「ジュピター」ウォシャウスキー姉弟監督の最新作 悪役目線で見るのも一興
SFアクション大作「ジュピター」(ラナ&アンディ・ウォシャウスキー監督)が3月28日から公開される。ウォシャウスキー姉弟監督の最新作で、「マトリックス」シリーズ以来の完全オリジナル作となった。主演は「フォックスキャッチャー」(2014年)のチャニング・テイタムさんと「ブラック・スワン」(10年)のミラ・クニスさん。 ジュピター(クニスさん)は、家政婦として忙しく味気ない毎日を過ごしていたが、実はある運命を背負っていた。偉業を成し遂げる宿命を持つ星座に生まれ、10万年前から地球を所有する宇宙最大の王朝アブラサクス家の女王と同じ遺伝子配列を持つ“生まれ変わり”だったのだ。しかし、一族の継承者である3人の子どもたちは、ジュピターが地球を継承することを阻み、全人類を滅ぼそうと考えていた。ある日、異星人にさらわれそうになったジュピターは、遺伝子操作で生み出された究極の戦士ケイン(テイタムさん)に助けられ、自分が王族だったことを知る。ジュピターとケインは地球を救うべく力を合わせて闘っていく……という展開。 壮大な宇宙を舞台にし、アクションとラブストーリーがメリハリをつけて展開されていく。火花散るまぶしい映像が続く激しいバトルが繰り広げられたかと思うと、途方もない広さの宇宙空間を漂うジュピターとケインのロマンチックな映像がはさみ込まれる。実は王族だった美しいジュピターと、オオカミのDNAを持つというケイン。美女と野獣コンビの2人が宇宙の権力争いに巻き込まれながら、己と闘っていく姿にしびれる。地球はアブラサクス一族が所有する資産に過ぎないという驚きの設定で、女王である母亡きあと、3きょうだいの仲がギスギスしている点が、SF大作でありながら妙に現実的で感情移入しやすい。ジュピターへのアプローチにそれぞれの個性が込められていて、悪役目線で見るのも一興だ。特に人格が破たん気味の長男バレムが見もの。「博士と彼女のセオリー」(14年)で今年度の米アカデミー賞主演男優賞を受賞したエディ・レッドメインさんが「人間は家畜同様」とうそぶく背筋も凍る悪役を小声で印象的に演じている。ウォシャウスキー姉弟監督のスタッフが集結して作り上げた世界観や宇宙船の凝ったデザインなどの美術、衣装も、いうまでもなく見どころだ。丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほかで28日から公開。(キョーコ/フリーライター)
「ニンジャ・アベンジャーズ」 ケイン・コスギ出演 ハリウッド最新忍者映画
「エクスペンダブルズ2」(2012年)などに出演したスコット・アドキンスさんと、アクション俳優のケイン・コスギさんがダブル主演を務めた映画「ニンジャ・アベンジャーズ」(アイザック・フロレンティーン監督)が3月28日に公開される。妻子を殺され復讐(ふくしゅう)に燃える男の姿を描くバトルアクション。世界で忍者ブームが再燃しつつある中、アドキンスさんとコスギさんらが鍛え抜かれた体で繰り出すアクションの数々が熱い。格闘技アクション映画には定評のあるフロレンティーン監督の演出に注目だ。 日本で甲賀流忍者の修業を極めた米国人のケイシー・ボウマン(アドキンスさん)は、甲賀道場の跡取り娘である武田波子(肘井美佳さん)と結婚する。平穏な生活を送っていたある日、ケイシーが留守の間に何者かの襲撃を受け波子が惨殺される。その後、ケイシーはタイで道場を経営している兄弟子の中原(コスギさん)に誘われタイへ。ケイシーはそこで甲賀道場の武田師匠のライバルだった男の弟・ゴロー(菅田俊さん)の武器が、波子を殺害したものと同じ「鎖分銅」だったことに気づき、かたき討ちに向かう……という展開。 見どころは、なんといっても鍛え上げられた肉体で、素速いアクションをこなすアドキンスさんと、撮影中は体脂肪率を4%まで絞ったというコスギさんのアクションシーンに尽きる。そのシーンは、アクションには並々ならぬこだわりを持つフロレンティーン監督の情熱がほとばしり、1カットが長尺で迫力も十分。本当に戦っている雰囲気がひしひしと伝わってくる。最近ではコンピューターグラフィックス(CG)やワイヤを駆使したアクションも多い中、今作ではそういった技術を使わず、生身によるアクションのすごみを表現。想像をはるかに超えるアクションに圧倒される。米国人が考え出す少し奇抜で不思議な忍者や日本の風景の描写も面白く、往年の米国の“なんちゃってニンジャ映画”を思い起こさせる。それにしても、コスギさんは特撮ドラマ「忍者戦隊カクレンジャー」の出演経験もあるなど、忍者になにかと縁のある人だ。ヒューマントラストシネマ渋谷(東京都渋谷区)ほか全国で順次公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「君がいなくちゃだめなんだ」 声優・花澤香菜が実写映画初主演 父娘の幻想的な物語
人気声優の花澤香菜さんが実写映画で初主演を務める「君がいなくちゃだめなんだ」(ムラカミタツヤ監督)が3月28日に公開される。花澤さん演じる絵本作家・楓アンが、街中の伝言板に書かれた謎のメッセージの数々が、失踪(しっそう)した父親の文章であることに気づいたことから始まる幻想的な人間ドラマが展開する。アンの父親役を「一世風靡セピア」のリーダーとして活動し、現在は俳優として活躍中の小木茂光さんが務め、「サンダンス・NHK 国際映像作家賞2009」でグランプリを受賞した倉田健次さんが脚本を担当。花澤さんのミュージックビデオを手掛けてきたムラカミ監督がメガホンをとった。 絵本作家の楓アン(花澤さん)は最初の作品で新人賞を受賞したが、その後は周囲に期待されながらもスランプに陥っていた。ある日、楓は、姿が見えなくなった飼い猫のペローを探すために見た街角の伝言板に「ペローを蘇(よみが)らせる代わりにこの世界から太陽を頂くよ。いいのかい? アン?」という謎のメッセージを見つける。ほかにも街のあちこちの伝言板に不思議なメッセージが残されていて、アンは幼い頃に失踪した小説家の父・光平(小木さん)の文章であることに気づき……というストーリー。 幼い頃に失踪した父親との関係を軸に進んでいく不思議な物語。ムラカミ監督による映像が美しく、ファンタジックな雰囲気を醸し出している。さらに主演の花澤さん自身が歌う主題歌「君がいなくちゃだめなんだ」は、映画の世界観を基に作り上げられただけあって、物語をドラマチックに盛り上げている。花澤さんの熱演と、ぬくもりに満ちた穏やかなバラードが相乗効果を発揮し、深い感動を与える。日常を映画化しているようで、どこか幻想的な雰囲気と、切なさと温かさが同居したような不思議な味わいが、1時間ほどの上映時間に凝縮。優しい絵本を読み終えたような気持ちにひたれる。そしてなにより実写初主演を果たした花澤さんの“女優”としてのさまざまな魅力が盛り込まれている。テアトル新宿(東京都新宿区)で28日に先行上映され、4月4日からシネ・リーブル梅田(大阪市北区)などで公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「忘れないと誓ったぼくがいた」 村上虹郎と早見あかり共演のラブファンタジー
平山瑞穂さんのファンタジー小説を映画化した「忘れないと誓ったぼくがいた」(堀江慶監督)が3月28日に公開される。避けられない運命に向かって必死にもがこうとする若者2人のピュアな恋愛を描く。主演を俳優の村上淳さんと歌手のUA(ウーア)さんの長男・村上虹郎(にじろう)さんが務め、ヒロインを元ももいろクローバーの早見あかりさんが演じている。運命に翻弄(ほんろう)される2人を村上さんと早見さんが熱演。早見さんはキスシーンに初挑戦した。 大学受験を控えた高校3年生の葉山タカシ(村上さん)は、ある日、織部あずさ(早見さん)という少女と出会い恋に落ちる。デートを重ねていく中で、あずさはタカシに「私に会った人たちは全員、数時間後には私の記憶が消えているの。ただ理由もなく私のことだけが記憶から消えているの」と不思議な告白をする。信じようとしないタカシだったが、ふとした時に、あずさのことを忘れていることに気づく。そしてタカシは、あずさと会った日の出来事やデートの約束などを細かくメモに書き留め、忘れないようにするが……というストーリー。 とにかく不思議で、切なさが胸いっぱいにあふれてくる。出会った人たちの記憶から存在が消えていってしまうあずさのことを思うと、見ているこちらもいたたまれない気持ちになる。そして好きな人の記憶が失われていくのをなんとか防ごうとするタカシの姿は健気すぎて、油断していると涙腺を刺激されてしまう。ピュアさや爽やかさがにじみ出ている村上さんと早見さんの演技には称賛の拍手を送りたい。存在感を感じさせ、純愛にひた走る若者2人を見事に演じ切り、物語や登場人物へと感情移入させてくれる。もちろんなぜあずさのことをみんなが忘れてしまうのかといった謎解き要素も楽しめるため、物語に没頭して見ることをオススメする。ラストは唐突感が否めないが、作品に込められたメッセージは十分に伝わってくる。ヒューマントラストシネマ渋谷(東京都渋谷区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「牙狼<GARO>-GOLD STORM-翔」 黄金騎士ガロ・翔の誕生秘話を描く
特撮ドラマ「牙狼<GARO>」シリーズの劇場版最新作「牙狼<GARO>-GOLD STORM-翔」(雨宮慶太監督)が3月28日に公開される。「牙狼<GARO>」は、2005年に第1作が放送されて以降、テレビドラマだけでなく映画やアニメ、ゲームなど幅広く展開し人気を集める大人向けの特撮作品。映画は、13年に放送された「牙狼<GARO>~闇を照らす者~」の主人公・道外流牙の物語で、今年4月から放送が始まる新テレビシリーズ「牙狼<GARO>-GOLD STORM-翔」の前日譚(第0話)にあたる。流牙を俳優の栗山航さん、流牙を支える魔戒法師・莉杏をモデルで女優の南里美希さんが演じるほか、泉谷しげるさんや柄本明さんといった個性派俳優も脇に名を連ねている。 かつて、母や師匠の死といった壮絶な戦いを経て、黒い鎧から金色の輝きを取り戻した黄金騎士ガロこと道外流牙(栗山さん)。パートナーの魔戒法師・莉杏(南里さん)と共に魔獣ホラーを狩る旅を続けていたが、何度かのホラーとの戦いで鎧に邪気がたまり流牙の体をむしばみつつあった。2人は「ラインシティ」という街をホラーから守る高名な魔戒法師・リュメ(桑江咲菜さん)のうわさを聞き、浄化のためリュメに鎧を預ける。休息する流牙たちだったが、魔導輪ザルバ(声・影山ヒロノブさん)が邪気を感じ取り……というストーリー。 今作は、4月から始まる新たなテレビシリーズの“エピソード0”的な位置づけで、黄金騎士ガロ・翔の誕生秘話が描かれる。「牙狼」はダークで独特な世界観やVFX技術を駆使したスタイリッシュな映像、ダイナミックなアクションシーンが人気のシリーズだが、最新作でもその魅力は健在。13年に放送された「~闇を照らす者~」では原作のみを担当していた雨宮監督が今作では自らメガホンをとっていることもあってか、アクションも今まで以上のキレを見せてくれる。栗山さんと南里さんの引き締まった体からもアクションのすさまじさが伝わってくるかのようだ。物語としては流牙と莉杏の関係性がより深く、さらに古(いにしえ)の人型魔導具・阿号(井坂俊哉さん)と出会ったことで、阿号が導き出したホラーのいない世界を実現するための方法を知り“守りし者”として葛藤した末に黄金騎士ガロ・翔を召還するまでの戦いと心情を描くなど、期待を裏切らない展開で楽しませてくれる。泉谷さんや柄本さんといった個性派俳優が物語を引き締めてくれ、オープニングとエンディング曲はJAM Projectのナンバーが作品に華を添える。新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)