「海街Diary」 旬な女優が4姉妹でそろい踏み 鎌倉の自然が際立つ是枝作品
「誰も知らない」(2004年)や「そして父になる」(13年)などの作品で海外でも評価の高い是枝裕和監督の最新作「海街Diary」が6月13日に公開される。13年のマンガ大賞を受賞した吉田秋生(あきみ)さんのマンガが原作で、父の死をきっかけに末の異母妹を加えた4姉妹が鎌倉の古い家で一緒に暮らすことになり、それぞれが自身の居所と家族の絆を見つめ直すヒューマン作。4姉妹の長女を綾瀬はるかさん、次女を長澤まさみさん、三女を夏帆さん、四女を広瀬すずさんと、人気と実力が伴った旬な女優がそろい踏みしているのも話題だ。 鎌倉で暮らす3姉妹、幸(さち/綾瀬さん)、佳乃(長澤さん)、千佳(夏帆さん)の元に、15年前に家を出ていった父の訃報が届く。長い間会ってもいなかった父の葬儀のため山形に向かった3人は、そこで異母妹のすず(広瀬さん)と初めて会う。父の死によって身寄のなくなったすずは、葬儀の場でも大人たちの中でけなげに毅然と振る舞っていた。そんな姿を見て、長女の幸は別れ際、すずに「一緒に暮らさない? 4人で」と誘う。そうして鎌倉での4姉妹の生活が始まった……というストーリー。 是枝監督の作品には、喪失感を抱えた主人公が、周囲の人々との交流の中で自分の居場所を見つけるというテーマが多いように感じる。今作では後半、鎌倉の生活の中で四女のすずが「私、ここにいてもいいんだ」と語るせりふに、この映画に流れるテーマが集約されている。4姉妹の華やかな顔ぶれに期待して映画館に足を運ぶのもいいが、決して派手な映画ではない。自然が多く残る鎌倉の美しい景色を中心に据えた映像の中に、4姉妹それぞれの心情が丁寧に描き出されている。菅野よう子さんの落ち着いたトーンの音楽も飾り気のない映像の美しさを際立たせることに成功している。 4姉妹は今をときめく女優たちが演じているが、それぞれ確かな演技力がなければ作品として成り立たなかっただろう。広瀬さんの若々しく伸びやかな演技や夏帆さんの天然キャラクターもそれぞれにいい味を出している。綾瀬さんが、これまでのイメージを覆す“しっかり者”の長女を演じているのは、意外だったが思いのほか板に付いていた。最も好感が持てたのは長澤さんの思ったことが口から出てしまう次女のキャラクター。大酒飲みでズバズバ言う性格だが、その裏には人のよさや思いやりの深さが感じられ、今回の役柄で同性のファンが増えたのではないかと思うほど。脇を固める樹木希林さん、風吹ジュンさん、大竹しのぶさんらの演技力はいわずもがなで、スクリーンの中の人物たちにいつの間にか感情移入し、自然と涙がほおを伝っていた。映画は13日からTOHOシネマズ日劇(東京都千代田区)ほか全国で公開。(細田尚子/毎日新聞デジタル)
「ハイネケン誘拐の代償」 ホプキンス怪演 若い犯人グループが翻弄される
1983年に実際に起きた、オランダの大手ビール会社の経営者の誘拐事件をモチーフに描いた「ハイネケン誘拐の代償」(ダニエル・アルフレッドソン監督)が6月13日から公開される。エミー賞受賞の犯罪ジャーナリスト、ピーター・R・デ・ブリーズさんのベストセラーを基に映画化。オスカー俳優のアンソニー・ホプキンスさんの怪演と若手俳優との共演が見ものだ。 1983年のアムステルダムが舞台。会社が破産し、銀行から融資を断られたコル(ジム・スタージェスさん)は、妻ソーニャ(ジェマイマ・ウェストさん)との間に子どもが生まれる予定で、人生に行き詰まり、幼なじみの仲間たちとともに、世界的ビール会社であるハイネケンの経営者フレディ・ハイネケン(ホプキンスさん)の誘拐を企てる。銀行強盗をして資金を調達し、お抱え運転手とともにハイネケンをアジトに拉致。思惑通り、プロの犯罪組織の仕業に見せ掛けることに成功した。だが、落ち着きはらったハイネケンの態度に翻弄(ほんろう)され、追い詰められていく……という展開。 この映画はシンプルだ。犯罪映画によくある人質の家族や警察の動きなどの背景を取り払って、若い犯人グループの絆が崩壊していくさまに焦点を当てている。人質になった大富豪・ハイネケンの落ち着きはらった態度と、警察の静観の構えにおろおろし、主導権を握れなくなっていくリーダーのコルの焦りと、存在感抜群のホプキンスさん演じるハイネケンとの対比が面白い。若造VS大物といった様相だ。世界的経営者であるハイネケンは、監禁され、たとえ鎖につながれても、ひるむことはなく堂々としている。「ハムサンドではなく棒々鶏(バンバンジー)を」と食事にも口を出し、本の差し入れも要求する。一方、別段凶悪犯でもなく、家族思いの普通の人間であるコルたちは、自分たちが犯した罪の大きさにのみ込まれていく。思わずハイネケンにぐちるコルに、ハイネケンが深い一言を言い放つ。実際にはいまだ金の行方は知れず、謎の多い事件のようだが、犯人たちが大切なものを失ったことには違いない。犯人グループの一員役には、「鑑定士と顔のない依頼人」(2013年)のスタージェスさんのほか、「アバター」(09年)で主演したサム・ワーシントンさん、期待の新人トーマス・コックレルさんなどが演じている。新宿バルト9(東京都新宿区)ほかで13日から公開。(キョーコ/フリーライター)
「白魔女学園 オワリトハジマリ」 でんぱ組主演映画第2弾 少女たちの戦いと絆が熱い
アイドルグループ「でんぱ組.inc」が主演した映画「白魔女学園 オワリトハジマリ」(坂本浩一監督)が6月13日に公開される。2013年に公開された映画「白魔女学園」の続編で、平成仮面ライダーシリーズやスーパー戦隊シリーズなど特撮作品で知られる坂本監督がメガホンをとり、アニメ「けいおん!!」や「ガールズ&パンツァー」などの吉田玲子さんが脚本を手がけている。白魔女として覚醒した少女の前に黒魔女や謎の赤い男たちが現れ繰り広げられる新たな戦いを、コンピュータグラフィックス(CG)を駆使したアクションシーン満載で描いている。 心が傷つき、痛みを抱えた少女たちを迎え入れる白魔女学園で、訓練(エチュード)を経て白魔女となった少女・もが(最上もがさん)は、世界を救うために旅立ち、もう1人の白魔女・りな(小池里奈さん)と出会う。しかし、りなは白魔女を敵視し、魔力で新たな世界を創造しようとする黒魔女たちに捕らわれてしまう。もがはりなを救うため黒魔女学園へ潜入するが、かつて白魔女学園で共に過ごした少女たちが立ちはだかり……というストーリー。 傷ついた少女が世界を救う物語というコンセプトはそのままに、世界観が前作からスケールアップし、少女たちによる熱いドラマに磨きがかかっている。アクションシーンにも坂本監督らしい演出が随所に見られ、1対1のバトルだけでなく、大人数でのアクションも盛り込まれ、全体的に迫力や壮絶さが増し物語にアクセントを与えている。でんぱ組.incのメンバーが、役者として、普段アイドルして活動しているときとは異なる表情を数多く見せていることに加え、マニア心をくすぐるような演技や場面もあり、ファンならずとも楽しませてくれる。新キャストの小池さんによる熱演と“やられ”ぶりが印象的で、個性あふれるキャラクターがそろう中でも群を抜いて光っている。登場人物の配置や関係、ストーリー展開のバランスが取れた佳作だ。新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「しあわせはどこにある」 中年の危機を迎えた少年のような精神科医の冒険旅行
フランスの精神科医フランソワ・ルロールさんが書いたストーリーを軸に映画化した「しあわせはどこにある」(ピーター・チェルソム監督)が6月13日から公開される。行き詰った精神科医の男性が、真の幸せを求めて世界を旅する物語。北米、欧州、アジア、アフリカの四つの大陸にまたがって撮影された。 完璧な恋人のクララ(ロザムンド・パイクさん)とロンドンで一緒に暮らす精神科医のヘクター(サイモン・ペッグさん)は毎日、患者たちの不幸話を聞き続けるうちに、自分の価値を見失いかけていた。自分も幸せではないのに、患者たちをどう幸せにしたらいいのだろうか。幸せとはなんなんだろう、と。その答えを求めてへクターは旅立つ。中国、チベット、アフリカ、米国……旅先で出会った幸せのヒントを手帳に書き留め、時に危険な目に遭いながら、旅の終わりに見つけた答えとは……というストーリー。 中年男ヘクターの、幸せ探しの冒険談だ。精神科医のヘクターは、職業柄、毎日毎日同じ部屋の中で、他人の不幸話を聞かされている。そして、自分に価値が見いだせない「中年の危機」を迎えたようだ。中国で魅惑的な女性と出会ったり、アフリカで旧友を訪ねたり、人と出会い、さまざまなことが巻き起こる陽気な世界旅行をするヘクターは、まるで童話の主人公のようだ。何せネズミを友達にするシーンもあるのだから。だまされたり、かなり怖い目にも遭うが、そこはヘクターの無邪気で少年っぽい部分がより際立つシーンに仕上がっている。「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」(2013年)のペッグさんというコメディー俳優を得て、人間味あふれる可愛らしい人物像が描かれている。いい年してこのオジサンは!と笑いながら、自分への自信のなさや、過去の大失恋を引きずっているところや真面目に人生を探求する姿に共感を抱く男性も多いだろう。「ゴーン・ガール」(14年)でスターダムにのし上がったパイクさんが、キュートな恋人役で出演しているほか、クリストファー・プラマーさん、ジャン・レノさん、ステラン・スカルスガルドさん、トニ・コレットさんら豪華俳優陣が脇を固めている。シネマライズ(東京都渋谷区)ほかで13日から公開。(キョーコ/フリーライター)
「画家モリゾ、マネの描いた美女~名画に隠された秘密」 名画モデルの女性に迫る
女性画家べルト・モリゾの人生を美術史とともに描いた映画「画家モリゾ、マネの描いた美女~名画に隠された秘密」(カロリーヌ・シャンプティエ監督)が6月13日に公開される。仏画家エドアール・マネの作品「すみれの花束をつけたベルト・モリゾ」のモデルとして知られるモリゾは、印象派の誕生に関わるなど自身も画家として活動。映画では、モリゾがマネと出会い、一人の女性として成長していく姿が描かれる。女性、そして画家というそれぞれの立場で揺れる心情に加え、数々の名画の紹介やその制作秘話なども興味深い。 1865年、パリ16区に暮らす女性画家ベルト・モリゾ(マリーヌ・デルテリムさん)は、サロンへの入選を目指し作品作りに取り組んでいた。ある日、すでに美術界では名をなしていたマネ(マリック・ジディさん)と出会い、モデルを依頼されたモリゾは、マネのアトリエに通うようになり……というストーリー。 モリゾは、最近の研究で印象派の誕生からの中心人物として発展に深く関与してきたことが分かり、美術史においてその重要性が評価されはじめている。一般的には名画のモデルという印象が強く、モリゾ自身については謎が多いが、実話を基にモリゾの実像をひもといていくさまは興味深い。映画はとてもシンプルな構成で、モリゾの視点で印象派の誕生の瞬間を語りつつ、夢や仕事と結婚の間で悩む女性の姿も描かれ、時代や世代を問わないテーマに共感が持てる。さらにキーマンの一人であるマネの作品も数多く登場し、制作秘話も盛り込まれるなど、美術ファンにはたまらない場面も。モリゾの苦悩と成長を描いた人間ドラマの深みと、名画のバックボーンを彩るエピソードを、優雅で流麗な雰囲気をかもし出す映像とともに酔いしれたい。YEBISU GARDEN CINEMA(東京都渋谷区)ほか全国で順次公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「弱虫ペダルRe:ROAD」 自転車競技の全国大会ゴールまでを新規カットを交え再編集
自転車競技をテーマにしたテレビアニメ「弱虫ペダル」の第2期「GRANDE ROAD」の総集編となる劇場版アニメ「弱虫ペダルRe:ROAD」(鍋島修監督)が6月12日に公開された。「弱虫ペダル」は、渡辺航さんがマンガ誌「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)で連載中の自転車マンガが原作で、アニメ第1期が2013年10月~14年6月に、第2期が14年10月~15年3月に放送された。総集編では、全国大会(インターハイ)の激闘を中心に、ゴールを切るまでの様子を新規カットを交えて描いている。 総北高校入学をきっかけに自転車ロードレースの世界に足を踏み入れたオタク少年・小野田坂道(声・山下大輝さん)は、チームメイトの今泉俊輔(声・鳥海浩輔さん)と鳴子章吉(声・福島潤さん)らチームメートと競い合いながら成長し、インターハイのメンバーに選ばれる。各チームのメンバーがそれぞれの思いを抱える中、レースの幕が上がり……というストーリー。 テレビアニメ第2期の総集編という位置づけの今作だが、昨年公開されたアニメ第1期の総集編「弱虫ペダルRe:RIDE」と同じく、新規カットも盛り込んで再編集されており、物語をまた違った角度から味わうことができる。第2期は濃すぎるほどの魅力があふれ出る各キャラクターの思いが錯綜(さくそう)しながらレースが繰り広げられていただけに、名場面を中心にゴールまでのデッドヒートが振り返られるのはうれしい。相変わらずのスポ根全開の熱量が心地よく、手に汗握る激烈なレース展開には、たとえ結果が分かっていても熱狂してしまう。爽やかな感動の余韻とともに、8月に公開される原作者自らがストーリーを書き下ろした劇場版アニメへの期待に胸がふくらんだ。TOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)ほかで25日までの2週間限定で公開。(遠藤政樹/フリーライター)