「真実」是枝裕和監督の最新作 “真実”を巡る母娘の愛憎描く 宮崎あおいが洋画吹き替え初挑戦
今年度ベネチア国際映画祭でオープニング上映された映画の最新映画「真実」(是枝裕和監督)が10月11日からTOHOシネマズ六本木ヒルズ(東京都港区)ほかで公開される。“真実”を巡る母娘の愛憎や葛藤などを描いた作品。カトリーヌ・ドヌーブさん、ジュリエット・ビノシュさんという仏フランスの大女優が母娘役で共演。日本語吹き替え版では女優の宮本信子さんが母ファビエンヌ、宮崎あおいさんが娘リュミールの声を担当している。 「万引き家族」などで知られる是枝監督初の国際共同製作作品で、フランスで撮影された。 国民的大女優のファビエンヌ(ドヌーブさん)が自伝「真実」を出版。娘のリュミール(ビノシュさん)や娘むこ(イーサン・ホークさん)、孫娘シャルロット(クレモンティーヌ・グルニエさん)ら家族は、出版祝いを口実にファビエンヌの元を訪れる。自伝を読んだリュミールは、そこに書かれたうそと書かれなかった真実について、ファビエンヌを問いただし、次第に、母と娘の間に隠された愛憎渦巻く心の影があらわになっていく……。 物語の中心となるのは、ドヌーブさん演じるファビエンヌとビノシュさん演じるリュミールの母娘。それぞれの思う「真実」を巡り、葛藤や憎しみ、愛情などの感情が交錯する。魅力的な女性が多く登場する中で、一際存在感を放つのはファビエンヌだ。気ままで傲慢な性格、歯に衣(きぬ)着せぬ物言い、どこか寂し気な雰囲気、大女優としての矜持(きょうじ)……とさまざまなシーンで人間くささをのぞかせ、厄介でありつつ魅力的な人物に仕上がっている。「私は女優なの。本当のことなんて簡単に話さない」など、劇中でファビエンヌの口から語られる数々の「女優」としてのせりふも印象的だ。 日本語吹き替え版ではそんなファビエンヌの声を宮本さんが好演。洋画の吹き替え初挑戦の宮崎さんも母、妻、娘と多面的な表情を持つリュミールの声を生き生きと演じている。こちらも字幕版とは別の楽しみ方ができる。(河鰭悠太郎/フリーライター)
「空の青さを知る人よ」 「あの花」「ここさけ」スタッフが再集結 繊細な心の動きを丁寧に描く
人気アニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(あの花)」「心が叫びたがってるんだ。(ここさけ)」などで知られる長井龍雪監督の新作劇場版アニメ「空の青さを知る人よ」が、TOHOシネマズ日比谷(東京都千代田)ほかで10月11日に公開される。「あの花」「ここさけ」と同じく岡田麿里さんが脚本、田中将賀さんがキャラクターデザイン、総作画監督を担当し、クリエーターチーム「超平和バスターズ」が再集結した。 山に囲まれた町を舞台に2人で暮らす17歳の高校2年生・相生あおいと姉・あかねの前に、突然、あかねのかつての恋人で13年前の過去からやって来た18歳の「しんの」こと金室慎之介が現れる……という展開。過去と現在をつなぐ二度目の初恋が描かれる。 俳優の吉沢亮さんが慎之介と18歳の「しんの」の二役の声優を務める。女優の吉岡里帆さんがあかねを演じるほか、若山詩音さん、松平健さん、落合福嗣さん、大地葉さん、種崎敦美さんらも出演する。 「あの花」「ここさけ」もキャラクターの心の動きを丁寧に描いてきた。この作品はそれ以上に丁寧かつ繊細な印象も受けた。キャラクターのちょっとした表情、仕草などの表現が絶妙で、キャラクターに感情移入したり、心を動かされる場面も多いはず。 描かれているのは恋愛だけではない。生まれ育った場所から出ていくこと、大人になることなども描かれている。ミュージシャンを目指して上京したものの、鳴かず飛ばずで30代になった慎之介、地元で地道に働くあかねを見て、大人はいろいろ思うところもあるだろう。世代によって感じることは違うかもしれない。(小西鉄兵/MANTAN)
「最高の人生の見つけ方」吉永小百合と天海祐希が踊る! エネルギッシュに生き抜く2人の旅路
吉永小百合さん主演の映画「最高の人生の見つけ方」(犬童一心監督)が10月11日、TOHOシネマズ日本橋(東京都中央区)ほかで公開される。原案は、ジャック・ニコルソンさんとモーガン・フリーマンさんが共演し、2007年に公開された同名の米映画。余命宣告を受けた女性2人が、残りの人生を謳歌(おうか)し、自分の殻を破っていく様を描くヒューマン作。スカイダイビング、巨大パフェ、ももいろクローバーZのライブなど、アクティブな2人の旅路が続く中で、家族への思いもにじませている。 家庭のために生きてきた真面目な専業主婦、北原幸枝(吉永さん)は、余命宣告を受けて入院する。そこで、会社に人生をささげてきた社長の剛田マ子(天海祐希さん)と偶然知り合う。幸枝は、12歳の少女が落としたノートをたまたま拾い、そこに書いてあった「死ぬまでにやりたいことリスト」を実行しようと、思い切ってマ子に声を掛ける……。 ほかに、幸枝の夫役に前川清さん、娘役と若き日の幸枝の二役で満島ひかりさん、息子役に駒木根隆介さんが扮(ふん)している。マ子の秘書、高田学役をムロツヨシさんが演じ、義理堅く人情味のある男性を好演。マ子の夫役を賀来賢人さん、ノートの持ち主の少女役を鈴木梨央さんが演じている。 年齢も立場も違う2人の女性が、病院で出会うシーンから2人のコンビぶりがはまっていて、これからどんなことが起こるのかワクワクさせられる。2人の旅路は、とにかくエネルギッシュ。特に、ももクロのライブシーンは圧巻で、余命わずかな2人を会場全体の躍動感が包み込み、感動的だ。吉永さん、天海さん、ムロさんが、ももクロのメンバーと一緒になって踊る姿には注目。実際のライブ会場・横浜アリーナ(横浜市港北区)で撮影された。 幸枝とマ子は、時にはしゃぎ、時にぶつかり合いながら、本音を見せ合っていく。それぞれの弱みや、家族の問題がしっかりと描き込まれ、人生で大切なものがじわじわと伝わってくる。 男性2人が主人公だったオリジナル版から女性2人に置き換え、「千年の恋 ひかる源氏物語」(2001年)で共演した吉永さんと天海さんという豪華なキャストが実現。脚本は、「ママレード・ボーイ」(2018年)などの浅野妙子さん、小岩井宏悦さんが犬童監督と共に手がけた。京都、長崎など、ロケ先の美しい風景も楽しめる。音楽は「のぼうの城」(2012年)などの上野耕路さん。主題歌は、シンガー・ソングライターの竹内まりやさんの書き下ろし「旅のつづき」。(キョーコ/フリーライター)
「WALKING MAN」野村周平がどん底からラップに救われる青年を熱演 ラッパーANARCHYの初監督作
日本を代表するラッパーのANARCHYさんが初監督した野村周平さん主演映画「WALKING MAN」が、10月11日から新宿バトル9(東京都新宿区)ほかで公開される。どん底生活からラップ音楽と出会って変化していく青年の奮闘を描く青春映画。野村さん演じる青年の妹役を優希美青さんが演じている。ラップバトルのシーンも楽しめ、音楽に背中を押される気分になる。 川崎の工業地帯。吃音症(きつおんしょう)のアトム(野村さん)は、人前で話すことも笑うことも苦手だった。母親(冨樫真さん)、思春期の妹ウラン(優希さん)と暮らし、不用品回収業のアルバイトをして暮らしを支えていた。ある日、母親が事故に遭って入院し、最底辺の暮らしになってしまう。そんな中、たまたまラップ音楽と出会って、のめり込んでいく……という展開。 知り合いだという監督に抜てきされた野村さんは、しゃべることが苦手だった青年が思いをラップに乗せながら懸命に生きる姿を熱演。監督の手がけた曲「Promise」などを披露している。妹役の優希さんの熱演も見逃せない。自暴自棄になったやるせなさを表現。アトムを優しく見守る先輩役を柏原収史さんが演じるほか、星田英利さん、渡辺真起子さん、石橋蓮司さんら個性的な俳優が脇を固める。 貧しいながらも仲良く暮らす3人家族が、母親が働けなくなってどん底へ落ちてしまう。世間の風は冷たい。バカにされ、心ない言葉を投げかけられるアトム。彼がコツコツと働く姿や、素朴な性格がいじらしく、自然と応援したくなってくる。アトムがラップに挑戦しながら、心の底にたまった思いを解放していく姿に胸を熱くさせられる。 一方で、ウランの行動が波乱を呼んでしまい……アトムの思いは妹へ届くのだろうか? 青年が殻を破って成長していく姿や家族への思いがしっかりと描き込まれている。ラッパーの監督の手で、純粋にラップの楽しさが伝わってきて、音楽満載のエッジの効いた演出を楽しめる。 ANARCHY監督の実体験を基にした完全オリジナル作。ANARCHY監督はタイトルと同名の主題歌も手がけた。人気マンガ家の高橋ツトムさんが企画プロデュース。脚本は「苺の破片」(2005年)などを手がけた梶原阿貴さん。ラップバトルのシーンでは、プロのラッパーが多数出演して花を添えている。(キョーコ/フリーライター)