「KANO 1931海の向こうの甲子園」 臨場感ある野球のシーンにくぎ付け
俳優の永瀬正敏さんが主演し、日本統治時代の台湾から甲子園に出場し決勝まで勝ち進んだ伝説のチームの軌跡を描いた台湾映画「KANO 1931海の向こうの甲子園」(マー・ジーシアン監督)が1月24日から全国で公開される。 日本統治時代の台湾・嘉義農林学校の弱小野球部に、日本人監督・近藤兵太郎がやってくる。兵太郎はスパルタ式訓練で鬼監督として恐れられながらも「甲子園出場」を目標に掲げ、台湾人、台湾原住民、日本人の3民族で構成されたチームは快進撃を見せる。1931年夏、甲子園の土を踏んだ嘉義農野球部「KANO」は次々と強豪を破る。ダークホースの台頭にマスコミや観衆は熱狂した。決勝戦の当日、呉投手が不調に陥り、呉が握るボールは血まみれになっていて……という展開。近藤の妻役で坂井真紀さん、台湾の農業発展に貢献した技術者の八田與一を大沢たかおさんが演じる。 巨大セットで見事に再現された戦前の甲子園球場や嘉義の街並みの美しさが印象的で、“暗い時代”でも人々の生活が確かにそこにあり、喜びも悲しみも含んだ人々の生活が営まれていたということに改めて気付かされる。選手たちは野球経験者をオーディションして決めたという通り、野球のシーンは臨場感にあふれ、試合の行方に思わず手に汗を握った。選手の少年時代の淡い恋や、厳しい生活の中、野球を続けることに悩む若者の姿なども描かれ、メリハリのあるストーリーが展開する。3時間5分の上映時間は長く感じなかった。24日から新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開。(堀池沙知子/毎日新聞デジタル)
「ビッグ・アイズ」実在のゴーストペインターの反撃描くバートン監督の痛快作
「アリス・イン・ワンダーランド」(2010年)や「フランケンウィニー」(12年)などの作品で知られるティム・バートン監督の最新作「ビッグ・アイズ」が1月23日から全国で公開される。1960年代の米国で一大ブームを巻き起こした絵画「ビッグ・アイズ」シリーズ。その“作者”として一躍有名になったウォルター・キーンだったが、実は、一連の作品はすべて、彼の妻マーガレットが描いたものだった! そんな驚くべき事実を、「イングロリアス・バスターズ」(09年)、「ジャンゴ 繋がれざる者」(12年)のクリストフ・ヴァルツさんと、「魔法にかけられて」(07年)、「アメリカン・ハッスル」(13年)のエイミー・アダムスさんの共演で描く。バートン監督らしからぬオーソドックスな演出で、従来のファンタジックでエキセントリックな作風とは趣を異にする仕上がりになっている。 1958年の米国。夫の暴力から逃れ、幼い娘を連れてサンフランシスコにやって来たマーガレット(アダムスさん)は、絵の才能を生かし、広場で人々の似顔絵を描き始める。彼女が描く絵は、どれも目が大きくデフォルメされているという特徴があった。マーガレットは気さくに話しかけてきたウォルター(ヴァルツさん)と意気投合し、やがて再婚する。ところが、マーガレットが描く絵が話題になった頃から、ウォルターの言動がおかしくなる。口のうまいウォルターは、マーガレットに“ゴースト・ペインター”を務めさせ、彼女の作品を、さも自分が描いたように振る舞い始めた……という展開。 出会った当初は社交的で、プロポーズの言葉もしゃれていて、とてもすてきな男性に見えたウォルター。あのヴァルツさんが演じるくらいだから、“そのまま”で済むはずがないとは思ったが、まさか“詐欺師”だったとは! いや、詐欺師より性質が悪い。なぜなら、詐欺師は自分が愛情を感じない第三者をだますが、ウォルターは大衆を欺くと同時に自分の大切な人(と本人は思っていないのだろうが)を苦しめ、傷つけていたのだから。“サイテー男”のウォルターを見ながら、「そこに愛はあるのか?」「画家としてのプライドはないのか?」と煮えくり返った。それだけに、自分を押し殺して絵を描き続けたマーガレットがやがて目覚め、立ち上がり、反撃する姿にはスカッとした。23日からTOHOシネマズ有楽座(東京都千代田区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)
「ANNIE/アニー」ミュージカルの映画版 ウォレスの弾ける笑顔に元気がもらえる
ブロードウエーミュージカル「アニー」を基にした映画「ANNIE/アニー」(ウィル・グラック監督・製作・脚本)が1月24日から公開される。ミュージカルの舞台だった1933年から現代のニューヨークに舞台を移し、映画用に新しい曲も登場する。映画化されるのは1982年以来2度目。アニーを演じるのは「ハッシュパピー/バスタブ島の少女」(2012年)で米アカデミー賞主演女優賞に最年少でノミネートされたクワベンジャネ・ウォレスさん。 ニューヨーク、マンハッタンに住むアニー(ウォレスさん)は10歳の元気な女の子。補助金目当てで身寄りのない女の子を育てる元歌手のミス・ハニガン(キャメロン・ディアスさん)の家に、4人の少女とともに暮らしている。アニーは、失踪した両親に再び会えるという希望を持ち続けていた。ある日、携帯電話会社のCEO、ウィル・スタックス(ジェイミー・フォックスさん)に出会ったアニー。スタックスは選挙での支持率を上げるために、アニーの境遇を利用して一緒に暮らし始めるが……という展開。 不況の時代、夢と希望を忘れない少女アニーの物語。街中を縦横無尽に駆け回る姿やニューヨーク上空をヘリで飛ぶシーンが見られるのは映画ならでは。ウォレスさんの弾けるような笑顔から元気がもらえる。現代版アニーの前に現れる大富豪スタックスは、超高層ビルに住んでいるモバイル会社の社長。演じるフォックスさんは「ドリームガールズ」(06年)の歌唱でも知られ、確かな歌声で魅了する。超クールだが温かみのないスタックス家のキッチンで、少しずつ2人が心を通わせるシーンに心がほっこりする。ミュージカル初挑戦のディアスさんが、これまでにないはすっぱな女性役で出演している。プロデューサーはウィル・スミスさん、ジェイZさんら。名曲の数々も現代的なアレンジが効いていて思い切り楽しめ、サウンドトラックが欲しくなる。TOHOシネマズ日本橋(東京都中央区)ほかで24日から公開。(キョーコ/フリーライター)
「シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア」 共同生活するバンパイアたちのゆるい日常
現代社会で共同生活を送るバンパイアの日常を描いた「シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア」(タイカ・ワイティティ監督、ジェマイン・クレメント監督)が24日に公開される。架空の出来事をドキュメンタリー風に表現する「モキュメンタリー」タッチで、個性豊かなバンパイアらの暮らしぶりをユーモラスに描いている。バンパイア映画としては斬新で異色の設定が好評を博し、トロント国際映画祭、メルボルン国際映画祭など各国の映画祭で観客賞を受賞。奇妙で陽気なバンパイアらの共同生活から巻き起こる騒動の数々には笑いと“ゆるさ”が詰まっている。 379歳のヴィアゴ(タイカ・ワイティティさん)、183歳のディーコン(ジョナサン・ブローさん)、862歳のヴラド(ジェマイン・クレメントさん)、8000歳のピーター(ベン・フランシャムさん)の4人のバンパイアは、ニュージーランドの首都ウェリントンで共同生活を送っている。演奏会やダンスをしたり、郊外に飛んでいってはパブで遊び倒すなど、自由気ままに楽しい日々を過ごすバンパイアたち。ある日、ピーターが大学生のニック(コリ・ゴンザレス・マクエルさん)をうっかりかんでしまい、バンパイアに変えてしまう。さらにニックが人間の親友であるスチュー(スチュー・ラザフォードさん)をシェアハウスに連れてきたことで騒動が起き……という展開。 ジャンルとしてはホラーコメディーにあたるのだろうが、まったくもってホラーの要素はないに等しい。たまにグロテスクな描写もあるにはあるが、それを上回るほどのゆるい笑いの応酬に、息つく暇もないほど笑わされてしまう。物語の設定からして、シェアハウスで共同生活を送るバンパイアらをテレビクルーが取材するというもので、まるでバンパイアたちの密着ドキュメンタリーを見ているような気分にさせられる。随所にはさみ込まれるバンパイアへのインタビューも笑える小ネタが満載。逆に笑いが満載過ぎて、もはや笑い切れないという不思議な感覚に陥ってしまった。これまでのバンパイア映画のパロディーもふんだんにはさみ込まれているので、バンパイアファンにはそのことでも満喫できる。バンパイア映画の名作は数多くあれど、現代っぽさとバンパイアがうまく融合し、いい意味でB級感が漂う、ゆるい作風が心地いい。24日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「中島みゆき『縁会 2012~3 劇場版』」 27年ぶり披露「世情」ほか全20曲を熱演
シンガー・ソングライターの中島みゆきさんのコンサート映像を映像化した劇場版シリーズ第5弾となる「中島みゆき『縁会 2012~3 劇場版』」が1月24日に公開される。中島さんが2012年10月から13年5月にかけて全国13会場で開催したコンサートツアー「縁会 2012~3」を映像化。数々のヒット曲に加え、27年ぶりにコンサートで演奏された「世情」も収められている。中島さんの独特の世界観と歌声、そして圧巻のパフォーマンスをまるでライブ会場の最前列にいるかのような臨場感で堪能できる。 中島さんは、12年10月25日にコンサートツアー「縁会 2012~3」をスタート。13年5月23日の大阪フェスティバルホール(大阪市北区)のこけら落とし公演まで、全国13会場で29公演を行った。ミリオンヒットを記録した「空と君のあいだに」、「地上の星/ヘッドライト・テールライト」をはじめ、ニュース番組「NEWS 23」のエンディングテーマ「最後の女神」や「時代」といった名曲の数々を全20曲熱唱。音声は大迫力の5.1chサラウンドで収録されている。 中島さんの劇場版シリーズも「中島みゆきLIVE&PV 歌姫 劇場版」「中島みゆきLive 歌旅 劇場版」「中島みゆき 雛まつり」「中島みゆき『夜会 Vol.17 2/2』劇場版」に続き5作目。劇場版のいいところは、なんといっても鑑賞環境のよさに尽きる。実際のコンサート会場では座席位置の当たり外れが発生してしまうこともしばしばだが、かぶりつきの映像で楽しめる劇場版はファンならずともうれしい限り。それにしても中島さんの歌唱力には本当に圧倒させられる。力強い声で歌ったかと思えば、また別の楽曲は透明感あふれる歌声だったりと、歌唱力だけでなく楽曲ごとにイメージがまったく異なる歌い方を披露するなど、感動と驚きが尽きることがない。今作では27年ぶりという「世情」を演奏する貴重な映像も見られるなど、珠玉の名曲と素晴らしいパフォーマンスに酔いしれたい。24日から丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)