「夜明け告げるルーのうた」 “鬼才”の初のオリジナルアニメ 独創的な映像表現も
テレビアニメ「四畳半神話大系」「ピンポン THE ANIMATION」などで知られる湯浅政明監督が手がけた劇場版アニメ「夜明け告げるルーのうた」が5月19日からTOHO シネマズ新宿(東京都新宿区)ほか全国で公開。独創的な映像表現で“鬼才”とも呼ばれる湯浅監督初の完全オリジナルの劇場版アニメ。少年と人魚の少女の出会い、少年の成長などが丁寧に描かれている。 寂れた漁港の町、日無町に住む中学生のカイが、人魚のルーと出会い、交流を深めることで次第に心を開いていく……というストーリー。「午前3時の無法地帯」などのマンガ家、ねむようこさんがキャラクター原案、「ガールズ&パンツァー 劇場版」などの吉田玲子さんが脚本を共同担当している。 まず、映像表現に驚かされる。湯浅作品は、独創的な映像が特徴の一つ。「ルー」でも、水が立方体状になって飛び出すなど奇抜な表現がある。迫力十分ながら、ほのぼのとした不思議な映像も見られる。人魚のルーや人魚化する犬など可愛らしいキャラクターが登場するので、子供も楽しめるだろう。 少年の成長という普遍的なテーマ。感動的だが、安易なお涙頂戴というわけではない。大人も子供も登場するキャラクターのそれぞれのエゴが見え隠れし、社会や人間関係などを丁寧に描いている。心理描写も繊細で、生々しさすら感じるほどだ。生と死など重いテーマもさりげなく描かれ、大人もいろいろ考えさせられるだろう。子供も大人もさまざまな視点で楽しめ、何度も見たくなる。 湯浅監督は、4月に公開された劇場版アニメ「夜は短し歩けよ乙女」も手がけ、「デビルマン」の新作アニメ「DEVILMAN crybaby」を制作することも発表されている。傑作連発の
監督、今後、ますます注目されそうだ。 女優の谷花音さんがルー、俳優の下田翔大さんがカイの声を担当。ほかの声優として篠原信一さん、柄本明さん、斉藤壮馬さん、寿美菜子さんらが出演する。(小西鉄兵/MANTAN)
「メッセージ」 従来のSF映画とは一線を画す神秘的かつ哲学的なストーリー
今年の米アカデミー賞で作品賞など8部門にノミネートされ、音響編集賞で受賞したSF映画「メッセージ」(ドゥニ・ビルヌーブ監督)が5月19日からTOHOシネマズ日本橋(東京都中央区)ほか全国で公開。エイミー・アダムスさんが演じる言語学者が、宇宙人との対話を試みる中で、彼らからの“メッセージ”に迫っていくという内容。宇宙人の造形をはじめ、従来のSF映画とは一線を画す神秘的で哲学的なストーリーに魅了される。 ある日、地球のさまざまな場所に卵形をした宇宙船が飛来する。世界中がどよめく中、米国政府は、宇宙人の目的は何かを、彼らが発する音や波動から探るよう、言語学者のルイーズ・バンクス(アダムスさん)に要請する。ルイーズは、同じくスタッフとして招かれた物理学者イアン・ドネリー(ジェレミー・レナーさん)と共に、宇宙人の“吐き出す”文字を解明しようとするのだが……というストーリー。 もし時に“流れ”がなかったら……。普段私たちが考える時間の概念を覆す物語が展開する。それは、死生観の概念をも覆すもので、考えれば考えるほど深みにはまる。米国の昔のお笑いコンビから「アボット」と「コステロ」と名付けられた2体の宇宙人と、彼らの発する“文字”は厳かで静謐(せいひつ)。これまで見た宇宙人の中で最も宇宙人らしいとさえ思った。ビルヌーブ監督は宇宙人造形の際、クジラとタコとクモとゾウからインスピレーションを得たという。 原作はテッド・チャンさんの小説「あなたの人生の物語」。そこに映画的な味付けが施され、緊迫感あふれるクライマックスも用意された。ビルヌーブ監督は、10月公開の「ブレードランナー2049」の監督も務めている。(りんたいこ/フリーライター)
「たたら侍」EXILE・HIROが製作 世界に向けて高潔な侍美学と伝統の技を見せる
EXILE・HIROさんの初プロデュース作で、劇団EXILE・青柳翔さん主演の映画「たたら侍」(錦織良成監督)が5月20日から新宿バルト9(東京都新宿区)ほかで公開。戦国の世、己の宿命と向き合う青年の成長を通して、真の侍とは何かを問う時代劇だ。製鉄技術「たたら吹き」によって作られた美しい刀とその時代の人々の高潔な生きざまが真っすぐに描かれている。 戦国末期、出雲の山奥にある「たたら村」では、製鉄技術「たたら吹き」の技術を守り、古来、天下無双の名刀を生み出す、1000年さびないといわれる「玉鋼」が作られてきた。その技を取り仕切る村下(むらげ)の息子・伍介(青柳さん)は、幼いころに村が鋼を狙う山賊に襲われたことから、強くなって村を守りたいと思い、幼なじみの新平(三代目J Soul Brothersの小林直己さん)と武術の鍛錬に明け暮れていた。やがて伍介は、村を出て侍になりたいと思い立ち……という展開。 青柳さんは、隠岐に伝わる古典相撲を取り上げた「渾身 KON-SHIN」(2013年)の主演に続いて錦織監督とタッグを組んだ。米ルイジアナ州で開催されたシネマ・オン・ザ・バイユー映画祭で最優秀主演男優賞を受賞するなど、演技が高く評価されている。 伍介に真の強さを教える武士、尼子真之介役をEXILE・AKIRAさんが演じ、CGを使うことなく殺陣に挑み、気迫あるシーンをつくり出した。そのほか田畑智子さん、E-girlsの石井杏奈さん、豊原功補さん、津川雅彦さんらが出演。主題歌「天音」は久石譲さんが作曲し、作詞を手がけたEXILE・ATSUSHIさんが歌っている。 映画の根底にあるのは、日本のものづくりへの誇りとリスペクトだ。オープンセットで撮られた伝統の鋼づくりの臨場感あふれるシーンや、生み出された刀と後継者伍介とのシーンには、自分の道に向き合う一人の若者の成長があり、本当の強さとは何かを問いかけてくる。 昨年9月のモントリオール国際映画祭ワールド・コンペティション部門で最優秀芸術賞を受賞。今月8日(日本時間9日)には米ハリウッドの老舗劇場エジプシャン・シアターでプレミア上映されるなど、海外から熱い視線を集めている。6月2日から全米9州での公開も決まっている。(キョーコ/フリーライター)
「BLAME!」「シドニアの騎士」スタッフが再結集! 人類と機械の壮絶な戦い
劇場版アニメ「BLAME!」(瀬下寛之監督)が新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほかで5月20日から2週間限定で公開。「シドニアの騎士」で知られる原作者、弐瓶勉(にへい・つとむ)さんが総監修として全面協力し、原作を再構成した完全新作ストーリー。「シドニアの騎士」のアニメ化も手がけた瀬下監督とポリゴン・ピクチュアズが製作し、人類が違法居住者として駆除、抹殺される暗黒の近未来を舞台に、増殖を続ける階層都市で孤独な旅を続ける男の姿を描く。 原作は、弐瓶さんが1997~2003年に「月刊アフタヌーン」(講談社)で連載したデビュー作だ。過去の「感染」で正常な機能を失い増殖し続ける階層都市。都市コントロールへのアクセス権を失った人類は、防衛システム「セーフガード」に駆除、抹殺される存在になっていた。セーフガードの脅威と食糧不足で絶滅寸前の危機である「電基漁師」の村人たちを救うべく、少女づるは食糧を求めて旅に出るが、「監視塔」に検知されセーフガードに襲われる。仲間を殺され退路を断たれたづるの前に、“この世界を正常化する鍵”といわれる「ネット端末遺伝子」を求める探索者・霧亥(キリイ)が現れ……という展開。櫻井孝宏さんが霧亥、花澤香菜さんが科学者シボ、雨宮天さんがづるの声を担当。山路和弘さん、宮野真守さん、洲崎綾さんも出演している。 劇場版アニメは重厚で近未来感あふれるSF要素が満載の世界観ながら、原作者の協力で細かい部分で設定変更され、より分かりやすくドラマチックな内容になった。重力子放射線射出装置が超構造体をぶち抜く迫力のシーンや、すさまじい戦闘力を持つセーフガード、サナカン(声・早見沙織さん)が大暴れする姿など、原作ファンへのサービスカットも詰め込まれている。原作を未読でも、1本の独立した作品として物語が構成されているため、すんなりと世界観に入り込める。3DCGの表現は圧倒的で見応え十分だ。(遠藤政樹/フリーライター)