「バクマン。」 佐藤健&神木主演でジャンプ大ヒットマンガを実写化 迫力の作画シーン
大ヒットマンガ「DEATH NOTE(デスノート)」でコンビを組んだ原作・大場つぐみさん、マンガ・小畑健さんによる作品が原作の実写映画「バクマン。」(大根仁監督)が10月3日から公開される。佐藤健さん、神木隆之介さんのダブル主人公が、コンビを組んでマンガ誌「週刊少年ジャンプ」で連載する苦悩や喜びなどが描かれている。ライバル役で出演する染谷将太さんをはじめ、桐谷健太さん、山田孝之さん、小松菜奈さん、リリー・フランキーさんなど豪華俳優陣が顔をそろえた。マンガのコマを融合させた独特のビジュアルで描かれる作画シーンや「友情・努力・勝利」の“ジャンプ3原則”を地でいく「少年マンガ」の王道的な感動ストーリーが見どころだ。 平凡な高校生のサイコーこと真城最高(佐藤さん)はある日、クラスメートで秀才のシュージンこと高木秋人(神木さん)に、ひそかに憧れていたクラスメートの亜豆(小松さん)を描いた絵を見られ、一緒にマンガ家になることを持ちかけられる。初めは取り合わなかったサイコーだが、声優になることが夢という亜豆を前に「マンガ家になってアニメ化されたらヒロイン役で声優に出る」ことを約束してもらい、シュージンと「ジャンプ」で連載しアニメ化されることを目標にマンガ家を目指す。「ジャンプ」での連載が決まったサイコーとシュージンは、同じ高校生マンガ家の天才・新妻エイジ(染谷さん)や兄貴肌の福田(桐谷さん)、脱サラした平丸(新井浩文さん)らとともに切磋琢磨(せっさたくま)しながら「ジャンプ」の読者アンケート1位を目指すが……というストーリー。2人を支える編集者役で山田さん、「ジャンプ」編集長役でリリーさん、亡くなったおじの川口たろう役で宮藤官九郎さんらも出演している。 「ドラゴンボール」や「スラムダンク」などの大ヒット作が連載され発行部数が600万部を突破したころの「ジャンプ」を愛読していた世代としては、冒頭の「ジャンプ」紹介シーンから早くもくすぐられる。作品内には「スラムダンク」をはじめ有名マンガへのオマージュと思われる小ネタがところどころにちりばめられており、マンガ好きなら誰もが思わずニヤリとさせられるだろう。観賞前は、原作はせりふが多いし、見せ場の作画シーンも場面的には地味なので実写にするには難しいのではと思っていたが、低い位置や頭上からの目線など、いくつかの角度からのアップや効果音、さらに浮き上がる絵柄やプロジェクションマッピングを融合させた独特の演出も駆使することで迫力ある作画シーンを作り出している。 発表時には「逆では?」と話題になったサイコーとシュージンのキャスティングも違和感はなく、福田役の桐谷さん、川口たろう役の宮藤さん、佐々木編集長役のリリーさんなどもハマり役。個人的には、ビジュアル的な共通点こそ少ないが編集者らしさが漂っている服部役の山田さんの演技がよかった。サイコーとシュージンがコンビを組んでマンガ家を目指し、賞を獲得するまでの展開はバタバタとやや駆け足で進んだように感じたが、後半はライバルたちと共闘しながら進む、まさに「友情・努力・勝利」を地で行くようなストーリーで引きこまれた。“マンガ”題材の映画らしいエンドロールも必見。見逃さないように。3日からTOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開。(河鰭悠太郎/毎日新聞デジタル)
「岸辺の旅」 浅野忠信と深津絵里が夫婦役でダブル主演 死んだ夫めぐる旅物語
第68回カンヌ国際映画祭で「ある視点部門」の監督賞を受賞した映画「岸辺の旅」(黒沢清監督)が10月1日に公開された。今作は、湯本香樹実(ゆもと・かずみ)さんが2010年に発表した小説が原作で、3年間も失踪(しっそう)していた夫が突然帰宅し、夫婦そろってその間に世話になった人たちを訪ねながら愛を深めていく姿が描かれる。俳優の浅野忠信さんと女優の深津絵里さんがダブル主演を務め、初めて夫婦役を演じている。旅の途中で出会う人々には小松政夫さん、蒼井優さん、柄本明さんら演技派がそろう。 3年前に失踪した夫の薮内優介(浅野さん)が突然帰ってきて、妻の瑞希(深津さん)に自分は死んだと告げる。優介に誘われ旅に出た瑞希は、優介が過ごした3年の間、お世話になった人々を訪ね歩く。空白の3年間をたどるように旅するうちに、瑞希と優介は、それまで知らずにいた秘密にも触れることに。そして、お互いへの深い愛を改めて感じる2人だったが、瑞希が優介を見送る時が次第に近付き……というストーリー。 今作はとても奇妙な物語で、不思議な再会を果たした夫婦が旅をする姿からは、愛や時間というものの切なさを痛切に感じた。浅野さん演じるひょうひょうとした雰囲気の中にも悲しさを醸し出す夫と、深津さん演じるけなげで深い愛情を胸に秘めた妻の姿は、どこにでもいそうなのにどこか神秘的な雰囲気も漂わせ、残された者と死んでしまった者というスピリチュアルなテイストにマッチしている。今作は、夫婦のバックボーンの説明や回想シーンなどはなく、妻である瑞希の不安や喜びといった生々しいまでの感情を中心に描いていることに驚かされる。だからこそ、生と死というものは限りなく断絶しているものではあるけれど、死んでしまった人は存在は消えたのではなく確かにあり、形は変われどともに生きていくという誠実さと涙ぐましさが強く胸を打つのではないだろうか。自分がどういった人間であるかは人生が終わってみてから気づくのであれば、今作のような伝える術があると、すてきかもしれない。テアトル新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「罪の余白」 娘の不可解な死を探る父親VSスクールカースト1位の女子高生
娘の不可解な死の真相を探る行動心理学者の父親と死の鍵を握る同級生の少女の心理戦を描いた「罪の余白」(大塚祐吉監督)が10月3日から公開される。原作は、野生時代フロンティア文学賞を受賞した芦沢央さんのデビュー作。復讐に燃える父親を内野聖陽さんが熱演している。 妻に先立たれた安藤聡(内野さん)は、娘の加奈(吉田美佳子さん)と2人で仲よく暮らしてきた。ところがある日、加奈が学校のベランダから落ちて死んでしまう。大学で行動心理学を教えている聡は、娘の異変に気づくことができなかったと後悔する。娘の日記を読み、いじめに合っていたことを知った聡は、死の手がかりをつかむために高校の学園祭を訪れる。そこで、娘の日記に記されていた少女・咲(吉本美憂さん)が、自分をだましていたことに気づく。しかし、咲はひるむことなく安藤をわなに陥れようとして……という展開。 キリキリとした心理戦が続く。操る者と操られる者が、どう逆転していくのかが気になる。娘を亡くした父親のエモーショナルな行動も見どころだ。父親の聡は、娘を失ったことで自分を責め、酒におぼれて無残な姿になり、大いに涙を流して復讐(ふくしゅう)の鬼となる。咲はそんな聡を挑発し、あの手この手で卑劣なわなを仕掛ける。ベテラン内野さんの気迫ある芝居に、吉本さんも体当たりの演技で対抗した。咲は感情を取り乱すことはほとんどなく常に平静を保っている。だからこそ憎々しい。吉本さんは第13回全日本国民的美少女コンテストのグランプリを受賞した。狡猾(こうかつ)で冷徹で、同級生たちを従えるカリスマ性のある咲を、声色を変えながら繊細に演じている。ふとした表情にこの少女の孤独もかいま見られ、彼女のプライドが崩れる瞬間は見逃せない。聡と咲がお互いに追い詰められていく様子が、学校の上層階や高層マンションといったロケーションの中で語られ、緊迫感も倍増している。曇った海の色も印象深い。聡を支える職場仲間を谷村美月さんが好演しているほか利重剛さん、加藤雅也さんらが出演している。TOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)ほかで3日から公開。(キョーコ/フリーライター)
「ドローン・オブ・ウォー」 無人戦闘機ドローンの実態と対テロ戦争の真実を描く
米軍の無人戦闘機ドローンの実態に迫る映画「ドローン・オブ・ウォー」(アンドリュー・ニコル監督)が10月1日に公開された。映画は、ドローンとその操縦士の日常にスポットを当て、クリック一つでミサイルを発射する男の姿を通して対テロ戦争の知られざる真実を映し出す。「ガタカ」(1998年)のニコル監督とイーサン・ホークさんが再びタッグを組み、まるでゲームのように進んでいく現代の戦争のありさまを、任務の中で苦しむ主人公の姿や家族との関係を交えつつリアルに描いている。 米国空軍のトミー・イーガン少佐(ホークさん)は軍事パイロットでありながら、ラスベガスの基地にあるコンテナ内でドローンを遠隔操作し、1万キロ余りも離れた異国でのミッションを遂行している。トミーは任務を終えると美しい妻・モリー(ジャニュアリー・ジョーンズ)と幼い子供たちが待つマイホームへ帰る日々を送っていたが、ゲームのようにミサイルを発射するなど現実感が欠落した任務に神経をすり減らしていき……という展開。 話題を集めているドローンを扱った今作は、テロリストを一掃するために導入された軍事用ドローンの運用状況を実話をベースに描いている。つまり、スクリーンに映し出されている内容は決して空想物語ではなく、事実に即した科学であり、現実だと思い知らされる。戦争映画ではあるが戦闘シーンやアクション、兵士たちのサバイバル描写すらない。むしろストーリーは安全な部屋の中で画面に向かって発射ボタンを押す様子と、家族との日常を行き来する男の姿を中心に淡々と進んでいく。この展開からは、不条理さや無力さを突きつけられる。自らの命を危険にさらさず、家族にとっても安否を気づかわなくてもいいドローンの遠隔操作による攻撃は、ある種の理想的な戦い方といえなくもない。しかし、そこには現実感を伴わない行為に苦悩する操縦士の心情が隠されており、これまでとは違った戦場の狂気が存在し、対テロ戦争の矛盾をはじめ現代の戦争の異常さに気付かされる。TOHOシネマズ六本木(東京都港区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「劇場版 蒼き鋼のアルペジオ −アルス・ノヴァ− Cadenza」 完全新作でフィナーレ
アニメ「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」の劇場版アニメ第2弾となる「劇場版 蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-Cadenza(カデンツァ)」(岸誠二監督)が10月3日に公開される。「蒼き鋼のアルペジオ」は、マンガ家ユニット「Ark Performance」が「ヤングキングアワーズ」(少年画報社)で連載中の海洋SFマンガが原作で、2013年10~12月にテレビアニメが放送され、今年1月にはテレビシリーズを再編集した劇場版第1弾が公開された。続編となる今作では大戦艦「ヒエイ」率いる霧の生徒会や、さらなる敵との戦いを完全新作のエピソードで描き、迫力満点の海上バトルが繰り広げられる。 大戦艦「コンゴウ」を旗艦とする霧の東洋方面第一巡航艦隊との壮絶な決戦をくぐり抜け、「イ401」の艦長・千早群像(声・興津和幸さん)らはサンディエゴに「人類の切り札」を届けることに成功する。そして「霧の生徒会」会長・大戦艦ヒエイとの交戦中、群像は死んだと思われていた父・翔像(声・中田譲治さん)の生存を知り、霧による海洋封鎖の理由や父との再会を目指して北極海へと向かう。一方、メンタルモデルとして成長してきたイオナ(声・渕上舞さん)は、ウラジオストクで自らの出自を知り……というストーリー。 テレビシリーズの総集編に新作エピソードを加えた前作「劇場版 蒼き鋼のアルペジオ アルス・ノヴァ DC」の完成度も高かったが、全編オリジナルストーリーが展開される今作は、まさに“最終章”にふさわしい仕上がり。展開的には想像がつく部分もあったりはするが、それを上回る映像の迫力と、きれいにまとめ上げられたストーリーには、フィナーレらしいエッセンスが凝縮され、満足感を十分に感じさせてくれる。これでもかと詰め込まれた艦隊戦では戦い方やカッコよさに驚かされ、各登場人物たちにも活躍の場が用意されている中、特にアシガラ(声・三森すずこさん)の可愛さにはやられてしまった。渕上さん、沼倉愛美さん、山村響さんによるユニット「Trident(トライデント)」が歌う主題歌「Blue Destiny」の歌詞が心に刺さり、物語の感動との相乗効果で涙腺を刺激しする。新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「無頼漢 渇いた罪」 殺人犯の恋人と刑事の恋をハードボイルドに描く
「シークレット・サンシャイン」(2008年)など、韓国を代表する女優チョン・ドヨンさんと、日本ではテレビドラマ「赤と黒」で人気が出たキム・ナムギルさんが初共演した韓国映画「無頼漢 渇いた罪」(オ・スンウク監督)が、10月3日から公開される。逃亡中の殺人犯の恋人と刑事の微妙な惹かれ合いを、ハードボイルドに仕立てている。 チョン・ジェゴン(キムさん)は、殺人課の刑事。事件の容疑者パク・ジュンギル(パク・ソンウンさん)を追い、その恋人キム・ヘギョン(チョンさん)がマダムを務めるバーで容疑者の元刑務所仲間を装って働き始めた。ジェゴンを怪しんでいたヘギョンだったが、一緒に仕事をするうちに心を許していく。ジェゴンは、恋人のために身を粉にして働くヘギョンを傍らで見ているうちに、罪悪感にさいなまれる。しかし、任務を遂行するため、ヘギョンが容疑者と接触する機会を待ち続け……という展開。 ヘギョンの恋人は、殺人犯として逃亡中。寂しいときに側で過ごせば、情が移るというもの。突然現れた男ジェゴンに次第に心を許していくヘギョン。ジェゴンは、恋人の借金を返すためによろいを着て生きる不幸なヘギョンに心を動かされていく。しかし、2人には隠された本心があった。ヘギョンは恋人と一緒に逃げたい。そして、ジェゴンには容疑者を逮捕する任務がある。揺れ動くこの男女は、一体どうなってしまうのか。スクリーンからは、常に不安と期待が入り混じった雰囲気が漂っている。ジェゴンは、刑事として手荒いこともやってきたようだ。ヘギョンは借金を背負っていて失うものはない。中年同士だからこその過去のしがらみが、映画を味わい深いものにしている。ジェゴンを物語る体の傷あと。それをなでるヘギョンの色っぽいこと。主演女優賞受賞歴だけでなく、第67回カンヌ国際映画祭では審査員も務め、“カンヌの女王”と呼ばれるドヨンさんが演じるからこそ、深い女の悲しみも感じられる。男たちは身勝手で粗野だが、そこがカッコいい。安っぽいネオンが寂しく光る風景が、寄る辺のない者たちの浮遊感を伝えてくる。第68回カンヌ国際映画祭ある視点部門正式出品作。3日からシネマート新宿(東京都新宿区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)