「ソロモンの偽証 前篇・事件」宮部みゆきの名作の映画化 生徒33人の熱演光る
人気作家の宮部みゆきさんが構想15年、執筆に9年を費やして完成させたという同名のミステリー小説を、「孤高のメス」(2010年)や「八日目の蝉」(11年)などで知られる成島出監督が2部構成で映画化。その前編「ソロモンの偽証 前篇・事件」が、3月7日から全国で公開される。ストーリーの面白さもさることながら、応募者1万人の中から選ばれたという33人の若者たちの演技が素晴らしく、見応えある作品に仕上がっている。 雪が降ったクリスマスの朝、藤野涼子(藤野涼子さん)と野田健一(前田航基さん)は、積もった雪の中に同級生の柏木卓也(望月歩さん)の遺体を見つける。警察が自殺と断定するが、学校に「柏木卓也は殺された」という告発文が届く。“犯人”と名指しされていたのは大出俊次(清水尋也さん)ら3人の問題児。大人たちが穏便に事を済ませたがる一方で、マスコミ報道は過熱し、ついにもう一人の“犠牲者”が現れる…という展開。 原作では、登場人物はもっと多く、生徒たちが抱える問題や複雑な家庭環境などの描写があった。しかし真辺克彦さんの脚本は、柏木卓也の事件と直接関わらない部分を削ぎ落とし、また、原作では優等生として描かれていた涼子のキャラクターを、卓也に“弱み”を握られていた女子中学生として描くことで、彼女が裁判を開くに至るまでの心の道筋が明確化されており、それが奏功している。生徒役33人の熱演も光る。清楚(せいそ)さとりりしさをたたえた、藤野涼子役の藤野さんはじめ、心に闇を持つ柏木卓也役の望月さん、優等生ながら謎の多い神原和彦役の板垣瑞生さん、そして、大出にいじめられる三宅樹理役の石井杏奈さん、その友人で心優しい浅井松子役の富田望生さん、さらに大出俊次役の清水さん、野田健一役の前田さんらがそれぞれの役を達者にこなし、さすが1万人の応募者から選ばれただけのことはあると感心させられる。佐々木蔵之介さん、夏川結衣さん、永作博美さん、小日向文世さんら大人たちの“脇役”に徹した演技も好ましく、「後篇・裁判」(4月11日公開)が今から楽しみだ。7日から丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)
「劇場版プリパラ」 3DCGアイドルの弾けるライブ 4種類のストーリーも話題
小学生女児を中心に人気を集めているテレビアニメ「プリパラ」(テレビ東京系)の劇場版アニメ「劇場版プリパラ みーんなあつまれ!プリズム☆ツアーズ」(菱田正和監督)が3月7日に公開される。テレビアニメ版でもおなじみの3DCGによるアイドルのライブシーンが続々と登場し、上映日によって異なる4種類のストーリーが用意されることも話題になっている。また、春音あいらら「プリパラ」の前身「プリティーリズム」シリーズのキャラクターも登場する。 「プリパラ」はアイドルをテーマにしたアニメで、主人公・真中らぁらが“神アイドル”を目指して奮闘する姿が描かれている。劇場版は、観客が列車に乗ってアイドルのライブを楽しめる「プリズム☆ツアーズ」に参加するという設定となっている。 ライブは、真中らぁらによるユニット「SoLaMi SMILE(そらみスマイル)」の「Pretty Prism Paradise!!!」や東堂シオンらによるユニット「Dressing Pafe(ドレッシングパフェ)」の「NO D&D code」、ファルルの「0-week-old」など人気曲が続々と登場するほか、新作のライブ映像も用意。ライブ中の派手な演出のメーキングドラマ、衣装がカラフルに変化するサイリウムチェンジといったおなじみのシーンも楽しめる。 劇場の大画面で3DCGの可愛いアイドルが歌って踊る姿を見ていると、本当にライブに参加したような感覚になる。思わず「らぁらぁぁ!」などとコールを送りたくなったり、サイリウムを振りたくなってしまう“プリパラおじさん”は、新宿バルト9(東京都新宿区)など一部劇場で毎週金、日曜の最終上映回に開催される「アイドルおうえん上映会」に参加してみるといいかもしれない。「アイドルおうえん上映会」では、サイリウムを使用できるほか、コスプレでも参加できるので、堂々とアイドルを応援できそうだ。 4種類のストーリーは、7日から「ラブリードリームツアー」、14日から「パーフェクトスターツアー」、21日から「スーパーミラクルツアー」、毎週金曜の最終上映回に「胸キュン!プリズムボーイズツアー」を上映。それぞれのストーリーはライブの内容が異なり、「胸キュン!プリズムボーイズツアー」は“大人向け”な内容になっている。7日から新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開。(小西鉄兵/毎日新聞デジタル)
「ドラえもん のび太の宇宙英雄記」ドラえもんたちがヒーロースーツを着て大活躍
人気アニメ「ドラえもん」の劇場版最新作「ドラえもん のび太の宇宙英雄記(スペースヒーローズ)」(大杉宜弘監督)が3月7日に公開される。劇場版「ドラえもん」シリーズ35周年記念作品で、宇宙海賊に滅ぼされそうな星をドラえもんとのび太が本物のヒーローとなって救う姿を描いている。ドラえもんたちの前に立ちはだかる宇宙海賊の一味の声を俳優の市村正親さん、お笑いコンビ「爆笑問題」の田中裕二さん、そして今作が声優初挑戦となる女優の観月ありささんが担当したことでも話題を呼んでいる。 ヒーロー番組に憧れるのび太(声・大原めぐみさん)は、みんなで映画を作りたいと言い出し、ドラえもん(声・水田わさびさん)にひみつ道具“バーガー監督”を出してもらう。ジャイアン(声・木村昴さん)、スネ夫(声・関智一さん)、しずかちゃん(声・かかずゆみさん)と一緒にヒーロー映画を撮影していたところ、地球に不時着していたポックル星人のアロン(声・井上麻里奈さん)に本物のヒーローだと間違われ、宇宙海賊の恐ろしい計画が進行中だというポックル星へと向かうことになり……というストーリー。 ドラえもんとヒーローものという組み合わせが面白くないわけがない。ひみつ道具によってヒーロースーツがグレードアップし、のび太たちは必殺技が使えるようになるのだが、必殺技がそれぞれの特技だというのも面白い。しかも、のび太の特技が射撃などではなく、あやとりが選ばれているあたり、ユーモアのセンスも忘れていない。それにしてもドラえもんの特技が頭突きだったことには驚いた。ヒーローらしいアクションもふんだんに盛り込まれ、これまでとはひと味違った作風が楽しめる。本物のヒーローとは何かというテーマが秀逸で、「ヒーローは、キミの中にいる。」というキャッチコピーに深くうなずいてしまった。7日からTOHOシネマズ日本橋(東京都中央区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「妻への家路」イーモウ監督とコン・リーが久しぶりのタッグ
「秋菊の物語」(1992年)、「王妃の紋章」(2006年)など数々の名作を生んだチャン・イーモウ監督とコン・リーさん主演の8年ぶりのタッグ作「妻への家路」が、6日から公開される。文化大革命が終わり、再会した夫婦の物語。心労で記憶障害となり夫の顔を忘れてしまった妻。そばで妻を支える夫。静かで強い夫婦愛が胸を打つ。 文化大革命の嵐が吹き荒れる中国。フォン・ワンイー(リーさん)は、元教授だった夫のルー・イエンシー(チェン・ダオミンさん)が強制労働所から逃亡した知らせを受けた。舞踏学校に通う娘のタンタン(チャン・ホエウェン)は、幼いころ別れたきりの父親のせいで舞台の主役をとれず、苦い思いをする。舞台の主演を条件に、父の居場所を党に密告してしまうタンタン。それから3年後の1977年。文化大革命は終結した。イエンシーは20年ぶりに我が家に帰るが、ワンイーは夫の顔が分からなく、別人だと思ってしまう。党員が夫だと言い聞かせても信じず、夫の帰りを待ち続けている。妻を心配したイエンシーは、向かいに仮住まいをし、思い出してもらおうと必死になるのだが……という展開。 思い人を待ち続ける健気な愛が描かれる。イーモウ監督作「初恋のきた道」(00年)のヒロインのいじらしさをほうふつとさせるが、今作のヒロインもまた、時代の中で愛する人と引き裂かれる。序盤、クライマックスのような盛り上がりで別離が描かれた後、20年ぶりの再会が訪れる。しかし、妻は記憶障害のため、夫に会えていないのだ。駅へ夫を迎えに行くことが日課となった妻。後ろ姿を見守る夫。2人の距離感がなんとももの悲しいが、夫の「思い出してもらおう作戦」はなかなかユニークでほほ笑ましく、物語を温かく包み込む。夫は、娘と妻の関係修復にも一役買い、歳月によって変わり果てた家族の形に、前進をもたらす。「HERO」(02年)で秦王を演じたダオミンさんが演じる夫は、知的な優しさにあふれ、悲しみを心の奥底から静かに感じさせてくる。そして、リーさんは病院や老人ホームで観察して役に挑んだという。2人の名優が素晴らしい上に、娘役を演じたホエウェンさんが爽やかだ。「花の生涯~梅蘭芳~」(08年)などの脚本も手掛け、小説家でもあるゲリン・ヤンさんの同名小説が原作。TOHOシネマズシャンテ(東京都千代田区)ほかで6日から順次公開。(キョーコ/フリーライター)
「劇場版 シドニアの騎士」アニメ第1期を再編集 新場面や未公開アングル追加
弐瓶勉さんの人気マンガが原作の劇場版アニメ「劇場版 シドニアの騎士」(静野孔文監督)が3月6日に公開される。「シドニアの騎士」はマンガ誌「月刊アフタヌーン」(講談社)で連載中のSFマンガが原作で、2014年4~6月にテレビアニメが放送され、15年4月からはテレビアニメ第2期「シドニアの騎士 第九惑星戦役」の放送も決定している。劇場場はテレビアニメ第1期を再構成し、新規シーンやテレビ未公開のアングルカットなども追加。音響効果も再制作されている。テレビ版をよりもさらにクオリティーが上がった映像によるバトルなどに注目が集まる。 対話不能の異生物・奇居子(ガウナ)に太陽系が壊滅されてから1000年後。脱出した人類の一部は巨大宇宙船シドニアで種の保存に努めながら宇宙を旅していた。シドニアの地下で暮らしていた少年・谷風長道(声・逢坂良太さん)は人型兵器・衛人(もりと)の訓練生となり、やがて歴史的な名機・継衛(つぐもり)の操縦士となる。同じく訓練を受けた星白閑(声・洲崎綾さん)や科戸瀬イザナ(声・豊崎愛生さん)ら仲間たちと日々を送る中、奇居子が再び現れ……というストーリー。 テレビアニメ放送時も新技術を駆使したダイナミックな映像表現で好評を博していた同作だが、劇場版に向けて映像だけでなく音響面まであらゆる面でブラッシュアップ。クオリティーを高め、迫力を増したバトルシーンには思わず手に汗を握ってしまう。新たに追加されたシーンやテレビ版では見ることがなかったカットなど、テレビ版からのファンにも見どころは満載。また、基本的にはテレビ版を再編集しているが、長道と星白の物語という方向でまとめられているため、テレビ版とはひと味違ったドラマチックな展開も楽しめる。情報量の多さに少々とまどうかもしれないが、バトルの迫力とスピード感、そして切実な青春ドラマのバランスが絶妙だ。新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で6日から公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「迷宮カフェ」 骨髄移植をミステリアスでユーモアを交えて描く
女優の関めぐみさんが主演を務める映画「迷宮カフェ」(帆根川廣監督)が7日に公開される。今作は、骨髄移植をテーマに、人里離れたカフェを訪れる人々と女性店主によるミステリアスながらユーモアも交えた人間ドラマが展開する。謎めいた店主を関さんが、女優の市川由衣さんや元格闘家の角田信朗さん、俳優の藤原薫さんらがカフェの常連客を演じる。骨髄移植を通して人と人の絆がじっくりと丁寧に描かれている。 落ちぶれた週刊誌の記者・榎木田(大迫一平さん)は、訪れた客が次々に失踪(しっそう)するといううわさがある人里離れた山奥の古びたカフェを訪れる。カフェの主人・マリコ(関さん)は明るく活発な印象だが過去は謎で、榎木田は客を装って調査を始める。おもな常連客は、気弱なボディビルダーの松浦(角田さん)、婚約者に逃げられたアスカ(市川さん)、頭脳明晰(めいせき)で無差別殺人を計画していたというスグル(藤原さん)の3人。調査を進めるうちに次第にカフェとマリコの秘密が明らかになっていき……というストーリー。 山奥にある古びたカフェの客が次々と失踪するという怪しげなうわさを探偵役さながらに登場人物が調査を進めていくなど、とっかかりはシンプルなミステリー調だ。タイトルから連想するに、さまざまな事件が展開してくのかと思いきや、そこに描かれているのは人と人との絆の物語だった。マリコが営むカフェは自殺志願者を募っているという設定で、秘密を抱えた常連客らが骨髄移植を通して人や命のつながりを実感していく姿には不覚にも涙してしまった。今作は実際に娘を急性骨髄白血病で亡くした母親が骨髄バンクの少なさや骨髄移植に関する誤解や偏見を経験したことがきっかけで作られたという。骨髄移植について啓蒙(けいもう)したいという思いが込められているのはもちろんだが、説教じみておらず、角田さんのユーモラスな演技など、軽やかさと爽やかさを漂わせた雰囲気が心地いい。サスペンスフルなスパイスを利かせながらも最後は感動に包まれる。タイトルにいい意味でだまされた。7日から新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)