「アンフェア the end」 雪平夏見も見納め 完結編ですっきりと大団円を迎える
篠原涼子さんの当たり役といわれるクールな刑事、雪平夏見が主人公の連続ドラマ「アンフェア」(フジテレビ系)の劇場版第3弾で完結編となる「アンフェア the end」(佐藤嗣麻子監督)が9月5日に全国で公開される。今作には阿部サダヲさん、加藤雅也さん、佐藤浩市さんらシリーズおなじみの顔ぶれに加え、新キャストとして雪平と行動を共にする“新相棒”のシステムエンジニア役で永山絢斗さん、検察庁の若きエリート官僚役でEXILEのAKIRAさん、特捜部長役で吉田鋼太郎さんが出演。また雪平の娘役で現在はAKB48に所属する17歳の向井地美音さんが成長した姿を見せている。完結編と銘打っているだけに「アンフェア」ならではの裏切りはあるものの、ラストはすっきりと大団円を迎えている。 「アンフェア」は秦建日子さんの「推理小説」(河出書房新社)が原作。2006年1月期に連続ドラマが放送され、07年に劇場版第1弾「アンフェア the movie」、11年に劇場版第2弾「アンフェア the answer」が公開されヒットを記録した人気シリーズ。篠原さんが演じる雪平夏見は、バツイチ、子持ち、大酒飲み。だが、検挙率ナンバーワンの敏腕で、過去に犯人を射殺した経験のある唯一の刑事という役柄。元夫・佐藤和夫(香川照之さん)の死と引き換えに、国家を裏で操る秘密組織の機密データを手に入れた雪平は、今作で再び警視庁捜査1課へと戻り、反撃に出る。雪平が刑事になったきっかけともいえる、父親殺しの真犯人の正体も明らかになる。 完結編だけに雪平との別れを惜しむがごとく、他の主要キャラクターがほぼ全員、雪平に対する愛にあふれていて温かい。そして雪平も関わった人をとことん信じる姿が優しく切ない。もちろん、「アンフェア」ならではの大きな裏切り、どんでん返しはあるものの最後はきれいにまとまり、本当にこれで「アンフェア」は終わるんだと寂しくもすがすがしい気分になった。 「アンフェア」シリーズではおなじみのお色気要素、篠原さんの全裸シャワーシーンというサービスカットも重要な場面で登場。ガンアクションやカーチェイス、肉体を駆使したアクションもたっぷりと見どころ満載。完結編ですっきりとしたラストといったが、もしかしたらそれでも終わらないのが「アンフェア」なのかもしれないと、続編にかすかな期待を今でも抱いている。5日からTOHOシネマズスカラ座(東京都千代田区)ほか全国で公開。(細田尚子/毎日新聞デジタル)
「ピースオブケイク」多部未華子、綾野剛出演 本気で人を好きになるってカッコいい
ジョージ朝倉さんのマンガを映画化した「ピースオブケイク」(田口トモロヲ監督)が9月5日から公開される。主人公を多部未華子さん、その恋愛相手を綾野剛さんが演じる。恋に悩みながらも進んでいく女子の等身大ラブストーリーが思いっきり展開されていく。 梅宮志乃(多部さん)は25歳。恋人のドメスティックバイオレンス(DV)から逃れて、職場をやめて心機一転。引っ越したその夜、アパートの隣人の男性・菅原京志郎(綾野さん)の笑顔に一目ぼれする。志乃は友人の天ちゃん(松坂桃李さん)が働くレンタルビデオ屋に就職すると、偶然にも店長が京志郎だった。しかし、京志郎には同居している彼女、あかり(光宗薫さん)がいて、志乃はあっさり振られてしまう。ところが、あかりが姿を消してしまい、落ち込む京志郎。志乃は複雑な思いを抱きながらも、ここはチャンスと思ってアタックをする……という展開。 ヒロインが揺れ動く自分の恋愛体質に悩みながらも少しずつ成長していく姿が、独白を使いながらコミカルにつづられていく。女性の本心をのぞき見ることができて面白い。流されるがままに恋愛をしてきた志乃が、本当の恋をどう成就していくかも見ものだ。俳優でもある50代の田口監督が手がけているお陰で、客観的な視点が入り、ヒロインをはじめとする若い世代の頑張る人たちを見る目が温かく、エールを送っているかのようだ。ヒロイン役の多部さんは、揺れ動く気持ちを繊細に表現している。また、綾野さんもどこか抜けているのに憎めないキャラクターを演じ、こんな人、実際にいるかもと思わせる。自分や相手を疑ったり、虚勢を張ったり、恋愛の美しくない部分もさらけ出す。2人がケンカするシーンの演技に圧倒され、ここが最大の見どころとなった。 本気で人を好きになるのはカッコ悪くてカッコいい。「色即ぜねれいしょん」(2009年)などの青春映画を作った田口監督らしい作品だ。田口組に欠かせない「銀杏BOYZ」の峯田和伸さんが劇団の座長に扮(ふん)し、原作者の朝倉さんが作詞した歌を劇中で披露している。主題歌は加藤ミリヤさんが担当した。5日から新宿バルト9(東京都新宿区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)
「ヴィンセントが教えてくれたこと」偏屈ジジイとお利口小学生の交流描く感動作
米国の名優ビル・マーレイさん主演の映画「ヴィンセントが教えてくれたこと」(セオドア・メルフィ監督・脚本)が4日から公開されている。マーレイさん演じる変わり者の老人とお利口な少年が交流し、互いに影響を与え合っていく姿を描くハートウオーミングコメディーだ。昨年封切られた米国では、わずか4館からスタート。その後2500館に拡大し、最終的には製作費1300万ドル(約15億6200万円)に対して興行収入4400万ドル(約52億8700万円)を記録したという話題作だ。 酒とギャンブルに金をつぎ込み、偏屈で人を寄せ付けないヴィンセント(マーレイさん)の家の隣に、シングルマザーのマギー(メリッサ・マッカーシーさん)と12歳の息子オリバー(ジェイデン・リーベラーくん)が引っ越してくる。病院で働くマギーに頼まれ、オリバーの放課後の面倒を渋々ながら見ることにしたヴィンセント。そんな彼を最初は警戒していたオリバーだったが、一緒に過ごす中でヴィンセントの優しさに気付いていくという展開。 ヴィンセントがオリバーに教えることといったら、バーでの飲み物の注文の仕方だったり、競馬場での馬券の買い方だったり、保護者が聞いたら眉をひそめるようなことばかり。しかし、もともと礼儀正しく素直でお利口なオリバーは、日々の交流からヴィンセントの真の人柄を見抜いていく。はたから見れば非常識極まりない“教え”を、つぶらな瞳と小柄な体全身で真剣に受け止めるオリバーが愛らしい。そのオリバーが、ある方法でヴィンセントの本当の優しさを周囲に知らしめようと行動を起こす。そのクライマックスに当たる場面では、それまでの笑いがうそのように、じわりと熱いものがこみ上げた。マーレイさんの偏屈ジジイぶりもさることながら、オリバー役のジェイデン・リーベラーくんの可愛さといったらない。また、母親役のマッカーシーさん、オリバーの学校の教師役クリス・オダウドさんの演技が軽妙な笑いを与える。さらに、ナオミ・ワッツさんが、ヴィンセントの家に出入りするロシア語なまりのきつい英語で毒舌をはく妊娠中のストリッパーに扮(ふん)し、普段と一味違う演技を見せ、作品にさらなる味わいをもたらしている。ちなみに今回の物語のアイデアは、今作が監督デビュー作となるメルフィ監督自身の体験から生まれたものだという。4日からTOHOシネマズシャンテ(東京都千代田区)ほか全国で順次公開。 (りんたいこ/フリーライター)
「Dear ダニー 君へのうた」ジョン・レノンの楽曲とパチーノの熱唱が感動を後押し
米俳優アル・パチーノさんがミュージシャン役に挑戦した「Dear ダニー 君へのうた」(ダン・フォーゲルマン監督)が9月5日から公開される。43年遅れで届いた、あのジョン・レノンさんからの手紙に背中を押され、人生を再生させようとする男の物語だ。実話が基になっており、その実話を耳にしたフォーゲルマン監督が、脚本を書き、映像化した。 絶頂期を過ぎたミュージシャン、ダニー・コリンズ(パチーノさん)は、親友でマネジャーのフランク(クリストファー・プラマーさん)から、誕生日プレゼントとしてあるものを贈られる。それは、ダニーが崇拝するジョン・レノンが、43年前にダニーに宛てて書いた直筆の手紙だった。当時の自分を励ます文面に突き動かされ、ダニーは人生を変えることを思い立つ。彼は、生まれてから顔も見たことのない息子(ボビー・カナベイルさん)に会うためにニュージャージーへ向かう…というストーリー。 とはいったものの、息子には「二度と来るな」とあっさり追い返されてしまうダニー。そこからの彼の巻き返しがすごい。ツアー用のどでかいトレーラーで息子の自宅に乗り付けたり、7歳になる多動性障害の孫娘に、コネと金を使い特別な教育を受けさせようとしたり。絶頂期を過ぎたとはいえ、いまだぜいたくな暮らしぶりのダニー。ついついスターめいた振る舞いが出てしまうが、それこそが彼の人柄を表しており、不器用ながらも精いっぱいの愛情を表現しようとするダニーと、そんな父親と徐々に心を通わせていく息子の姿には、やきもきさせられたりホロリとさせられたりする。その一方で、ダニーの口説き文句になかなかなびかないダニーが宿泊するホテルの支配人で、アネット・ベニングさん扮(ふん)するメアリーとの軽快なやりとりには、ロマンスというほどの色っぽさはなく、安定感があり心地よい。 もちろん、パチーノさんのミュージシャンぶりも見逃せず、出っ張ったおなかをコルセットで締め上げ、派手な衣装とメークで若作りし、ステージに立つ姿は風格たっぷりで、彼がノリノリで歌う「ヘイ・ベイビードール」は、一度聴いたら忘れられないほどの名曲だ。さらに、劇中流れるレノンさんの楽曲は、レノン財団の許可の下、すべてオリジナルマスターが使用されている。粋なラストにいたるまで、ストーリーと呼応するように流れるレノンさんの歌声が、感動を後押ししていることはいうまでもない。5日から角川シネマ有楽町(東京都千代田区)ほか全国で順次公開。 (りんたいこ/フリーライター)
「猫侍 南の島へ行く」 北村一輝主演の時代劇第2弾 侍と白ネコが南の島で大冒険
侍とネコのコンビが話題を集めた人気時代劇シリーズの劇場版第2弾「猫侍 南の島へ行く」(渡辺武監督)が9月5日に公開される。「猫侍」は“まだら鬼”の異名を持つコワモテの剣豪・斑目久太郎(北村一輝さん)が、白ネコの玉之丞(あなご)と交流しながら変化していく姿を描くシリーズで、最新劇場版は、剣術指南役の誘いを受けた久太郎が玉之丞を連れて土佐を目指すも、謎の忍者に襲撃され南の島に流れ着くという冒険と玉之丞と黒猫の恋愛模様も描かれる。ヒロインのお蓮役で映画コメンテーターのLiLiCoさんがゲスト出演している。 「猫侍」は2013年にテレビドラマ、14年に劇場版第1作が公開され、今春にはドラマ第2弾が放送された。主人公は無双一刀流免許皆伝の剣豪だが、江戸での仕官がかなわず、故郷で浪人生活を送る斑目久太郎(北村さん)。ある日、久太郎にしゅうとめのタエ(木野花さん)が土佐藩の剣術指南役の話を持ってくる。久太郎は単身赴任に気乗りしなかったが、愛猫の玉之丞を連れて旅立つも、謎の忍者(木下ほうかさん)に襲われ、船に乗り遅れてしまう。なんとか小舟を手に入れた久太郎は、土佐を目指して海へと乗り出すが……というストーリー。 「猫侍」シリーズは、ネコの可愛さに癒やされる動物ものの要素や、時代劇ながら細かな時代考証なんてどこ吹く風といったライトな作風が魅力なのだが、劇場版第2弾ではなぜか南の島を舞台に、謎の部族や海賊も登場するなど、時代劇としてはあり得なすぎる展開で驚かせてくれる。ここまでくると時代劇と呼ぶには疑問も感じるが、そこはネコのキュートさで乗り切り(?)、こんな時代劇があってもいいのではと笑い飛ばしたい。振り切った演技で楽しませてくれる北村さんが、奇想天外な出来事だらけのストーリーの原案・脚本を手がけているのも興味深い。そして忘れてはならないのが玉之丞で、可愛さと癒やしの雰囲気はもちろん健在だが、その演技も見逃せない。まるで演出に応えているかのような名演技の数々は、思わず引き込まれる。冒険に恋愛にアクションと満喫しつつ、笑って癒やされる雰囲気が心地いい。シネマート新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「EDEN/エデン」 90年代パリの音楽シーンを生きたDJの夢と挫折を実話を交え描く
フレンチハウスの黎明(れいめい)期をテーマにした映画「EDEN/エデン」(ミア・ハンセン・ラブ監督)が9月5日に公開される。1990年代のフランスを舞台に、音楽シーンを駆け抜けた一人のDJの夢と挫折を描く青春映画だ。「あの夏の子供たち」でカンヌ映画祭の「ある視点」部門で審査員特別賞を受賞したミア監督がメガホンをとり、脚本を担当する実兄で小説家のスベン・ハンセン・ラブさんを主人公ポールのモデルにしている。主人公のほろ苦いストーリーだけではなく、エレクトロデュオ「ダフト・パンク」が誕生する様子を実際のエピソードを交えながら描くなど、90年代パリの音楽シーンの熱気が再現されている。 大学生のポール(フェリックス・ド・ジブリさん)は親友とDJデュオ「Cheers」を結成すると、すぐにパリのクラブシーンで人気を集める。成功したことに酔いしれ、仲間と楽しい時間を過ごすポールだったが、酒やドラッグに手を出すようになるなど私生活がすさみ始める。借金をくり返し、恋人との関係も破綻してばかりのポールは、次第に音楽を生み出すことにも行き詰まりを感じるようになり……というストーリー。 今作は主人公の波瀾(はらん)万丈な生き方を十数年にわたって描き、音楽に命を懸け続けたがゆえの栄光や挫折を浮き彫りにする。音楽映画ではよく見られる展開なのだが、そこに誰もが過ごしたであろう“あの頃”のはかなさや興奮を痛いほどに実感させてくれ、そこが他の音楽映画とは一線を画している。さらに、ダフト・パンクの活躍、成長という要素を盛り込み、主人公と対比的に描いている部分も興味深く、クラブミュージックの進化や実際のムーブメントをかいま見ることができる。劇中に流れる多彩なBGMも聴き応え十分。ただし、映画に登場する楽曲の数々や、特定のキーワードなどの細かい説明がないため、予備知識がないといまいちピンとこないかもしれない。だが、主人公のぶれないスタンスや時の流れの切なさなどが、人生を考えるきっかけになるのではないだろうか。新宿シネマカリテ(東京都新宿区)ほか全国で順次公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「東京喰種トーキョーグール JACK」 有馬貴将と富良太志の出会いの物語
石田スイさんの人気マンガのスピンオフ作品をアニメ化したOVA「東京喰種トーキョーグール JACK」(嶌田惣一監督)が9月5日に公開される。「東京喰種」は人肉を食らう怪人・喰種(グール)の戦いに巻き込まれた大学生・金木研の葛藤や戦いを描いたマンガで、今作では捜査官の有馬貴将(声・浪川大輔さん)と7区上等捜査官の富良太志(声・木村良平さん)が出会ったきっかけが描かれるほか、メーキング映像も同時上映される。 「東京喰種」の原作コミックスは14巻まで発売され、現在は新章「東京喰種トーキョーグール:re」を「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で連載中。テレビアニメが2014年7~9月に第1期、15年1~3月に第2期が放送された。喰種対策局(CCG)の「梟(フクロウ)」討伐作戦から12年前、東京13区では「ランタン」と呼ばれる喰種による捕食事件が頻発。そのころ、ケガが原因で野球を続けられなくなった高校生の富良太志(声・木村さん)は、元チームメートで親友のリョウ(声・鈴木達央さん)やアキ(声・大久保瑠美さん)と不良行為を繰り返していた。ある日、リョウとアキがランタンに襲われているのを目撃した太志は、2人を助けようとするがかなわない。そこへ同級生の有馬貴将(声・浪川さん)が現れ、人間離れした動きでランタンを追い払う。太志は有馬にランタン討伐の協力を申し出るが……というストーリー。 今作はデジタル限定で配信されたスピンオフ作品が原作で、テレビアニメや本編の原作には描かれていないエピソードをアニメで見られ、ファンならずともうれしい限りだ。富良太志と有馬貴将の2人が、若き日に繰り広げた喰種との戦いには思わず気持ちが高ぶる。テレビアニメシリーズに携ってきた嶌田監督が手掛けたとあって、作品の持つ独特の雰囲気を損なうことなく、世界観の広がりを感じさせてくれる。キャラクターの圧倒的な存在感とスピード感、そして見るものをときに戦慄(せんりつ)させるダークファンタジーの要素は健在で、バトル描写も秀逸。ストーリー構成が本編と比べるとシンプルで、展開のテンポ感もよく好印象だ。浪川さんや木村さんのアフレコ現場の様子などレアな映像が見られるメーキングも楽しい。新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国7館で公開。(遠藤政樹/フリーライター)