「真田十勇士」中村勘九郎と堤幸彦監督のタッグで贈る痛快時代劇
2014年にヒットした舞台の実写化「真田十勇士」(堤幸彦監督)が9月22日に公開された。舞台と同じく歌舞伎俳優の中村勘九郎さんと堤監督がタッグを組んだ。今秋に舞台も再演されるビッグプロジェクトの一環で、天下の名将・真田幸村に加藤雅也さん、真田を支える勇士に、松坂桃李さんら人気の俳優をキャスティング。大島優子さんがくノ一役で本格時代劇に初挑戦している。 関ケ原の戦いから14年。徳川家康(松平健さん)は、豊臣家の本丸である大坂城を攻める機会をうかがっていた。亡き秀吉の側室・淀(大竹しのぶさん)は、秀吉の遺児・秀頼(永山絢斗さん)を守るために、家臣・真田幸村(加藤さん)を呼び寄せる。幸村は実は腰抜け男で、男前の顔立ちと運のよさで勝ち上がってきたといい、実像と虚像のギャップに悩んでいた。幸村に出会った猿飛佐助(中村さん)は、「本物の天下一に仕立てる」と約束し、「真田十勇士」を作って、大坂冬の陣、夏の陣に挑む……という展開。 痛快でド派手な時代劇超大作。広大な場所で、ハイスピードカメラやステディカムなどを自在に使って繰り広げられる戦闘シーンは、躍動感にあふれ、迫力満点。天井裏もある大坂城の巨大セットを作り、真田丸をオープンセットで建てたという凝りよう。世界的な評価も高い黒澤和子さんが手がけた衣装も、エッジが効いていてカッコいい。そして見どころは、やはり勘九郎さんの芝居の妙に尽きる。滑稽(こっけい)で、仲間思いで、真田を立てる姿もよし。戦国の荒波もなんのその、身軽に乗りこなす。物語を転がしていく役回りとして目が離せない。それだけに、真田との掛け合いのシーンがもっとあったら、なおよかったような気もする。 真田は実は腰抜けだったという大胆な設定は、演じる加藤さんのダンディーな風貌が生かされ、「私には荷が重い」とクヨクヨとしている姿に、母性本能をくすぐられる女性も多いのではないだろうか。真田の心情の変化がもう少し描き込まれていれば、なおよかったのではないか。十勇士の面々は、霧隠才蔵に松坂さん、根津甚八に永山絢斗さん、筧十蔵に高橋光臣さん、海野六郎に村井良大さんらイケメン俳優をそろえて、時代劇好き女子を引き寄せている。そして、どんでん返しに度肝を抜かれること必至。22日から丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)
「ハドソン川の奇跡」生還の真相をイーストウッド監督とトム・ハンクスのタッグで描く
2009年1月に、米ニューヨークで実際に起きた事故を、クリント・イーストウッド監督、トム・ハンクスさん主演で映画化した「ハドソン川の奇跡」が、9月24日から公開される。異変が起きた飛行機をハドソン川に不時着させ、乗員乗客155人の命を救った出来事は、当時、日本でも大きく報道された。しかしそれは、事実のほんの一部に過ぎなかった。その後に起こった機長と副操縦士を襲った試練。映画はそちらをメインに描いていく。 その日、乗員乗客155人を乗せ、ラガーディア空港を飛び立ったUSエアウェイズ1549便は、その直後、鳥の群れと衝突し、エンジンが2基とも停止、あわや墜落の危機に陥る。管制室から、近くの空港に着陸するよう指示が出されるが、機長のチェスリー・“サリー”・サレンバーガー(ハンクスさん)は、それは不可能と判断。ハドソン川への不時着を決意する。そして、事故発生から208秒後、機体は川に着水。155人は全員が助かり、サリーは英雄とたたえられた。ところが、その後、開かれた事故調査委員会で、サリーと副操縦士のジェフ・スカイルズ(アーロン・エッカートさん)は、不時着の妥当性を厳しく追及されることになる……というストーリー。 奇跡の生還劇を成し遂げた英雄が、まさかその後、“ペテン師”呼ばわりされ、追い詰められ、心身共にボロボロになっていたとは……。当時のニュースだけでは知りえなかったことがこの映画では明かされていく。驚いたのは、事故当時のコックピットの様子だ。こうしたドラマチックな展開の場合、主人公に大げさなせりふをはかせたり、過剰な効果音を流したりしがちだが、イーストウッド監督はそうはせず、冷静に処理に当たる機長と副操縦士を、それこそ“ひっそり”と描いている。もちろんそれは、ハンクスさんの言葉を借りれば、「起きたことをできるだけ忠実に」した結果だろうが。 サレンバーガー機長も、決して英雄然とはしていない(もちろん英雄だが)。弱さも動揺も見せ、事故後は悪夢にうなされる、普通の人間として描かれている。そんな機長をハンクスさんが好演。スカイルズ役のエッカートさんも同様で、別の作品では米大統領にまで“上り詰めた”男が、今回は副操縦士という“脇役”に徹している。それだけに、彼の最後のせりふに、「してやったり」と思う観客は多いのではないか。24日から丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)
「闇金ウシジマくん Part3」 欲望渦巻くマネーゲームで山田孝之演じるヤミ金が大暴れ
青年マンガ誌「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で連載中のマンガを基に、山田孝之さん主演で実写化した人気シリーズの第3弾となる映画「闇金ウシジマくん Part3」(山口雅俊監督)が9月22日に公開された。「闇金ウシジマくん」は、「10日で5割(トゴ)」という違法な高金利で金を貸す「カウカウファイナンス」社長の丑嶋(ウシジマ=山田さん)と、不良債務者たちの姿をリアルに描き、深夜ドラマが2010年と14年に放送、12年と14年には劇場版が公開された人気作。今年7月からはドラマ「Season3」が放送された。映画は原作の「フリーエージェントくん編」と「中年会社員くん編」を基にした物語が展開。10月22日からは「闇金ウシジマくん the Final」が公開される。 派遣の仕事で食いつなぐ真司(本郷奏多さん)は、ある日、撮影中のタレントの麻生りな(「乃木坂46」の白石麻衣さん)を街で見かけ、一生縁がなさそうな美人に社会の格差を実感。そしてネット長者・天生翔(浜野謙太さん)が主宰するセミナーに半信半疑で出席した真司は、人生の一発逆転を狙った億単位のマネーゲームに巻き込まれていく。一方、妻がいながらキャバクラに通い続けるサラリーマンの加茂(「オリエンタルラジオ」の藤森慎吾さん)は、美人キャバ嬢・花蓮(筧美和子さん)を落とすことに躍起になっていたが……というストーリー。 ウシジマと債務者らの人間模様を、笑いを交えながらも赤裸々に描き人気を集めてきたシリーズも、今作と次作の「the Final」でフィナーレを迎えるとあって一抹の寂しさを感じる。映画版の第3弾となる今作もウシジマ“らしさ”全開で、やや極端に描かれてはいるが、人間がいかに欲や誘惑に勝てないかという弱い部分を嫌というほど見せつけられる。そして薄ら寒い気持ちにさせられつつも、ある種人間の本性をディープに鋭く突くストーリーに思わず熱狂させられる。ネット社会の闇と実業家の不安定さといった要素をリアリティーたっぷりに描く展開はテンポがよく、シリーズファンはもちろんのこと、初めて見る人でも濃いキャラクターばかりなので人間関係がつかみやすく、単純に楽しめる。どのキャラクターに感情移入して見るかで印象が変わるが、やはりハマリ役ともいえる山田さん演じるウシジマのダークなカッコよさに胸を躍らされた。どのような結末を迎えるのか、来月公開のファイナルが待ち遠しい。22日からTOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「白い帽子の女」ブラピ&アンジー共演 美しい南仏で壊れかけた夫婦はどこへ向かう?
離婚騒動で揺れるブラッド・ピットさんとアンジェリーナ・ジョリー・ピットさんが夫婦役で共演をした「白い帽子の女」(アンジェリーナ・ジョリー・ピット監督)が9月24日に公開される。共演は「Mr.&Mrs.スミス」(2005年)から約10年ぶり。美しい南仏のリゾート地を舞台に、壊れかけて傷ついた夫婦の心理劇を、若いカップルを対照に置きながらアンジー自身がじっくりと撮り上げた。 1970年代。南仏の浜辺に、米国人小説家のローランド(ピットさん)とその妻バネッサ(ジョリー・ピットさん)がバカンスに訪れる。ローランドはカフェや海岸で1人で過ごし、バネッサは部屋に閉じこもっている。ある日、隣に若い新婚のカップルのレア(メラニー・ロランさん)とフランソワ(メルビル・プポーさん)がやってきた。ふと部屋の壁に穴を見つけたバネッサは、隣のカップルの様子をのぞき……という展開。 出演のみならず監督、脚本、製作をこなしたアンジーの意欲作。14年にハネムーンで訪れたマルタ島で撮影している。傷ついた夫婦がどこに向かうのか。緊張感がずっと続く。ジェーン・バーキンさんの歌が流れて、一組の美しい夫婦がバカンスにやってくる。心地よさそうな風が吹く、まぶしい入り江の風景が広がる。しかし、夫婦関係は冷え切っていた。ただの倦怠(けんたい)期ではない。過去の不幸により、妻バネッサの心は崩壊しているらしい。夫のローランドはバネッサを全面的に受け止めきれず、「クソ女」とありきたりの言葉でののしる。バネッサは気だるそうにベッドに横たわり、涙でマスカラがにじんだ大きな目で、「悲しみに酔っているだけ」と夫に思わせる。だが、あやうさと強さが一体になったような複雑な内面が、アーティストの夫をまだまだ引き留めている。 幸せに包まれた初々しい若いカップルは、2人のかつての姿なのだろうか。のぞき穴という切り取られた部分から若いカップルを見ることによって、夫婦の遠い日への羨望(せんぼう)が感じられる。やがて、彼らはカップルと交流を持つようになる。のぞくことによってねたましさを増幅させるバネッサは痛々しい。心の奥底をえぐり出すような激しさでアンジーが熱演している。一方、夫を演じたピットさんは、次第に優しい顔つきになり、微妙な変化を演じている。音楽は、数々の名作を手がけるガブリエル・ヤレドさん。同監督の「最愛の大地」(11年)に続いて2作目のタッグとなった。音楽が、キリキリした夫婦の心模様を見事に表現している。24日からシネスイッチ銀座(東京都中央区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)
「亜人-衝戟-」3部作最終章 テロ最終段階を阻止しようと動く圭ら
劇場版アニメ「亜人-衝戟(しょうげき)-」(瀬下寛之総監督・安藤裕章監督)が9月23日に公開される。「亜人」は、2012年からマンガ誌「good!アフタヌーン」(講談社)で連載中の桜井画門さんのマンガが原作。何度死んでも生き返る新生物・亜人であることが判明した少年が、警察などの捕獲作戦から逃れ、生き抜いていく姿を描いている。劇場版アニメは3部作で、15年に第1部「衝動」、16年に第2部「衝突」が公開された。最終章となる今作は、原作と異なる展開や結末が用意されている。 日本各地に潜む亜人を集め、第2ウエーブ「浄化」というテロ計画を開始した亜人・佐藤(声・大塚芳忠さん)。要人たちが次々と殺されるが、日本政府はテロリストには屈しない姿勢を貫く。一方、水面下では、警察、対亜特選群、自衛隊、米国国防総省、さらに亜人管理委員会の役人・戸崎(声・櫻井孝宏さん)、高校生で亜人の永井圭(声・宮野真守さん)らが動いていた。計画の最終段階・第3ウエーブを阻止するため、圭は佐藤の力を無力化しようとするが……というストーリー。 原作を基にしつつも、それとは異なる結末を目指したオリジナルの展開には驚かされ、タイトルにふさわしい衝撃の内容で楽しませてくれる。美麗で迫力満点の3DCG映像とスピーディーな展開にはさらに磨きがかかり、音と映像のコントラストが利いている。第1部ではサスペンス調、第2部では激動の物語に登場人物同士の関係性と世界観を広げてきたが、最終章ではすべてを内包した形でピリオドが打たれ、爽快感を得られる。23日からTOHOシネマズ日本橋(東京都中央区)ほか全国で3週間限定公開。(遠藤政樹/フリーライター)