「美女と野獣」 ヒロインが解き明かす野獣が犯した罪とは?
カンヌ国際映画祭史上初の主演女優で最高賞のパルムドールに輝いたレア・セドゥさんが主演する映画「美女と野獣」(クリストフ・ガンズ監督)が11月1日から全国で公開される。小説、アニメ、絵本などさまざまな形で世界中で愛されてきたベルと野獣の愛の物語だが、今作ではこれまで描かれることが少なかった野獣が犯した罪の謎に迫る。 美しい娘・ベルは都会でぜいたくな暮らしを送っていたが、裕福な商人の父が破産したことで、一家は田舎暮らしを余儀なくされる。母が亡き後、わがままに育てられた3人の兄と2人の姉は田舎暮らしに不満を募らせていたが、ベルは家族が一緒なら幸せだった。ある日ベルの父は街から帰る途中、吹雪に見舞われ死に瀕(ひん)するが、森の奥にたたずむ古城を見つけ、一命を取りとめる。古城の庭でベルの父はベルに頼まれていたバラの花を見つけ、一輪折るがその途端に恐ろしい野獣(ヴァンサン・カッセルさん)が現れ……というストーリー。 森の奥にひっそりとたたずむバラが咲き乱れる古城、精霊が住む神秘的な森など美しく幻想的な世界観に目を奪われる。ベルの衣装も繊細な刺しゅうや凝ったデザインのドレスで、思わず目を凝らして見てしまう。宮崎駿監督作品からも影響を受けているというガンズ監督。宮崎作品に登場するキャラクターを彷彿(ほうふつ)とさせる謎の生物も登場し、思わずうれしくなる。しかし、そんな美しい世界と対照的に描かれるのは権力欲や支配欲にとらわれた人間の姿。物語は野獣の城に捕らわれたベルの今の物語と、野獣の過去の物語が交互に描かれるが、欲にとらわれた人間は両方の時代に登場する。 セドゥさん演じるベルは美しさと強さを兼ね備えた現代的なヒロインだ。父の身代わりになって馬を走らせ、一人野獣のいる城に向かっていく姿や、野獣の過去を解き明かそうとする姿からは強い意志が感じられる。大ヒットしたディズニーのアニメーション「アナと雪の女王」のヒロイン・アナの姿とも重なる。ベルは野獣に対しては強気でものを言ったり挑発的な態度を取る“ツン”なキャラクターという一面も。しかしとてもチャーミングで、そんなベルに引かれていく野獣の姿がとても可愛らしく見えた。11月1日からTOHOシネマズ六本木ヒルズ(東京都港区)ほか全国で公開。(堀池沙知子/毎日新聞デジタル)
「エクスペンダブルズ3 ワールドミッション」“世代交代”で鮮度アップ
シルベスター・スタローンさんをはじめとするアクションスターが勢ぞろいした人気アクションシリーズの第3弾「エクスペンダブルズ3 ワールドミッション」(パトリック・ヒューズ監督)が、11月1日から全国で公開される。2010年の第1作から「これでもか!」というほどのアクションを盛り込んできたこのシリーズ。今回も前2作に劣らないド派手なシーンが盛り込まれている。 CIAのドラマー(ハリソン・フォードさん)から、闇の武器商人ストーンバンクス(メル・ギブソンさん)を捕獲するミッションを受けた兵士軍団“エクスペンダブルズ”。ところがストーンバンクスは、バーニー(スタローンさん)とともにエクスペンダブルズを結成しながらチームを裏切り、バーニーが殺したはずの男だった。冷静さを失ったバーニーのせいでミッションは失敗。バーニーは、エクスペンダブルズの弱点を知り尽くしたストーンバンクスに立ち向かうためにチームを解散し、若手の兵士たちをスカウトし、新しいチームで挑むのだが……という展開。 前作まで出演していたブルース・ウィリスさんは降板。代わりに、前作で“チラ見せ”程度だったジェット・リーさんが復帰し、加えてウェズリー・スナイプスさんが、エクスペンダブルズ結成当時の仲間として登場するほか、アントニオ・バンデラスさん、ハリソン・フォードさんも加わり、さらには悪役でメル・ギブソンさんが出演。その一方で、「トワイライト」シリーズのケラン・ラッツさんや女子総合格闘技現役王者のロンダ・ラウジーさん、元WBCウエルター級王者のビクター・オルティスさんら“若手”を加入させ“世代交代”を図り、新鮮味をアップさせた。ただ、この若手の人材集めに時間が割かれ、おなじみメンバーの活躍シーンが途切れてしまったのは残念。しかし、その物足りなさをけ散らしてやるとばかりに、後半はおじさんメンバーがアクションを爆発させ、やっぱり「エクスペンダブルズ」はこうでなきゃという展開に持っていく。そのためシリーズファンは、ギブソンさんの徹底した悪役ぶりに感心しながら、旧メンバーが巻き返しを図るまでの少しの間、辛抱してほしい。1日から丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)
「クローバー」 武井咲&関ジャニ∞・大倉で描くラブコメディー
女優の武井咲さん、人気グループ「関ジャニ∞」の大倉忠義さんの共演で、稚野鳥子さんの少女マンガを実写化した「クローバー」(古澤健監督)が1日に公開される。原作は、華やかなホテル業界を舞台に、平凡な会社員とエリート上司の社内恋愛を描くラブコメディーで、コミックスの累計発行部数は888万部を突破している。今作では武井さんが入社2年目の会社員を、大倉さんがドSの上司という、何もかも正反対ながらも引かれ合う2人を好演。スタッフは古澤監督、脚本を手がけた浅野妙子さんはじめ、武井さんが主演した映画「今日、恋をはじめます」チームが再集結した。 ホテルに勤務する入社2年目の会社員・鈴木沙耶(武井さん)は、持ち前のピュアな性格を生かして日々、仕事に奮闘する中で、イベント企画部への異動が決まる。配属先では冷静沈着で頭が切れるエリート主任・柘植暁(大倉さん)の部下となるも、沙耶はミスをくり返し怒られてばかり。ある日、沙耶は柘植から交際を申し込まれる。思いがけない出来事に戸惑う沙耶だったが、今度は中学時代に思いを寄せていたハルキ(永山絢斗さん)と再会。沙耶の心は2人の間で激しく揺れ動く……というストーリー。 見どころはなんといっても武井さんと大倉さんの演技だ。やる気は大いにあるのに要領が悪く失敗ばかりの沙耶が、ツンデレな彼氏の柘植に振り回されるというラブコメなのだが、武井さんが持つキュートな魅力や意外にもしっくりくる大倉さんのドS ぶりが見事にはまり、ときめきを感じさせつつ、随所で笑わせてくれる。特に大倉さん演じる柘植は、キツイ発言ばかりなので冷たい人間に思われがちだが、その裏に隠し持つ優しさや温かみが大倉さんの印象的な低い声によって表現されている。少女マンガの王道を行くシチュエーションが随所にあるだけに、若い世代向けかと思いきや、社内恋愛が題材なだけにラブシーンはもちろん、シリアスな展開からコメディー要素まで盛り込まれ、大人が見ても十分に楽しめる。関ジャニ∞が歌う主題歌「CloveR」が流れるエンドロールまで、女性がキュンキュンする“すてき”が詰め込まれた作品だ。TOHOシネマズ日本橋(東京都中央区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「ドラキュラZERO」 吸血鬼のイメージ覆すドラキュラ誕生秘話
これまで数々のバンパイア映画に登場してきた吸血鬼ドラキュラの誕生秘話を描いた映画「ドラキュラZERO」(ゲイリー・ショア監督)が10月31日から全国で公開される。15世紀、トランシルバニア地方を治めていた実在の君主ブラド3世が、なぜ人間の生き血を吸うバンパイアとして人々に語り継がれるようになったのかを、史実を織り交ぜ、最新のVFX(ビジュアルエフェクツ、特殊効果)を駆使して撮り上げたアクション娯楽作だ。映画「ホビット」シリーズ(2013~14年)で弓の達人バルト役で出演しているルーク・エバンスさんが、民衆のために悩み、苦しむ名君主ブラドを演じている。 父ブラド2世亡きあと、トランシルバニア地方の君主となったブラド3世(エバンスさん)は、民衆から慕われ、妻ミレナ(サラ・ガドンさん)と息子と幸せに暮らしていた。そんな中、欧州侵略を狙うオスマン帝国の皇帝メフメト2世(ドミニク・クーパーさん)が、上納金の増額と、ブラドの息子を含む少年1000人を差し出せと迫ってくる。拒否すれば戦争は避けられない。覚悟したブラドは、山の中にいる“闇の力”と契約を結び、超人的な力を手に入れ、国と家族を守ろうとするが、それには大きな代償を支払わねばならなかった……というストーリー。 ドラキュラがどのようにして生まれたかを描く前日譚(たん)。実在のブラド・ドラキュラが幼年期に置かれた境遇、その後、長じて民衆から慕われる名君主となったこと、その彼がなぜ吸血鬼として語られることになったのかが、独創的なストーリーとともに描かれていく。「串刺し公ブラド」の異名を取るようになった経緯にも触れ、ドラキュラを血を吸う化け物ではなく、愛する妻子がいて、民を守るために悪魔に魂を売り渡した男という、あくまでも“人間味ある人物”として描いている。苦悩し悲嘆にくれるブラドを目の当たりにし、これまでのドラキュラのイメージが覆った。その一方で、彼が悪魔との取引によって手に入れた、たぐいまれな視力、聴覚、俊敏な肉体でオスマン帝国の大軍をなぎ倒していく場面では、コウモリを操るなど幻想的かつシャープな映像表現に目を奪われた。31日からTOHOシネマズ日劇(東京都千代田区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)
「マダム・マロリーと魔法のスパイス」 2軒の料理店のバトルを描くヒューマン作
アカデミー賞女優のヘレン・ミレンさんが出演する映画「マダム・マロリーと魔法のスパイス」(ラッセ・ハルストレム監督)が、11月1日から全国で公開される。ミレンさんが扮(ふん)するフランス料理店の経営者と、その向かいにレストランを開いたインド人家族の“熱い戦い”を背景に、人情の機微を温かく描き出すヒューマン作だ。「サイダーハウス・ルール」(1999年)や「ショコラ」(2000年)といった作品で知られるハルストレムさんが監督を務め、スティーブン・スピルバーグさん、米トーク番組の司会者として有名なオプラ・ウィンフリーさんがプロデューサーに名を連ねている。 インドのムンバイでレストランを経営していたカダム一家は、選挙がらみの反対派の焼き打ちに遭って店を失い、新天地を求めてフランスまでやって来た。家長であるパパ(オム・プリさん)は、山間で見つけた空き家を気に入り、そこでレストランを開くことに。ところが一つ問題があった。店の向かいには、ミシュランで一つ星を獲得するマダム・マロリー(ミレンさん)が経営するフレンチレストランがあったのだ。案の定、両店の間で“戦い”が始まる……という展開。 ライバル同士の2軒のバトルを糸口に、文化や民族の違いから生まれる衝突を料理対決という比喩的なもので表現し、平和的解決の道筋を示していく。それとともに、カダム一家の家族愛と、カダム家のコックで次男のハッサン(マニッシュ・ダヤルさん)の成長に触れ、心温まる感動作としてまとめ上げている。インド映画“らしさ”が垣間見られるのも特徴で、開店準備に取りかかるカダム一家が、躍動感あふれる音楽に乗って忙しく動き回る姿にはワクワクさせられたし、徐々にヒートアップしていくカダム一家とマダム・マロリーの店のシェフたちの感情を、鮮やかな包丁さばきと俳優たちの表情で表現する調理シーンにはドキドキさせられた。ただ、邦題からイメージされるストーリーと実際の物語との隔たりを、個人的には「思いも寄らない展開」と楽しむことができたが、そうでない人が「ミスリードされた」と思わないかの懸念が残る。11月1日からBunkamuraル・シネマ(東京都渋谷区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)
「祝宴!シェフ」 亡き父の後を継げるのか? 料理大会に挑む少女を描く台湾映画
美食の街・台湾の台南を舞台にした料理エンターテインメント映画「祝宴!シェフ」(チェン・ユーシュン監督)が11月1日から公開される。「熱帯魚」(1995年)や「ラブゴーゴー」(97年)などの作品で90年代の台湾映画界をけん引したチェン監督の16年ぶりの最新作。2014年ニューヨークアジア映画祭で観客賞を受賞したほか世界の映画祭で話題の作品だ。料理嫌いだった女の子が亡き父のあとを継いで、宴席料理大会に挑む! シャオワン(キミ・シアさん)は、ファッションと化粧が大好きな女の子。台北でモデルとして活動するが、まったく売れていない。父親は屋外での宴会でおもてなしの伝統料理を作る総舗師(ツォンポーサイ)で、“神”と呼ばれた伝説の料理人だった。料理を嫌ったシャオワンは、家を出て暮らしていたが、父の死をきっかけに帰省することになった。母パフィー(リン・メイシウさん)が営む食堂を手伝い始めたが、料理はからきしダメ。そこへ、父の味を求めて老カップルが訪ねてくる。困ったシャオワンの前に現れたのは、どんな料理でも教えてくれる料理ドクターの男性で、帰省途中に偶然知り合ったイエ・ルーハイ(トニー・ヤンさん)だった……。 赤が際立つポップな色調とテンポのいい語り口で、2時間半近く勢いよく流れていく。一度は家に背を向けた料理オンチのシャオワンが、父の背中をどう追うことになるのか。追っかけファンの男子や借金取りまで、さまざまな人が彼女を支えてくれるのだが、演じるキミさんがとても可愛らしく、思わず支えたくなるのもうなずける。運命に導かれるように人との出会いを果たしたシャオワンは、やがて父の思いに気づき始める。料理の思い出は、誰の胸にもあるものだ。作る人と食べる人との温かい関係の上にこそ成立する。トマトの卵炒め、焼きビーフン、レンコンのはさみ揚げ……。出てくる料理が庶民的だからこそ、湯気や炎がなおさら温かく感じられ、共感を呼びやすい。物語は料理バトルへとなだれ込むが、台湾映画らしくぶっ飛んだ演出で緊張もどこへやら。母親のパフィーを演じる台湾の人気コメディエンヌのリンさんが印象的。愛嬌(あいきょう)のある表情で魅力を振りまいている。ヒューマントラストシネマ有楽町(東京都千代田区)ほかで11月1日から公開。(キョーコ/フリーライター)