アンドリュー・スコットさん) がボンドの行動に疑問を抱き、Mが率いるMI6の存在意義を問い始める。ボンドは秘かにマネーペニー (ナオミ・ハリスさん) やQ(ベン・ウィショーさん)の協力を得てスペクターの手がかりとなるかもしれないボンドの以前の敵、Mr.ホワイト (イェスパー・クリステンセンさん) の娘マドレーヌ・スワン (セドゥさん) を追う……というストーリー。 今作は、冒頭からメキシコの祝祭「死者の日」の雑踏にまぎれて女性とホテルに入ったボンドが、窓から外に出て屋上を走り、テロリストのいるビルにたどり着き、爆破するまでをワンカットで撮影したようなスリリングな映像で見せる。その後もボンドカー「アストンマーチン」に乗り、手に汗握るカーチェイス、ギネス世界記録に認定されたというモロッコ砂漠での大爆破シーンなど映画製作の最前線の技術を駆使し極上のエンターテインメント作品に仕上げている。 派手なアクション演出が多いからか、前作までの眉間(みけん)にしわを寄せ、人間らしく悩む姿も見せるクレイグさん演じるボンドの姿はなりをひそめ、家族写真などで深層心理をついてくる敵の心理作戦も典型的で少し薄味に感じた。ただ、ラストは人間らしいボンドの熱い気持ちが表れており、見ていて胸が熱くなった。 コンピューターを駆使するウィショーさんが演じるテクノロジーの天才「Q」に“メガネ萌(も)え”し、クレイグさんの肉体美にほれぼれ、ボンドガールとの濃厚な絡みにドキドキ、と女性目線の見どころも満載。正月興行らしい大人向けの最高級の娯楽作だ。クレイグさんがボンドを演じる契約は今作までだそうだが、もはやボンドはクレイグさん意外には考えられない。ラストに「ボンド・ウィル・リターンズ」と表示されるが、「クレイグ・ウィル・リターンズ」に期待したい。映画は4日から全国で公開。(細田尚子/毎日新聞デジタル)
「I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE」原作のタッチを尊重したキャラに魅了される
ビーグル犬のスヌーピーとその飼い主チャーリー・ブラウンら「ピーナッツ」の仲間たちをコンピューターグラフィックス(CG)で表現した長編アニメーション「I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE」(スティーブ・マーティノ監督)が12月4日に公開される。製作したのは、「アイス・エイジ」シリーズ(2002年、06年、09年、12年)のブルー・スカイ・スタジオだ。原作者チャールズ・M・シュルツさんの息子クレイグ・シュルツさんが製作と脚本を担当している。日本語吹き替え版では、鈴木福さんがチャーリー・ブラウンの声を、芦田愛菜さんが転校生の赤毛の女の子の声を担当するほか、谷花音さんがルーシーを、小林星蘭さんがチャーリー・ブラウンの妹サリーを演じている。 ある日、チャーリー・ブラウン(声:ノア・シュナップさん/鈴木さん)のクラスに転校生がやって来る。その赤毛の女の子(フランチェスカ・カパルディさん/芦田さん)に一目ぼれした彼は、女の子の気を引こうとさまざまなことにチャレンジするが、なかなかうまくいかない。そんなチャーリー・ブラウンをサポートしつつ、自身は空想の翼を広げるスヌーピー。彼は、第一次世界大戦下のパイロット“フライング・エース”になりきり、パリの空で大冒険を繰り広げる、というストーリー。 1970~80年代にかけて放送された手描きのアニメーションを見ていた人間としては、CGで表現された「ピーナッツ」にはいささか不安を感じていた。ところが、スヌーピーやチャーリー・ブラウンらピーナッツの仲間たちが、かつて慣れ親しんだままの姿で登場したことで、そうした懸念はあっさり吹き飛んだ。それもすべて、コミックの中から魅力的なパーツを選び出し、それを組み合わることで理想的なキャラクターを作り上げるなどした製作陣の努力のたまものだ。雨の描写も、コミックをスキャンし、シュルツさんが描いた雨粒が降っているように見せたという。原作のタッチを損なわない配慮の一方で、スヌーピーが大空を駆け巡る空想の世界は、立体感、躍動感にあふれ、CGの効果が存分に発揮されている。ストーリーに目を転じれば、チャーリー・ブラウンの善良さがにじみ出るエピソードが用意され、彼のことがますます好きになる。また赤毛の女の子のせりふにも感動させられる。粋なオープニングやクリストフ・ベックさんによる音楽にも、ファン心をくすぐられた。4日からTOHOシネマズスカラ座(東京都千代田区)ほか全国で公開。3Dも同時公開。 (りんたいこ/フリーライター)
「杉原千畝 スギハラチウネ」唐沢寿明主演 ユダヤ難民を救った男の決断の裏側に迫る
俳優の唐沢寿明さんの主演映画「杉原千畝 スギハラチウネ」(チェリン・グラック監督)が12月5日に公開される。映画は、第二次大戦中、リトアニア領事としてユダヤ難民にビザを発給し続け、6000人近い人々の命を救ったといわれる外交官・杉原千畝の壮絶な半生を描く。杉原千畝を唐沢さんが演じ、堪能な語学と独自の情報網を武器に「インテリジェンス・オフィサー」(諜報外交官)として任務を遂行していた知られざる一面にも迫っている。 1934年、満洲国外交部で働く杉原千畝(唐沢さん)は、堪能なロシア語と独自の諜報網を駆使し、ソ連との北満州鉄道譲渡の交渉を優位に成立させる。その過程で仲間を失った千畝は、失意のうちに日本に帰国。友人の妹であった幸子(小雪さん)と出会い、結婚した千畝は、在モスクワ大使館への赴任を希望するが、警戒するソ連から入国拒否され、リトアニア・カウナスにある日本領事館に赴任する。千畝は新たな相棒・ペシュと諜報活動を始め、欧州情勢を分析して日本に発信し続けるが、やがて第二次世界大戦が勃発し……というストーリー。 まだまだあまり知られていない偉人や英雄は数多くいる。この映画で取り上げられている杉原千畝も名前は聞いたことはあるが、どういったことをした人物なのかよく知らないという人もいることだろう。かくいう筆者も杉原が“日本のシンドラー”と呼ばれ、ユダヤ難民を救ったという概要しか知らなかったのだが、今作を見て、改めてそのヒューマニズムあふれる行動に心を打たれた。杉原自身の仕事は主にいわゆる諜報活動であり、難民たちを救う理由もなければ、日本政府からユダヤ人を救うことになるビザの発行は許可されていなかった。自身の立場や家族の身の安全などが危うくなる状況で、思い悩みながらも彼らを救うべく決断を下した杉原の行動は、日本人としてだけではなく人間として知っておくべきなのではと感じる。何が正しくて何が間違っているのかは分からないが、少なくとも杉原の決断が多くの人を救ったのは確かだ。静謐(せいひつ)な雰囲気を漂わせた作品ながら、そこには静かに燃える熱さが感じられた。TOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「海難1890」海難事故と邦人救出の二つの事件でひも解く日本とトルコの絆
日本とトルコの合作映画「海難1890」(田中光敏監督)が12月5日に公開される。今作は、1890年に和歌山県串本町沖で起こったオスマン帝国の軍艦「エルトゥールル号」の海難事故と、その95年後にイラン・イラク戦争でテヘランに取り残された日本人をトルコ人が救出したニつの事件をテーマに、日本とトルコの友好関係に迫る。エルトゥールル号の乗員の介抱に尽力する医師・田村元貞を内野聖陽さん演じ、女優の忽那汐里さんが二つの事件のそれぞれのヒロインを1人2役で演じている。 1890年9月、オスマン帝国から日本を訪れていた親善使節団を乗せた軍艦エルトゥールル号は、和歌山県樫野崎沖で台風に遭遇し座礁。海に投げ出されてしまった乗員を救出すべく、医師の田村(内野さん)と助手のハル(忽那さん)ら地元住民が総出で救出活動にあたり……という「1890年エルトゥールル号海難事故編」。そして、1985年、イラン・イラク戦争が起きる中、空爆が続くテヘランに日本人が取り残されてしまい、日本大使館はトルコ政府に救援機の手配を要請。しかし、空港でで救援機を待つ多くのトルコ人たちの姿があり、日本人学校の教師・春海(忽那さん)をはじめ日本人たちは飛行機に乗ることをあきらめかけるが……という「1985年テヘラン邦人救出編」という2部構成。 日本とトルコの友好125周年にあたる2015年、日本の外務省とトルコ政府の全面協力で製作された映画は、国同士の友好関係というものが政治的な対話だけではなく、民間レベルでの交流が不可欠ということを切々と訴えかけてくる。国が違えば文化や歴史など多くの違いがあるものだが、そうした違いを超えて同じ人間なんだということ、人が人を思いやる気持ちというものに国境はないということを示す今作のエピソードには、素直に感動させられた。2部構成ではあるが史実を重視し、丁寧に描いている分、展開は遅めでドラマチックさも抑えめ。だがリアリティーと臨場感を伴った映像表現に圧倒される。奇をてらっていないところに、今作に込められた真心を深く感じた。丸の内TOEI(東京都中央区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「SAINT LAURENT/サンローラン」芸術家の生み出す刹那の美と永遠に続く苦悩描く
モードの帝王と呼ばれたデザイナー、イブ・サンローランの愛と欲望と苦悩の10年間を描いた「SAINT LAURENT/サンローラン」(ベルトラン・ボネロ監督)が、12月4日に公開される。仏セザール賞の10部門でノミネートされ、最優秀衣装デザイン賞に輝いた。自分という“怪物”を抱えるアーティストの光と影を映し出している。 1967年、デザイナーとして時代の寵児(ちょうじ)となったサンローラン(ギャスパー・ウリエルさん)は、著名人の衣装やコレクション準備などの過密スケジュールに追われていた。公私ともにパートナーのピエール・ベルジュ(ジェレミー・レニエさん)の目を逃れて、クラブで息抜きをし、インスピレーションを求めてモロッコへ行く。しかし72年には売り上げが減少。それでもベルジュはさらなる事業拡大に乗り出す。しかしサンローランは重圧からアイデアが浮かばなくなり、酒やドラッグに溺れ、恋人にのめり込んでいく……という展開。 イブ・サンローラン財団の協力を得て製作され、伝記映画の色が濃かったジャリル・レスペール監督の「イヴ・サンローラン」(2014年)とはまた違った味わいだ。映像美や音楽にこだわって35ミリフィルムで撮られたこちらのサンローランは、演じるウリエルさんの魅力が存分に投影されたものになった。シャネルの男性用香水のイメージモデル歴もある美形俳優のウリエルさんは、繊細なアーティスト役にピッタリ。美を追求した果てに退廃に吸い寄せられていく姿を体当たりで演じている。 最先端のファッションはいずれは去る運命にあるが、アイデアを生み出すことは、永遠に続く地獄のようだったのか……。そこは天才にしか分からない苦悩ではあるが、だからこそ、表舞台が華やかに見える。闇夜の街角の静かなシーンとサンローランの苦悩が対照的だ。世界中に店を出すきっかけとなった71年の春夏と、苦悩の後に生み出した76年の“バレエ・リュス”の二つのコレクションをきらびやかに再現し、その一方で、アトリエのお針子の手作業(本職が演じた!)をアップで切り取って、その刹那(せつな)の美を支える職人の姿も丁寧に描写している。サンローランのミューズ役を「007 スペクター」(4日公開)のボンドガールとなったレア・セドゥさん、晩年のサンローランを、ルキノ・ビスコンティ監督作の名優ヘルムート・バーガーさんが演じている。TOHOシネマズシャンテ(東京都千代田区)ほかで4日から公開。(キョーコ/フリーライター)
「映画 ハイ☆スピード!-Free! Starting Days-」中学生らしい“青さ”全開の物語
おおじこうじさんのライトノベル「ハイ☆スピード!」が原作の劇場版アニメ「映画 ハイ☆スピード!-Free! Starting Days-」(武本康弘監督)が12月5日に公開される。「ハイ☆スピード!」を原案に京都アニメーションが制作したテレビアニメ「Free!」は、第1期が2013年7~9月、第2期「Eternal Summer」が14年7~9月に放送。かつて水泳好きだった男子高校生が仲間と水泳部を設立し、ライバルとの戦いを経て泳ぎへの情熱を取り戻していく姿を描いた。完全新作アニメとして映画化された今作では、主人公・七瀬遙らの中学生時代を舞台に、水泳部に入部した遙がメドレーリレーの練習を通してチームになるために必要なことや絆を深めていく物語が繰り広げられる。 水とふれあい、水を感じることに特別な思いを持つ七瀬遙(声・島崎信長さん)は、幼なじみの橘真琴(声・鈴木達央さん)とともに岩鳶中学校へ進学。水泳部に入部した2人は、椎名旭(声・豊永利行さん)、桐嶋郁弥(声・内山昂輝さん)と4人でメドレーリレーのチームを組み試合を目指すことに。4人は考え方も目的も違い、さらにそれぞれ悩みを抱えていて、練習を重ねるがうまくいかず……という展開。 映画はアニメ「Free!」よりも時間軸が少し前で、遙の中学時代のエピソードが描かれており、高校時代の物語であるテレビ版とは趣が異なる。中学生という子ども過ぎず大人すぎない時期のエピソードには、思春期特有の悩みや葛藤があり、成長といった要素も含まれた青春群像劇が楽しめる。中学生らしいピュアさやキラキラ感、いい意味での青さに胸が熱くさせられる。テレビ版でもこだわり抜かれていた水の表現についても、微妙に色合いや表現方法に手が加えられていて、一味違った水の表現がダイナミックだ。「Free!」とのつながりを感じさせる場面も盛り込まれるなどファンサービスな場面も。真琴役の鈴木さんが“Ta_2”として活動する音楽ユニット「OLDCODEX」が主題歌「Aching Horns」を担当している。新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「人狼ゲーム クレイジーフォックス」 高月彩良が初主演 スリリングな心理戦が展開
心理ゲーム「人狼ゲーム」がモチーフにした映画「人狼ゲーム クレイジーフォックス」(綾部真弥監督)が12月5日に公開される。映画は、桜庭ななみさんが主演した「人狼ゲーム」(2013年)、土屋太鳳さんが主演した映画「人狼ゲーム ビーストサイド」(14年)に続くシリーズ第3弾で、最新作では新カード「狐」側の視点で物語が展開する。実写映画では初主演となる女優の高月彩良さんが、ゲーム終了時に生存さえしていれば勝利できる狐のカードを引き当てた主人公・森井あやかを演じ、元AKB48研究生の冨手麻妙さんや、「第22回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」で審査員特別賞を受賞した柾木玲弥さんらフレッシュなキャストが顔をそろえた。 役割を割り振られたプレーヤー同士が、互いに生死を懸けて正体を探り合う“人狼ゲーム”に参加することになった森井あやか(高月さん)。あやかが引いたカード“狐”の勝利条件は「ゲーム終了時に生存していること」で、村人側が人狼を全滅させるか、人狼と村人側が同数になった時点で狐が生き残っていれば狐だけが勝利となる。ゲームには全部12人が集められ、狐のほかに人狼3人、予言者1人、霊媒師1人、用心棒1人と能力を持った役割が割り振られ、残り5人は何も能力を持たない村人に。生き残りを懸けたゲームに挑むあやかだったが、そこで出会った多喜川陽介(柾木さん)に一目ぼれし……というストーリー。 毎回センセーショナルな展開で楽しませてくれる「人狼ゲーム」シリーズの第3弾は、狐のカードを引いたヒロイン側の視点という新たな試みに挑戦している。人狼に襲撃されても死なず、とにかく生き残りさえすれば勝てる狐側の視点は、見ていてハラハラすることは少ないのかと思いきや、予言者の占い対象になると狐は死亡してしまうという条件があるほか、登場人物それぞれがうそを付いたりするなど練りに練られたプロットに引き込まれる。愛情や友情、同情といったあらゆる感情がぶつかり合う様子はスリリングで、誰が人狼で村人なのかを推測しながら見るサスペンス的な雰囲気も楽しめる。頭脳戦と心理戦が行き着く先には衝撃の展開が待ち受け、エンドロールで答え合わせをするまで緊迫感が持続。人間の本性と巧みな仕掛けに酔いしれたい。また、前2作に主演した2人がその後に活躍していることもあり、高月さんの今後に注目が集まる。新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほか全国で順次公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「春子超常現象研究所」 中村蒼が“テレビ役”を演じる異色で不思議な恋物語
「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2015」で期待の映画人に贈られる「ニューウェーブアワード」を受賞した俳優の中村蒼さんの主演映画「春子超常現象研究所」(竹葉リサ監督)が12月5日に公開される。昨年、「さまよう小指」で同映画祭のグランプリを獲得した竹葉監督がメガホンをとり、突然心を持ってしまったテレビと、その持ち主の女性との奇妙な共同生活を描く異色のコメディー。中村さんがテレビ役を演じ、持ち主の女性・春子をモデルで女優の野崎萌香さんが演じている。 突然、心と体を持ってしまったテレビ男(中村さん)は、持ち主の春子(野崎さん)と同居を始め、アルバイトで生計を立てる春子のヒモとして日々を送っていた。やがてテレビ男は仕事を探し始めるが、なかなか見つからずに困っていると、うさんくさいテレビプロデューサー(池田鉄洋さん)にスカウトされ、語学番組のパーソナリティーに抜擢(ばってき)される。12カ国語もの言語を操るテレビ男は語学力を生かして活躍し、人気者となるが、ある日、ふと思い出した自分の記憶を頼りに家族を探す旅に出ようと思い立ち……というストーリー。 「東京難民」(14年)ではシリアスな役を、「トワイライト ささらさや」(14年)ではコミカルな演技を見せてくれた中村さんが、“テレビ”というあまりにもシュール過ぎる役どころに挑戦し、かぶりもの姿で大真面目に行動する姿には思わず笑ってしまう。そんな中村さんの新境地とともに注目は映像面で、ポップな演出とカラフルな色合いがファッショナブルで、小粋なBGMがよく似合う。奇想天外すぎるストーリーは、異色や新感覚という表現では物足りないほどファンタジックで、ドタバタなノリのコメディーではあるが妙に心に残る。特にクライマックス向けて、各キャラクターの本音が浮き彫りになり、笑っているうちに胸を打たれるという不思議な感覚が味わえる。シネ・リーブル池袋(東京都豊島区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)