「ナラタージュ」嵐・松本潤と有村架純が共演 道ならぬ恋…雨のシーンに切なさあふれる
「この恋愛小説がすごい!」(2006年版、宝島社)の1位に選ばれた島本理生さんの恋愛小説を、松本潤さんと有村架純さんの共演で映画化した「ナラタージュ」(行定勲監督)が、10月7日からTOHOシネマズ日本橋(東京都中央区)ほかで公開。高校教師と元生徒の禁断の恋愛模様を描く。複雑な思いに揺れるヒロインの切なさが、数々の雨や水のシーンからあふれ出す。 工藤泉(有村さん)は、大学2年の春を思い出していた。演劇部顧問の葉山先生(松本さん)から、卒業公演への参加を誘う連絡が入った。高校時代、孤独から救ってくれた葉山先生を好きになった泉は、再会によって思いを募らせていく。しかし、葉山先生には離婚が成立していない妻(市川実日子さん)がいることを知った泉は、自分に恋心を寄せる小野怜二(坂口健太郎さん)と付き合うことにしたのだが……というストーリー。
陰のある社会科教師と、孤独な教え子。似た空気をまとう2人が、再会して思いを燃やす行方に、さまざまな障害が待ち受ける。きれいごとだけではないラブストーリーが展開される中、数々の雨や水にまつわるシーンが、冗舌に2人の感情を物語る。シャワーの中でのラブシーン、泉が葉山先生と歩く穏やかな浜辺のシーン、孤独だった泉が高校の屋上にいた日、映画館で2人が偶然出会った日も雨だった。有村さんの真っすぐなまなざしと共に、先生を好きという気持ちが生きる糧になっている切実さが、薄暗い空と一緒に印象付けられる。 松本さんは、「陽だまりの彼女」(13年)以来の映画主演。行定監督からのアドバイスで目力を40%に抑え、悲哀を帯びた大人の男性を好演している。有村さんは、先生へのいちずな思いと、自分を愛してくれる男性との間で揺れ動く複雑な役どころを熱演。嫉妬(しっと)に狂い、泉を束縛する男性の悲しみを、坂口さんが繊細に演じている。ほかにも瀬戸康史さん、大西礼芳さん、古舘佑太郎さんらフレッシュな俳優陣が顔をそろえた。 劇中、ビクトル・エリセ監督の「エル・スール」(83年)、フランソワ・トリュフォー監督の「隣の女」(81年)などの名画が、泉と葉山先生の“共通言語”として登場するのも映画ファンの心をくすぐる。 原作は、島本さんが20歳で書き下ろし、第18回山本周五郎賞候補に選ばれた作品。大ヒットした「世界の中心で、愛をさけぶ」(04年)の行定監督が、約10年もの間企画を温め、「ピンクとグレー」(16年)でタッグを組んだ小川真司プロデューサーによって、映画化に漕(こ)ぎ着けた。(キョーコ/フリーライター)
「アウトレイジ 最終章」北野監督の人気シリーズ最新作 豪華キャストの迫力の“競演”も話題
北野武監督が裏社会に生きる男たちの抗争を描いた人気シリーズの最新作「アウトレイジ 最終章」が10月7日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほかで公開。前作「アウトレイジ ビヨンド」の続きとなる3作目。ビートたけしさん扮(ふん)する「大友組」元組長の大友や、日韓を牛耳る国際的フィクサーの張グループ、関西の組織「花菱会」らが入り乱れての抗争が描かれる。 関東の組織「山王会」と関西の組織「花菱会」の巨大抗争後、大友(たけしさん)は韓国に渡り、日韓を牛耳るフィクサー・張会長(金田時男さん)の下にいた。あるとき、韓国出張中の花菱会の花田(ピエール瀧さん)がトラブルを起こし、張会長の手下を殺してしまう。これをきっかけに、韓国フィクサーと花菱会は一触即発の様相を呈し、花菱会では内紛が勃発。そんな中、大友が日本に戻ってくる……というストーリー。 たけしさんはじめ西田敏行さん、塩見三省さんら前作から引き続き出演する強面(こわもて)の面々や、新たに加わった瀧さんや大森南朋さんら豪華キャストたちによるド迫力の競演が話題。同シリーズならではの裏切りに彩られた、手に汗握るスリリングな展開も見どころだ。 たけしさん、西田さん、塩見さん、松重豊さん、光石研さんら前作のキャストに加え、新キャストとして大森さん、瀧さん、大杉漣さん、お笑いトリオ「ネプチューン」の原田泰造さん、池内博之さん、岸部一徳さんらが出演している。 シリーズを通して“古いタイプの極道”を演じているたけしさんをはじめ、ドスの利いた関西弁が怖過ぎる花菱会若頭・西野役の西田さん、笑顔は柔和だが大友と共にタガの外れた行動をとる市川役の大森さん、全身入れ墨で倒錯した性癖を持つ花田役の瀧さん、物静かだが不気味な存在感を放つ花菱会会長付若頭補佐・森島役の岸部さん……と曲者(くせもの)ぞろいの熱量高い“競演”が極道モノならではのすごみを帯びていて、さすがの迫力だ。 個人的には、ある意味ストーリーの鍵を握っているとも言える西田さんの極道オーラがにじみ出た強面ぶりが印象的だった。 「アウトレイジ」シリーズといえば、生き馬の目を抜く極道社会ならではの裏切りが見どころの一つ。前作を上回る裏切りに次ぐ裏切りが繰り広げられ、先を読めない展開は、まさにキャッチコピーの「全員暴走」状態だ。おなじみの雨あられと飛び交う銃弾や「バカヤロー!」などの罵声も健在で、最終章を飾るにふさわしい内容になっている。物語のラストへ向かって、狂気をまとい暴走していく大友が、どのような運命をたどるのか……結末は自分の目で映画館で確かめてもらいたい。(河鰭悠太郎/フリーライター)
「あゝ、荒野 前篇」菅田将暉とヤン・イクチュンの血と汗がほとばしる青春映画の前編
俳優の菅田将暉さんと、監督としても活躍する韓国の俳優ヤン・イクチュンさんがプロボクサーに扮(ふん)した映画「あゝ、荒野 前篇」(岸善幸監督)が10月7日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほかで公開。原作は、劇作家、詩人、エッセイスト、映画監督などマルチな才能を発揮した寺山修司(1935~83年)が遺した唯一の長編小説。岸監督と脚本を担当した港岳彦さんは、舞台を原作の1966年から約半世紀後に移し、登場人物の生い立ちやつながりにも変更を加えている。だが、原作のテーマや世界観は損なうことなく、男のロマンにあふれ、ヒリヒリする痛みを伴う青春映画に仕上げている。 2021年の新宿。少年院を出所したばかりの沢村新次(菅田さん)と、引っ込み思案で吃音(きつおん)に悩む二木建二(ヤンさん)は、元ボクサーの“片目”こと堀口(ユースケ・サンタマリアさん)に誘われ、彼の運営するボクシングジムに入る。一緒にトレーニングをしているうちに、新次と建二の間には兄弟のような絆が生まれていく。やがて2人はプロボクサーを目指すようになるが、その先には皮肉な運命が待っていた……というストーリー。木下あかりさん、モロ師岡さん、高橋和也さん、山田裕貴さん、でんでんさん、木村多江さんらも出演している。 行き場をなくし、孤独に暮らしていた新次と建二。殴り合うことで生きていることを実感し、絆を深めていく2人に、青春映画特有の爽快さはない。見ていて切なくなる。それだけに、傷を負った手でサンドバックを打ち込む建二を片目が制止し、思わず泣き出した建二をなだめる片目と新次を見ながら、3人が“家族”になった瞬間に立ち会えた気がして、心がじわりと温かくなった。 今回の役を演じるに当たり、菅田さんは増量から、ヤンさんは減量からスタートし、共に、62~63キロを目安に肉体を改造していったという。そんな2人がリングに立ち、血と汗をほとばしらせる姿は、痛々しいながらも美しく、崇高ですらある。 ユースケさんに、陰のある片目役は思いのほか合っていて、新次と建二にはない大人の男の色気を放っていたことも印象深い。親友であり、家族であり、兄弟でもあった新次と建二の関係は、終盤で新たな局面を迎える。果たして、彼らの行く手にどのような運命が待ち受けているのか。21日からの後編の公開を待ちたい。(りんたいこ/フリーライター)
「エルネスト」オダギリジョーがゲバラと共に戦った日系キューバ人を熱演
俳優のオダギリジョーさん主演の、日本・キューバ合作映画「エルネスト」(阪本順治監督)が10月6日からTOHOシネマズ新宿(東京都新宿区)ほかで公開。キューバ革命の英雄エルネスト・チェ・ゲバラ(1928~67年)と共に祖国ボリビアのために戦った日系人、フレディ前村ウルタードの生きざまを描いた作品。半年かけてスペイン語を習得し、体重を12キロ落としフレディ役に臨んだオダギリさん。穏やかな瞳の奥に静かな闘志をたたえ、責任感があるゆえに祖国のために立ち上がる日系ボリビア人青年を好演している。 1941年、鹿児島県出身の父とボリビア人の母との間に生まれたフレディ(オダギリさん)は、やがて医師を志し、62年、キューバに留学する。優秀な成績を修め、面倒見の良さと実直さ、心根の優しさから友人たちからも信頼されていた。母国ボリビアで軍事クーデターが起きたと知るや、母国のために戦う決意をする。ゲバラの組織する部隊に参加し、ボリビアでの戦いに身を投じる……というストーリー。 阪本監督が、オーディションの控室での寡黙なたたずまいを見て抜てきしたという、写真家としても活躍するキューバ出身の俳優ホワン・ミゲル・バレロ・アコスタさんがゲバラ役。永山絢斗さんが新聞記者役で出演している。 若き革命戦士の熱き戦いの物語が展開するものと身構えていたところ、実際はフレディの医学生時代の生活や淡い恋などをつづった、いたってヒューマンな内容だった。いい意味で意表を突かれた。 フレディが初めての給料を手にする場面では、彼の無邪気さと、愛する人への思いが伝わり、思わずほほ笑まずにはいられなかったし、フレディがキューバからボリビアへたつ時の、友人たちとの無言の別れの表情には胸を締め付けられた。 ゲバラから「エルネスト・メディコ(医師)」という戦士名を授けられた場面での、ゲバラがフレディに掛けた言葉は奥深く、忘れがたい。 映画は、キューバ革命直後の59年7月、ゲバラ来日の場面から始まる。当時、ゲバラが広島を訪問していた事実に驚くとともに、そこでの言動に、ゲバラの人間性がうかがえたことも興味深かった。(りんたいこ/フリーライター)