「シン・ゴジラ」日本政府対ゴジラの攻防 日本映画のスケールを超えた壮大で緻密な作品
怪獣映画「ゴジラ」の12年ぶりの日本版新作「シン・ゴジラ」(庵野秀明総監督・脚本、樋口真嗣監督・特技監督)が7月29日に公開された。人気アニメ「エヴァンゲリオン」シリーズの庵野さんが脚本と総監督、「進撃の巨人」の樋口さんが監督と特技監督を担当したことで話題を呼んでいる。シリーズ初のフルCGで生まれ変わった新たなゴジラの体長は118.5メートルで、これまで最大とされたハリウッド版「GODZILLA」(2014年、ギャレス・エドワーズ監督)の108メートルを10メートル上回るサイズも話題だ。体の大きさだけでなく、日本政府対ゴジラの息の詰まるような攻防戦、社会問題もはらんだゴジラの存在など、これまでの日本映画のスケールをはるかに超えた壮大でかつ緻密な作品に仕上がっている。 東京湾アクアトンネルが轟音と大量の浸水により崩落する事故が発生。首相官邸では閣僚が招集され、緊急会議が開かれた。地震や海底火山の噴火ではないかという意見が占める中、内閣官房副長官の矢口欄堂(長谷川博己さん)だけは海中にすむ巨大生物の可能性を指摘。首相補佐官の赤坂秀樹(竹野内豊さん)をはじめ、周囲は矢口の意見を一笑に付すが、直後、海上に巨大生物の姿があらわになった。 慌てる政府関係者が情報収集に追われる中、巨大生物は鎌倉に上陸。次々に街を破壊しながら進行していく。政府は緊急対策本部を設置し、自衛隊に防衛出動命令を発動する。さらに米国国務省からは、女性のエージェントのカヨコ・アン・パタースン(石原さとみさん)が派遣される。未曽有の脅威に対して、世界からも注目が集まる中、川崎市街で“ゴジラ”と名付けられた巨大生物と自衛隊の決戦の火ぶたが切られる。果たして、人智を超える生物ゴジラに対して、人間たちはなすすべはあるのか……というストーリー。 庵野総監督が徹底的にリサーチして書き下ろしたという脚本のテーマは「現代日本にゴジラが現れた時、日本人はどう立ち向かうのか?」だったという。そのため日本政府の対応など、いわゆる“お役所仕事”的な部分はリアリティーはありすぎて、背筋がうすら寒くなる。ゴジラに立ち向かうキャストは長谷川さん、竹野内さん、石原さんらの主要な人物も含めて総計328人に及び、こんなところにこの人が?と何度か驚かされた。庵野総監督、樋口監督に加え、「進撃の巨人」などで特撮監督を務めた尾上克郎さんが准監督・特技統括を務め、日本映画では異例の3人監督、4班体制、総勢1000人以上のスタッフで大規模撮影を行った。ハリウッドほどの製作費をかけずに人海戦術で大作を生み出すところに日本人らしさが出ていて好感が持てる。 とにもかくにも、最初に出てきたゴジラの予想をはるかに上回る形態にあっけにとられているうちに、政府との攻防戦に巻き込まれたような気持ちにさせられた。せりふの量、内容の情報量も膨大で、いろいろと考えさせられ、後半は頭が疲れてくるほどだ。一度見ただけでは全貌を理解するのは難しい。少なくとも5回は見ないと今作について語れない、というのが実感だ。ただ一ついえるのは「シン・ゴジラ」によって、日本のゴジラ映画が新たな1ページを開いたことは間違いなさそうだ。29日からTOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)で公開。(細田尚子/MANTAN)
「ターザン:REBORN」新ターザンの肉体美と重力をも味方にするアクションにくぎづけ
米作家エドガー・ライス・バロウズによる人気小説を映画化した「ターザン:REBORN」(デビッド・イェーツ監督)が7月30日に公開される。これまで幾度も映像化されてきた物語だが、今作に登場するターザンは、雄叫びを上げながらジャングルを駆け巡る野生児ではない。ロンドンで、美しい妻と裕福な暮らしを送る貴族なのだ。とはいえ“故郷”のアフリカのコンゴに戻ってからは、野生の血がよみがえり、動物と交信したり、ジャングル内を駆け巡ったりするのだが。監督は、「ハリー・ポッター」シリーズ最後の4作品(2007、08、10、11年)でメガホンをとったイェーツ監督。ターザンを演じるのは、米テレビシリーズ「トゥルーブラッド」(08~14年)や映画「メイジーの瞳」(12年)などで知られるアレクサンダー・スカルスガルドさん。ほかにマーゴット・ロビーさん、サミュエル・L・ジャクソンさん、クリストフ・ヴァルツさんらが出演している。 ジャングルで出会った美しい女性ジェーン(ロビーさん)と結婚し、今はロンドンの邸宅で暮らすジョン・クレイトン(スカルスガルドさん)。彼こそが、かつてコンゴのジャングルでゴリラに育てられたターザンだ。今では英国貴族として政府から一目置かれる存在のジョンは、ある日、外交のためにコンゴへ赴くことになる。米国から派遣されたジョージ・ワシントン・ウィリアムズ(ジャクソンさん)とコンゴへ渡ったジョンだったが、同伴したジェーンが、あるわなにかかりさらわれてしまい、彼女を救うためにジャングルに分け入っていく……というストーリー。 ターザンが貴族の出だということを、今回初めて知った。映画は、すでに英国に戻ったターザン=ジョンが、コンゴへの偵察を依頼されるところから始まる。ゴリラに育てられたとはいえ、ここでのターザンは周囲の人間と意志疎通ができ、もちろん言葉をしゃべり、普通に暮らしており、それがとても新鮮に映る。憂いをたたえた瞳が、演じるスカルスガルドさんのそれと重なり、窮屈な衣服を脱ぎ捨て露わになった肉体美には目を奪われた。ジャングル中を駆け巡るのだから、アクション映画の範疇に入ることは承知していたが、ここまで肉体アクションが見られるとは思っていなかった。 動物と会話し、自然をおそれ、敬い、勝手知ったる“我が庭”を縦横無尽に飛び回るターザン。彼にとっては重力すら味方なのだ。その“人間離れ”した動きには圧倒される。彼に必死についていくジョージに同情しながら、ひととき、共にジャングルを冒険している気分になった。なお、俳優の桐谷健太さんが、日本語吹き替え版でターザンの声を担当している。30日から丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほか全国で公開。 (りんたいこ/フリーライター)
「コープスパーティー Book of Shadows」乃木坂46・生駒が再び決死のサバイバルに挑戦
アイドルグループ「乃木坂46」の生駒里奈さんの主演映画「コープスパーティー Book of shadows」(山田雅史監督)が7月30日に公開される。映画は、コミカライズやアニメ化もされたホラーゲームを基に実写化したもので、昨年公開された「コープスパーティー」の続編。前作から半年後、呪いのおまじないで怨霊のすむ異空間に飛ばされた女子高生が、死んだ仲間を取り戻すべく再び悲劇の舞台となった小学校に向かい、新たな事件に巻き込まれる……。主演の生駒さん、俳優集団「D-BOYS」の池岡亮介さん、モデルの前田希美さんら前作からのキャストのほか、石川恋さん、青木玄徳さん、「欅坂46」の石森虹花さんらが新たに今作から出演している。 呪いのおまじない「しあわせのサチコさん」を行い、怨霊のすむ異空間に飛ばされた女子高生・直美(生駒さん)は、幼なじみの哲志(池岡さん)や親友の世以子(喜多陽子さん)など多くの仲間を失った。半年後、直美とあゆみ(前田さん)は、死んだ友だちを取り戻すため、悲劇の舞台となった天神小学校へと向かう。同じおまじないで別の学校からとらわれて来た刻命(青木さん)たちと合流した直美らは、生還への道を模索するが……というストーリー。 前作はゲームシリーズと同じく、血しぶきや内臓といった描写がなかなか衝撃的だったが、今作でも冒頭からグロテスクなシーンが全開で楽しませてくれる。生駒さんや前田さんをはじめ、女性陣の悲鳴はホラー映画には欠かせない要素の一つだが、あまりの怖がりぶりに、なんでもないようなシーンでも何かあるのではと警戒してしまうほどだ。そういったリアクションだけでなく、生駒さん演じる直美は今回、謎解き担当のメインなので、さまざまな表情を見せてくれる。 また、「欅坂46」の石森さんが今作が映画初出演とは思えないほどの演技で、キーパーソンとしていい味を出し、ドラマを盛り上げている。前作以上のインパクトあるラストには思わず言葉を失う。映画内の出来事が三次元で実際に起きたら……と考えると、寒気がしてしまった。主題歌は前作から引き続き、ゲーム・アニメすべてのシリーズに楽曲を提供した歌手で声優の今井麻美さんが担当。新曲「砂漠の雨」を歌っている。30日からシネ・リーブル池袋(東京都豊島区)ほか全国で順次公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「ちえりとチェリー」祖母の古い家で起こるファンタジー世界から命を見つめる
「チェブラーシカ」を日本で復活させた中村誠監督による長編人形アニメーション「ちえりとチェリー」が7月30日から公開される。父親を亡くした少女が、大好きなぬいぐるみのチェリーと大冒険しながら、命について見つめるストーリー。高森奈津美さん、星野源さん、尾野真千子さんらが声優を務める。 幼い頃、父親を亡くしたちえり(高森さん)は、母親(尾野さん)と2人で父親の法事のために久しぶりに祖母の家にやって来た。ちえりの唯一の友達は、ぬいぐるみのチェリー(星野さん)だった。空想の世界の中で、ちえりはチェリーと話ができるのだが、従弟たちにバカにされてしまう。そのことで母親に意地を張ったちえりは、法事に出席せずに祖母の家で留守番となり、不思議な世界に入り込んでいく……という展開。 少女ちえりは、父親を亡くしてから殻の中にこもっている。母親は仕事で忙しい。だから、ぬいぐるみに感情移入するのも分かる。チェリーは友達であって、助言者でもある。ちえりを大きく包み込んでくれる存在だ。物語は、ちえりが留守番する短い時間の中で起こるが、ちえりの過去も内包している。ちえりは独特の世界を持つ芯の強い女の子。キャラクター像が実によく描けている。表情、仕草が、その感情を繊細に表現していて、とても丁寧な作りに感嘆する。 父親の葬儀の時の幼いちえりの所在なさげな様子には、心がギュッとつかまれ、思わず泣けてくる。祖母の家という舞台も存分に生かされており、古い部屋や古い物置などの「何があるか分からない」雰囲気が、好奇心と恐ろしさの両方を刺激してくる。不気味な怪物も出現し、想像を超えた壮大なファンタジー世界が広がっていく。「チェブラーシカ」の造形を手がけたレオニード・シュワルツマンさんがキャラクターデザインに名を連ねている。「それいけ!アンパンマン」など多くのアニメ作品を手掛ける島田満さんが脚本に参加。主題歌はSalyuさんの「青空」。東北3県で先行公開中で30日からユーロスペース(東京都渋谷区)ほかで順次公開。(キョーコ/フリーライター)