「新宿スワン」綾野剛主演で映画化 歌舞伎町を舞台に男たちが織りなす熱いドラマ
俳優の綾野剛さん主演の映画「新宿スワン」が5月30日に公開される。「新宿スワン」は、和久井健さんの人気マンガ「新宿スワン 歌舞伎町スカウトサバイバル」が原作。東京・歌舞伎町を舞台に、水商売のスカウトマンとなった主人公が、さまざまな女性たちを“業界”に送り出しながら、スカウトマンとしてのし上がっていくための争いに身を投じる姿を描く。主人公・白鳥龍彦を綾野剛さんが演じるほか、沢尻エリカさん、山田孝之さん、伊勢谷友介さんら豪華キャストが出演。鬼才・園子温監督がメガホンをとった。 一文無しの白鳥龍彦(綾野さん)は新宿へとやって来て、当てもなく歌舞伎町をさまよっていたところ乱闘に巻き込まれる。騒動の中、スカウトマンの真虎(伊勢谷さん)に助けられた龍彦はスカウトの世界に誘われ、スカウト会社「バースト」の一員となる。男女の欲望やさまざまな思惑が絡み合う裏社会に足を踏み入れた龍彦は、いっぱしのスカウトマンになることを目指すが……というストーリー。 裏社会を描いた人気マンガで、救いがないようなエピソードも含まれる原作だが、映画版にはそういったほろ苦さやダークさを絶妙に盛り込み、重厚かつ熱量あふれるドラマに仕上げている。園テイストはややマイルドになっているものの、各キャラクターの個性を生かしつつ、次々と繰り出されるアクションの数々は、躍動感とリアリティーにあふれ、濃密だ。内容的にはハードな面も否めないが、綾野さん演じる龍彦のキャラクターにはどこか救われる部分もあり、どんな障害にも前向きな姿勢でぶつかっていく姿は痛快ですらある。伊勢谷さんや山田さんらの危険な男ぶりも、物語を熱くさせている。歌舞伎町の華やかさとみだらさが同居したカオスな雰囲気が魅力的だ。オオカミの覆面をした異色のロックバンド「MAN WITH A MISSION」が主題歌を、ロックバンド「UVERworld」が挿入歌をそれぞれ担当している。TOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「あん」 生きていくことの意味を問う感動作 樹木希林の粒あん作りに感服
ドリアン助川さんの同名小説を、樹木希林さんを主演に迎え映画化した「あん」が5月30日から全国で公開される。「萌の朱雀」(1997年)や「2つ目の窓」(2014年)などで知られる河瀬直美監督が、初めて原作ものを映画化した作品で、永瀬正敏さん、市原悦子さんらが出演。樹木さんの実孫、内田伽羅さんが出演しているのも話題だ。一人の年老いた女性の姿を通じて、生きいくことの意味を問いかける感動作だ。 千太郎(永瀬さん)が店長をしているどら焼き屋「どら春」にある日、店先の求人募集の貼り紙を見て、一人の年老いた女性(樹木さん)が働かせてほしいとやって来る。一度は断った千太郎だったが、女性が置いていった粒あんを口にし、そのおいしさに驚き、女性を雇うことにする。その「徳江」と名乗る女性が作る粒あんは瞬く間に評判になり、閑古鳥が鳴いていた店はにぎわい始めるが……という展開。 徳江も千太郎も、図らずも、一生背負っていかなければいけないものができてしまったばかりに、千太郎は生きることに前向きになれず毎日をだらだらと過ごし、一方の徳江は、老いてもなお、「自由」を求めて生きようと努力する。徳江は、店にやって来る客の中学生たちに言う、「もっと自由にやればいい」と。背負ってきたものが重たいものだけに、そう語る徳江の姿には胸を締めつけられる。映画は後半、千太郎とワカナ(内田さん)とともに、私たちをある施設に“連れていく”。そのときの、世間から“隔絶”されたような森閑とした風景にがくぜんとさせられた。にもかかわらず、談笑し合っている入居者たち。その笑顔や胸の奥には、いくたびもの残酷な仕打ちや苦しんだ記憶がしまい込んであるのだろう。それを思い、一層胸が痛んだ。これまで他人事だと思い、当事者たちの心の痛みや叫びに耳を傾けてこなかったが、この映画はそのことに向き合わせてくれた。 それにしても、ゆっくりと時間をかけ、「おもてなしの心」で粒あんを作っていく徳江は本当に楽しそうだ。それまでよぼよぼとしていたのがうそのようにしゃっきりとし、小豆に触れるのがうれしくてたまらない様子が全身からにじみ出ている。樹木さんの演技力はさすがというほかない。30日から新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほか全国で公開。(りんたいこ/フリーライター)
「夫婦フーフー日記」蔵之介と永作演じる夫婦の掛け合いが切なさを笑いに変える
俳優の佐々木蔵之介さんと女優の永作博美さんが夫婦役でダブル主演する映画「夫婦フーフー日記」(前田弘二監督)が5月30日に公開される。映画は、川崎フーフさんの闘病ブログを基に書籍化した「がんフーフー日記」(小学館)が原作。映画化にあたり、死んだはずの妻が残された夫の前に現れるという設定が追加され、育児と仕事に奮闘する夫が、妻とともに歩んできた日々を振り返りながら、夫婦がお互いへの思いを見いだしていく姿を描く。ユーモアの中にもどこか切なさも感じさせる佐々木さんと永作さんの息の合った掛け合いが物語を引っ張っていく。 作家志望の「ダンナ」のコウタ(佐々木さん)と、本好きの「ヨメ」のユーコ(永作さん)は出会ってから17年目に結婚。結婚直後に妊娠が分かり2人は喜ぶが、ヨメに悪性腫瘍(がん)が見つかる。ダンナがヨメの病状をブログに記しながら日々を送るうち、ヨメがこの世を去り、ダンナの元にブログを書籍化する話が舞い込む。すると原稿執筆に向かうダンナの前に、死んだはずのヨメが現われ……というストーリー。 幸せの絶頂から一転して闘病生活となり、幼い子供を残してヨメが他界するという物語のため、切ないはずの状況なのになぜかコミカルな雰囲気に満ちている。闘病のつらさや残された者たちの悲しさといった描写はもちろんあるが、それを吹き飛ばすほどのダンナとヨメによる夫婦漫才のごとき掛け合いが気持ちを和ませてくれる。深刻さが漂う雰囲気の中にも、歯切れのよいテンポ感と軽快なコメディー要素を合わせることで、思わず泣き笑いしてしまう。ダンナと死んだはずのヨメが共に歩んだ日々を振り返っていく姿はかなりシュールだが、エピソードの数々にほっこりさせられ、じんわり感動に浸れる。ダンナ役の佐々木さんとヨメ役の永作さんの演技が絶妙で、切ない中にもポジティブな雰囲気を醸し出し、映画全体が前向きさで満ちあふれている。ハンバーガーを頬張る永作さんの姿がとても愛らしく、夫婦、親子の絆を象徴しているかのようだ。「婚前特急」(2011年)や「わたしのハワイの歩きかた」(14年)の前田監督が手掛けた。新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「グッド・ストライプス」全くタイプが違う今どき男女が結婚に進む道のり描く
モデルや女優、エッセーなど多方面で活躍する菊池亜希子さんと、NHK連続テレビ小説「花子とアン」の“駆け落ち青年”役も記憶に新しい中島歩さんが共演した「グッド・ストライプス」(岨手由貴子監督)が、5月30日から公開される。マンネリカップルが、子供ができたことをきっかけに、ぶつかり合いながら結婚へと進むまでの道のりを描き出した新しい形のラブストーリーだ。 緑(菊池さん)と真生(中島さん)は28歳同士。交際4年のカップルだ。真生のインド出張が決まっても、緑は素っ気なく、インドの真生から届くメールにもだんだん返信しなくなっていた。だが、緑はある日、自分が妊娠していることに気づく。インドから帰国した真生は、自分の母親が産婦人科医として働く病院へ緑を連れて行く。妊娠5カ月目だと分かり、流れで結婚することにした2人。とりあえず、緑は真生の家に引っ越すことになった。しかし、自由奔放な文化系女子の緑と、優柔不断でおぼっちゃまの真生はギクシャク。さらに結婚準備の過程で、思わぬ過去も明かされ……という展開。 冒頭から心がくすぐられた。カップルがインド料理を食べている雰囲気が面白い。惰性で一緒にいるような2人なのに、出張前に現地気分を味わっている姿もほほ笑ましい。その後、2人はいわゆる「デキ婚」への道を歩む。会話のトーンや振る舞いがとてもリアルで、見る者に媚(こ)びたところが一つもない。今どきの男女の様子を少し距離を持って見るのぞき見的な面白さから、やがて2人の心の内側へ。家族に会って、お互いの過去を知る旅路が語られていく。そこには、一筋縄ではいかない家族関係があり、緑の過去を面白がってバラす姉に笑わされ、幼い頃に別れた真生の父親には、ほろりとさせられる。観客は登場人物と同じスピードで2人のことを知っていく。ふてくされているように見える緑は、ただ愛情表現が下手なだけ。優柔不断に見える真生は相手に気遣う性分なだけで、父親との関係が原因のようだと分かっていく。岨手監督は、今作が長編デビュー作。全く異なるタイプの2人が相手への思いやりを見いだしていくさまを、きれいごとばかりではなく、リアルな人間像の中に描写した。劇中曲をsugar me、主題歌を大橋トリオが担当している。新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほかで30日から公開。(キョーコ/フリーライター)
「種まく旅人 くにうみの郷」栗山千明主演 淡路島を舞台に若い人の懸命な姿をすがすがしく描く
淡路島を舞台に山と海とともに暮らす人々と、そこにやって来た女性官僚の交流を描く「種まく旅人 くにうみの郷」(篠原哲雄監督)が5月30日から公開される。ヒロイン役は栗山千明さん。桐谷健太さんと三浦貴大さんが確執を持つ兄弟を熱演しており、淡路島でオールロケした。 農林水産省の地域調査官・神野恵子(栗山さん)は、上官からの命令で日本の第一次産業の現状を調査するために、高速船で淡路島へやって来た。淡路島市役所の農林水産部に赴任することになった神野。調査の最中に、タマネギ農家の長男・豊島岳志(桐谷さん)と、海苔(のり)の養殖に従事している次男の渉(三浦さん)の兄弟と出会う。東京からUターンし、仲間と一緒に新しいビジネスモデルを模索している岳志と、家を出て漁協組合で働く渉は、父の死をきっかけに仲たがいしていた。いちずに働く2人の姿に感銘を受けた神野は、兄弟を仲直りさせようと、一大プロジェクトを思いつく……という展開。 都会からやって来た頭でっかちの女性官僚が、田舎でこう着状態だった兄弟に風を吹き込む……。地方の風景に心癒やされる作品に違いないが、第一次産業に従事している人々の悩みも織り込まれ、食を育む人たちに改めて思いが到る上に、一生懸命に働く若い人たちの姿がすがすがしく描かれている。物語の軸は男性の兄弟独特のライバル関係だ。農家の長男はとりわけ家への責任が重いというが、岳志もしかり。タマネギ作りではなく海の仕事を選んだ弟につらく当たるのは、本当は弟の方が農業に向いているのでは……とコンプレックスもあるからのようだ。兄弟役の桐谷さんと三浦さんは、りりしい眉とギラギラした目で表情まで似ている。兄としてのプライドを乗り越える姿を桐谷さんが熱演。若い2人が自分の道を模索する姿を、沖縄のサトウキビ畑を舞台にした青春映画「深呼吸の必要」(2004年)の篠原監督が丁寧に映し出した。また、淡路伝統芸能の人形浄瑠璃のシーンも効果的に織り込まれ、代を受け継ぐことの難しさと重さ、そして従事する人々の能力の高さが伝わってくる。海苔づくりの工程や、山の泥を海に流す伝統作業“かいぼり”など、なかなか見られないシーンが目白押しだ。東劇(東京都中央区)ほかで30日から公開。(キョーコ/フリーライター)
「デュラララ!!×2 承 外伝!? 第4.5話『私の心は鍋模様』」各キャラの裏話が満載
2015年1月から放送中のテレビアニメの番外編「デュラララ!!×2 承 外伝!? 第4.5話『私の心は鍋模様』」(大森貴弘監督)が5月30日に公開される。「デュラララ!!×2 承」は、成田良悟さんのライトノベルが原作で、東京・池袋を舞台に高校生やカラーギャング、オカルト世界の住人たちが群像劇を展開。番外編は原作10周年を記念して出版された「デュラララ!! 外伝!?」の短編エピソード「私の心は鍋模様」を映像化し、テレビアニメ第4話で開かれた“鍋パーティー”の真実が描かれる。各キャラクターの知られざるエピソードに注目だ。 都市伝説“首なしライダー”を巡る懸賞金騒動や、殺人鬼“ハリウッド”騒動も一段落したある日、闇医者の岸谷新羅(声・福山潤さん)の呼び掛けで鍋パーティーが開かれる。池袋の住人が集まった部屋では、高校生の竜ケ峰帝人(声・豊永利行さん)と幼なじみの紀田正臣がくり広げた小さな冒険はじめ、帝人のクラスメイト・園原杏里(声・花澤香菜さん)と張間美香(声・伊藤茉莉也さん)の少しいびつな友情など、さまざまなエピソードが語られ……というストーリー。 テレビアニメは、独特の設定と先の読めない展開が人気で、テンポ感よく進んでいく物語は楽しいが、各キャラクターの裏話的なエピソードも気になってしまう。そんなファン心理を満たしてくれるであろう今作では、帝人と正臣、杏里と美香、さらに静雄とトムの出会いまで、過去からつながら多彩なエピソードが目白押しだ。それぞれの思惑を抱える登場人物たちのストーリーはどれも味わい深く、より一層、本編の世界観を深めるスパイスとなってくれるはずだ。またエキストラ映像として、新規ナレーションによる総集編「鍋の心は“私”模様」も同時上映。テレビシリーズ第1期と第2期を新たな視点で描き、楽しませてくれる。角川シネマ新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「這いよれ!ニャル子さんF」人気ライトノベル原作のアニメシリーズ完結編
人気ライトノベルを基にしたテレビアニメシリーズの劇場版アニメ「這いよれ!ニャル子さんF」(長澤剛監督)が5月30日に公開される。逢空万太(あいそら・まんた)さん作、狐印(こいん)さん画のライトノベルが原作で、2012年にテレビアニメ第1期、13年に第2期が放送された。劇場版では新キャラクターとしてニャル子の宿敵の銀アト子が初登場し、結婚をテーマに、主人公の八坂真尋と邪神ニャルラトホテプ(ニャル子)が最大の危機に立ち向かう。 高校生の八坂真尋(声・喜多村英梨さん)は、自宅に居座るニャル子(声:阿澄佳奈さん)、クー子(声・松来未祐さん)、ハス太(声・釘宮理恵さん)という邪神たちに囲まれ、にぎやかな毎日を送っている。ある日、同級生の暮井珠緒(声・大坪由佳さん)と余市健彦(声・羽多野渉さん)が、話題のアミューズメントスポットのチケットを手に入れ、真尋の元にやってきて……というストーリー。 今作の魅力はなんといってもユニークすぎるヒロインのニャル子だろう。自らクトゥルー神話の邪神を名乗り、とにかくハイテンションなノリを振りまき主人公の真尋を振り回す。劇場版でも思いっきりドタバタ劇が繰り広げられている。それにしてもニャル子と真尋の掛け合いはテンポがよく、ニャル子の一途な思いにはキュンとさせられることも。またテレビアニメからも数々の話題を振りまいてきたオマージュの数々も見逃せない。ストーリー全体も興味深く面白いが、今作はやっぱり“遊び”の部分にこそ魅力が詰まっている。新宿バルト9(東京都新宿区)ほか全国で期間限定で公開。(遠藤政樹/フリーライター)
「アドバンスト・スタイル そのファッションが、人生」マダム7人の生き方に感服
ニューヨークを舞台に、60歳を超えるおしゃれなマダムたちの姿を追ったドキュメンタリー「アドバンスト・スタイル そのファッションが、人生」が5月29日から公開されている。今作は、独自のファッションを確立し、バイタリティーあふれる生き方をしている60代以上の女性たちを紹介したブログがきっかけで製作された。そのブログの仕掛け人、アリ・セス・コーエンさんがプロデューサーを、彼と行きつけのカフェで知り合ったというリナ・プライオプライトさんが監督を務める。プライオプライトさん自らがカメラを回し、4年をかけてすてきなマダムたちを撮影し完成させた。マダムたちの生き生きとした姿に感服せずにはいられない。 映画には、7人のマダムたちが登場する。撮影当時62歳のマダムは、「着ている服を見せびらかせるから」と、移動はいつも自転車だ。79歳のマダムは、マンハッタンで40年以上続くブティックを経営し、“若い”女性客に的確なアドバイスを送る。また別のマダム、93歳の画家は、オレンジ色に染めた自毛で作ったつけまつげを付けている。そんな個性的極まりないマダムたちを、カメラはとらえていく。 ファッション雑誌は、若いモデルばかり。世の中には、アンチエイジングをうたう品物があふれ、私たちもまたそれに踊らされている。今作は、そうした風潮にまんまと風穴を開ける。7人のマダムたちは、自分の生き方に自信を持っている。それだけに、彼女たちが口にする言葉には説得力がある。7人それぞれが実にパワフルで、生き生きしている。その一方で、マダムたちの老いへの不安にも正直にカメラを向けている。年をとることにはマイナスイメージがつきまとうが、それをプラスに変えるお手本を彼女たちは見せてくれる。「年を取ると自己評価が寛容になる」「美は年齢と無関係」、そんな人生訓にしたい言葉があふれている。29日からTOHOシネマズシャンテ(東京都千代田区)ほか全国で順次公開。 (りんたいこ/フリーライター)