「人間失格 太宰治と3人の女たち」小栗旬が妻・宮沢りえを泣かせる天才作家に 愛人役で沢尻エリカ、二階堂ふみ
俳優の小栗旬さんが太宰治を演じる映画「人間失格 太宰治と3人の女たち」(蜷川実花監督)が、9月13日から丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほかで公開される。才能はあるが、女々しい上に女にだらしなく、そのくせ言うことはでかいという、しょうもない男を小栗さんが熱演。小栗さんの代表作の1本になることだろう。 作家・太宰治(小栗さん)は、身重の妻、美知子(宮沢りえさん)と2人の子供がいながら、作家志望の太田静子(沢尻エリカさん)や、美容師の山崎富栄(二階堂ふみさん)と愛人関係を結んでいた。そんな夫の才能を信じ、叱咤(しった)し続ける美知子。遂に太宰は「人間に失格した男」の物語に取り掛かるが……。 取り巻き相手には、「愛人は作品を書くために必要だ」とのたまい、愛人となる女性には「一緒に堕(お)ちよう」だの「君は僕が好きだよ」(「君は僕が好きになる」ではなく)だのと甘言を弄(ろう)する。そんな太宰に「何なんだ、この自信と色男ぶりは!」とあきれるが、それこそが、今作における太宰治の魅力だ。 対する女性たちの、何とたくましくりりしいことか。夫の度重なる不貞に心を痛めながら、その才能を信じ、「本当の傑作を書きなさい」と尻をたたき続けた美知子。「愛されない妻より、ずっと恋される愛人でいたい」と言い切った静子。そして、妻の元へ戻ろうとする太宰に、「行ってください」と青酸カリをちらつかせる富栄。富栄の太宰への執着にはうすら寒さも覚えるが、とにかく、己の生き方を貫こうとする女性たちに共鳴する人は多いはずだ。 7月に公開された「Diner ダイナー」(2019年)では、ゴージャスかつとがった演出で観客を魅了した蜷川監督。今回はそこまでではないものの、色彩や小道具の使い方に“蜷川印”を刻みつつ、太宰という男、彼を取り巻く3人の女性たちの人間性を浮かび上がらせていく。太宰が「人間に失格した男」の執筆を決意する場面では、その表現の方法に心が湧き立った。太宰が文机に向かい猛然と書き進めていく場面では、その独特の描写に、一旦はあっけにとられたものの、そこに蜷川監督の「創るために壊す」という概念が潜んでいることを知り、やがて、なるほどなあと感服した。 ちなみに、美術を担当したのは、「Diner ダイナー」にも参加したEnzoさんだ。(りんたいこ/フリーライター)
「記憶にございません!」中井貴一らオールスターキャストで贈る三谷幸喜脚本&監督作
劇作、演出など多方面で活躍する三谷幸喜さんの8作目の映画監督作「記憶にございません!」が、9月13日からTOHOシネマズ日比谷(東京都千代田区)ほかで公開される。三谷さんが「THE有頂天ホテル」(2006年)公開後から企画を温めていた作品だといい、脚本も三谷さん自身が手がけた。中井貴一さんをはじめ、ディーン・フジオカさん、石田ゆり子さん、草刈正雄さん、佐藤浩市さんと豪華かつ華やかなキャストが顔をそろえた。他にも、似ているなあと思ったら本物のフリーアナウンサーの有働由美子さんだったり、ミュージシャンのROLLYさんが普通の格好で出ていたりと、驚きと感動の配役。まさに「オールスターキャスト」にふさわしい作品だ。 国民に嫌われている首相・黒田啓介(中井さん)は、ある日、一般市民の投げた石が頭に当たり、記憶喪失になってしまう。それを知るのは、秘書官の井坂(フジオカさん)、番場(小池栄子さん)、野々宮(迫田孝也さん)のみ。黒田の妻・聡子(石田さん)すら知らない。それでも黒田は、政策は進めなければならないし、議員たちとは顔を合わせなければいけない。 フリーライターの古郡(佐藤さん)からは怪しい写真をネタに金をゆすられ、海外からは要人が来訪するなど、弱り目にたたり目状態。この難局を、黒田と秘書官たちはどう切り抜けるのか……。 描かれていることはあくまでもフィクションだとうたっているが、どうしても勝手にモデルを想像してしまう。それは例えば、黒田の等身大パネルや、国会中継で質問者にヤジを飛ばす議員を見た時など。そういったシニカルなネタを込めた軽妙洒脱(しゃだつ)な語り口に、失笑させられることがしばしばあった。 配役の妙。記憶を失いすっかりいい人になった黒田を、真面目かつ飄々(ひょうひょう)と演じてみせる中井さん。黒田をゆする古郡役の佐藤さんとの絡みもいうことなし。さらに、怪しくクールな井坂役のフジオカさん、黒田のよき理解者で機転が利く番場役の小池さん、腹黒い官房長官役の草刈さん、どこか抜けてる官邸料理人役の斉藤由貴さん、黒田の妻役で、かなりの天然ぶりを見せている石田さん、そして、妙にはきはきした米女性大統領役の木村佳乃さんと、枚挙にいとまがないほど、それぞれが持ち味をフルに発揮し、見事なアンサンブルを奏でている。ほかにも、吉田羊さん、山口崇さん、田中圭さん、梶原善さん、寺島進さんらが出演。彼らの名(迷?)演技をスクリーンで堪能してほしい。(フリーライター/りんたいこ)