「グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~」太宰治の未完の遺作を映画化 大泉洋と小池栄子が偽夫婦をテンポよく演じる
俳優の大泉洋さん、女優の小池栄子さんダブル主演の映画「グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~」(成島出監督)が、2月14日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほかで公開される。太宰治未完の遺作「グッドバイ」を、ケラリーノ・サンドロビッチさんが戯曲化したものが原作。ワケあって偽装夫婦になった2人の共犯作戦をコミカルに描く人間ドラマだ。2人のテンポの良い掛け合いに笑わされる。 終戦3年後。文芸誌編集長の田島周二(大泉さん)は、優柔不断で気弱なところが母性本能をくすぐるモテ男になっていた。疎開先から妻子を呼び寄せるために、愛人たちと別れる決心をする。文士の漆山連行(松重豊さん)の助言もあって、美人を連れて偽の女房になってもらい、愛人たちを訪ね歩くことにした。そこで、金にがめつい永井キヌ子(小池さん)にお願いをして、妻のフリをしてもらうことに……。 大泉さん、小池さん、松重さんのほか、木村多江さん、水川あさみさん、橋本愛さん、緒川たまきさん、濱田岳さん、戸田恵子さんら豪華な顔ぶれが出演。特に、濱田さんが振り幅の大きな役どころをさすがの演技力で見せ、後半驚かせてくれる。 今や日本映画界に欠かせない顔となった大泉さんと、映画の原作となった舞台でキヌ子を演じて数々の演劇賞を受賞した小池さん。2人のコンビネーションが絶妙だ。オタオタする田島を、真逆の性格でダミ声もたくましいキャラクター、キヌ子がぐいぐい突っ込んでいくやりとりが面白い。 昭和モダンな衣装とヘアメークで着飾った美しい女優たちが次々と出てきて観客を魅了する。照明や色彩が巧みで、冒頭の薄汚れた闇市にいたキヌ子が、おしゃれに変身する時の衝撃や、妻の静江(木村さん)の心象などにハッとさせられる。田島が、自分でまいた種をどう回収し、運命はどう転ぶのか。肩の力を抜いて気楽に楽しめる。 「八日目の蝉」(2011年)、「ソロモンの偽証 前篇・事件」「ソロモン偽証 後篇・裁判」(2015年)など、社会派作品の多い成島監督。サンドロビッチさんの舞台を見て、小池さんの芝居が気に入り、映画化にこぎ着けたという。小池さんとのタッグは「八日目の蝉」など4本目。キャラクターを生かす衣装を担当したのは、成島監督の作品を手がけることの多い宮本茉莉さん。大半が宮本さんのオリジナルデザインで、生地にこだわり、変化するキヌ子の衣装は8着用意したという。(キョーコ/フリーライター)
「影裏」綾野剛と松田龍平がガッチリ共演 人の内面があぶり出される
綾野剛さん、松田龍平さんの共演映画「影裏」(大友啓史監督)が、2月14日からTOHOシネマズ日比谷(東京都千代田区)ほかで公開される。原作は、沼田真佑さんの芥川賞受賞同名小説。慣れない土地に転勤してきた男と、そこで出会った同僚との交流、同僚の突然の失踪劇などを通して描き出すヒューマンミステリー。不在中に初めて見えてくる事実……友の本当の姿とは? 人の内面がじっくりとあぶり出される。 今野秋一(綾野さん)は、埼玉から盛岡に転勤し、会社で出会った日浅典博(松田さん)に次第に心を許していく。日浅との交流は、まるで遅れてきた青春のようで、今野は居心地の良さを感じていた。しかし、日浅が突然会社を辞め、今野は戸惑いを隠せない。しばらくして再会したが、日浅はまた行方をくらましてしまう……。 綾野さん、松田さんのほか、日浅の父親役に國村隼さん、今野と日浅の同僚役に筒井真理子さん、日浅の兄役に安田顕さんが扮(ふん)している。今野の旧友、副島和哉役の中村倫也さんが、存在感あふれる芝居で印象を残す。 男2人の友情の日々が回想されていく。今野の部屋で酒を酌(く)み交わし、光あふれる緑の美しい川で釣りをし、語り合って笑い合う。他愛のない日々を、平穏に幸せに過ごす2人の姿が丁寧に描き出され、見ていて心地良い。綾野さんは内向的な雰囲気の今野、松田さんはつかみどころのない日浅、それぞれ役にピッタリとはまり、今野の目線から日浅という人物のさまざまな顔が見えてくる。 釣り場の穏やかな川の流れから、降り続ける雨音、海の轟音(ごうおん)まで、水の音が今野の心象風景として記憶に残り、時間の経過も感じさせる。日浅とはいったい、どんな男なのか。家族と何があったのか。今野が抱えていることとは……人の多面性が少しずつ見えてきて、最後までスクリーンに吸い寄せられる。 「るろうに剣心」シリーズなどの大友監督が、自身の出身地・岩手を舞台にして撮った。美しい渓流釣りのシーンや、さんさ踊り、レトロな書店やジャズ喫茶など、現地のさまざまな顔をとらえている。音楽は、大友監督とドラマ「白洲次郎」(NHK、2009年)以来のタッグとなる、「あまちゃん」(2013年)などの大友良英さん。(キョーコ/フリーライター)