「何者」佐藤健、有村架純ら旬な俳優そろい踏み 就活を通して自分を模索する大学生を描く
「桐島、部活やめるってよ」の原作者として知られる朝井リョウさんの直木賞受賞作(新潮文庫)を、映画「ボーイズ・オン・ザ・ラン」(2009年)や「愛の渦」(13年)などで高い評価を得た演劇界の鬼才・三浦大輔監督が映画化した「何者」が10月15日に公開される。就職活動を通して自分が「何者」かを模索する大学生たちを、佐藤健さん、菅田将暉さん、有村架純さん、二階堂ふみさん、岡田将生さん、山田孝之さんという今をときめく旬な俳優がそろ村さん、偶然にも拓人の部屋の上の階に住んでいた意識高い系女子・理香を二階堂さん、理香と同居中の空想クリエーター系男子・隆良を岡田さん、拓人のサークルの先輩で達観先輩系男子・サワ先輩を山田さんが演じている。 演劇サークルで脚本を書き、他人を心の中で分析する癖がある拓人は、同じ大学の真面目な瑞月にほのかに思いを寄せていた。だが瑞月は光太郎の元カノで、まだ光太郎への思いを断ち切れていない。何も考えていないような天真らんまんに見えて、ある思いを胸に就職活動を続け着実に内定に近づいていく光太郎。瑞月の友だちで拓人の部屋の上の階に住んでいる「意識高い系」だが就活ではなかなか結果が出ない理香、理香と同居しており、「就活は決められたルールに乗るだけだ」とクリエーター的な強がりを言いながらも焦りを隠せない隆良。拓人のことを冷静に見ているサワ先輩。大学に通う5人は、それぞれの悩みや思いをSNSにつづり、いつの間にか人間関係が変化していく……というストーリー。 ストレートなラブストーリーでも青春映画でもない。物語はSNSの会話のように進み、場面転換は舞台公演のように進行する。これは、ある時期にみな通らなくてはならない試練でもあり、一瞬のお祭りのようでもある“就活”というものを、リアリティーとフィクションをないまぜにしたような映像でファンタジックに表現したのではないかと推測している。5人の気持ちはくっついたり、行き違ったりしながら思わぬ方向に進んでいく。最後に一番冷静に周りを見ていたと思っていた拓人がたどり着いた現実とは? 原作ファンは特徴のある映像を楽しめるだろうし、原作を読んでいない人は先の見えない展開にドキドキすることだろう。15日からTOHOシネマズ六本木ヒルズ(東京都港区)ほか全国で公開。(細田尚子/MANTAN)
「永い言い訳」 本木雅弘×西川美和で贈る再生の物語 “第2の柳楽優弥”を発見?
俳優の本木雅弘さんが2008年公開の「おくりびと」以来、8年ぶりに主演を務めた映画「永い言い訳」(西川美和監督)が10月14日に公開される。「ゆれる」(2006年)や「ディア・ドクター」(2009年)、「夢売るふたり」(2012年)で知られる西川監督のオリジナル脚本による、ある再生の物語。妻を亡くした小説家と母親を失った子供たちとの不思議な交流を描く。主人公の小説家の妻を深津絵里さん、子供の父親をミュージシャンの竹原ピストルさんが演じ、黒木華さんや池松壮亮さんも出演している。 「永い言い訳」は、直木賞候補に選ばれた西川監督の同名小説が原作。人気作家・津村啓こと衣笠幸夫(本木さん)は、妻・夏子(深津さん)が親友のゆき(堀内敬子さん)と旅先で不慮の事故に遭い亡くなったと知らせを受ける。その時、不倫相手と密会していた幸夫は、世間に対して悲劇の主人公を装うことしかできない。そんなある日、ゆきの夫でトラック運転手の陽一(竹原さん)とその子供たちに出会った幸夫は、ふとした思いつきから幼い彼らの世話を買って出ることにする……というストーリー。 ある日、突然始まった妻の“不在”、そこからの“再生”というのはある意味、使い古されたテーマのようにも思えるが、今作での主人公・幸夫と夏子との関係は、死別する前からすでに破綻しており、実際に幸夫は、事故のあとものんきに浮気相手と逢瀬を重ねようとするなど、妻の死に真剣に向き合おうとしない(この点を淡々と言い当てる池松さん演じるマネジャー・岸本のせりふにもグッときた)。世間一般の尺度でいえば、幸夫はきっと“クズ男”の部類に入るのだろうが、スクリーンに映し出された姿は、時に哀れで醜く、滑稽でありながら、それらを補って余りあるほどチャーミングで、本木さんが演じる幸夫という人物に原作を読んだとき以上に感情移入してしまった。 原作以上といえば、陽一とゆきの2人の子供、真平と灯を演じた藤田健心さんと子役の白鳥玉季ちゃんの演技も秀逸で、中でも藤田さんはほとんど演技経験がないと聞いたが、西川監督の恩師である是枝裕和監督が手がけた「誰も知らない」(2004年)の柳楽優弥さんを彷彿(ほうふつ)とさせるまなざしで、見るものの心を射抜いてくれる。今作の最大の発見は彼と言って過言ではないだろう。 映画は14日からTOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開。(山岸睦郎/MANTAN)
「彼岸島 デラックス」白石隼也&鈴木亮平ダブル主演 人と吸血鬼の戦いは圧巻
人気ホラーマンガを俳優の白石隼也さんと鈴木亮平さんのダブル主演で実写化した映画「彼岸島 デラックス」(渡辺武監督)が10月15日に公開される。白石さんが行方不明になった兄を捜す宮本明、鈴木さんが兄の篤を演じているほか、「師匠」こと青山龍之介の声を俳優の石橋蓮司さんが担当するなど、映画版はドラマ版キャストに新たな出演者が加わり、スケールアップしている。 「彼岸島」シリーズは、松本光司さんが2002年に「ヤングマガジン」(講談社)で連載を始めたマンガが原作で、吸血鬼と人類の死闘を描いている。現在はシリーズ最新作となる「彼岸島 48日後…」が連載中だ。10年に映画化、13年にドラマ化されて人気を博し、今年9月には約3年ぶりのテレビドラマシリーズの新作「彼岸島 Love is over」が放送された。吸血鬼に支配された彼岸島で行方不明となった兄の篤(鈴木さん)を捜すため、宮本明(白石さん)は1年ぶりに島へと戻ってきたが、島にはさらに多くの吸血鬼や「邪鬼」と呼ばれる怪物があふれていた。生き残った人間たちはレジスタンスの村を作り、リーダーの師匠(声・石橋さん)を中心に反撃の機会をうかがっていると、吸血鬼を統率し邪鬼をも操るマスターバンパイア・雅(栗原類さん)の力を封じるワクチンの存在が判明する。ワクチンを巡って人間と吸血鬼の戦いが始まり、明はついに篤と再会するが……というストーリー。 人間と吸血鬼の壮絶な戦いを描いたアクションホラーである今作は、体や刀を駆使した本格的なアクションはかなり見応えがあり、また作品の根幹となる吸血鬼をはじめ邪鬼のデザインもインパクトが強烈だ。とにかく全編を通してアクションシーンの割合が多く、まるでジェットコースターに乗っているかのような疾走感があり、ダイナミックな動きとBGMがバランスよく融合し、見ているだけで痛快さを感じる。原作の怖さと過激さを追求しながらも、突き詰めたところに一種の“笑い”が存在する独特の世界観を、絶妙なさじ加減で表現。キャストが全力で演じているのが、とても心地よく、ストレートな娯楽映画として楽しめる。吸血鬼の頭領・雅を演じる栗原さんの怪演ぶりも妖艶で美しい。15日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「ダゲレオタイプの女」黒沢清監督が海外初進出作で芸術家の独りよがりな愛を描く
黒沢清監督の海外初進出作品となった「ダゲレオタイプの女」が10月15日から公開される。世界最古の撮影方法であるダゲレオタイプの写真家の屋敷で繰り広げられる“ホラー”なラブストーリー。主演に「預言者」(2009年)のタハール・ラヒムさんを据え、すべて外国人キャストで、全編フランス語で撮影した。 ジャン(ラヒムさん)は、ダゲレオタイプで肖像写真を撮影するステファン(オリビエ・グルメさん)の屋敷で助手として働くことになった。屋敷には、長時間の露光時間の間、器具に固定され、苦痛に耐えながらモデルを務めるステファンの娘のマリー(コンスタンス・ルソーさん)がいた。マリーは、父親から離れて自分の夢をかなえたいと思っていた。マリーに引かれたジャンは、ステファンの異様な愛情から彼女を救おうとして……という展開。 古めかしい屋敷に、古めかしい写真機。写真家のステファンは娘マリーの魂を等身大の銀板に閉じ込めて、永遠の愛を与えているつもりになっている。寒々しいこの屋敷では、死んだ妻の幻影がチラチラ見えている。芸術家の独りよがりの愛は、娘に異様な形で注がれ、娘の本当に生きたい道を阻んでいる。外界からやって来たジャンの存在が、マリーの助けになるのだろうか。そして、ステファンにどう作用していくのか。これが、明快な対抗軸になっておらず、なんとも幻想的な展開なのだ。 一度踏み入れた屋敷の、またはダゲレオタイプの持つ魔力がそうさせるのか、ジャンもまた、ステファンのように生と死の境界のあいまいな世界に、いつの間にか入り込んでいく。見ているこちらを惑わせる、その入り方が素晴らしい。ハッと思わせる出来事のあと、ジャンとマリーの2人の幸せな時間が滑り出すと同時に、ステファンの愛が、孤独でもの悲しいものに映り出す。狂気の写真家にベルギーの名優グルメさんを配し、フランスの名優マチュー・アマルリックさんも登場。ソロリソロリと歩く日本的な間のとり方で、外国人キャストが芝居をするところが、なんとも不思議な感じがした。フランス映画と黒沢作品の融合が存分に楽しめる。15日からヒューマントラストシネマ有楽町(東京都千代田区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)