「ストレイヤーズ・クロニクル」 少年マンガ的設定に興奮 岡田将生初の本格アクション
俳優の岡田将生さんが主演を務める映画「ストレイヤーズ・クロニクル」(瀬々敬久監督)が6月27日から公開される。本多孝好さんの小説が原作で、ある極秘実験で生み出された特殊能力を持つ2組の若者たちの戦いが描かれており、岡田さんや染谷将太さん、松岡茉優さんなど旬の若手俳優が顔をそろえている。「特殊能力者たちのチーム戦」という少年マンガのようなワクワクする設定はもちろん、ラブストーリーや感動作などのイメージが強い岡田さんの本格的なアクションも見どころだ。脚本は「桐島、部活やめるってよ」(2012年)の喜安浩平さんと瀬々監督が担当している。 1990年代の初めに、ある極秘機関の実験で生み出されて特殊能力を身につけた昴(岡田さん)や亘(白石隼也さん)、良介(清水尋也さん)たちは、成長して、プロジェクトの中枢を握っていた外務副相の渡瀬(伊原剛志さん)の裏の仕事をこなしていたが、ある日、亘が「破綻」と呼ばれる精神崩壊を起こしてしまう。ちょうどその頃、昴は昴たちとは別ルートの実験で生まれた学(染谷さん)を中心とする特殊能力者グループ「アゲハ」と遭遇。昴は渡瀬から殺人事件を繰り返していた「アゲハ」の確保を命じられるが……というストーリー。昴の仲間で、音楽大学に通う異常聴覚を持つ沙耶役で成海璃子さん、「アゲハ」チームの特殊能力者で、口から強力な鉄鋲(てつびょう)を発射するモモ役で松岡さん、高周波レーダーの能力を持つ碧役で黒島結菜さんらが出演している。 特殊能力者たちが2組に分かれそれぞれの能力を駆使して潰し合う……という設定は、古くは故・山田風太郎さんの「甲賀忍法帖」、最近では同作を原作にマンガ化された「バジリスク」や昆虫などの能力で戦う「テラフォーマーズ」など特に少年マンガには数多くあり、それ自体は珍しいものではない。だからこそ逆にバトルマンガになじんだ人なら胸躍る設定ともいえる。目に見えない高速移動を可能にする超筋力、口から弾丸のように鉄鋲を発射する肺活量、相手の3秒先の姿が見える超視覚……など特殊能力の数々も魅力的で、CGを駆使して表現される実写ならではの迫力あるバトルシーンは見応えがある。 また、これまでヒューマンドラマやラブストーリー作品に出演している印象が強かった岡田さんが初の本格的なアクションに挑戦しているのも見逃せない。特に、長身の岡田さんが長い手足を生かして相手に飛びつき、関節技をキメるシーンは新鮮で、思わず引き込まれた。車椅子姿でアクション不参加なのにもかかわらず、不気味な演技で抜群の存在感を放っていた染谷さんもハマリ役で強く印象に残る。ラストに向かうにつれ、やや展開が急過ぎる印象も持ったが、ラストの決着シーンはそれどころではなく衝撃的だった。27日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開。(河鰭悠太郎/毎日新聞デジタル)
「アリスのままで」ヒロインの姿に勇気づけられるアカデミー賞主演女優賞受賞作
ジュリアン・ムーアさんが今年のアカデミー賞主演女優賞に輝いた話題作「アリスのままで」が6月27日から公開される。若年性アルツハイマー病と診断された女性が、薄れゆく記憶と闘いながら懸命に生きようとする姿を描く感動作だ。ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーランキングに40週にわたってランクインしたというリサ・ジェノバさんの同名小説の映画化だ。 アリス(ムーアさん)は50歳。米ニューヨークのコロンビア大学で教壇に立つ言語学者だ。3人の子供たち(ケイト・ボスワースさん、ハンター・パリッシュさん、クリステン・スチュワートさん)はそれぞれの道を行き、医者の夫(アレック・ボールドウィンさん)と満ち足りた夫婦生活を送っていた。ところが、アリスの身に異変が起こる。講演中、突然言葉を忘れたり、ランニング中に自分の居場所が分からなくなったりし始める。不安をおぼえて医者に診てもらうと、若年性アルツハイマー病と診断される……というストーリー。 アルツハイマー病の症状が出始め、「壊れていく」自分に恐怖心を募らせるアリスの姿は見ていてつらい。彼女は言語学者で、言葉の重みを誰よりも知っているからこそ、一層、残酷さを感じる。それでも、難病ものを描く映画にありがちな、見終えて鬱々とした気分にさいなまれることはない。身につまされる話ではあるが、アリスが病気と向き合い懸命に生きようとする姿と、彼女に寄り添い支える家族の存在に勇気づけられる。言語学者ならではのアリスのせりふには印象的なものが多く、それらにも励まされる。共同監督の一人、リチャード・グラッツァー監督は、2011年に筋委縮性側索硬化症を発症し闘病生活を送りながら今作を完成させた。残念ながらアカデミー賞授賞式の数週間後、63歳で亡くなったが、グラッツァーさんの今作に懸けた情熱、そして、グラッツァーさんを最後まで支えたもう一人のウォッシュ・ウェストモアランド監督の愛情を思うと、今作が一層感慨深いものとなる。いかに人が尊厳を失わずに生きるか。アリスの姿は痛々しい半面、ものすごく雄々しい。それを表現したムーアさんの演技は、今さら言うまでもないが素晴らしい。27日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)
「ラブ&ピース」 長谷川博己主演 スターダムを駆け上る男に無償の愛は届くか?
「ヒミズ」(2012年)など海外で高い評価を受ける園子温監督の最新作「ラブ&ピース」が6月27日から公開される。かつてはロックミュージシャンを目指していたダメ会社員の男がミドリガメと出会い、夢の扉を開いていく……という展開。出演は長谷川博己さん、麻生久美子さん、西田敏行さんら。星野源さん、中川翔子さんらが声の出演をしている。 2015年夏。鈴木良一(長谷川さん)は、うだつのあがらない会社員。同僚の寺島裕子(麻生さん)に恋心を抱いているが、まともに話すこともできない。ある日、デパートの屋上で1匹のミドリガメと目が合い、運命を感じた良一は、亀に「ピカドン」と名づけて可愛がる。良一はピカドンとの出会いがきっかけで作った歌が認められ、ロックミュージシャンとして上り詰めていく。やがて、謎の老人(西田さん)とおもちゃたちが暮らす不思議な地下世界にも影響を及ぼして……という展開。 園監督久々の完全オリジナル作。25年前の無名時代に書き下ろした脚本だといい、一人の男があきらめていた夢をかなえていく姿が、奇想天外な展開でつづられていく。笑えて泣けて、現代を生きる我々にガツンと食らわすビターな内容になっている。誰もが「愛と平和」を求めているのに、なぜ、うまくいかないのか。その答えがこの映画の中にあるような気がする。良一は「夢」と「私利私欲」を履き違え、すっかり変わっていく。しかし、ペットのミドリガメと同僚の裕子は、無償の愛を良一に送り続ける。このけなげさに、泣かされる。果たして良一に届くのだろうか? 過去を捨ててスターダムを駆け上る良一が加速していく一方で、見捨てられた者たちの地下世界があって、人間たちを客観視しているのが面白い。この地下世界、昔の教育テレビの人形劇を見ているような懐かしさだ。人間に捨てられたのに、希望を失っていない彼ら。そんな中、斜に構えている猫のスネ公(声・犬山イヌコ)にすっかり魅了された。クライマックスは日本の特撮のすごさを見せつけ、忘れられないシーンとなった。特技監督は「THE NEXT GENERATION パトレイバー」などで知られる田口清隆さんが担当。主題歌はRCサクセションの名曲「スローバラード」が採用されている。TOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)ほかで27日から公開。(キョーコ/フリーライター)
「劇場版『進撃の巨人』後編~自由の翼~」 巨人化したエレンの葛藤を描く
人気アニメ「進撃の巨人」を再編集した劇場版アニメ2部作の後編となる「劇場版『進撃の巨人』後編~自由の翼~」(荒木哲郎監督)が6月27日に公開される。「進撃の巨人」は、諫山創さんが月刊マンガ誌「別冊少年マガジン」(講談社)で連載している人気マンガ。映画は2013年に放送されたテレビアニメ全25話の総集編という位置付けで、後編は14~25話の物語を劇場版用に再編集した。劇場サイズでくり広げられるスリリングなバトルが物語に緊迫感を与えている。 兵士として巨人と戦うエレン・イェーガー(声・梶裕貴さん)は突然、自らが巨人化してしまう。自分が何者であるかに悩むエレンだったが、人々を守るために巨人化の能力を使うことを決意。戦い続けるエレンの前に、ほかの巨人とは違う知性を持った女型の巨人が現れ……というストーリー。 8、9月に実写版の公開を控え、劇場版アニメもクライマックスを迎えるが、昨年公開の「前編~紅蓮の弓矢~」以上に、ハイテンションでスリリングバトルに圧倒される。多少のグロテスクな表現はあるものの、描画の美麗さやアクションシーンの疾走感などが恐怖を追いやり、むしろ心地よさすらどこかで感じてしまうほどだ。巨人化の能力が発現したエレンの葛藤や、そのためにたどってしまう過酷な運命などドラマ部分もしっかりと描かれ、単なるバトルものにとどまらず登場人物たちの魅力が前面に押し出されている。これほど大スクリーンがふさわしい作品も珍しく、劇場サイズならではの巨人の迫力や臨場感をとことん味わえる。新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「天の茶助」SABU書き下ろし小説を松ケン主演で映画化 笑えて泣けて勇気がもらえる
俳優の松山ケンイチさんの主演映画「天の茶助」(SABU監督)が6月27日に公開される。「天の茶助」は、SABU監督が書き下ろした小説を基に自らメガホンをとり映画化。沖縄を舞台に、天界で下界の人間たちの人生のシナリオを書いている“脚本家”に茶を配る「茶番頭」の主人公が、恋心を抱いてしまった人間の女性が死ぬ運命にあることを知り、命を救うために下界へ降り立ったことで起きる騒動を描く。主人公の早乙女茶助を演じる松山さんは、SABU監督とは「うさぎドロップ」(2011年)以来のタッグ。ヒロインは女優の大野いとさんが演じる。ほかにも大杉漣さん、寺島進さん、伊勢谷友介さんと個性派俳優が脇を固めている。 天界では数多くの脚本家が地上で生きる人間たちの“シナリオ”を書き、人間はそのシナリオに沿って人生を送っている。茶番頭の茶助(松山さん)は、シナリオの中で生きる人間たちを見ているうちに、口のきけない可憐で清純な女性・新城ユリ(大野さん)に恋心を抱いてしまう。しかし、ユリが交通事故で死ぬ運命にあることを知ってしまった茶助は、ユリを救いたいという思いから天界を抜け出し、ユリの暮らす沖縄へと降り立ち……というストーリー。 天界にいる脚本家たちが脚本を書き、お互いに鑑賞しながら人間の運命を決めているという設定が実にユニーク。小気味よいテンポで進むファンタジックな物語に奇想天外な設定と沖縄の空気感がマッチし、ほどよいスパイスになっている。松山さん演じる茶助もいちずで古風な男というたたずまいで、真面目な性格でありながらバカなこともやってしまうなど、思わずニヤリとさせられるコミカルさが面白い。物語が進んでいくにつれ、伏線を広げすぎってしまった感もあったのだが、今作の根幹を作る設定を見事に生かし切った着地点には納得させられた。笑いあり、涙ありの人間ドラマに引き込まれ、沖縄の風景の美しさも十分に堪能できる。見終わった後には爽快感とちょっとした勇気がもらえる映画だ。新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「悪党に粛清を」 ミケルセンのカッコよさにしびれる西部劇
デンマーク出身の俳優マッツ・ミケルセンさん主演の映画「悪党に粛清を」が6月27日から公開される。クリスチャン・レブリング監督もデンマーク出身。北欧人が西部劇とは意外だが、これがまったく違和感がない。ミケルセンさんの内奥にあるひとくせありそうな雰囲気が妙にマッチし、思いがけない新鮮さと面白さを生み出している。 時は1871年。7年前、兄ピーター(ミカエル・パーシュブラントさん)とともに祖国デンマークから米国の西部にやって来た元兵士のジョン(ミケルセンさん)は、荒野を開拓し、やっと生活の基盤ができたことからデンマークに残してきた妻(ナナ・オーランド・ファブリシャスさん)と息子を呼び寄せる。ところが再会の喜びもつかの間、妻子はならず者に殺されてしまう。怒りに駆られたジョンは、そのならず者を射殺するが、それがさらなる災厄を招いてしまう……という展開。 ミケルセンさんのカッコよさにシビれた。ジョンは感情をあらわにしないが、家族を殺された慟哭(どうこく)と憎悪はひしひしと伝わってくる。半面、感情が読めないだけに内面の神秘性が増幅され、反撃を開始する終盤の“してやったり”感が際立つ。今作の妙は、古典的な西部劇とは異なり、映画の早い段階でジョンが復讐(ふくしゅう)を遂げることだ。その後、物語はジェフリー・ディーン・モーガンさん演じるデラルー大佐という凶暴な悪役を得て新たな展開を見せることになるが、太陽が照りつけ、砂ぼこりが舞う米西部が舞台にもかかわらず、どこか冷え冷えとした印象を受けるのは、“北欧”イコール「寒そう」という勝手な思い込みのせいだろうか。ちなみに撮影は南アフリカで行われたという。ほかに、「007/カジノ・ロワイヤル」(2006年)でボンドガールを演じたエバ・グリーンさん、元プロサッカー選手のエリック・カントナさんらが出演。27日から新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)
「きみはいい子」 人間の優しさや愛を信じたいという思いが伝わる
前作「そこのみにて光輝く」(2014年)が、モントリオール世界映画祭で最優秀監督賞を受賞するなど高く評価された呉美保監督の4作目「きみはいい子」が6月27日から公開される。中脇初枝さんの短編集から3編を抽出し、「そこのみにて光輝く」の脚本家・高田亮さんが一つにまとめあげた。高良健吾さん、尾野真千子さんを軸に実力派の俳優たちが集まり、印象に残るエピソードをつむいでいく。 小学校の新米教師、岡野匡(高良さん)は、やんちゃ盛りの生徒たちに手を焼く毎日。その日も、生徒のいたずらをわびるために独り暮らしの老女・佐々木あきこ(喜多道枝さん)の家を訪れていた。一方、夫が単身赴任中の水木雅美(尾野さん)は、3歳になる娘あやね(三宅希空ちゃん)と2人暮らし。雅美は日頃から募ったイライラを娘にぶつけていた……というストーリー。 それぞれに悩みを抱え同じ町で暮らす人々が、さまざまな局面で交差しながら、やがてささやかな幸せを見いだしていくまでを描く。ほかに、池脇千鶴さんや高橋和也さん、富田靖子さんらが出演。彼らが演じる役柄がどういう関係なのかはすぐには分からず、それがおいおいつかめていく展開が絶妙だ。幼児虐待、いじめ、老人の孤独など、決して軽い話ではないが、そこには間違いなく“救い”がある。それはおそらく、人間の優しさや愛を信じたいという原作者の中脇さんと、呉監督をはじめとするスタッフの心模様が編み込まれているからだろう。登場人物のせりふや仕草が心にしみる。抱き締めるという行為、理解するという行為、相手の心の叫びに耳を傾けるという行為……こうしたことがより合わさっていけば、世の中はもっと幸せになるだろうに……そんなことを考えさせられ、印象に残る作品となった。27日からテアトル新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開。 (りんたいこ/フリーライター)