「攻殻機動隊 新劇場版」 チームとしての成長 素子の過去も明らかに
士郎正宗さんのマンガが原作のアニメ「攻殻機動隊」シリーズの新作劇場版「攻殻機動隊 新劇場版」(黄瀬和哉総監督)が6月20日、公開される。2013年に公開された劇場版「攻殻機動隊 ARISE」シリーズに続く物語で、ヒロイン・草薙素子(くさなぎ・もとこ)の過去や公安組織・攻殻機動隊の創設秘話が描かれる。攻殻機動隊の“ならず者”たちがそれぞれの個性を発揮しながらチームとして結束し、成長していく姿も見どころだ。 「攻殻機動隊」は、近未来の電脳化社会を舞台に架空の公安組織が描いた作品。原作の士郎さんのマンガは1989年に発表され、25年以上にわたって展開されている人気シリーズだ。押井守監督が手がけた「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」(95年公開)、「イノセンス」(04年公開)、神山健治監督の「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(SAC)」(02年放送)などが製作されており、「ARISE」「新劇場版」は押井守監督作品で作画監督を務めた黄瀬さんが総監督を務めている。 同シリーズは、内務省直属の独立防諜部隊として設立された公安9課(攻殻機動隊)が、複雑化する犯罪に対抗する姿が描かれてきたが、「ARISE」ではバトーやトグサなど個性的な面々が素子とチームを結成する……という展開だった。「新劇場版」は、部下を“部品(パーツ)”と呼ぶ素子とバトーらが徐々に結束していく姿も描かれる。それぞれが個性を発揮しながらチームとして戦うアクションシーンが痛快だ。 また、総理大臣暗殺事件などをきっかけに、素子が所属していた陸軍501機関の上司・クルツの陰謀、素子との関係も明らかになっていく。「ARISE」を見た際に残った疑問が解決されていくのも見どころだ。また、「攻殻機動隊」は複雑なストーリーやアクションシーンばかりに目がいっていたが、「新劇場版」は、オープニングやラストシーンの美しさにもくぎ付けになった。 映画は20日からTOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開。(小西鉄兵/毎日新聞デジタル)
「マッドマックス 怒りのデス・ロード」 30年ぶり新作は進化を遂げたアクション大作
カーアクション映画「マッドマックス」シリーズの30年ぶりの最新作「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(ジョージ・ミラー監督)が6月20日に公開される。「マッドマックス」は1979年にメル・ギブソンさんの主演で公開された人気作で、81年に第2作「マッドマックス2」、85年に第3作「マッドマックス/サンダードーム」が公開された。30年ぶりの新作となる今作は、荒廃した近未来を舞台に、愛する家族を奪われた元警官マックスの自由と生き残りを懸けた戦いが描かれる。主人公のマックスをトム・ハーディさんが演じるほか、オスカー女優のシャーリーズ・セロンさんらが共演。日本語吹き替え版では、マックスの声を「EXILE」のAKIRAさんが担当している。 石油も水も尽きかけた世界で、元警官のマックス(ハーディさん)は、愛する家族を奪われ、本能だけで生きていた。資源を独占し、恐怖と暴力で民衆を支配するイモータン・ジョー(ヒュー・キース・バーンさん)の軍団に捕らえられたマックスは、ジョーへの反逆を企てるジョーの右腕フュリオサ(セロンさん)と、配下で全身白塗りの男ニュークス(ニコラス・ホルトさん)と共に、奴隷として捕らわれた女たちを連れて自由への逃走を始める……というストーリー。 マッドマックスが帰ってきた! 主人公を演じる俳優こそ代わったが、シリーズを手がけるミラー監督が携わっているため、30年ぶりでもコンセプトがぶれることはほぼない。荒廃した世界観に狂気の集団、そして所狭しと繰り広げられるカーチェイスなど、画面からほとばしる熱量は圧倒的だ。マックスらの予測不能なアクションは、コンピューターグラフィックス(CG)に頼らないが、迫力満点で最大の見どころ。そして孤独感にさいなまれるマックスの苦悩などドラマ要素も密度が高い。安易なシリーズの焼き直しや昔を懐かしむ雰囲気は感じさせず、バイオレンスと近未来のサイバーパンクな雰囲気が融合し、新たなる名作シリーズの誕生を予感させる。生身の人間がぶつかり合う迫力や緊張感をスピーディーな展開で味わえ、そのはじけぶりが見ているだけでストレス解消になりそうだ。新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「呪怨 ザ・ファイナル」 最終章 平愛梨と佐々木希の迫真の演技が恐怖をあおる
女優の平愛梨さんの主演映画「呪怨 ザ・ファイナル」(落合正幸監督)が6月20日に公開される。国内7作、海外リメーク3作が公開されてきたジャパニーズホラー「呪怨」シリーズの最終章で、小学校教師の妹が失踪したことを知った主人公が、その過程で不可解な現象に巻き込まれていく物語。主人公の麻衣を平さんが演じ、桐山漣さん、おのののかさんらが出演するほか、前作「呪怨 終わりの始まり」(2014年)に引き続き、結衣役で女優の佐々木希さんが出演している。 小学校教師をしている妹・結衣(佐々木さん)が失踪したことを知らされた麻衣(平さん)は、結衣がたびたび「佐伯俊雄」という不登校の児童の家を訪れていたことを突き止める。結衣の情報が得られないかと居場所を捜し始める麻衣だったが、次第に不可解なことが周囲で起き始め……というストーリー。 ジャパニーズホラーブームをけん引してきた人気シリーズも今作で最終章を迎えるが、ついにタブーが破られた。予告映像でも触れられていたが、呪いの源である佐伯家を解体してしまう。この展開には驚かされたが、そこから始まる新たな恐怖の予感もあり、観客の心を震え上がらせる。「呪怨」シリーズはホラーシーンが来ると分かっていてもゾクッとしたり、驚いてしまったりするシーンの演出が見事で、輪をかけて伽椰子の登場シーンは何度見てもおぞましい。主演の平さんの怖がりぶりや、佐々木さんのこれまでに見たことがないような怪演が恐怖を増幅させる。最終章とあるが、呪いがこの先どうなってしまうのかまだまだ目が離せない。新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「極道大戦争」 三池監督と市原隼人が7年ぶりタッグ 奇想天外な世界観で大暴れ
三池崇史監督がメガホンをとり、俳優の市原隼人さんが主演を務める映画「極道大戦争」が6月20日に公開される。伝説のヤクザの正体がバンパイアで、かみつかれた人間はヤクザ化してしまうという異色の設定のオリジナル作品で、ヤクザ・バンパイアとなった主人公がたどる運命が描かれる。成海璃子さん、リリー・フランキーさん、高島礼子さんらが脇を固め、三池監督が作り上げた奇想天外な世界観を個性的なキャラクターたちが盛り上げる。 敏感肌のため刺青すら入れられない影山亜喜良(市原さん)は、毘沙門仲通商店街を牛耳り最強伝説を持つヤクザの親分・神浦玄洋(リリーフランキーさん)に憧れ、ヤクザになった。ある日、毘沙門通りに謎の刺客が現れ、影山と神浦は倒されてしまう。絶命間際の神浦にかみつかれた影山はヤクザ・バンパイアとして超人的な能力を身につけるが……というストーリー。 ここ最近、原作ものや感動作などが続いていた三池監督だが、久しぶりに独自色を前面に押し出している。かみつかれたらヤクザ化してしまうという設定から始まり、ふんだんに盛り込まれたアクションやバイオレンス描写、コメディーにホラーなど、映画というエンターテインメントに関わる要素がほぼすべて詰め込まれた前例なきジャンルの作品に仕上がっている。“遊び心”という言葉では片付けられないほどの荒唐無稽(むけい)ぶりは見る者の期待を裏切り、ついにはゆるキャラや着ぐるみの概念まで覆し驚かせる。キャストについても、主演の市原さんのカッコよさはもちろん、暴れ回るリリーさんやまさかの若頭役の高島さんなど意表を突きまくった役どころで楽しませてくれる。とにかく驚いたり想像のはるか上をいく展開を楽しみたいという人に見てほしい。深く考えたら負け……という映画もたまにはいい。20日からTOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「愛を積むひと」 佐藤浩市と樋口可南子が初夫婦役 辛苦をなめた人に響く「スマイル」
佐藤浩市さんと樋口可南子さんが初の夫婦役を演じた「愛を積むひと」(朝原雄三監督)が6月20日から公開される。ロングセラーとなっているエドワード・ムーニー・Jr.さんの「石を積むひと」が原作。舞台を米国から日本の北海道に移して、十勝岳を望む一軒家に住む熟年夫婦の第二の人生を、出会った人々とのふれあいとともに見つめた。 東京の下町で経営していた工場をたたみ、北海道に移り住んできた小林篤史(佐藤さん)と良子(樋口さん)。以前、外国人が住んでいた家を手入れし、良子はガーデニングを楽しみ、これまで仕事一筋だった篤史はひまを持て余していた。見かねた良子は、家の周りに石塀を造ることを夫に提案する。篤史は最初こそ渋々だったが、造園の若い見習いの杉本徹(野村周平さん)と一緒に、地道に石を積む作業を進めていく。そんなある日、患っていた心臓病で入院した良子。良子は病気の重さを篤史に伝えずにいた。夫妻には東京で働く娘・聡子(北川景子さん)がいて、良子は夫と娘に溝があることを気がかりにしていたのだが……という展開。 石を積むのと同じように積み重なった熟年夫婦の時間も、もう残り少ないことが早々に告げられる。夫婦の物語は、若いカップルの物語に引き継がれ、父と娘の物語へ。移ろう四季の美しさとともに、ストーリーが流れていくのだが、そこは「釣りバカ日誌」シリーズや「武士の献立」(2013年)の朝原監督のこと。人が人を思う心を丁寧に映し出し、心を揺り動かされる。ここに出てくる人々は、人生の辛苦をなめてきた過去を持つ。誰もが迷い、自分の弱さに翻弄(ほんろう)される中、妻の良子だけは別の次元にいるかのようだ。自分の寿命を受け入れ、他者を許すことのできる強さを持つ良子の生きざまは、夫婦の思い出の曲であるナット・キング・コールが歌うチャップリン作曲の「スマイル」と呼応し、若い徹とその恋人の胸にも響かせる。亡くなり姿が見えなくなったあとも良子はずっと存在し、残された者に「スマイル」を向け続けている。出来上がった石塀に深い思いを感じ、それを映し出す場面は忘れられない風景となった。ロケ地となったのは、北海道美瑛町。景観はもちろん、木目を基調とした家の内装、食事なども見どころだ。音楽は「武士の献立」などの岩代太郎さん。フードスタイリストは、「深夜食堂」(15年)などの飯島奈美さん。新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほかで20日から公開。(キョーコ/フリーライター)
「虎影」 斎藤工主演の忍者アクション カッコ悪くてカッコいい男の物語
俳優の斎藤工さんの主演映画「虎影」(西村喜廣監督)が6月20日に公開される。かつて最強と呼ばれた忍者・虎影が主人公のアクション活劇で、今夏公開される実写版「進撃の巨人」で特殊造形プロデューサーを務めている西村監督がメガホンをとり、脚本も担当。抜け忍となり妻子と穏やかに暮らしていた虎影が、隠された財宝を手に入れようとする忍者の首領に妻と息子を人質にとられ、家族を守るため再び刀を手に取り奮闘する姿を描いている。斎藤さんのキレのいいアクションが物語に緊迫感と迫力を与えている。 忍びの世界で最強の名をほしいままにしていた虎影(斎藤さん)は、6年前にその道を捨て、里の片隅で妻・月影(芳賀優里亜さん)と子供・孤月(石川樹さん)とともに静かに暮らしていた。ある日、隠し財宝のありかを記した巻物を狙う忍者の首領に、妻子を人質にとられた虎影は、巻物を手に入れてくるよう命じられる。家族を守るため、やむなく虎影は財宝を巡る戦いに身を投じ……というストーリー。 最近における斎藤さんの“セクシー番長”的なパブリックイメージを見事なまでに覆し、カッコ悪くて笑えないギャグで楽しませてくれる姿が新鮮だ。もちろん、スタントなしで斎藤さんが挑んだアクションシーンでは、抜群のカッコよさを見せつける。西村監督ならではの特殊造形は圧巻で、映像や音楽と相まって迫力とインパクトを演出。津田寛治さんや清野菜名さんら脇を固めるキャストも、独特の存在感と熱演で物語を彩る。ふんだんに盛り込まれたコメディー要素に笑いつつも、スタイリッシュなアクションに目がくぎ付けになる。破天荒な面白さで、最高におバカでカッコいいエンターテインメント作品に仕上がっている。新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「ターナー、光に愛を求めて」 大自然を観察し創作するターナーを生き生きと描く
19世紀の英国の偉大な風景画家ターナーの半生を描いた「ターナー、光に愛を求めて」(マイク・リー監督)が、6月20日から公開される。名匠リー監督の作品では常連のティモシー・スポールさんが、謎多きターナーをリアルに演じ、第67回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞。第87回アカデミー賞では、作品が4部門にノミネートされた。絵画の中に入り込んだような映像にも注目だ。 19世紀、英国。若くして認められた画家ターナー(スポールさん)は、夏はインスピレーションを求めて旅をし、冬はアトリエで創作する日々。オランダ旅行から帰って来たターナーを、助手を務める元理髪師の父親(ポール・ジェッソンさん)が温かく迎える。ターナーと父親は、家政婦のハンナ(ドロシー・アトキンソンさん)と3人で暮らしている。あるとき、旅先でたどり着いた港町で、光きらめく海に魅せられたターナー。創作意欲をかき立てられ、偽名を使って宿に泊まることに。女将(おかみ)のブース夫人(マリオン・ベイリーさん)と知り合い、後に離れられない仲になる。創作に没頭するターナーだったが、父親の気管支炎が悪化していき……という展開。 ターナーの後半生を描いた今作は、スポールさんの生き生きとした芝居と、有名な「戦艦テメレール号」などの名画誕生のエピソードに立ち会う喜びに包まれ、一瞬たりとも目が離せない。キャンバスに魂を丸ごとぶつけるかのようなターナーの、大自然に挑み、抱かれながら、つぶさに観察する姿にも圧倒される。肉親を亡くし、未亡人に引かれていくターナー。愛する女性には不器用で可愛らしく、ほほ笑ましいシーンとして織り込まれる。前半は、父親とうり二つ、仲のいいターナー父子の、後半は未亡人や家政婦との関係がドラマチックに描かれる。プリズムの実験や、写真に興味を持つシーンからは、当時の近代科学についてもうかがえる。旅先での遠景は、絵画そのまま、光ときらめきに満ちている。その幻想的な映像の中でワシワシと歩く姿に、風景を自分のものにしようと勇むターナーの生き様と自信がありありと満ちている。撮影を担当したディック・ポープさんは、カンヌ国際映画祭で芸術貢献賞を受賞している。20日からヒューマントラストシネマ有楽町(東京都千代田区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)