「まほろ駅前狂騒曲」瑛太×龍平のコンビ再び 行天の過去が明らかに
俳優の瑛太さんと松田龍平さんがダブル主演を務める映画「まほろ駅前狂騒曲」(大森立嗣監督)が10月18日から公開される。多田(瑛太さん)と行天(松田さん)の“ゆるい”コンビに厄介な依頼が次々に舞い込み、ついにはバスジャック事件に発展する“狂騒”が描かれる一方で、行天の過去が明らかになる。 映画は、三浦しをんさんの同名小説が原作。2011年公開の映画「まほろ駅前 多田便利軒」、13年放送の連続ドラマ「まほろ駅前番外地」(テレビ東京系)に続くシリーズ第3弾となる。東京郊外にある架空の都市「まほろ市」で便利屋を営む多田と居候の行天の活躍を描いており、今回は行天の実の娘・はるの子守に2人が悪戦苦闘する一方で、“まほろギャング”こと裏社会で暗躍する星(高良健吾さん)から依頼された謎の元新興宗教団体の隠密調査が、まさかのバスジャック事件に発展する……というストーリー。 「家族でも恋人でも友人でもない」関係の多田と行天の“ゆるい”コンビで構成されている便利屋には、新興宗教が前身の謎の団体の調査や行天の元妻からの依頼など相変わらずうさんくさい依頼が舞い込んでくる。その一方で多田の不器用な恋や行天の過去も描かれる。2人の元に次々に舞い込む依頼は想定外の事件を引き起こし、見る者を飽きさせない。「まほろ~」に登場する人物は多田と行天をはじめ、なかなか人には理解されにくい思いや、人には言えない傷を抱えて生きているひとくせもふたくせもあるキャラクターばかりだが、そんな彼らに向けられている温かいまなざしが映画全体を包んでいる。 映画には、大森監督の実弟の大森南朋さんや実父の麿赤児さん、「まほろ」シリーズのレギュラーメンバーの高良さんや岸部一徳さん、大森監督の「ゲルマニウムの夜」(05年)に出演した新井浩文さん、「さよなら渓谷」(13年)の真木よう子さんと大西信満さん、「ぼっちゃん」(13年)の水澤紳吾さんと宇野祥平さんら“大森ファミリー”が顔をそろえている。18日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開。(堀池沙知子/毎日新聞デジタル)
「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」スパイ映画や政治ドラマのような展開も
1956年、26歳の若さで引退を発表し、モナコ公国のレーニエ3世と結婚、その後、82年に52歳の若さで亡くなった美貌の銀幕スター、グレース・ケリーさんにニコール・キッドマンさんが扮(ふん)した話題作「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」(オリヴィエ・ダアン監督)が、10月18日から全国で公開される。公妃になってからの彼女の苦悩と、存続の危機に瀕したモナコを守るために、一世一代の大芝居を打つ姿を描いている。 レーニエ公との結婚から6年がたとうとしているが、いまだにモナコ宮殿のしきたりになじめずにいたグレース(キッドマンさん)は、ヒッチコック(ロジャー・アシュトングリフィスさん)からハリウッド復帰の誘いを受ける。一方、レーニエ公(ティム・ロスさん)は、フランスのド・ゴール大統領(アンドレ・ペンブルンさん)と課税を巡って対立、モナコ公国存亡の危機に立たされていた。夫の窮地を知ったグレースは、自分にしかできない秘策でモナコを救おうと決意する……というストーリー。 ダアン監督は、「伝記映画を作ることに興味はなかった」「史実に基づいているとはいえ、これは歴史映画でもない」と言い切っているようだが、その言葉通り、今作はグレースの敵と味方が入り乱れ、スパイ疑惑が浮上したり、駆け引きがあったりなど、スパイ映画や政治ドラマ的な展開もあり、“女優グレース・ケリーの半生記”だけではくくれない内容になっている。グレースさんが生前、身に着けたドレスや宝石が忠実に再現され、ファッション面での見どころもある。偉大な女性を演じることに、おそらくキッドマンさんはプレッシャーを感じたことだろう。その重圧を跳ね飛ばし、凜(りん)としたたたずまいで、公妃として、母として、さらに女優としてのグレース・ケリーを演じたことは称賛に値する。ただ、やはりどうしてもキッドマンさんの個性が強過ぎて、グレース・ケリーのファンとしては、最後まで彼女がグレース・ケリーだと思い込むことに苦労した。TOHOシネマズ有楽座(東京都千代田区)ほかで18日から公開。(りんたいこ/フリーライター)
「愛しのゴースト」タイの有名な怪談を大胆リメーク 怖くて笑えて感動のごった煮
これまで何度も映画化されてきたタイの有名な怪談を大胆にアレンジした「愛しのゴースト」(バンジョン・ピサンタナクーン監督)が10月18日に公開される。今作は、チャクリー王朝初期のプラカノーンの村で非業の死を遂げた女性ナークが、戦場に赴いた夫への未練から悪霊となり災いをもたらしたという、タイでは誰もが知っている怪談がモチーフ。数度にわたって映画化されてきたが、今回は心優しい若き帰還兵と妻がつむぐ愛を、オリジナルを尊重しつつ、コメディーの要素も加味。これまでの作品とは一線を画した仕上がりで本国タイでは歴代1位の興行収入を記録した。寒気がするような恐怖と笑いが押し寄せ、最後には感動が待ち受けている。 内戦に徴兵されていた若者マーク(マリオ・マウラーさん)は、戦場から仲間とともに奇跡的に帰還。妻ナーク(ダビカ・ホーンさん)との再会を喜ぶが、村ではナークはすでに死にゴーストになって現世にとどまっているといううわさが流れていた。ナークを深く愛するマークは聞く耳を持たなかったが、奇妙な出来事が次々と起き、仲間たちは村のうわさを信じてしまう。しかし、マークとナークは周囲を気にすることなく愛情を深めていく。一方、仲間らはあることをきっかけに実は本当に死んでいるのは自分たちなのではと疑い始め、次第に誰がゴーストであるかが分からなくなっていく……という展開。 日本の「四谷怪談」のように、タイではおなじみの怪談が元ネタになっており、基本的にはホラー作品だ。とはいえ、監督の旺盛すぎるサービス精神からコメディー、ラブロマンスと多彩なエッセンスが詰め込まれ、よくも悪くも“ごった煮”という表現がよく似合う仕上がり。しかし、このごった煮感がたまらなく、ホラー表現も見た目の恐怖よりもBGMも活用しつつ、小気味よいテンポで恐怖心をあおってくる。主人公マークの友人4人組があまりにも個性的すぎ、男たちの叫び声やらコミカルすぎる動きなどで心の中で思わずツッコミを入れてしまうが、怖いのに笑えるという、新しい感覚にさせてくれる。ラブロマンスを歌っているだけあって、往年のトレンディードラマのような正統派でロマンチックな雰囲気も楽しめる。とにかく笑い、怖さ、いとおしさに切なさ、そして感動と感情を揺さぶりまくってくれる作品。エンドロールの意外すぎる展開もお見逃しなく。シネマート六本木(東京都港区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「THE NEXT GENERATION パトレイバー 第5章」 カーシャの過去が明らかに
「機動警察パトレイバー」シリーズの実写化プロジェクト第5弾となる「THE NEXT GENERATION パトレイバー 第5章」が10月18日に公開される。「パトレイバー」は、歩行式の作業機械・レイバーが実用化された近未来を舞台に、レイバー犯罪に立ち向かう警視庁の特科車両二課中隊(特車二課)の活躍や泉野明(真野恵里菜さん)ら隊員の日常を描いたSF作品。第5章は、特車二課の女スナイパー、カーシャがロシア時代の恩師と戦いをくり広げるエピソード8「遠距離狙撃2000」(辻本貴則監督)と、特車二課の地中深くにある地下道に潜む真珠を生み出す白ワニをめぐる出来事を描くエピソード9「クロコダイル・ダンジョン」(田口清隆監督)の2話で構成されている。 「エピソード8」は、公安の依頼で来日中のロシア高官の特別警護に任命されたカーシャ(太田莉菜さん)。潜入した暗殺者は“赤いゴルゴ”の異名を持つ元KGBの狙撃手で、カーシャがロシア連邦保安庁時代に師と仰ぎ、ほのかに思いを寄せたセルゲイだった……という展開。「エピソード9」は、埋め立て地に広がる地下迷宮で過去に捕獲された白ワニが、時価20億円の真珠を生んだというニュースに二課棟は沸き立つ。白ワニを探索しに行った整備班が行方不明になり、特車二課メンバーが捜索に向かうも迷宮と宝に心奪われ……という展開。 エピソード8ではミステリアスな雰囲気を漂わせるカーシャの過去にスポットが当たる。カーシャといえば、エピソード4「野良犬たちの午後」での激しい銃撃戦が印象的で、クールで男勝りのカッコよさで多くの人を魅了した。次々と明らかになっていく過去も気になる一方で、特車二課メンバーの“ゴルゴ13風”なコスプレ姿も見どころだ。そんなユーモラスな場面もありつつ、シリアスで緊張感あふれる展開や狙撃シーンの迫力に圧倒される。エピソード8には高島礼子さんがゲスト出演。エピソード9はアニメ版の「地下迷宮物件」を彷彿(ほうふつ)とさせる構成で、ファン心をくすぐる。主観視点のシーンが恐怖感をあおり、自身が体験しているかのような興奮が味わえる。第5章からは泉野明役の真野さんが歌う「大切なキセキ」が新主題歌となり、同曲はロックバンド「シャ乱Q」のたいせいさんがディレクターを務めた。18日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「メアリーと秘密の王国」 映像の美しさと生き物の表情の豊かさに引き込まれる
世界中で大ヒットした劇場版アニメ「アイス・エイジ」(2002年)のクリス・ウェッジ監督が手掛け、世界52カ国でトップ10入りを果たした劇場版アニメ「メアリーと秘密の王国」が18日から全国のイオンシネマで公開される。突然、体が小さくなってしまったヒロインが、森の未来を守るために悪の勢力と戦うファンタジーアドベンチャーだ。アクションがふんだんに盛り込まれ、森の中の生き物たちの息吹が感じられる作品に仕上がっている。 森に“小さな人”が住んでいると信じ、研究に没頭する父と暮らすために、彼の元を訪れたメアリー(声・高垣彩陽さん)は、森の中で小さな女性が倒れているのを見つける。“秘密の国”の女王(声・本田貴子さん)だというその女性が手にしていた花のつぼみをメアリーが手にした瞬間、メアリーの体はみるみる間に縮んでしまう。女王の兵士“リーフマン”から、そのつぼみが悪の勢力“ボーガン”の手に渡ると森が滅びると聞いたメアリーは、リーフマンの隊長ローニン(声・小山力也さん)や若い兵士ノッド(声・小野大輔さん)らとともに、森を守るために戦うことを決意する……というストーリー。 小人の世界や“森の中の住人”たちを描いた作品はめずらしくないが、それでも今作に引き込まれるのは、メリハリの利いた映像の圧倒的な美しさと、森の中に住む生き物たちの表情の豊かさのお陰だ。リーフマンが守る森は明るい色彩にあふれ、ボーガンが暮らす“腐敗の島”は灰色に覆われ鬱々(うつうつ)としている。両者の戦いにはアクションがふんだんに盛り込まれ、スピード感と迫力がある。その一方で、つぼみの管理役のナメクジやカタツムリなど、ユニークな脇役たちが実にチャーミングで、メアリーが未知の世界に足を踏み入れてしまったときの戸惑いと楽しさが伝わってくる。単なるファンタジーで終わらせるのではなく、自然の大切さにまで触れているところにも好感が持てる。プロの声優による日本語吹き替え版のみの上映だが、字幕を気にしなくていい分、映像と物語に没頭できた。なお、オリジナル版で女王の声を担当した米歌手のビヨンセさんが、主題歌「Rise Up」で、映画のためだけの歌声を披露している。全国のイオンシネマで18日から公開。(りんたいこ/フリーライター)
「ミニスキュル 森の小さな仲間たち」キュートな虫たちの冒険にワクワクハラハラ
実写映像にコンピューターグラフィックス(CG)を合成する手法で作られたフランス発の劇場版アニメ「ミニスキュル 森の小さな仲間たち」(エレーヌ・ジロー監督&トマス・ザボ監督)が、10月18日から全国のイオンシネマで公開される。テレビシリーズと劇場版の企画は同時にスタートし、約5年の歳月をかけて完成したという。それぞれ、特徴をとらえつつほどよくデフォルメされた虫たちはキュートで、彼らの大冒険にワクワク、ハラハラさせられる。せりふがなく、ムシたちの鳴き声と動きだけで表現されているのも特徴で、大人も十分楽しめる作品に仕上がっている。 ある日、てんとう虫の夫婦の卵がかえり、3匹の子供が誕生する。そのうちの1匹が空中散歩の途中、家族とはぐれてしまう。人間が残していった角砂糖の缶の中で一夜を明かしたてんとう虫は、缶を自分たちの巣に運ぼうとする黒アリを手伝い、彼らに同行することに。しかしその途中には、険しい岩山や川、さらには冷酷な赤アリ軍団が待ち受けていた……というストーリー。 世界100カ国以上で愛され、日本ではNHK Eテレで今年3月まで放送されていたアニメシリーズ「minuscule ミニスキュル~小さなムシの物語~」は、1話4~5分の短いものだったが、それが今回、89分にスケールアップされた。てんとう虫や黒アリのほかに、ハエや赤グモ、ムカデ、ふとっちょの毛虫などが登場する。中には実生活では歓迎できない虫もいるが、劇中の彼らはとっても可愛らしい。虫たちが繰り広げる大冒険は、チェイスシーンあり、戦闘シーンありで迫力ある映像の連続。それぞれの個性が出ていて、アリも1匹1匹顔が違うという手の込みよう。 「スター・ウォーズ」や「インディ・ジョーンズ」、さらには「となりのトトロ」など名作へのオマージュもたっぷり入り、音楽もどこかクラシックで、チャップリンやヒッチコックの映画を思い出させる。黒アリたちのチームワークに感心し、彼らの“対赤アリ 必死の攻防”に胸が熱くなった。生存競争の厳しい虫たちから助け合いの精神を教えられ、主人公は昆虫だけれども親近感が十分湧いた。全国のイオンシネマで18日から公開。(りんたいこ/フリーライター)
「誰よりも狙われた男」 急逝したP・S・ホフマンの遺作 味わい深い芝居を堪能
今年2月、突然この世を去った名優フィリップ・シーモア・ホフマンさんの遺作となった「誰よりも狙われた男」(アントン・コービン監督)が、10月17日から公開される。原作はスパイ小説の大家、ジョン・ル・カレさんが手掛けた同名小説。行き先の見えない船のような9・11以降の対テロ諜報戦が、ドイツを舞台に繰り広げられる。ホフマンさん演じる孤高の中年男を主人公に、複雑な人間関係と細やかな心理描写でストーリーが進んでいく。 ドイツ・ハンブルクが舞台。秘密のテロ対策チームのリーダー、ギュンター・バッハマン(ホフマンさん)は、密入国したチェチェン出身の青年イッサ・カルポフ(グレゴリー・ドブリギンさん)に目をつける。一方、CIAもイッサを逮捕しようと追っている。イッサは人権団体の弁護士アナベル・リヒター(レイチェル・マクアダムスさん)を介して、父親が遺した口座がある銀行の経営者トミー・ブルー(ウィレム・デフォーさん)を捜していた。バッハマンはイッサを泳がせて、さらにイッサとアナベルの人間関係も利用し、ある大物を狙おうとしていた……という展開。 信念を持ち、コツコツと仕事をする男バッハマン。彼の仕事ぶりをじっと凝視する感覚で映画は進んでいく。張り込む、盗聴する、尾行する、情報源と接触する……。バッハマン率いるスパイチームが、どう駒(人)を動かしていくのか。この諜報戦は全く結末が読めない。感情を抑えるかのような青みがかった映像に、重低音がずっと鳴り響いているような緊張感がずっと続く。人間関係は少々複雑だ。大物を釣るために泳がされた密入国者に、女性弁護士、銀行家がからんで、さらにCIAも躍起になって情報を手に入れようとしている。バッハマンは過去に何か遺恨があったようで、CIAとは信頼し合えない。酒とタバコを友とし、情報源としての人間関係しか持たない孤独と悲哀が、ホフマンさんの声色や表情から読み取れる。この味わい深い芝居にずっと酔っていたい気分だ。それだけに、ホフマンさんをもうスクリーンで見ることができないと思うと残念でたまらない。川沿いの夜景、近代建築、古びたアパート……港湾都市ハンブルクの風景にも心を奪われる。 「コントロール」(2007年)「ラスト・ターゲット」(10年)のアントン・コービン監督作。17日からTOHOシネマズ シャンテ(東京都千代田区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)